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こんな予定では無かったはず

エドヴァルド様が言うあいつとは、恐らく、ダンテのはず。


違ったら恐ろしい。


不安になる。

だけど、エドヴァルド様の言葉を信じよう。


きっと、大丈夫だ。

あれほど、アリアを愛していると言ってくれた。アリアを助けようとしてくれている。

エドヴァルド様ならば。


「ありがとうございます。エドヴァルド様。こんな私に、エドヴァルド様はいつもお優しかったですわ。今まで、本当にありがとうございました」

「良い。もう、行ってくれ。決心が鈍りそうになるんだ」


アリアはそんな言葉に頷きだけを返し、前を向いた。

馬を進める。少し早足だ。


だけど、どこまで進めばいい?


と、山の岩陰から、馬が現れた。

ダンテだ。

固い表情。


アリアは馬を走らせた。

すぐにたどり着く。


「ダンテ」


ダンテが安堵したようで少し表情が和らぐ。

すぐ顔を引き締めて、アリアの馬と並び、アリアに手を伸ばす。

「こちらへ」


横乗りなので、まだ移動しやすい。少し抱きかかえられるようにしてダンテの前に乗り移る。


アリアはエドヴァルド様に視線を向けた。

お別れした地点、馬上からじっとアリアを見つめている。


アリアは改めて礼をした。

ダンテが急ぐように馬を動かす。

なお、アリアの馬もついてくる。


アリアが、前を向こうとした時だ。

エドヴァルド様が、何かを取り出しこちらに向けた気がした。


アリアは再び、エドヴァルド様の方を向く。


ドン、と妙に乾いた音が周囲に響いた。


え。何。

何かが、こちらに。


エドヴァルド様の手の銀色から、赤い筋がこちらに向かってくる。

大きな塊。弾丸、いや、猟犬みたい。

と思った瞬間、それは背後からダンテの肩に噛み付いた。


「きゃああああ!」

「チッ!」

ダンテが舌打ちして、片手で赤いものを引きはがそうとする。


何。ダンテに食らいついている。生きている。

こんなものを見たことがない。炎のよう、熱くない。


「ダンテ!」


まさか、エドヴァルド様の、魔法?


「ッ!」

ダンテが息を詰める。

「嫌、」

アリアが赤いものに手を伸ばし払おうとするのを、ダンテは手綱を持つ腕でアリアを制した。


「離れろ!」

ダンテが苦しそうに叫ぶ。肩の赤いものを引きはがそうとするのに、喰らいついてきて振り落とせない。


「ダメ、離れて、嫌、ダンテ」

魔法だ。

アリアには対応方法が分からない。まさか、こんな方法で。


「クソッ!」

ダンテが赤いものを剥ぎ取った。と思った瞬間、上部から牙がゾロリと生えた。

その勢いで赤いものがダンテの首に食いつき、首に巻いてある布ごと食い破った。


途端、赤い血が噴き出した。


「いやああああ!!」

アリアは一瞬硬直し、反射的に両手でダンテの首に出来た穴を塞ぐ。

あっという間に両手がダンテの血で染まっていく。


ダンテが変な音を出す。口から血を吐きだす。


「嫌、ダンテ! しっかり、しっかりして! 嫌よ、ぁ、あ、治療、治療魔法!」

アリアは自分にできる事を思い出し、両手に力を込めて治療を念じた。


だけど、アリアの魔法で治せるものではない。間違いなく。

アリアには、小さな切り傷を癒せる程度の魔力しかない。

「治って、お願い、ダンテ、嫌よ、ダンテ、傷を治して!」


ダンテの身体が傾ぐ。馬から落ちないよう、アリアにもたれかかるようにと引き寄せる。

「ダンテ! しっかりして!」


一生懸命、治療を念じる。

嫌だ。

魔力が足りない。絶望的に。


「あ、魔力っ、マーガレットさん!」

泣きながらも思い出した。

金の腕輪から、手の中に。マーガレットが魔力を詰めたという小瓶を取り出す。

握りしめて、さらに念じる。


ダンテの傷を治して、早く、今すぐ!


「・・・うま、走らせます、よ」


聞こえた声にアリアがダンテの顔を確認すると、ダンテが笑った。口元が血だらけのまま。

「治療魔法、上手だ」

「あ・・・」


泣きながら両手を少し外してみる。


あぁ、傷がない。食いちぎられたあとがない。首の布は裂けたままだけれど、首は綺麗だ。

アリアは血まみれの手の中、小瓶を見た。

空っぽだ。


「治った・・・マーガレットさんの魔力のお陰だわ」

「まさか本物とはな。助かった」

ダンテが苦笑して。


「良かった・・・」

アリアは今度は安堵に涙しながらダンテに抱きつこうとした。


瞬間、アリアは横からの圧をドッと受けた。


えっ


宙に浮いた視点から、ダンテの表情を見た。



今度は叩きつけられるような圧を全身に受ける。


「アリア様!」

ダンテが叫んだ。少し離れて聞こえた。


え、何。

アリアの腹を、誰かが抱えている。

誰。


「貴様、返せ!」

ダンテの声が後ろからする。離れている。

ギン、と武器のぶつかる音がする。


「!」

アリアの身体が放り投げられる。ヒヤッとしたが、宙で誰かに掴まれる。


馬上だ。

え。


ぐぃ、とアリアは脇の下から腕を回されて上体を起こされた。

「エドヴァルド王子!」

アリアのすぐ傍、アリアを拘束した男が叫んだ。知らない声だ。少し声が割れている。

「命が惜しくば、大人しく我々に従え!」


視界で光るものが動く。剣だ。


何。


拘束されたまま、エドヴァルド様の方に馬が進められる。


「アリア様!」

ダンテが後ろで叫んでいる。戦っている音がする。

「助けてくれ!」

とダンテが叫んだ。味方?


エドヴァルド様が見える位置に連れ戻されて、アリアは短い悲鳴を上げた。

エドヴァルド様が、誰かに襲われている。

護衛たちが駆け付けようとしている。まだ、多勢に無勢だ。


何、誰。

これは。


「大人しくしろ! この姫さんを殺すぞ!」

アリアを拘束する男がまた叫び、エドヴァルド様がこちらに気づいた。


「エドヴァルド様!」

向こうで悲鳴が上がった。何人もの。

倒れていく人がいる。エドヴァルド様。


アリアは大きな悲鳴を上げた。

「いやぁああああ!!」


「はっ」

笑ったような一声と共に、アリアは投げ捨てるように地上に叩きつけられた。


「死ね」


「アリアッ!」

兄の声が聞こえた気がする。


ギィン、という硬質な音が上で響いた。


アリアは動こうとした。

途端、肩と腕、足に激痛が走った。


「アリアッ!」

ダンテの声がする。


ふと、身体全体が何かに包まれた。大きな手のひら?


グェ

と大きな生き物の鳴き声を聞いた。


え?


ギィエエエエ

頭上だ。大きな声で鳴いている。

頭上?


痛い。身体がズキズキする。


色んな音と声がする。


ギィアアア、と大きな生き物が鳴いて、アリアの身体を柔らかな拘束が締め付けてくる。

息が詰まる。グッと苦しくなる。


アリア! とまた遠く、兄が叫んだ気がした。

エドヴァルド様、と大勢の声も。まだたくさん、戦っている音がしている。


急に周り、大きな手のひらみたいな感覚が解かれた。大きな生き物の気配が去る。


「貴様ッ! 止めろッ!」

ダンテが叫んでいる。少し、近い?


痛みをこらえるために目を瞑ってしまったアリアは薄ら目を開けた。


傍に誰かがいた。

ダンテでも、兄でも、誰でもない。

誰。

影で暗くて良く見えない。アリアを見降ろしている。これは、敵。

「死ね」

短い声と共に、剣が振り下ろされた。


ドッ、とアリアの胸に衝撃が入る。息が詰まる。激痛が来る。

一方で、犯人が転がるように視界から消える。


すぐ傍、戦う音がする。

誰かが逃げようとして転んだような、悲鳴がして、呻いている。

ドクドクと、自分の鼓動がする。体中が痛い。勝手に涙も流れる。


「アリアッ!」

ダンテ?

傍に来た。たどり着いてくれた。


「起きて、頼む、死ぬな」

ダンテが訴えてくる。


だけど、胸が苦しくて重くて痛くて。

駄目そうだとアリアは思った。


「頼む、お願いだ、」


死んでしまうんだ、私、とアリアは思った。


顔の向きを少し動かされて、目の前にダンテの顔が見えた。

泣きそう、泣いている。


あぁ、死ぬのか。結局。変えられない。


夢を見たのに。逃げて別の国で暮らしていく。


巻き込んだのに。


ダンテの手が頬に添えられる。震えている。

じっと見ようと思うけど、意識が遠くなりかけて辛い。意識を保つ方が辛くなってくる。


「大丈夫だ、一人でいかせない。今度は、今回は、俺も一緒に行く。だから、安心してくれ」

ダンテの涙が落ちてくる。


「大丈夫だ。俺も一緒だ」


・・・。


アリアは笑んだ。


そして意識を手放した。


***


温かい?

額に、何か冷えたものがペタリとのった。まるで生き物のように動いて、額の上で落ち着いた?


「気が付いた?」

と囁く声がした。

「ほら、起きて、アリア様」


頬をつつかれて目を開ける。

マーガレットの顔が逆さ向き。あれ?


「マーガレット、さん?」

「ダンテ! 生き返ったわよ!」

マーガレットが小さく叫んだ。


途端、慌てたように駆けて来る音がする。

ガバリと目の前、アリアを覆うようにダンテが現れる。


アリアを間近でジッと見ている。無言だ。


「起きたでしょ。もう、大丈夫。ほら、そこ退きなさいよ、邪魔よ」

マーガレットの促すような言葉にダンテは無言で動き、アリアの真正面から身体をずらす。

ダンテは、アリアの背中に手を入れて、アリアの上体を起こしてきた。


「ダンテ」

アリアが呟くと、ダンテの目が和らぐ。無言だけど。明らかに安堵している。


「戻ったか。アリア。おはよう」

「え。ジェイクお兄様?」


兄のジェイクがアリアの元に歩いてくる。

しかし。ここは何。

洞窟? 灯りはある。


ボトッとアリアの額から何かが落ちた。

何かと見れば、アリアの腹のあたりに、肉の塊が落ちている。


え? 肉?

気のせい? 動いているの?


「生きている肉に気を取られるのは分かるが、今は兄と妹の感動の再会の方が優先なんじゃないのか、アリア」

兄が傍に来て苦笑した。

マーガレットがアリアの後ろでクスクスと笑う。

位置から考えて、アリアはマーガレットに膝枕をして貰っていた?


「あの、ここは? どうなったのでしょうか?」

「結論から言えば、マーガレット嬢の優れた治療魔法で、アリアは一命を取り留めた。感謝するんだ」

兄の言葉に、アリアは瞬き、それから知らず胸に手を当ててギョッとした。


服が血で真っ赤だ。まだ濡れているし、何より穴が空いている。指で触ると衣服を全て貫通し身体に触れる。



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