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世界は変えられるはず【他者視点】2

ケーテルは、アリア様とブルドンの暗殺に自分の集団が関わるのではと恐れたし、あり得る話だと思ったという。

ケーテルが仕事としてアリア様の傍を望むのは、恩返しもあるが、アリア様の身を酷く案じているから。ブルドンの話からも、まずアリア様が暗殺される。それを防ぎたいと考えているのだ。


まぁ、話が決まった後にブルドンも気づいたが、ブルドンとケーテルの結婚が円満に続くようにするためには、ケーテルがアリア様の傍で重宝されていた方が良い。アリア様の家、テスカットラ家にケーテルが庇護を受けている、繋がっていると周囲が分かるからだ。


さて、ケーテルを育てた集団から見ればケーテルは裏切り者に違いない。

しかしブルドンにここまで打ち明けてくれたのは、全て受け入れてもらった上で愛されたいとケーテルが願っているからだとブルドンには分かった。


可愛い妻をこんなに早く見つけて結婚できて、ブルドンはとても幸せだ。


一方、こんな世界で貴族として生まれた上に、前世を思い出したのだ、世界を変えてみたい。

これはブルドンの欲だ。


事業は上手く行く。貴族の資金とコネが使える。

学園は、貴族の子息令嬢が集う。売り込み相手がゴロゴロいる。


そしてケーテルと幸せに暮らす。


アリア様も幸せにいて欲しい。彼女にとって厳しい世界になるはずだ。


・・・ダンテはどう動くのだろう、とブルドンは思う。


極秘だから表情に出すことも誓ってしないが、ダンテもケーテルと同じ集団の一人だと聞いた。ケーテルはダンテに注意を払っている。

ダンテは王族に次ぐ、高位貴族だった。王族は恐らく全滅で、生き残りでは彼を含めた5人が最高位だという。


だから、ダンテはついブルドンに対して辛辣な態度をとるのか。

最高位の貴族令息が、敵国の貴族の子息に仕えなくてはならないからだ。


一方で、気の合わないケンカがちな兄や弟のようにもダンテを思う。張り合いがちなところが、特に。


***


学園から帰宅したブルドンの傍に、使用人服のダンテが現れた。休みとしたはずだが、働いていたようだ。

不思議に眺めてみると、ダンテが礼をとり、報告してきた。

「町に行きましたが、アリア様たちとはお会いできませんでした・・・」

気落ちしている。


ブルドンはつい同情心を持ってしまう。自分が幸せになったからかもしれない。


「ではお会いできるのは明後日になるな」

「はい」


***


ダンテに不幸の神様が降臨中なのか。


翌々日、ダンテを連れて町に出ようとした時だ。

母の使いという使用人が、用があるとダンテを止めた。

ダンテは驚いた。当然だ。


その使用人は、ブルドンには馬鹿にしたように「お一人で町に行けるでしょう?」などと言った。

ブルドンもムッとしたが、ダンテもイラッと来たようだ。ちなみに彼のたんこぶは青あざになっている。


母の使いは態度を崩さない。

ダンテがブルドンを未練がましく見てきたが、ブルドンも、母の指示と言われてしまえば止めようがない。

実際、ダンテを置いて町に行くこともできるからだ。


結局置いていく事になった。

ダンテが捨てられた犬のようにブルドンを見ていて、ブルドンも情けない表情を返してしまった。


***


町のあの家で、アリア様とケーテルと合流する。

ダンテの不在に、アリア様が驚き、残念がった。ダンテのいるいないで、アリア様の行動が大きく変わる。


さて、3人でブルドンの家の建築現場に向かう。

工事は順調に進んでいる。子どもたちも働かせてもらっていて一安心だ。

朝食を子どもたちに差し入れしてから、一旦家に戻る。


しかしとりあえずは良いが、先を思うと、考えなければならない。

非常に幼い子もいるし、ブルドンの家が建っても親が回復していなかったらどうするのか。

この兄弟たちの問題が解決しても、他の子たちが同じような状況におちいることだってあるだろう。


ブルドンたちの手が離れても、子どもがせめて食べていけるようにできないのか。


という話になって、アリア様が提案してきた。彼女も色々考えたようである。

アリア様は屋台の人たちと仲がいい。子どもが来たら、屋台の品を貰えるように頼んでおくという案だ。

屋台にはアリア様が費用を払うという。


子どもがさらに増えないかとか、考えることはたくさんあると思う。けれど、様子を見ながら対応を変えていく事にして、早くした方が良いことだってある。

ブルドンもアリア様も毎日町に来るわけではないから、屋台の人たちに頼むことは賢明だし、やってみようということになった。


話が決まった時には昼だった。

昼ご飯のために、3人そろって家を出ようとした時、ダンテが現れた。


***


「まぁ、ダンテ! 青あざが!」

アリア様が驚いている。


「お会いできて良かった」

ダンテが安堵に顔をほころばせている。

屋敷から解放された後、急いで町に来たのだろう。


嬉し気なアリア様に、ダンテもブルドンには向けたことのない優しい笑みを浮かべている。


「今日も来れないって聞いたのよ」

「はい。だけどそちらは終わりました」


「ダンテ、母上の用事は結局何だった?」

とブルドンは口を挟んでみる。

ダンテがブルドンに視線を向けたが、少し気まずそうだ。

「大したことでは・・・。町でのご様子などをお知りになりたかったようです」


なるほど。

しかし、聞くタイミングはいつでもあっただろうに。

『反抗期』を迎えたブルドンへの意趣返しなのかもしれない。


会話が一段落したのをみて、アリア様がダンテに確認する。

「具合は大丈夫なの?」

「はい。ご心配をおかけしました」


途端にダンテの表情が柔らかく変わるのが少し面白い、とブルドンは思った。

チラ、とケーテルを見ると、ケーテルが気づいて笑んでくれたので、ブルドンはそのことで嬉しくなれる。


「そうだ。この前はお土産を有難うございます」

「気に入ってくれた? 実はすごく悩んで選んだの」


「大切に使わせていただきます。ただ、どうしてあの品を選ばれたのかお聞きしても宜しいでしょうか」

「ダンテは、鉱石が好きなのかしらって思ったのよ」


アリア様の返答に、ダンテが口を閉じてアリア様を見つめている。アリア様の方も見つめ返している。

揃って真顔だ。


そんな二人を、ブルドンはケーテルと静かに見守ってみる。

なおケーテルは、ダンテが異性としてアリア様を気にしていると考えているようだ。


「なるほど」

とダンテが真顔のままで頷いた。

アリア様もなぜか頷きを返した。

「オパールだから鉱石だし、ペーパーウェイトになるから道具としても使えるから良いと思ったの・・・」

少し不安そうに語尾が揺れる。


また真顔で見つめ合っている。

多分、ダンテは、どうしてこれになったのか不思議に思いつつ、物凄く鉱石が好きだったわけではないのだろう。

アリア様がダンテに購入したのは、先ほどアリア様が言ったように、見る場所によって煌めきを変える宝石でもあり鉱石でもあるオパールを、丸く磨き、底辺は平らに削ったペーパーウェイトだ。

エドヴァルド様のペンはあっという間に決まったのに、ダンテの方は様々な品を見て色々考えて決めていた。


ダンテの返答によっては、帰宅後にダンテに注意が必要かもしれない、とブルドンは少し心配になる。あんなに時間をかけて決めてもらった品なのだ。ダンテが知るはずはないとはいえ。


「ありがとうございます。大事にします。色々考えて選んでくださったのが分かり嬉しいです」

ダンテが表情を崩して笑い、アリア様が安心したようになってまた嬉しそうに笑った。

「良かった。今日はダンテが来てくれて嬉しいわ。この前はいなかったから寂しかったの。これから出るところだけど、付き合ってもらえる?」

「喜んで」


良かった、と聞いていたブルドンはなんだか安堵した。

土産の受け取りの会話にダンテが成功したと思ったからだ。


ケーテルが目くばせしてきたので、ブルドンも笑む。

恐らくケーテルも会話を心配していたのだろう。


ブルドンから見て、アリア様とダンテが、双方をどこまでどのように思っているのか掴めない。

兄のように慕っている? 妹のように愛でている?

だけど互いに、時折照れるようにも見える。


「さて。ダンテも来たことだ。私たちは子どもたちの昼食もあるから建築中の家に向かうけど、アリア様は別行動でも良いけれど、どうする?」

とブルドンは聞いた。


「ダンテが来てくれたので、先に屋台めぐりをしてきますわ。子どもたちのことを聞いて、頼んで来ようと思いますの」

「分かった。ダンテ、アリア様を頼んだ」

「はい」


話が良く分かっていないだろうダンテが、それでもきちんと返事をした。

少しブルドンに親し気な笑みに見えた。


***


アリア様がダンテと並んで町に出て行った。

仲が良さそうな兄と妹のようにも、違うようにも見える。


「私たちも行こうか」

「はい」


ケーテルに腕を差し出すと、嬉しそうに手を添えてくれる。


「アリア様は、ダンテ相手だと、普段よりハメが外せるようですわ」

とケーテルがそっと教えてくる。

「そう。ダンテも、アリア様相手だと優しい心が持てる様子だよ」

「まぁ」

ブルドンの少し意地悪な言い方にケーテルが苦笑しながらも楽しそうだ。


「多分、私にも少し心を開いてきたと感じる。表情が少し変わってきたよ」

「まぁ。・・・それは、良い事ですわね」

ケーテルは驚き、少しじっとブルドンを見てから、しみじみと答えた。


「ケーテルには態度は変わらない?」

「私については、あまり変わりませんわ。元々交流が少なくて、そもそも、ぶっきらぼうで愛想のない人ですもの」

「悪口に聞こえるけど、単純な事実なんだろうと分かってしまう」

「はい。けれどとても優秀ですわ」

「・・・ケーテルの方が私にとっては優秀だけどね」


本心から言えば、ケーテルは少し驚いたのち、笑って照れた。可愛いと思った。

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