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跡取り息子の付き人は優秀なはず

ブルドンは真面目な顔をアリアに向けた。

「アリア様、あのさ、私はデータ、しかも他人がまとめたデータを少し見ただけなんだ。だからどこまで覚えているか・・・勿論アリア様と情報共有して、相談しなくちゃいけないと思う。だけどその前に、私はまず、自分が覚えている情報を書き出してまとめたい。その資料ができたら、きちんと話す機会を持ちたい。どうだろう」

「データ・・・ゲームを作った人ですの?」


「ううん。違うんだ。それも資料説明時に話したいと思う。私はまだ14歳、ということを考えると、結末を迎えるまでにあと4年。もちろんすぐに情報をまとめ始めるけれど、だからって今日明日中に決めないといけないほどの事態ではないと思うんだ。アリア様と私が殺されるのは、4年以上先になるから」

「・・・」


ブルドンの提案にアリアは悲しくなってきた。殺されるのが確定のように言われたからだ。

すごく落ち込んでくる。下手したら泣きそう。4年後死ぬってもうすぐだと思いませんか!?


「アリア様? どうかな?」

ブルドンが少し顔を覗き込んでくる。

アリアは小さく、この世界へ文句を零した。

「庶民になるなら良いって思ってましたのに・・・」


「庶民かぁ・・・」

言葉を丁寧に拾ってくれたブルドンは、落ち込むアリアに少し黙り、静かにこう零した。

「私は、その話は知らないなぁ・・・」


えっ!

アリアは顔を上げた。ブルドンが急なその動きに驚いた。

顔が近かった。ブルドンが慌てた! ブルドンの首がピキッと変な音を出した。

「痛ぁっ!」

「ブルドン様!」

部屋の隅に控えていたはずの彼の付き人が慌てて駆け寄ってきた。

超早い。


「ご無理をなさいませんように。先ほど目を覚まされたばかりなのですよ。自重なさってください」

「大げさだよ。ちょっと身体が固まってたみたいで、音が鳴っただけだから」

「ですから申し上げたのです。ご自覚をお持ちください」

「分かったって、悪かったよ」


ブルドンと付き人が言い合っている。いや、ブルドンが言い負かされている。

ブルドンの付き人は丁寧口調だが、どこか高圧的で事務的だ。

おっとりしたブルドンと対照的。


アリアには、できる侍女ケーテルがつけられたと同じに、のんびりしたブルドンに、キビキビしたこの人が付けられたのかも。


あれ? 昔はお爺さんが付き人だった。


「ブルドンお兄様の付き人、新しく交代されたのですね?」

「ん? あぁ、うん。先月、私の補佐にって。前のハンスは年を取ったから私の補佐からは外れたんだ。色々と出掛けるけれど、体力面でついていくのが辛くなったって」

「そうでしたの」

「アリア様の付き人も変わったんだね」

「えぇ。ケーテルと言って、とても優秀な侍女ですの。ケーテル、ブルドン様にご挨拶を」


部屋の隅に控えたままだったケーテルがこちらにきて、ブルドンに向けて礼をとった。


「うん。ダンテ、きみもアリア様にご挨拶を。テスカットラ家はジェイク様の家でもあるから、今後も頻繁に交流する」


ダンテと呼ばれたブルドンの付き人がアリアに向けて礼を取ってきたので、アリアも会釈をした。


「恐れながら、ブルドン様。お話の方は落ち着かれましたか。恐らく皆様がお二人の会話を心配してお待ちになっておられます」

と挨拶が終わったダンテが、全く恐れていない感じでブルドンに告げる。


「そうだね。アリア様。じゃあ、私がアリア様に失礼なことを言い、詫びたという事に。そうだなぁ、悪夢を見て、私が夢と現実を勘違いして、アリア様に『私のパンを食べたな!』と怒ったことに」

「パンですか?」

アリアは驚く。もうちょっとマシな言い訳は・・・。


「・・・せめて、『舞踏会のファーストダンスを約束していたのに違う男と躍った、とアリア様に怒ってしまった』、というような言い訳に変えられては」

とブルドンの付き人ダンテが苦言を呈した。

「えー」

「パンのままでは、ブルドンお兄様が食いしん坊キャラになってしまいますわ・・・」

アリアも心配したのでダンテ案を推した。『ファーストダンスの約束を破られて激怒』の方が聞かされた方も納得できる。たぶん。


「私的にはそちらの方が恥ずかしいんだけど」

「パンはどうかと思います。パンをとられて激怒する悪夢って、幼児ではないのですから。一度お目覚めになられたブルドン様は、人が変わったかのように恐ろしく真剣なお顔でした。それが、パンの横取りに対する怒りだったなどと、心底恥じ入るべきです。かりそめの言い訳だとしても」

不満を表すブルドンに、ダンテが、少し怒っているように感じさせる冷たい態度で告げる。


「・・・アリア様もダンスが良いの?」

情けない顔でブルドンがアリアに尋ねてきたので、アリアも少し動揺しつつ、肯定した。

「はい・・・その方がブルドンお兄様のためにも良いかと思いますわ」

「分かった」

残念そうにブルドンは受け入れ、ため息を零した。


「なら、私は、『アリア様にファーストダンスを踊っていただける栄誉を取り付けていたのに、違う男と躍った』などという悪夢を見てしまい、悪夢と現実を混乱してアリア様に怒ってしまった。それを今の時間で詫び、アリア様は、私の体調不良ゆえ、と快く許してくださった・・・ということで良いかな」

「はい。許して差し上げますわ、ブルドンお兄様」

「ありがとう」

アリアとブルドンで微笑み合う。元々のんびり者同士で気が合うのだ。それでなければ、いくら従兄弟でも頻繁に会わない。


「では、皆様をお呼びしても宜しいでしょうか」

ダンテが尋ねてくる。

せっかちだなぁ、とアリアは思ったが、ブルドンの付き人はこういうタイプが良いのかもしれない。


「待ってください、ブルドンお兄様。次はいつお会いできますか?」

話が終わるとなると不安になって、アリアは尋ねた。

ブルドンがじっとアリアを見てから、顔をほころばせた。

「数日欲しい。身体の回復も必要だからね。・・・そうだな、5日後に会おう」

「約束ですよ」

「うん。じゃあ、それを仲直りの証としてアリア様に約束したという事に」

「はい! そうしましょう」


「ブルドン様。アリア様はこの国イツィエンカの第二王子エドヴァルド様のご婚約者ですよ」

仲良くしているところに、冷たい声がダンテから発せられて驚いた。

ブルドンも不快になったようだ。

「ダンテ。いくらなんでも失礼だ。私にではなくアリア様に対してその態度は何だ」


「・・・失礼いたしました」

叱られて、すぐにダンテが礼をアリアたちに向ける。


「ごめんね、私にどうしても厳しくて。驚かせたね。母上が気に入ったほど、少なくとも女性には本来優しいのだけど」

「・・・」

返答に困るフォローをブルドンがするので、アリアは眉を下げて困っている事を伝えるしかなかった。


「それでも、ダンテはとても優秀な付き人なんだよ」

フォローするブルドンは、とても優しい人だとアリアは思った。


***


その後、アリアとブルドンの話のために別室に行っていた皆が戻ってきた。


作り話であるが、ブルドンの悪夢を聞いて、皆が呆れたり笑ったり。アリアには、災難だったね、といたわりの言葉を貰った。

5日後の仲直りのお茶会についても了承を貰えたので良かったと思う。


なお、ブルドンは念のため、もう1泊してから自分の家に帰る事になった。今日、やっと目が覚めたばかりだからだ。

ブルドンの母親は、ブルドンが回復したことを知らせるためにも、先に帰ることになった。


***


ブルドンの母親のお見送りの時にはアリアも参加して、今日はこれでもう自室で休むだけ、という時になって、アリアはケーテルの機嫌が悪い事に気が付いた。

疲れてしまったのだろうか。


「ケーテル、大丈夫?」

「はい」

アリアが尋ねると、不思議そうにしながらもそう答える。


「何か嫌なことがあった? 疲れたなら、他の人と交代してくれて良いわよ? あ、その方が休めるかなって思って、言っているのよ」

「・・・」

ケーテルはアリアの言葉を聞いてから、目を細めて少し笑んだ。

少し機嫌が回復したようだ。


「いいえ、アリアお嬢様。大丈夫ですわ」


その返答の様子に、これ以上は言わないでおこうかな、とアリアは判断した。

それで少し無言になったアリアに対して、ケーテルの方が事情を説明する気分になったようだ。


「・・・ブルドン様の付き人の態度に、腹が立っていたのですわ」

「まぁ」

アリアは驚いたが、とはいえ確かに、よくあれで名家の跡取りの付き人に選ばれたなぁ、と思える不遜ふそんさがあった。

そんな付き人ダンテは、ケーテルの心象もかなり損ねていたらしい。


「実は私ね、ブルドンお兄様が、付き人のダンテについて謝罪させた上で、フォローもしたでしょ。ブルドンお兄様って優しい人だなって、見直してしまったの」

「そうですわね」

ケーテルの気持ちも明るくなってきたようだ。言葉は短かったが、表情がにこやかになり、『本当に』と肯定しているようにみえる。


「アリアお嬢様も可愛らしくお優しい方ですが、ブルドン様も、お優しい方でいらっしゃいますね。お二人には共通したものを感じますわ」

「・・・そう」

共通と言えば、2人とも前世を思い出した者同士、とアリアは別の事も思ったので返事が少し曖昧になった。

それをケーテルは勘違いしたらしい。


「本当のことですわ。お二人とも憧れます」

「・・・恥ずかしいわ。でも、ありがとう、ケーテル」

「本当のことですもの」

どうしてだか、とてもしみじみとした言葉に思えた。ケーテルは穏やかに笑んでいた。


***


ブルドンは翌日、さらに回復し、無事に自宅へと帰って行った。

父は仕事、兄は友人たちにブルドン回復を知らせるためにも学園に行ったので、母とアリアがお見送りをした。

4日後になったお茶会を念押しするアリアに、ブルドンは、

「絶対に忘れません、大丈夫」

と答えたので、あとは早くと願いながら当日を待つばかりだ。


その翌々日。急だけれど、婚約者のエドヴァルド様が来てくださった。

ブルドンの回復を聞いて、アリアの様子も知りたいし、一緒に回復を喜びたいと思ったそうだ。やっぱり優しい人である。


天気も良かったので庭園散策もした。

花を見るつもりが、空に浮かぶ雲についての話を教えてもらった。面白かった。エドヴァルド様は物知りだ。

素直に驚きのまま褒めたら物凄く照れておられた。自分を好きでおられることが物凄く分かるので、アリアに罪悪感が湧いてくる。距離を取っておくべき気がする、でも今は婚約者でもある。どうしよう。

あ、でも結局ヒロインに行ってしまうから、気にしなくて良いんだった。


そしてさらに翌々日。

ブルドンとの約束の日がやってきた。

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