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女性向け恋愛ゲームのはず

アリアは広い部屋にてブルドンとお茶会をする事にした。広間だ。

前世の話になるから、他の人に聞かれては不味い。


部屋の入り口に、侍女ケーテルと、ブルドンの付き人ダンテを待機させて、入り口から離れた奥、テーブルに、アリアとブルドン。

ちなみに、長くなるから、ケーテルたちも座っていていいのよ、とそちらにもお茶セットを用意させて勧めてみたが、座るととっさに動けなくなるのでお気になさらずに、という返答だった。侍女の鏡である。


さて。

ブルドンがアリアに、作成した資料を渡してくれる。


パッと見て、アリアは首を傾げそうになった。

白紙だ。何も書いていないように見える。


見ると、ブルドンが小さな立方体をポケットから取り出した。


「これ、貴重な品ですが、アリア様に、『お詫びの品』として進呈させていただきます。使い方は、こう」

ダンテが立方体を指で強くつまむと、紫色の灯りがついた。

そのまま紙に近づけてくる。すると、照らされて、何も書かれていないように見えた紙に、文字や記号が浮かび上がった。


「見せた後に燃やした方が良いように思ったけれど、一応手元で読み直せた方が良いかなと思って」

「ありがとうございます」

アリアの手に、紫に光る立方体が渡される。


「特殊なインクで書いたんだ。この光でないと出ない。まだあまり知られていない手法らしいから、しばらくこれで隠せると思う。紙を間違って捨てないようにだけ、お気をつけて」

「はい。勿論ですわ」


紫の立方体の灯りに照らされる文字を目で追う。とはいえ、渡されたのはたった1枚。


「私には、双子の兄がいたんだ。前世にね」

とブルドンが話し出す。

アリアは目線を上げたが、

「いいよ、そのまま読みながら聞いて」

と言われたので、気になりつつ、紙に視線を再び落とした。


「私が見たのは、その兄が作ったデータだった。状況を言うと、兄にはこのゲームをやっている彼女がいて、攻略情報を頼まれて、兄もこのゲームをやっていたんだ」

「・・・。頑張り屋さんの、お兄様でしたのね」


アリアの言葉に、どうかなぁ、というような表情でブルドンは宙を見やった。

「兄も理系だったから、データにしてしまったんだろうな。それを、私が見る事になった理由は、兄に『万が一俺が死んだら、誰よりも早く、このデータを抹消して欲しい』と頼まれたからだ」


え、と驚いたアリアの表情に気付いたブルドンはおかしそうに笑った。

「あ、死にそうな何かがあったわけじゃないよ。なんていうのか、『自分が死んだ時、親や他人に見られたくないものを、人に知られる前に処分して』と依頼するって、結構あったよ」

「まぁ・・・」


「女の子は無いのかなぁ。まぁそれで、私は前世の兄に、死んだら真っ先に消して欲しい、と頼まれて、教えられた中の一つが、このゲーム関連だった」


そうでしたの、とアリアは相槌を打った。

自然と紙から目線をあげてブルドンを見てしまう。


「ただ、結果をまとめたデータが、他の書類と間違えそうな状態だったから、きちんと覚えるために、内容も少し見せてもらったんだ、兄の前でね。それで見て驚いたんだよ。『不倫』『敵は暗殺』とか、これなんのデータだ、戦略ものじゃないのか、って」


ブルドンが嫌そうな顔になっている。アリアも何ともいえない気分だ。

とはいえ、ここで確認しておこう。自分が知っているゲームとあまりにも不穏さが違いすぎる。


「ブルドンお兄様、それは本当にこのゲームで間違いありませんの? 私とブルドンお兄様は、別のゲームの話をしているのではありませんの?」


なぜなら、アリアは庶民ルートしか知らない。だけど、ブルドンは庶民ルートを知らないと、前に言ったのだ。


「100%とは言えないけれど、多分同じだよ。きみの名前もだけど、この国はイツィエンカだし、エドヴァルド様も、ジェイク様もいる。エドヴァルド様のイラストも見た。タイトルは『恋するマーガレット』だったかな」


アリアは呻いた。

「同じですわ・・・」

「そっか・・・」

ブルドンも残念そうになった。


ブルドンが一つため息をついて、思い出したようにティーカップに手をのばした。

すでに少し冷めているが、呼ぶまで控えていて、とケーテルたちには伝えてある。

アリアも自分のティーカップに口づける。


ブルドンが紅茶をソーサに戻して、話を再開した。


「私は、庶民になるというのは知らない。理由は、兄がまとめたデータを少しだけ見たから。全部は見ていない。それに、兄は『やり始めて5回連続でバッドエンドで心を折ってきた』と言ったから、兄は悪いパターンばかり見た可能性もある。そもそも女性向けの恋愛ゲームだから、男の兄には難しかったんじゃないかな」


アリアは困惑しつつ、情報提供した。

「私の場合は、3度で止めましたの。理由は、3回で適度に簡単で、満足したからですわ。9人いる対象者のうち、エドヴァルド様だけを選択した結果、『ノーマル』『エクセレント』『ハッピー』の3つのエンドになりました。ヒロインは『エクセレント』と『ハッピー』は違う幸せのパターンですが良かったです。ノーマルは『将来一緒になろうね』と約束するところで終わる、という感じです。これらの場合、悪役である私は、全て庶民に追放されましたの。だから、それが決まりなのだと思っていたのですわ」


「うーん。そうか。それがマシなパターンなのかもしれないね。逆に兄の思考回路とは絶望的に合っていなかったのかな。『ライバルの子は、すでに14パターンで暗殺死だぞ。これが人気とか怖すぎる、乙女思考って何だ』と言っていた」


あ、それで14パターン・・・。


アリアは意識が遠のきそうになるのを堪えつつ思った。


本当はもっと多い可能性もあると・・・。


「兄の方が、アリア様よりも多くやりこんでる。『会話を一つ変えただけでその後、全て違った選択肢が現れる』って言っていた。まぁ、現実と考えると当たり前だけどね。兄がその時話したゲームの事と、そのデータについて、まとめてみたのがそれだよ。少なくてごめんね」


ブルドンがアリアの持つ紙に視線を向けた。

アリアも見る。書かれている量はそれほど多くはない。


こんな内容だ。

------------

ヒロインの好感度が一定基準に達しなかった場合、バッドエンド。(各種ある)

バッドエンドでも『選択したヒーローとヒロインとのエンド』に持ち込むように作られている。

好感度の数値が低いので、ヒーローと邪魔者との縁が生きている。

邪魔者が強制的に退場させられる。

退場方法として、このゲームは、『邪魔者の、第三者による暗殺』が多く使われている。(ヒロインや関係者が直接手を下すと後味が悪くなるためでは)

展開として、『誰かが邪魔者ライバルを暗殺してしまった。大勢に恨まれていたからだ。気の毒だが仕方ない』


結論:

あらゆるパターンで暗殺が使われる。第三者の手によるため、犯人不明。

------------


「・・・笑えませんわ」

とアリアは真顔で言った。


「特に、犯人が分からないところと、色んなパターンでそれが使われるところがね」

とブルドンはしみじみと言った。


アリアは紙面から顔を上げ、ブルドンを見つめた。

「ブルドンお兄様も、お亡くなりになるのでしょう? 暗殺の場合」


「同じ場所、違う場所、同日、翌日、わずかに違いはあるけど、まとめて邪魔者として消されるみたいだ」

淡々と答えたブルドンは、言ってから事実に気付いたように落ち込んだ。暗雲が見える。


ずーん・・・。


いや、アリアも落ち込んでばかりではいけない。

時間は貴重。前向きに対策を考えなくては、可能な限り、一秒でも早く。


アリアは顔を上げた。

「ブルドンお兄様、まずはお召し上がりになってくださいませ」

気分を変えるためには、例えば甘味も役に立つ。


「幸いなことは、『邪魔者』である私たち二人ともが転生者で前世を覚えている事ですわ」

「そうだ。その通りだ」

ブルドンも顔を上げた。菓子に手を伸ばす。


焼き菓子を優雅な仕草で口にし、冷めた紅茶を飲む。


「アリア様。具体的に考えるためにも、気になっていることを言います」

「何でしょう」

ブルドンは、覚悟を決めたようにスッと視線をアリアに向けた。

アリアは緊張した。


「暗殺は、ヒロインの好感度次第。でも言い換えると、ヒーロー、例えばエドヴァルド様とアリア様との縁がヒロインの邪魔になるかどうか」

「・・・」


ブルドンがアリアを見たまま難しそうな顔になった。

「エドヴァルド様、アリア様のことが相当好きだよ。皆知っているし分かるほどだ。何が言いたいかというと、つまりヒロインは、今、相当ハードモードにいるのじゃないかなと、思うことだ」

「・・・ぇ」


アリアの思考が少し停止した。


ブルドンがじっとアリアの反応を待っている。真顔で。

アリアはハッと思考を取り戻した。

「い、いえいえ。例えばヒロインがエドヴァルド様と出会ったら、私への想いなど薄れますわ。ヒロインを好きになるほどに」


「それは、どうかなぁ」

ブルドンが、疑わしそうだ。


「命がかかっているから、言うね。少なくとも私が思っている事だけど、他の人が好きになったからその分他の人が減るなんてない。二股する人がいるぐらいでしょう。一番は変わるけど、嫌われるようなことをしないと好感度は下がらないものじゃないのかな。つまり、ヒロインの好感度が上がったからって、自動的にアリア様への恋愛感情は薄れない気がするんだけどな」

「えぇっ・・・!?」


「重要だから言うよ、この考えが合ってたら、縁は強く残るまま。邪魔すぎるから暗殺」


「え、じゃ、じゃ、じゃあ! そう、私! 嫌われる努力をするべき、ですわ!?」

アリアは閃いて身体を前のめりにするほどに訴えた。これが解決案だ!


「うーん・・・。そうなのかなぁ。とりあえず、こちらの情報は出したから、他の対策も考えよう。対応できることと、できないこともあるし、アリア様も私も、どんな未来を希望するかによって打つべき手も変わると思う」

「・・・」

「それに、ここにはゲームと違って、転生者がいる。大丈夫。あと4年、少なくともあるから」

「はい・・・」


アリアは茫然としつつ、頷いた。

ブルドンも普段とは違って、真面目な深刻な顔をしていた。きっと自分も同じだろう。


ちなみに、結局二人とも、会話に必死になりすぎて、また声が大きくなっていたことに気付かなかった。

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