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関係性を変えれば良いはず

「押し付けるな」

傍のダンテがまた苛立っている。

ブルドンとケーテルはどこか不思議そうに話を聞いている。


「アリア様は学園に通えるだけ通っておかれるべきだ」

「どうしてですぅ?」

「逃げてしまえば、二度と戻れない」

「・・・そう。だけどぉ」

ダンテとマーガレットの会話になっている。


「あの、私も、その、16歳になるまでは、通っていようと、思いますの・・・」

とアリアも言った。

マーガレットが不思議そうにする。

「え、どうしてですか? あと2年もあるじゃないですかぁ!」

「えぇ」

「あと2年も、アリア様は、好きでもないのに、婚約者ですよ? ダンテさんの気持ちも変わっちゃうかも」

「・・・」


そう言われると動揺する。確かに。

その場合、アリアは一人で逃亡者に・・・。

え。じゃあ、ダンテが協力を申し出てくれている今の方が良いのだろうか。


「無視で良いです、アリア様」

ダンテの眉間に縦ジワが寄っている。

「余程の問題が無ければ大丈夫、信頼してください」

「ありがとう・・・」

とアリアが答えると、ダンテの表情が柔らかくなる。


「ブルドン様。アリア様のために少しでも長くいた方がいいと思っています。ブルドン様のお考えはいかがですか」

ダンテに話を振られたブルドンは、真剣な顔でマーガレットを見つめていた。少し考える。

「2年待つメリットって事か」

と呟いた。


少し目を閉じたブルドンは、しかし一瞬の後にまた目を開けてこう言った。

「どう考えても、マーガレット嬢のためにも、長くこのままの方が良い。16歳というのは単純な目安だけれどね。マーガレット嬢にとっても、傍でアリア様がいる方が都合がいいはずだ。エドヴァルド様との事も協力してもらえる上に、アリア様から貴族令嬢としての教養を教えてもらえるのだから」


マーガレットが瞬きしてブルドンに注目している。


「この国の第二王子様の妃になるということは、それだけのものを身につけているべきだし、そうでなければ後で苦労するよ。マーガレット嬢だって順調に暮らしていきたいはずだ」

ブルドンがまるで教師のような雰囲気だ。


「アリア様の事情はどこまで知っているのかな。アリア様と私には、知っている未来というものがあって、アリア様は小さい頃に、エドヴァルド様とは婚約しても結婚できない運命だと知った。だからこそアプローチを受け続けてもなお、エドヴァルド様に恋をせず今がある。結婚できないとアリア様が知っていたせいだ。だから、マーガレット嬢はその意味では安心すると良い。それで、マーガレット嬢もアリア様に協力して欲しい。アリア様から色々必要な事を教えてもらう代わりに、アリア様が例えば庶民となっても生きて行けるように、協力してあげてほしい」


「・・・私、エドヴァルド様の事が、本当に素敵で、アリア様がおられても諦められなくって」

とマーガレットが真面目に答える。

「不安なんです。エドヴァルド様の傍にアリア様がいるだけで、私は見てももらえません」


「アリア様が正気になったからアリア様が協力してくれる。アリア様、マーガレット嬢をエドヴァルド様の傍に押し付けるようにした方が良いよ。アリア様の代わりに」

「確かに、あのエドヴァルド王子は、状況などが揃えば好きでもない相手でも無碍むげにできない性格ですね」

ダンテが失礼な発言をする。


「エドヴァルド様には申し訳ないし、同情もする。だけど私たちはアリア様が大事で特別に思っている。エドヴァルド様の気持ちよりも、アリア様が生きていける方を優先する。私たちは、エドヴァルド様にとってその意味で悪役だ」

とブルドンは言った。皆がじっと聞く。


アリアはマーガレットに確認した。

「私は、学園では、可能な限りエドヴァルド様から離れて、ケーテルの傍に行きます。それから、マーガレットさんにマナーや覚えるべき事をお教えします。その協力で宜しいでしょうか?」


マーガレットが少し考えた。

「もっと、エドヴァルド様に嫌われてください」

「はい」


「止めてください」

ため息をついたのはダンテだ。

「何をやっても、もう逆効果になりそうだ。止めた方が良い」

しみじみとしている。


「そうだね」

とブルドンも頷く。

「あれほど好きなんだから、本当に非があってもアリア様を見捨てないよ。エドヴァルド様なら優しく注意して行動を改めさせようとする。それに、今まで大人しい人形だったから、急に嫌がらせを始めたら、周囲が変なことを吹き込んだんだ、と考えるよ普通。それから、ダンテも厳重に注意してほしい。エドヴァルド様に目をつけられたら、ダンテはここにいられなくなる。私の付き人だから、私に助けられないようにするはずだ。私も有能な片腕を失うのは嫌だ。マーガレット嬢、絶対にアリア様とダンテが恋人だとかエドヴァルド様に言わないで欲しい」


ブルドンの言葉に、マーガレットが不満そうだ。

一方のダンテは、ブルドンの言葉に胸を打たれたようになった。感動している。片腕と言ってもらったからだろう。


「マーガレットさん。できることで、お望みの事は何だって致しますわ」

とアリアは申し出た。

「じゃあ」

とマーガレットが言いかけるのを、ケーテルが止めた。

「駆け落ちは止めてください。間違いなく探されて戻されるはずです。悪化しかありませんわ」


「2年後だって同じじゃない?」

「いや。2年後なら、関係性を変えておける。つまり、逃げた人間に愛想をつかして、残って傍にいてくれる人を大事にするところまで。アリア様を惜しみながらも、マーガレット嬢に救いと癒しをエドヴァルド様が見出す関係なら、成功だ」


***


話は一旦まとまった。

マーガレットは、どうやらブルドンに一目置いていて、ブルドンの言葉は受け入れるようだ。


とにかく、アリアは4ヵ月の事情を知ることができた。

これから、母親にも注意しなければ。


例の腕輪はブルドンに処分を頼んだ。どのように使ってくれても構わない。厳重に封印しておこうかな、とブルドンは言っている。

エドヴァルド様に使ってマーガレットに恋をさせれば、という考えがチラッとアリアに浮かび、ふとそんな発言も出かけたが、途中で消えた。人道に反している。

アリアが思いついたぐらいだ、マーガレットも思いつきそう。なのに言わないのは、マーガレットもその状態を望んでいないということだろう。


あと2年。正確には1年半ほど学園に行く。

アリアとマーガレットで双方協力する。


なお、失った時間分の勉強はダンテが見てくれるそうだ。

ダンテはブルドンの付き人で授業自体には出てもう3年目だ。初期の4ヵ月の事ならば大丈夫だからと言ってくれた。有難い。


ちなみにこの4ヵ月の間に、試験代わりの論文提出もあったらしい。

アリアは、エドヴァルド様に教えられる形で、エドヴァルド様の意見を書いて無事合格したそうだ。


うーん。過去の自分が微妙すぎるが仕方ない。


***


さて。正気を取り戻した翌日。

エドヴァルド様が馬車で迎えに来た。アリアは驚いた。きっと毎日こうだったのだ。


とりあえず今日のところは大人しく従いつつ、馬車の中でアリアは考えを巡らせた。


「乗馬の練習をもっとしたくなったので、明日から、一人で馬で通っても宜しいでしょうか?」

アリアは、貴族令嬢としてアウトな発言を試してみた。


「馬で? どうして」

「素敵だなって、思いましたの・・・」

自分でもどうかと思う。

アリアが言いづらそうにするのを見て、エドヴァルド様が真意をつかみ損ねている。当然だ。


「駄目、でしょうか・・・?」

これで許されるなら相当甘やかされている。

「・・・分かった」

エドヴァルド様が少し寂しそうにしながらも笑ったので驚いた。まさか分かってもらえるとは。


「だけど毎日は僕が寂しい。せめて2日のちに1度にしてもらえないかな」

「・・・あ。ありがとうございます」

アリアは驚きを新たに、エドヴァルド様を見つめる。

「では御礼に、馬車では手を握らせて」

「え、あ」

躊躇ためらううちに手を取られて握られた。嬉しそうに笑まれてしまう。

アリアは困惑を表情に出さないように努めなければならなかった。不自然に思われないようにと、少し微笑みを返してみる。


だけど。アリアは焦っていた。

不味い。これはいけない。以前よりもっとエドヴァルド様がアリアの事を好きな気がする。


どうして自分はエドヴァルド様に恋をしないのか。

そう疑問になるほど、エドヴァルド様が良い人だ。


だけど、アリアはエドヴァルド様に罪悪感しか持てない。

どうやって回避しようかとしか。


憂鬱になりそう。


やっぱり婚約解消をもう一度・・・。だめだ、また洗脳されたり監禁されたりしそう。


アリアは母の事を考えた。

きっと母は、アリアの動きが表面的だと見抜いていたのだ。だからこそ腕輪をアリアにつけた。


母もあれを使われて結婚したのだろうか。

だから、アリアにもあれを渡したのだろうか。その方がアリアのためだと信じて。


でも、だからといってアリアも同じ道を通りたくない。

いくら貴族令嬢としてそちらが相応しくても。


あぁ、もうエドヴァルド様との今の約束を破って、毎日馬で学園に行ってしまう?


・・・さすがに問題になりそう。変な対策を取られる方が困る。


どうしよう。

マーガレットの言う通り、今すぐ駆け落ちするべき?

だけど。

エドヴァルド様も父たちも絶対アリアを探し出しそう。


死ぬぐらいしか、逃れられない・・・。


アリアは首を横に振ってしまった。考えが混乱している。


「どうしたの?」

「え、いいえ。申し訳ありません。少し分からなくなったことを、思い出して」

「何かな」

「えっと・・・あの・・・」

アリアは言い淀む。

どういえば、と考えた時、昨日のマーガレットの下着発言を思い出した。

マーガレットはすごい。下手に追及されない話題選びが上手い。


「それが、あの。昨日のマーガレットさんの、お買い物で・・・」

「あ、あぁ」

エドヴァルド様が少し瞬くようになり、少し気まずそうになる。


アリアは、侍女に下着の購入先を聞くのを忘れたことも思いだした。マーガレットに約束したが。

「私には分からないことがあって、家に確認してまたお付き合いするお約束を、したのですが、家への確認を忘れてしまいましたの・・・」

そう説明してみると、エドヴァルド様が苦笑した。


「マーガレット嬢に怒られたら僕に言って。とりなしてあげるよ」

「大丈夫だと思いますが、お気持ちありがとうございます」

「どういたしまして」


エドヴァルド様がアリアを少しじっと見てから、嬉しそうに笑った。

「元気になってきたね。入学してからやっぱり緊張していたのかな。とても可愛らしい様子だったけど、やっぱり元気な方がきみらしいよ」

「まぁ・・・」

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