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悪女のはず

王子様が婚約者に贈るに相応しい品々。

しかしこれは、本気すぎる。


だけど15歳の誕生日。結婚する人もいる年齢だ。


どうしよう。貰った以上、身に着けるのが礼儀だ。

いつ。どこで。

受け取らない、という選択肢は無い。つきかえすのは婚約解消と同じことだ。


じっと言葉なく、贈答品を凝視しているアリアの周囲、侍女が「素晴らしいですわ」と褒め称えている。


苦しい。

いや、割り切るべきなのだ。

なぜなら、婚約の解消はできない。アリアからは無理だ。

だから、今はこのまま過ごすべき。


だけど、ものすごく重い現実が突き付けられたように感じてしまう。


喜ばないアリアが悪い。きちんとしてくれるエドヴァルド様が正しい。


だけど、もう、とアリアは思った。

今すぐ、逃げ出してしまいたいほどに、辛くなる。


***


考えてしまって、よく眠れなかった。

だけど、一晩悩んで真剣に考えた。


いつの間にか朝だ。


今日もエドヴァルド様が迎えに来てくださる。

アリアの我儘による、2日は馬車でお迎えいただき、1日は馬というパターンは続いている。


今日は馬車で来てくださる日だから、お会いしたら御礼を伝えた上、馬車の中で正直に気持ちを伝えよう。アリアはそう決心した。


なのに、深刻な心持ちで待つのに、一向にエドヴァルド様がアリアを迎えに来ない。


皆も慌てて、ひょっとして今日は馬で通う日とお間違えなのでは、と言い始める。


エドヴァルド様がお忘れになるはずはないのに、と思いながら、このままでは授業に間に合わなくなってしまうので、急遽きゅうきょ馬に切り替えることにした。

普段は侍女たちが乗る馬車に今日は一緒に乗ってはとも言われたが、時間的に心配だ。

アリアはドレスでも横乗りで一人騎乗できるぐらいにはなっている。山道でもないし。細い道の近道も通れるから、馬車よりは早く着くはず。というわけで馬を選択。

侍女とは学園で合流予定だ。


さて馬を走らせて、アリアは無事に学園に到着できた。授業も間に合いそう。


ただ、そこまで授業に必死に出たいわけでもない。ただ、やっぱりエドヴァルド様にお礼を伝えた上、話をしたいと思ってしまう。


アリアはエドヴァルド様の姿を探し、おられるはずの部屋に向かった。


まだ授業が始まっていないので、部屋の扉は開け放たれている。


そして廊下から見えた部屋の中の様子に、アリアは驚いて足を止めた。


エドヴァルド様が、マーガレットと並んでいる。勿論、取り巻き、例えばアリアとは別行動の兄ジェイクもいる。

アリアの不在など気にせず、楽しそうだ。


あまりにも、昨日までと違う光景に見えた。

どういうことだろうと、アリアの理解が追いつかなくなった。


まさか、また、自分は記憶を失っているのだろうか?


「どうされました」

横から声をかけられた。ダンテだった。ひょっとしてアリアを外で待っていた?


アリアは中の様子を再度見やり、ダンテの服の袖を引っ張って、他の方向に足を進めた。

ダンテが無言でついてくる。と思ったら、途中で先導するように、空き部屋に案内してくれた。


「どうしました」

部屋に入って尋ねられる。


「私、昨日が私の誕生日だった。合ってる?」

「えぇ」

ダンテがアリアの真剣な問いに驚いている。

一方、アリアは記憶が飛んだ訳ではないとほっと安堵した。


「どうされたのです」


アリアは眉根を寄せた。

「エドヴァルド様が、やっぱり、急に変じゃないかしら」


「あぁ。今日はマーガレット嬢と並んでおられますね」

ダンテも首をひねるようだ。

「昨日の影響がまだ残っているのでは? 昨日、アリア様は午後の誘いを断り、他の女性を薦めたのですから。腹いせだと思いますが」


「そうなのかしら。エドヴァルド様らしくない気がしてしまうの。本当は今日はお迎えに来てくださる日だったのに、来られなかったのよ」

「まさか、冷たくされたから拗ねているのですか?」


「いいえ。おかしいと思って。・・・怒らないで聞いてね」

「はい」


「昨日は私の誕生日だったわ。家に帰ったら、エドヴァルド様からの贈り物が届いていたの」

「・・・」


「とても素晴らしいお品だった。ジュエリーBOXで、中に、イヤリングと、ネックレスに、見事な指輪」

「・・・それで?」

ダンテが難しい顔で先をうながす。


「罪悪感で、昨日はよく眠れなかったの。今日、お会いしたら御礼を言わなければいけない。考えて、馬車の中で、正直に私の気持ちをお伝えしようと決心してたの」

「正直に、気持ちを伝える?」


「えぇ。名家の貴族令嬢、国の第二王子様の婚約者、15歳の誕生日。全てを感じさせる、本気のお品物だったのよ。受け取るしかないけれど受け取れない、真剣にもう一度お話をしなくてはと思ったの」

「待ってください」

ダンテの目が険しくなった。


「話が違う方向になっている。だけど待ってください。真剣にもう一度? 何と言うつもりです。『あなたの婚約者ではいられません。受け取れません』とでも? 洗脳されたことを忘れたのですか?」

「いいえ。でも、16歳まで待つのが苦しいと思ったの。お話して、早めに、逃げたいって思った」


「あなたは、どうして!」

ダンテが苛立った。

「時期をきちんと待つべきだ。まだ整ってもいないのに、気持ちですぐ振り回す! 良いですか、俺が好きなくせに、他の男に、いくら相手が良い人間だからと、自分も良い人間であろうとするのは止めてくれ!」

「良い人間?」


「そうです」

ダンテが怖い顔でアリアに詰め寄ってくる。

「あなたは、俺と逃げるのでしょう」

「えぇ」

アリアは負けまいと真剣な顔のままダンテを見つめ返した。


「だったら、良いですか。あなたは、どう転んでも、あの善良そうに見える王子にとって、裏切り者なんですよ。悪人で嘘つきの、酷い女なんです。諦めてください。あなたは、あの王子にとって悪人なんだ」

「・・・。正直に話し合いなどしない方が良いと、ダンテは言っているのね」


「あの王子に、未練があるのですか?」

ダンテが怖い顔のまま尋ねてくる。真剣だからだと思う。

「いいえ」

「だったら、頼むから、自分をもう、諦めてください。良い人間になろうとしないで。頼むから」

「・・・悪人?」

「そうですよ。あなたは裏切り者だ」

ダンテが泣きそうに言い聞かせてくる。

アリアはじっと間近にあるその表情を見つめていた。


アリアは言った。

「本気の贈り物を受け取って平然と、騙して、笑って、裏切る」

「そうです。それがあなただ」


アリアは目を伏せた。

「そう」

そうね。


「お願いですから。二度と、誠実であろうとしないでください。隙を見せたら、殺される」

「・・・エドヴァルド様に隙を見せて殺されるというのは、変だと思うの」

アリアは苦笑して見せた。ダンテが本当に泣きそうだから。


「私って酷い女ね。昨日の今日で、ダンテを泣かせてしまうのですもの」

「泣いてない!」

「泣きそう」

「あなたが悪い」

「えぇ、そうみたい」

「頼むから、危ない事を考えないでくれ」

「ごめんなさい」

アリアは手を伸ばしてダンテの両頬に触れた。ダンテがあまりにも苦しそうだ。


「話を、変えるのだけど」

「えぇ」

アリアの片方の手を掴むようにしたまま、ダンテが答える。


「エドヴァルド様は、どうされたのかしら。あまりにも突然すぎると思うの。変だわ」

「・・・昨日の昼の会話が原因だろう、間違いなく」


昨日の昼間、アリアはマーガレットの方が相応しいとエドヴァルド様に告げた。

それは、アリアはエドヴァルド様との未来を考えていないと伝えたのと同じ事だ。


だから、アリアを捨てることにした?

花束と見事な宝飾品を贈っておきながら?


エドヴァルド様は昨日の昼、アリアを本当に好きだと言ったのに。


「急に、愛想を尽かせるものなのかしら。お気持ちが分からない」

「さすがに王子なのだし洗脳されているわけでもないだろう。・・・なびかないあなたへの当てつけでは」


「そうかしら。迎えに来れば、少なくとも私は、贈り物についてのお礼を言うのよ。エドヴァルド様はそういう言葉を喜ばれる方なの」

「・・・じゃあ、俺には分からない。様子を見るしかない」


「そうね」

「で、あなたは今日は授業をさぼる」


「えぇ。もう始まっちゃったもの」

「じゃあ次の時間までどうします」


「・・・魔法を教えて!」

アリアが意気込んで言うと、ダンテが少し微妙な顔をした。

アリアはどうも、魔力が少ないらしいのだ。つまり、魔法の才能があまりない。


なお、学園では、女性は魔法の授業を受けられない。

母となる身体には、魔法学は負担だと考えられているせいだが、そもそもこの国の女性は一般的に魔力が少ないようだ。


なお、マーガレットは魔法が得意だ。だからこそ、乙女ゲームでは、その才能に皆が驚き一目置くようになるのだ。女でもこれほどに、と。

なんだか女性蔑視っぽくて酷い。


とにかく、アリアが教えてもらうならダンテしかいない。

ブルドンは忙しいし、ブルドンに頼むなら、ブルドンの事業の補佐をしているダンテで適任。


「お願い! ダンテ先生!」

「うーん。アリア様は魔法がアレなんで、ちょっと、教える意欲がこっちもアレなんですが。まぁ、やらないよりはマシだよなぁ・・・」

ダンテが酷い事を言う。可哀そうなものを見る目でアリアを見ている。


「酷い! だって、魔法というだけでワクワクできるのだもの!」

「そうですね。練習してちょっとはマシになりましたか?」


なお、アリアは治療魔法を身に付けたいと思っている。

単純に、ちょっとでも役に立つものだというのと、魔法学に触れる機会のないアリアにとって、乙女ゲームでヒロインのマーガレットが使うシーンがあったため、治療魔法の存在と、その効果を少し知っていたからだ。


「分からないの。だって普段、怪我なんてしないもの」

「そうですね。そもそも治療せずとも基本的にアリア様は元気ですからね」


「ダンテ、どこか身体が痛いところはある?」

「ありませんが、最近出来てまだ少し残っている切り傷で練習しますか?」


ダンテが手のひらを見せてきた。


「どうしたの?」

「先日、魚を切る時にちょっと失敗しました」


「まぁ! じゃあ、練習して良い?」

「良いですよ」


アリアが真剣な顔でダンテの手のひらを掴む。

そのまま魔法の練習をしようとしたアリアを、ダンテがふと止めた。

「あなたの侍女は今どこにいるのです?」


「あ、今日は馬で駆けてきたから、後からくるの。そのうち来るわ」

「なら、あの部屋にアリア様がおられなくて驚き、泣いて探し回りますよ。気の毒です」


「・・・じゃあ、どうすれば良いの」

「せめてあちらの部屋の扉に、あなたの侍女当てのメッセージを」


「ダンテって、私の侍女に優しいわ」

「苦労が簡単に想像できるからですよ」


ムッと拗ねたアリアを見て、ダンテがなぜか嬉しそうに目を細めた。


昨日から、表情が柔らかくなっている気がする。

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