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ばらばらのはず

本当に監禁状態だった。

3日間、食事は部屋に運ばれてきた。お手洗いや入浴などは部屋の外に出るが。

侍女は部屋の外に待機で、部屋の中ではアリア一人きりだ。

一方で勉強の時間がビッシリ入れられてしまった。なお、その時は勉強の部屋に移動する。


ケーテルがいない。尋ねても誰も答えてくれない。

使用人は気まずそうに顔を伏せる。


3日目の晩に、兄が心配してアリアの部屋を訪れた。

しかし、中に入れないらしい。扉越しで会話した。


どうやら、アリアが『反省した』と言わない限り、父の怒りは解けないらしい。

残念ながら言う気はない。

なぜなら、その『反省』には、エドヴァルド様との婚約解消を希望する発言の撤回も含まれているからだ。


5日目。

朝食時、アリアは食堂に呼ばれた。

久しぶりに家族と一緒の食事になった。

時間が経ったので、父が対応を柔らかくしてきたのかもしれない。


一緒になった父に、アリアは訴えた。ケーテルを傍につけて欲しい、ケーテルはどこなのか、と。


解雇した、と父は答えた。

ケーテルが傍にいたからアリアがこんなに甘やかされて我儘になったのだ、と。


アリアは驚き、父に詰め寄った。

その結果、昼からまたアリアは部屋での食事になった。


6日目。エドヴァルド様から手紙が来た。

兄に状況を聞いているらしい。

『会いたいけれど、親子喧嘩の最中で今は止めるようにジェイクに止められてしまった、きみの事が心配だ』という内容と、花束だった。

外の世界に触れられないアリアは、可愛らしくまとめられた花束に思いっきり慰められた。


夕方、また家族と一緒に食堂での食事になった。

アリアは、町のアリアの庶民の家をどうしたのか、父に尋ねた。


処分した、と言われた。

アリアは戦慄わなないた。


酷い、と呟いたので、父がまた不機嫌になった。


そして、翌日からまたアリアだけ部屋で食事になった。


酷すぎる。

心が折れる。

せめて庭の散歩をさせて。


一方で、アリアの心配事は膨れ上がっていく。

次はとにかく、町の子どもの無料食の資金について確認しなければ、とアリアは思った。


10日目の朝、また家族の食事にアリアも呼ばれた。

アリアはめげずに、父に、無料食の費用について尋ねた。


「家から、アリアの名義で費用は出している。安心しろ。あれはお前の町遊びの利点だ」

「ありがとうございます・・・」


意外な返事にアリアは驚き、御礼を口にした。

すると父の機嫌は回復したようだ。

「それそろエドヴァルド様とお会いしてはどうだ。エドヴァルド様となら、外に遊びに行ってもいいんだぞ」

「・・・」


食事も終わり、部屋に戻ったアリアは分が悪いのを感じた。

父はアリアに不便を強いて、エドヴァルド様を頼るようにしているのか。

そして、兄はアリアを少し不憫に思っているようだが、母は完全に父の味方である。


「どうしよう・・・」

ケーテルも解雇された。

町には行けない。

どうせ、手紙を出してもこの状態なら中を確認されるだろう、ブルドンに連絡する手段がない。


何も、知らない方が良かったのだろうか。とアリアは思った。

そうしたら、父を怒らせることも無く、きっと恵まれた貴族令嬢として過ごして、学園にも通って、それで・・・突然殺されるか、ヒロインにエドヴァルド様を奪われて庶民化。


・・・いやー、それは嫌だなぁやっぱり。

とアリアは思った


どうしよう。

脱走しかない?


でも、とアリアは窓に近寄って外を眺めた。


抜け出し方が分からない。

貴族令嬢で、あまり運動もしてきていない。この6階にある部屋からの脱出方法が分からない。


・・・これ、未来、暗殺から逃げる際に備えて、筋トレするべきなんじゃないのか。

いや、それはするとして、とにかく今のこの危機はどうすれば。

反省する振りで普通に過ごすべきなのだろうか。


「・・・」


嫌だ、どうしよう。


***


夜、仕方なく就寝しようとしていた頃だ。

コツン、と窓から音がした、気がした。


気になって凝視する。

フワッとカーテンが揺れた。


「ひっ」

アリアは短い悲鳴を上げたが、慌てて声を飲み込んだ。

以前もあったぞ、と思い出したのだ。


「誰」

と短く聞いてみる。

「俺です」

と小さく答えがあった。


ダンテだ!


アリアは急いで窓に近づいた。


「ダンテ!」

「しーっ・・・」


声を抑えながらも、現れたダンテはアリアの姿を見て少し肩の力を抜いた。

「元気ですか」

とダンテが聞いた。

「お父様に監禁されているの」


ダンテが抑えながらため息をついた。

「・・・お土産、持ってきました」

胸元を探ったと思ったら、小さな包みを取り出した。

「ケーテルが焼いたクッキーです」


アリアは両手で受け取って、見つめた。

「ケーテル、解雇したって・・・」

「えぇ。こちらもあなたの状況が掴めなくて心配しました」

「家も、売ったって」

「そのようです。鍵も変えられてしまいました」


「ダンテ、あなたの人形と、貰った月水晶が」

「・・・宝石は、とっさに。持ってきました」

「ううん。ダンテが持っていて」

「・・・」

「この部屋も安全じゃないかもしれない。大事だから、ダンテが持っていて」

「分かりました」

「ダンテの人形は」

「あれは、とっさに持ち出すには大きいから」


ダンテが優しく言い聞かせてきた。

アリアは動揺した。


「嘘。ごめんなさい。売られてしまったの? 取り返して」

「良いんですよ。構いません。それより、アリア様、取り戻したいものは?」

「ダンテのくれた月水晶」

「それはある。他は? ティーカップは1つ、買い戻した」

「そんなの良いのに。ダンテの人形は?」

「あれは、もう良いんです。大丈夫。それより、他に取り戻したいものを教えてください。できる範囲で買ってきます」


アリアはダンテを見つめた。


「他は、代わりがあるものばかりだもの」

「そうですか? 全てあなたのお気に入りだった」

「・・・そうだけど」

「すみません。俺が、もっと早く動いていれば良かったのに」


ダンテが俯いたのを、アリアは驚いた。


「あの時、俺もいれば、まだ止められたかもしれない。出かけたことを、後悔している」

「嘘」


アリアは思わずダンテに詰め寄り、手を取った。

ダンテが驚いたように顔を上げた。


「嘘、どうして、ダンテが気に病む事じゃないわ」

「でもあなたは町に来れなくなって、動けなくなった。大事にしていたものを全部、売り払われた」

「えぇ。お父様が酷いの。でも、怒るのは当然だわ、私が浅はかなのよ。馬鹿だから」

「だけど、本当に、あの時、俺が違う行動をしていたら・・・」


アリアはダンテの手をギュッと握った。

恐ろしいと思った。

アリアが動けずにいた10日間、ダンテたちはアリアを心配し、そればかりか、ダンテは自分を責めている。


「お願い、ダンテ。今、助けて。あの時は過去でもう過ぎたの。今、助けて」

「・・・今」

「今」

「望みは何ですか」


ダンテの言葉に、アリアは少し胸を突かれた気分になって、じっと見つめてしまった。


「どうしました」

小声のまま、ダンテがじっと見つめて聞いてくる。

ふふ、とアリアはこんな時だけれど小さく笑ってしまった。

「まるで魔法の精霊みたいなことを言うのだもの」

「・・・」

ダンテが無言でアリアを見てから、自分をおかしく思ったのか、ダンテも小さく笑みを浮かべた。


「それで」

と促される。

「監禁されているの。私を、連れ出して」

「どこか行く当てでも?」

「逃げ出すの」

「・・・我慢してください」

と、ダンテが言った。腰をかがめて、アリアに目線を合わせてくる。


「できる限り、これから会いに来ます。ブルドン様達も心配している。伝言や差し入れをお届けに来ます。どうか無事に過ごしてください」

「でも、部屋に閉じ込められて外に出してもらえないの」


「えぇ、ケーテルが町で、こちらの家の使用人を見つけては聞き込みして、状況はそれなりに掴めています」

「ケーテルも、ブルドンお兄様も無事?」

「勿論。とはいえ、皆がアリア様を心配している。町の人たちもだ。急にあなたが来なくなったし、無理やり馬車に乗せられたところを見た人も多い」

「・・・」


「ここを逃げ出してどこに行くというのです? 行く当てもないでしょう。また見つかって連れ戻されて、そうしたら部屋に閉じ込められるだけで済まなくなるかもしれません。どうか大人しく過ごして。買い戻したいものは教えてもらえたらできる限り買い戻す。差し入れもできる限り持ってくる。だから、ここで無事でいてください」

「・・・」

「こうやって会えるから、会いに来ますから」

「・・・えぇ」


「監禁を解いて貰える条件は分かっているのですか?」

「えぇ。お父様に、反省したって言えば許してくださるの」

「反省?」

「家出だけじゃなくて、婚約を解消したいって言ったこともよ」

「・・・婚約していた方が良いんですよ、きっと」

「・・・」


「家族と仲良く過ごしてください。それに、16歳で家族から離れなくてはならなくなるのでしょう?」

「・・・えぇ」

「だったら、貴重な時間を、大事に過ごした方が良いと思いませんか」

「そうなの?」

「そうですよ」


「ダンテは、本当に、私に会いに来てくれる?」

「・・・はい。毎日は、無理ですけど」

「えぇ」

「来るから、頑張って」


「えぇ。じゃあ、頑張るわ」


***


その日から、ほぼ毎日、ダンテが夜に侵入して来るようになった。

皆の様子を教えてくれる。町のお土産を持って来てくれる。

たまに、ダンテが持っている月水晶を見せてもらう。月の光を集めて綺麗だ。


時折、もう戻れない町のあの家が、無性に恋しくなる。


「もっと良い、見つからない家を作ればいいんですよ」

とダンテが言う。


アリアは具体的に考えてみた。

作る? 買う? 資金は?


両親たちにバレないように。ならば資金はテスカットラ家からは出せないのでは。

この状態では、外国になんていうのも無理。


家のような馬車なら?

それなら好きなところまで逃げて行ける。寝泊まりは馬車で。

気に入ったところに落ち着ける。


またはテントを持って行けばいい?


「今のうちに将来の逃亡計画を具体的に立ててはいかがですか」

とダンテが言った。

アリアは力づけられた。

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん、どうしてもアリアの自業自得にしか思えないですね…… お父様が激昂する理由も心情も痛いほどに伝わります。 エドヴァルド様の心中も考えると涙が出てきました。 誰も彼も不幸になっていくよう…
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