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前世を思い出したはず

さてブルドンの家からブルドンの母親と付き人たちが駆け付け、ブルドンの傍についた。


アリアの母も交代を申し出た。

アリアも気になってお見舞いに何度も足を運ぶ。


やはりブルドンは眠ったままだ。汗が酷い様子で、ブルドンの付き人が拭ってやっている。

なお、朦朧もうろうとした状態なら少し起こすことはできて、スープを摂取させているらしい。


アリアはブルドンの付き人が気になった。あの話が聞こえていたかな、と気になるから。

ちなみに付き人に疲れは見えない。

普通、他家で主人が倒れたらもっと疲れて良そうなのに。とはいえ顔に出ないタイプかも。


なおブルドンの母親が連れてきた付き人たちは、母親自身のサポートに見える。


「お母様、ブルドンお兄様の付き人の方、お疲れかもしれません。休憩を入れた方が良いのじゃないでしょうか?」

「まぁ」

アリアの母でなく、ブルドンの母が感激して声を上げた。

「なんて優しい淑女に成長しているのでしょう、アリア様。けれど大丈夫ですわ、彼はブルドンの世話をするためにそこにいるのだから。主人が大変な時などに休めないものよ」


えー、そうかなぁ。絶対疲れるし休みたいよー。

と、前世で仕事で疲れまくったアリアは思ったが、所詮、今は12歳の小娘だ。

しかも他家の使用人の扱いの事。


「本当に、なんてお優しいのでしょう。さすが第二王子エドヴァルド様の婚約者でいらっしゃるわ。ご立派ですわ」

ブルドン母が褒め称えてくれる。


困ったなぁ。ここまで言われたら、アリアにはもう口を出せない。


その後、少しアリアの母とブルドンの母の会話を大人しく聞いて、ブルドンには変わりがない事を見てから、アリアは退出することにした。


アリアも一応貴族令嬢なので、この後の時間、歴史の授業の予定なのだ。

嫌だけど、庶民もある程度歴史は知っているかもしれないから、一応聞いておかなきゃ、と己に言い聞かせている。


退出し、お勉強の部屋に向かう途中で、アリアは後ろをついてくる侍女ケーテルに声をかけた。

「ブルドンお兄様の付き人の人、大丈夫かしら」

「・・・『大丈夫かしら』とはもう少し具体的に、どのような事をおっしゃっておられますでしょう?」


なおケーテルは、アリアと2人きりになると、『お友達約束』が発動してもう少し気軽に接してくれるが、それ以外では変わらない。


「ブルドンお兄様が倒れられて、今日で3日目に入ったわ。ブルドンお兄様の付き人の人、その間ずーっと、他の家の屋敷で、倒れて寝込む主人にずーっと仕えているでしょ」

「あの者が疲れているか、ご心配なのでしょうか?」

「えぇ」

「・・・大丈夫な様子に見えましたが、疲れている可能性はございますわね」

「働きづめは良くないのよ」

「アリアお嬢様は、私にもよく息抜きのお茶やお菓子をくださいますものね」

ケーテルの声が和らいだ。


「そうでしょう。・・・ねぇ、あの人の食事の時、ちょっとお菓子か飲み物か、サービスしてあげてって、伝えてきて」

「かしこまりました」


アリアが後ろに続くケーテルを振り返り見上げると、ケーテルがニコニコ笑んでいるので、アリアも安心だ。任せたからもう大丈夫なはず!


さて。ここからはお勉強の時間である。

仕方ない。

アリアは己に言い聞かせて、開けられた扉を通り入室した。


***


終わった・・・授業時間が。


歴史要素の全くなかった乙女ゲームの中にも歴史あり。

前世がある分、もう知らない世界の歴史どうでも良い、そう何度も思っちゃうけど、今はこの世界の住人なのでそういうわけにもいかない。


のんびり動き始めた時だ。

傍仕えのケーテルではない侍女が入室してきた。そしてアリアに声をかけた。


「アリアお嬢様、ブルドン様の目が覚めましたわ」

「えっ!! 行く、お見舞いにすぐ行くわ!」


貴族令嬢らしくなくバタバタした様子に歴史の先生は苦い顔をしたが、先生も事情を知っている一人なので、許してくれた。


***


はやる気持ちを抑えつつ、ブルドンのいる部屋に入室する。

アリアへの知らせは、勉強中ということで遅かったのだろう。すでに他の家族が揃っていた。

囲まれているブルドンはベッドに身を起こして穏やかに笑んでいる。

ホッとした。無事そうでよかった。


「ブルドンお兄様」

声をかけて近寄っていくと、ブルドンも気が付いて、にこり、と笑った。

「アリア様。心配をおかけしました」

いつも通りの様子に見える。


家族が来たばかりのアリアに場所を譲って開けてくれたので、アリアは、ブルドンの母親の隣に行くことができた。


「本当に、もう大丈夫でいらっしゃいますの?」

「うん。大丈夫だよ。でもびっくりだよ、ずっと寝込んでたなんて」

あはは、と照れくさそうに笑うブルドンだが、あれ、とアリアは思った。


「ブルドンお兄様、その、あの」

「え? どうしたのかな、アリア様。・・・あ、そうか、私をすごく心配してくれてたんだよね。見て、もう起きたよ。大丈夫だよ」


変だ。アリアはブルドンを見つめた。

あの時、『俺』と自分の事を言ったブルドンが、『私』に戻っている。言葉遣いも丁寧だ。あの時の混乱した様子の欠片が無い。


「あの、ブルドンお兄様、私、一度目を覚まされた時にお話していただいて、気になって、それで」

まさかあの一瞬だけで、また元に戻った?

焦りを覚えたアリアは早口で縋るようにブルドンに訴える。


ブルドンはじっとアリアを見つめてから、ゆっくりした動作で少し首を傾げて、

「うーん」

と言った。


「んー。心配、かけたよね」

視線をアリアに戻したブルドンは、いつもと同じようにヘラッと柔らかく笑った。


アリアは脳内で悲鳴を上げた。

嘘ー!!! 忘れてるー!!


「ブ、ブルドンお兄様、私、わたし・・・」

ワナワナと震えてきたアリアは手を伸ばし、ブルドンの服の袖をギュッと握りしめた。


他の家族がアリアの様子を心配して見守っている。

家族はアリアが、真剣な様子のブルドンに秘密の話を告げられたことを知っている。ブルドンが混乱していてアリアにもよく分からなかった、という事も。


どうしよう。ブルドンに覚えているのか尋ねなくては。

けれどどう言い出せば良いだろう。今はブルドンの母親もここにいる。


アリアが何か言おうとしている様子を、ブルドンたちがじっと見ている。


「私はきっと、アリア様にものすごく心配かけたんだよね。そうだよね、目の前で倒れたのを覚えているし」

困って笑いながらブルドンが言った。

「あれ、夢じゃなかったのかなぁ、私がちょっと混乱してアリア様に話しようとして、それでまた倒れちゃったんだけど、あれ、私、本当だったのかな。夢の1つかと思ったけど、違う?」

「何の話かしら、ブルドン?」

ブルドンの母が心配して声をかけた。


アリアの父が、こちらを代表してブルドンの母に教えた。

「ブルドンは倒れた日に一度しっかり起きたが、その時必死の形相でアリアと2人で話がしたいと言ってきた。それを許したのは私だ。とはいえ、アリアに聞いたところ、ブルドンは混乱しており、アリアも話の内容が良く分からなかったようなんだ。アリアはそれ以来気になっているのだろう。なぁ、アリア」

「は、はい! その通りですわ、お父様!」

アリアはコクコクと頷いた。

そうです、気になっているのです。

そしてブルドンお兄様、夢じゃないですよ、本当ですよ!


必死の訴えの眼差しでアリアはブルドンをじっと見つめる。

ブルドンは、己の失敗を恥じるように自分の口を片手で覆い、視線を泳がせて、顔を赤らめた。

「申し訳ない、ことを・・・」

と詫びてきた。


「お、お話! お話をさせてください! 2人で!」

アリアは一生懸命訴えた。


ブルドンは赤い顔して目を閉じて呻き、口から片手を外して、頷いた。

「あー、うん。私の失態だ。申し訳ありません、謝罪のためにも、アリア様とお話させていただけませんか。その、私はおかしな夢を見て、アリア様にその勢いのまま話して怖がらせてしまったはずです。私に仲直りと謝罪の時間をいただきたいのです」


「お父様、伯母様、お願いします」

アリアも一生懸命頼んだので、大人たちは折れてくれた。

ブルドンの母も別室に移動してくれて、また話ができるようになった。


***


「改めまして。ごめんね、アリア様。心配かけたけど、私はこの通り無事に回復したからね」

「良かったです。それで、急かせてしまいますけれど、気になっていたのです。私が暗殺されると、ブルドンお兄様はおっしゃったのですわ。詳しくをお聞かせいただきたいのです」


「あー。思ったんだけど、本当にごめんね。それ、私はアリア様じゃなくて、叔父様に言うべきだったんだ」

ブルドンが頭を下げてくる。


確かにそれは正しい手段だ。

だけど。


アリアは端に控えさせたケーテルと、ブルドンの使用人をチラと見て、ブルドンに近づき声を潜めた。

「ブルドンお兄様と私は、未来が見える才能に目覚めたと、私の侍女には説明いたしましたの。あなたも転生者ですね? 私も日本人でしたわ」

「!」

ブルドンが驚き目を見開いた。


アリアは続けた。

「私は、庶民ルートしか知りません。3回しかクリアしておりません。私に関する事を、教えていただきたいのです。どうかお願いいたします」


ブルドンは黙ったままだったが、その表情から確信できた。

この人は、思い出した前世を忘れてなどいない。『思い出す前』のまま過ごそうとしたのだ。


ひょっとして、アリアとは違って、ブルドンの場合は、前世よりもブルドン自身の意識が強いのか。

そうか、そうしたら『私』に戻ったのは自然だ。


ブルドンは口を開いた。そっと尋ねてきた。

「アリア様も、転生者で良いんだよね」

「えぇ」


「分かった」

ブルドンはゆっくり頷いた。


「私は、暗殺されてしまうの?」

「うん。知っているだけで14パターンある」


あまりの多さにアリアはショックで動きを止めた。


「その場合、私も死ぬ。私はきみの悪事の手先でさ。チョロイんだよねきっと」

「・・・」

少し遠い目になったブルドンに、アリアの動揺は止まらない。

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