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うまくいかない恋は多いはず

「罪悪感がありますの。本当に、とても優しくて素晴らしい方だと思うのですもの」


授業後の休憩時間。

エドヴァルド様たちからは離れることに成功して、アリアはケーテルとマーガレットと一緒にいる。


マーガレットがアリアの懺悔の言葉にニコニコしながら怒っている。

「アリア様、のろけるなんて良い度胸です! 泣いちゃいます! ・・・あっ、私、エドヴァルド様にアリア様は本当はエドヴァルド様が好きじゃないって教えて来ましょうか?」

「止めてください! また洗脳されてしまいます!」

ケーテルが驚いて止める。


「そうですね。アリア様って、もぅ。困った人ですね」

マーガレットが苛立ちつつアリアを睨むので、アリアは、ごめんなさい、と呟いた。


「あの、恐縮ではありますが、少し興味本位でお尋ねしても、宜しいでしょうか?」

ケーテルがおずおずとアリアに言ってきた。

「えぇ、なぁに?」

ケーテルなら何でも聞いて。


「その、本当に、私の興味本位な質問ですが」

「えぇ、どうぞ。ケーテルは親友よ」

「ありがとうございます!」

パァッと嬉し気に顔をほころばせたケーテルは、すぐに真面目な顔になって声をさらに潜めた。


「ダンテさんのことは、どう思っておられるのでしょうか・・・? その、どのあたりを好きになっておられるのかと、その」

「分かるー!!」

声を潜めてマーガレットも顔を寄せてきた。

「私も聞きたいですぅ!」


「ま、さか、そんな質問を、」

アリアは動揺して勝手に顔が赤らむのを感じたが、しかし真剣に尋ねられているし、ケーテルは親友だし。

ゴクリ、とアリアは緊張でつばを飲み込んだ。


「ひ、秘密ですわよ? マーガレットさん」

と、まだ信用しきれていないマーガレットに念を押す。このヒロインは、下手をすれば簡単にエドヴァルド様に情報を漏らしそうな気配がある。

「えぇ」

「マーガレットさん、約束の署名を」

「え、そこまでするの?」

「署名を」

ケーテルが、マーガレットに署名を促すのでアリアは慌てた。何もそこまで。


「あの、とても、頼りにしているの」

アリアの小さな声での打ち明け話に、ケーテルとマーガレットが頷いた。ふぅん、という風に。

「口や態度が悪いところがあるけど、結局優しくて」

ケーテルとマーガレットが揃って少し首を傾げた。


「1年、家に監禁状態の時も、大変なのに会いに来てくれたわ」

「まぁ、そうですわね」

少し不思議そうにケーテルが頷く。

「具体的なエピソードは?」

とマーガレットが尋ねてきた。


「町で、買い食いにも付き合ってくれたわ。とても優しいわ」

「・・・」

「・・・真面目に聞くのですけど、エドヴァルド様の方が、絶対、良い男ですよ」

マーガレットが真剣な顔で確認してきた。

「優しいし紳士的だし頭も良いし優雅だし、身分も最高だしスタイルも顔も抜群だし! なのに、ダンテさんが良いんですか」


「ずっと傍にいてくれて、泣いてしまった時とか、すごく優しいもの・・・」

恥ずかしくなってきたアリアに対し、マーガレットがケーテルを見やり、ケーテルもマーガレットを見つめ、どちらともなく、仕方なさそうに頷き合った。

「好みは人によって違いますわ」

「うん。自分が持ちすぎていると、目が曇っちゃうという見本よ」


「酷いわ、二人とも!」

アリアは憤慨した。

「頼りになるし、笑ってくれるもの! 嫌そうにするけど、きちんと動いてくれるもの! だって、私の部屋は6階にありますのよ? それなのに疲れているのに来てくれるの!」


「・・・」

ケーテルが少し困った申し訳ないような顔をしている。どうして?

「それは向こうも行きたかったからですネー」

マーガレットが可哀想なものを見るような顔をしている。どうして?


「もう! ケーテルが聞くから打ち明けたのに!」

「まぁ、アリアお嬢様・・・」

「はいはい。そうだアリア様ぁ、今日は町のお買い物に行けますか?」

アリアの言葉にケーテルが感動しかけたところで、冷めた様子のマーガレットが別の事を聞いてきた。


「え。あ、例の買い物ですわよね。先ほど侍女に確認しましたわ。例のものですが、私の場合、寸法を渡して店が最品質にと仕上げるそうですの。ですから、マーガレットさんも私の屋敷にいらしてくださいな」

「お待ちください、アリア様」

「どうしてケーテルが止めるのぉ?」


「町の仕立て屋に行くので十分ですわ。マーガレットさん、アリアお嬢様に物品をたかるのは止めてください。はしたない事ですわ」

「アリア様にとって大した金額では無いわよ」

「私というよりも、父が払いますから、私も特に問題ではありませんわ」

「いけません!」

「酷いわ! 私だって一流のものを身に付けたいもの」


「ケーテルもマーガレットさんも落ち着いて。じゃあ、そうだわ、今日、町の仕立て屋に行きましょうよ! 私も久しぶりに町でお買い物ができるのは嬉しいもの!」

「私のものも全部買って下さるんですよね、アリア様!」

「構いませんわ」

「やったぁ、大好きアリア様! うれしーい!!」

「自重してください、マーガレットさん!」


「なんだか楽しそうだね」

少し遠慮しながらやってきたのはエドヴァルド様だ。

三人で揃ってエドヴァルド様を見上げる。


エドヴァルド様は少し恥ずかしそうにしつつ、

「アリア嬢。一緒に次の教室に行こう。エスコートさせてほしい」

と言ってきた。

「良いなぁ」

とすかさずマーガレットが呟いた。アリアはその声に必死で反応した。


「エドヴァルド様、あの、マーガレットさんが、エスコートに憧れているそうですの。なかなか機会がないと悲しんでおられますの」

「・・・そう」

エドヴァルド様の目が少し据わった気がするのは、気のせい?

いいや、エドヴァルド様は優しいからきっと大丈夫!


「その、エドヴァルド様、今日はマーガレットさんをエスコートしていただいても宜しいでしょうか? 困っておられますし、周囲もマーガレットさんに一目置くようになるはずですもの・・・」


エドヴァルド様が無言でジィッとアリアを見つめている。

あれ。普段のエドヴァルド様らしくない。


「分かった。ヒューイットにエスコートを頼もう。ヒューイット」

エドヴァルド様が、少し後ろにいる集団の一人に声をかけた。

名前を呼ばれて、体格が他より良い、少し野性的な顔立ちの男性がこちらにやってくる。


「ヒューイット。マーガレット嬢をエスコートしてあげて。エスコートに憧れているそうだよ。女性だから丁寧にね。きみにとっても、丁重な扱いを学べるし良いと思うよ」

「は。ありがとうございます!」

ヒューイットが喜んでいる。

エドヴァルド様はこのヒューイットという男性の悩みを知った上でここに呼んだ雰囲気がある。エドヴァルド様、さすが。人格者。

ちなみに、ヒューイットは乙女ゲームにも登場する。攻略対象者の一人だ。


「あなたは両想いの旦那様がいるから、大丈夫だね?」

「は、い。お気遣いいただき、光栄でございます」

「どういたしまして」

エドヴァルド様がケーテルにも優しい言葉をかける。ケーテルが驚きつつも礼を取る。


「さぁ、憂いは無くなった。アリア嬢」

エドヴァルド様が改めてアリアを誘う。


チラッとマーガレットを見ると、少し泣きそうに拗ねた顔をしている。

多分、怒っている。と思うのは、マーガレットが結構強引な性格だとたった1日でアリアが察しているからだ。なんだか可愛いのに面白い子、という認識もすでに持っているが。


とはいえ今回はエドヴァルド様の方が上手だと思う。

アリアは微笑みを浮かべて、エドヴァルド様の腕に手を添えた。


「マーガレット嬢。俺ですまないが、どうぞ」

ヒューイットが少し緊張したように、マーガレットに手を差し出した。


アリアは気になって様子を見つめてしまう。


マーガレットはじっと差し出された腕を見て、そして背の高いヒューイットを見上げた。

そして少し遠慮しつつも、はにかんだ。

「ありがとうございます。失礼します」

手をそっと添えている。

途端、ヒューイットが緊張したのが傍目でも良く分かった。


「行こう」

エドヴァルド様が、ヒューイットに優しく促すように声をかけた。

「は」

ヒューイットが硬い返事をする。


アリアはケーテルを見た。一人残されてしまうからだ。

ケーテルは気づいて、ニコリと笑んでくれた。

きっと様子を見ていたのだろう、ブルドンが近づいてくるのも分かったので、そちらは安心できる。


***


エスコートをされたまま座って授業になるので、授業中もマーガレットはヒューイットの傍にいる事になった。


「なんだか、情がちょっと湧いちゃうほど、緊張しやすい人みたい、ヒューイットさん」

授業が終わり、マーガレットがトイレにとアリアを連れ出してくれて、一旦エドヴァルド様たちの集団から離脱できた。そのまま別の部屋に入って、マーガレットの話を聞く。なんだか少し愚痴っぽい。


「ヒューイット様ですが、武芸に秀でる家系で、城や王の警備も任されている、名家の跡取りの方ですわ」

とアリアは一応教えておく。


「そう。エスコートの手の力加減は大丈夫かとか確認してくださるけど、なぜあそこまで気を遣われるのか心配になってしまったわ」

「女性は壊れやすい、と教えられていると、ジェイクお兄様が話していた記憶がありますわ」

昔、食事をともにしながらの会話で兄の話を思い出した。


「そんなに注意しなくても大丈夫ですって言っただけなのに、ものすごく驚かれて、なんだか喜んでいたのはそのせいか・・・」

マーガレットが少し疲れている。


「もう気に入られたのですか、ヒューイット様に」

「そのつもりはなかったけど。そうみたい。ままならないものね。私はエドヴァルド様なのに」

「そうですわね・・・」


「勝手な事だけど、少しだけ、アリア様の気持ちが分かった気がするわ」

「そ、うでしょうか」


アリアはヒヤッとした。

今はマーガレットとアリアだけ、だけど侍女は壁に控えている。

滅多なことを聞かれると困る。


「そろそろ行きましょうか。ケーテルと合流したいです」

「あ、私はエドヴァルド様とご一緒したいわ! 戻りましょうよ!」

「・・・マーガレットさんだけ戻られては?」

「一緒に戻りましょうよ!」


マーガレットは恩人だ。アリアは渋々頷いた。


***


結局、なかなかアリアがエドヴァルド様を避けるのは難しい。

エドヴァルド様が迎えに来る上に、マーガレットがエドヴァルド様と一緒に居たがるからだ。


一方で、エドヴァルド様の取り巻きたちの間で、マーガレットの取り合いが少し起こり始めている。

女性の扱いが苦手だけれど、気さくに声をかけてくるマーガレットに安心感を持ったヒューイット様。

兄のジェイクも、言いたいことを話す恐れ知らずの部分に惹かれている様子。

他の人たちも、それぞれの理由でマーガレットを特別視し始めている。


ただし、エドヴァルド様だけが例外だ。アリア一筋でマーガレットになびく様子が全くない。

アリアが頼むと、少しだけアリアのためにマーガレットの相手をする感じ。


マーガレットが、

「どうして上手く行かないの」

と嘆くようになった。

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