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ものすごく便利なはず

翌日アリアは、多少寝不足の状態で、ブルドンとの約束のためにも学園に向かった。


ちなみに昨日は寝つきが悪かった。未来を不安に思ってしまったから。


アリアはまだ15歳。

本来なら、16歳になってから参加するパーティで、庶民化または他の運命が言い渡される。

つまり予想より大分早く、家を出る事になる。


今が居心地がいいから動揺してしまう。

だけど危険になる前に逃げる方が安全だ。


だけどなぜ、エドヴァルド様までが手配に加わっているのだろう。


そんな事をグルグル考えてしまって仕方なかった。


***


さて。アリアがブルドンに依頼していたのは、『品物を出し入れできる魔法の腕輪』だ。


学園に着けば、ダンテが来ていて、ブルドンのところまで案内してくれた。


ちなみにアリアの侍女には、彼女が馬車に乗る際に、予定とマーガレットへの伝言を依頼済み。

加えて、ブルドンとの話が終わるまで侍女も自由時間で良い、と伝えたところ、侍女は嬉しそうだった。互いにとって良い状況で何よりだ。


「久しぶり、アリア様」

「お久しぶりですわ、ブルドンお兄様」


ダンテが部屋を出て扉を閉めたのを確認してすぐ、ブルドンは時間を惜しむようにして鞄から箱を2つ取り出し、両方を開けて見せてきた。


まぁ。腕輪が3つもある。


「銀が1つと、金色のが2つ、ですの?」

「うん」


立派な装飾のいかにも高級な箱には、銀色の男性向けと思われる、幅広で厚みもある、太い装飾も入った腕輪が入っている。

もう一つ、簡素な木箱には、アリアが身に着けているのと同じに見える、金の細い腕輪が2本入っている。


「複数あった方が便利だと思って、2つ作ったんだ。例えば、左右に1つずつつけて、右はサイフ、左は道具入れ、とか分けた方が便利だろうと思って。単純に収納も2倍になるから」

「まぁ。ありがとうございます」


「こちらの立派な装飾の銀色のは、テスカットラ家への説明用。アリア様はこういう腕輪を私に依頼し、私はこれを作って納めた。という形にする。つまり、金の腕輪2本の目くらまし。金の腕輪は家には秘密だよ」

「分かりましたわ」

色々考えてある様子だ。アリアは深く頷いた。


「高額請求、しかも支払い先は私だから、テスカットラ家は、アリア様に何を買ったのか、確認すると思うんだ。だから銀の腕輪は、使い方も見せてあげて。こういうアイテムは今までこの世界になかったみたいだ。皆が欲しがると思う。だけど大量注文が来ても困るから、少し使い勝手も悪く、非常に高価とさせてもらった。実際は3つ分の金額だからその意味で値段は妥当だけどね」

とブルドンが詳細を教えてくれる。


「高額の表向きの理由は、私個人しか作れなくて手間も費用も相当掛かること。アリア様のためだからこそ私が頑張って作った逸品、って事にする。ちなみに実は、金の2つの方が高性能なんだよ」

ブルドンが嬉しそうに笑う。


「さっそくつけてみても宜しいでしょうか?」

「勿論。使い方も練習して欲しい。あ、これを練習に使おう」

ブルドンが布袋をたくさん、テーブルの上に置いた。なんだろう?


「これは、アリア様の逃亡資金に用意した。腕輪の代金にしっかり含めているから、遠慮せずに受け取って」

「ありがとうございます!!」

アリアは目を輝かせた。


資金は絶対に必要だ。

だけど、アリアは実際のお金に触る事がない。全て、後で家から支払わせるか、家に代金回収に来てもらうかだ。町遊びの場合は、サイフは侍女がしっかり握っている。


「1袋に金貨500枚入ってる。これで12袋ある。向かう場所は使われるお金が違う。一度に全部換金すると怪しまれるから、少しずつ、違う場所で、細かく分けて換金した方がいいと思う」

「はい。ありがとうございます、嬉しいですわ」


「それから、大きな袋も、とりあえず3袋用意した。これもあげる」

「まぁ」


「腕輪の使い方の練習も兼ねて説明するよ。コインを、まず全部を1つの大きな袋に入れる」

言いながらブルドンが12袋を大きな袋に入れた。アリアも手伝う。


入れ終わった時、ブルドンが、あっと顔を上げた。

「先に持ち主登録が必要だ。アリア様、腕輪をつけて」

「えぇ」


とりあえず、右手に2本ともつけた。


ブルドンが持ち主登録の魔法を使ってくれた。これで、盗まれたり他人に外されたりできなくなったらしい。


「これでアリア様が持ち主になったから、あとは、心の中で指示するだけ。腕輪は2つあるから、どちらかをコイン専用に決めた方が良い。とりあえず、一つは二の腕に挙げてみて。それで、コインは手首の方に入れてみよう」

「はい」


「では、『手首の腕輪に、この大袋を入れる』と指示のように考えてみて」

「はい」


アリアは言われたとおりに考えた。

すると、目の前の袋が消えた。そして、アリアには、手首につけた方の金の腕輪に、コインの12袋が入っている大きな袋が入ったのが、なぜか分かった。


「入ったの、分かった?」

「えぇ!」


「じゃあ、この残りの大きな袋2つも入れてみて。1つは手首のコイン用に。もう1つは、二の腕につけた方に」

「はい」


考えた。袋が消えた。そして、ちゃんと入ったのがアリアには分かった。


「すごいですわ。できましたわ!」

「良かった。じゃあ、次は・・・」


ブルドンが使い方を教えてくれる。入れ方と出し方だ。

とても細かく出し入れができる事が分かった。そのように作ってくれたからだ。


例えば、『換金前のコインが入っている大袋の方からコインをこの金額分取り出す』という指示で正しく取り出せる。

『換金後のコインを入れる大袋の方に、このコインをいれる』と考えると、考えたところにコインが入る。

思った通りにものが出し入れできる。


「ブルドンお兄様って天才ですわ」

「いや、既存の魔法でできることなんだ。だけど、多分この世界には、組み合わせればこういう事もできる、という発想自体がまだ無いみたいだ。私には前世があるから、できるはずだと気づくだけに過ぎない」


こんなにすごいのに、ブルドン本人は謙遜している。しかも本気で。


「銀の方は、金色のが分からないように、全く違う雰囲気に作った。機能も大分、制限している」

「まぁ」


使い方を聞いてみれば、確かに金の方が格段に便利だった。

銀は、わざわざ腕輪に触れつつ、入れたいものにも触れた上で、「これを腕輪に入れる」と口に出して言わないといけない。


でも、それでも今までにない便利な品物だ。

テスカットラ家の家宝にしてもらえるかもしれない、とブルドンが真面目に話している。


「ブルドンお兄様は本当にすごいですわね。いわゆるチートという人では無いのでしょうか」

「そうかもね。でも、私はスマホを作りたいんだよ。全然そっちに手が回らない」

「申し訳ありません・・・」

「とんでもない。人命最優先だから。ただ、これからアリア様と私たちは離ればなれになるから、通話機能は早く作り上げたいよ。前世では人工衛星とか使ってたけど、空に打ち上げるのは今の私では無理だし」

「普通に電波で良いのでは?」


ブルドンが目を細めてアリアを眺めた。あれ?


「アリア様って、文系かな」

「前世? えぇ・・・」

つまり、技術とかそれほど興味がない。


「そうか・・・」

ブルドンが少し遠い目をして微笑んだ。あれ。

電波発言に問題があったかな。


「えぇと。つまりね、中継地点が必要なんだ。遠い場所同士で音を伝えようと思うと」

「まぁ。はい」

「うん。それで、お願いがあるんだ。私たちもアリア様と離れていても、前世みたいに電話で話をしたいと思うから、この魔法を描いた図面を、途中の町、例えば広場とかにこっそり置きつつ移動していって欲しい」

「まぁ」


アリアには詳しい理屈は分からないが、電話のように話ができるようにするために、ブルドンから依頼を受けた。

これを通りすがりの町にこっそり置きつついくと、この町のブルドンたちと、遠い地のアリアたちと話ができる可能性が高いそうだ。うん、やってみよう。


まだ使えないけど、と言いつつ、ブルドンから、何も書いていないハガキを1枚貰った。

上手く行けばこれでスマホみたいに通話ができる・・・?


「さて。渡すものはこれで終わり。ところで、マーガレット嬢の方はどう?」

「マーガレットさん、とても良いですわ。周囲も、変化に気づいているようです」

とアリアも答える。


「そう。・・・ねぇ、実は私は、エドヴァルド様の考えがよく理解できないんだ」

とブルドンが眉をしかめてそんな事を言った。


「え? どういうことでしょうか?」

「うん。ただ気になるだけなんだけどね。自分があれほど好きな子を、恋敵に託せるものなんだろうか。その一方で、自分を慕う子に、自分が好きな子をマネさせて代わりにする? 少し考えが、変じゃないかな」

ブルドンがじっと困ったようにアリアを見ている。


「ダンテも同意見なんだ。用心したほうが良いとは考えているけど。アリア様、出来る限り、マーガレット嬢を味方につけておいた方が良い。エドヴァルド様がなんだか不安に思えるんだ。こんなに休んで何を手配しているんだろう」

「私がマーガレットさんに心置きなく仕草を伝えるようにという計らいだと、思っていました」

「確かにその面もあるだろうけど」


どうしよう。

そう懸念を伝えられても、アリアにもエドヴァルド様が今何をどう考えているのか分からない。


「ダンテに、あと20日後の頃に、エドヴァルド様が私を馬の遠出に誘う予定だと聞きました」

「うん。いよいよだね・・・」


ブルドンがやはり何か考えるようだ。


「・・・さっきの話に戻してしまうけど、ごめん。例えば、誰かに、アリア様の真似をさせても、それはアリア様じゃない。傍にいるほど、別人だと痛感してしまうものだと思う。これは、私が、好きな相手をケーテルとして、エドヴァルド様の状況について考えただけなんだけど」

「はい・・・」


「正直、無理だよ。ケーテルの真似をさせても所詮他人だ。絶対嫌になる。ケーテルの真似をしている間に、その子本来の何かに惹かれて、その子に惚れたならまた別だけど」

「・・・」


「悪いけど、アリア様も考えてみて欲しいんだ。何か変だと思ってしまう」

「はい。・・・じゃあ、そうですわね。少しお待ちください・・・」


アリアは考えた。

例えば。アリアはダンテが好き。だけどダンテは、マーガレットが好き。うわ、嫌だ。どうしよう。


そんなダンテはアリアといると暗殺されてしまうらしい。じゃあ、えっと?


アリアを好きだと言ってくれる誰かにダンテの真似をさせて。誰にしよう。あ、名前も知らないあの人。


で、ダンテを、死なれるよりはとマーガレットに託す・・・?


ううーん。


「まず、私はエドヴァルド様ほど心が広くありません」

「多分私もだから大丈夫だ」

全てを言わないうちにブルドンが力強く頷いた。


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