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いろいろあるはず

1階の広い部屋で、3人が座る。

少し揉めたが、結局ケーテルがお茶を用意してくれた。

揉めたのは、菓子が無いから。まず買いに行かねばというアリアをブルドンが宥め、一旦は菓子無しで始めることにした。


ブルドンはアリアの菓子への食欲に呆れている。

「アリア様が急激に大人っぽくなっていると噂だよ。なのに菓子を食べ過ぎだと知ったら、学園の男性陣の夢が壊れそうだ」

「まぁ、ブルドンお兄様、失礼ですわ! そもそも今、成長期ですの! この年頃の女子は甘いものが大好きなのです! ケーテルだって甘いものが好きですもの、ね、ケーテル?」

「えぇ。私も好きですわ」

ブルドンの失言にアリアが怒りの声をあげ、巻き込まれたケーテルはニコニコと微笑ましそうにアリアに笑む。やはりケーテルはアリアの味方だ。


ケーテルの笑顔を見てアリアもニッコリ嬉しくなれたので、この馬鹿な会話を切り上げることにした。相談したいことはたくさんある。

「話を切り替えましょう」


「うん。私も失言を詫びておくね」

「許します」


切り替えの早さは、互いに前世を覚えていて、実年齢よりは精神年齢が高いからか。


***


「相談したいことは、エドヴァルド様への土産が何が良いか、それから、エドヴァルド様とのご婚約と、エドヴァルド様への私の対応についてですわ。そして暗殺問題」

「分かった。私たちの方は、新居が4か月後に完成予定で、その先の話。あとはアリア様の相談に乗りたい」

ケーテルも、アリアとブルドンが話すのを頷いている。


「まずアリア様の話から行こう。お土産というのは、町遊びのお土産?」

「えぇ。実は、先日お会いして、強請ねだられてしまいましたの。その、拗ねたご様子で」

「ブルドン様は学園に通っておられますから、良いアドバイスができるのではと思いましたの」


アリアとケーテルの話に、ブルドンは少し宙を見て考えるようになって、

「無難に、アリア様がエドヴァルド様に似合うと思って選んだペンあたりで良いんじゃない?」

と言った。


「お店で一緒に選んでいただけますか?」

「私が出ない方が良いと思うよ? エドヴァルド様はアリア様が選ぶの含めて強請ねだっているだろうから」


「でも、婚約を解消するべきだと思っていますから、あまり好意的な事はしないほうが良いと思いますの」

「うん。だから、気軽に普通の物をあげるのが良いのじゃないかな。ちなみに、学園で購入できるペンはこれだ」

ブルドンが胸元からペンを取り出した。万年筆だ。


「エドヴァルド様はもっと高価なものをお持ちだけど、私としては、町の店に立ち寄っての土産だから、このレベルの品質を満たしたぐらいの、アリア様が気に入ったもので良いと思う」

「具体的に品を見せていただけてとても助かりますわ。有難うございます」

アリアは力強く頷いた。

よし、ブルドンのアドバイス通りの品物を買おう。多分、あのあたりの店にあるはずだ。よし、決まり。


「話は変わるけど、ダンテにも今日、軽いもので土産を買ってもらえるかな?」

とブルドンが少し困ったようにアリアに頼んだ。

「構いませんけれど」


ダンテも頻繁に町に出ているのに? とアリアは不思議に思ったが、ブルドンが申し訳なさそうに言う。

「ちょっと罪悪感が・・・。置いてきてしまったから。今日」

「額を強く打ってしまったからでしょう?」


「そうなんだけど、最後にチラッと見たダンテが、こう、多分私に見られていないと油断したんだろうけど、結構・・・」

ブルドンが言い淀んでケーテルを見やると、ケーテルも眉をハの字にしてブルドンの気持ちに同調している。

ケーテルもアリアと同じに現場を見ていないのにどうして分かり合っているの。これが愛の力なの?


ケーテルが控えめに口を開いた。

「でも、あまり喜ばせてしまうのも・・・」

「そうだけど、私の罪悪感が少し・・・」

「ダンテがどうだったのですか? それによってお土産の選択も変わりますわ」

アリアが尋ねた。アリアには不明瞭でもどかしい。


「・・・落ち込んでた」

「まぁ」

アリアはダンテが落ち込んでいる様子を想像した。どんな風に? ちょっとよく分からない。


「今日の予定が休みになったせいだろうと思った。・・・実は、アリア様はダンテと仲が良いけれど、私との仲は未だにイマイチなんだ」

「まぁ」


「良くやってくれているよ。だけど、つい威嚇し合ってしまうというか。頼りになるとも思っているよ、もちろん。そうでなければ連れて来ない。何が言いたいかというと、つまり私が見たことのない様子で・・・私があのタイミングで声をかけなければ、可哀想な事をした、と。・・・そんなダンテにアリア様からお土産を、できれば。これは雇用主からの単なるお願いなんだけど」

「わ、かりましたわ」

アリアは頷き、そのまま何にしようか考えた。

一番喜ぶのは肉と知っているが、お土産には不適切。エドヴァルド様のを選ぶ時にダンテのも見よう。


「ありがとう。では、次の話に行こう・・・。エドヴァルド様の婚約をどうするか、だね」


「はい。その、正直に、お話しますが」

アリアは前置きしたうえで、2人に丁寧に説明することにした。


エドヴァルド様はアリアにとても優しく非が無いこと。アリアをやはり気に入ってくれている事。

ただ、アリアの方は、エドヴァルド様に恋愛感情は抱いていない。残念ながら。

評判を落とそうと町で遊び続けているが、真逆、好意的に解釈されていると先日知った事。アリアの町遊びを、王様や王妃様まで褒めているらしいこと。

アリアは、エドヴァルド様を素晴らしいと思う。結婚して第二王子を支える事は、貴族令嬢として生まれたアリアの役割、仕事だとも思う。だから仕事と割り切って役目に就くべき、とも思う一方、16歳で、良くて庶民化、または暗殺される危険が高いと思うとどうして良いのか分からない。

前にエドヴァルド様と学園が始まる前に結婚することを考えついたが、恋愛感情を抱いていないため、結婚を早める事に乗り気になれない。


アリアの話を、ブルドンもケーテルも真剣に聞いてくれている。

聞き終わって、ケーテルは確認した。

「やはり、今も暗殺されてしまうとお考えなのですね」

「・・・えぇ」

「私も暗殺の可能性は高いし、警戒するべきだと思う。何事も起こらない可能性もあるけど、対策をしていた方が精神的にも良い。でもアリア様、エドヴァルド様との結婚の前倒しは気が乗らないんだね」

「はい」


ブルドンが黙ってしまう。ケーテルも難しい顔をしている。

この2人が結婚しなければブルドンとの偽装結婚案があった。でも消えた。とはいえ、アリアはそれを恨めしいと思う事もないし、むしろケーテルたちが幸せになって良かったと思う。


「アリア様は、誰か好きな人はいる?」

突然のブルドンの質問に、アリアは驚いた。

「えっ」

チラ、と誰かが脳裏をかすめ、頭が撫でられた感覚が蘇ったが、動揺のまま脳裏から消した。だけど少し顔が赤らんだ。

しかしまだよく分からない。とても言えない。


チラ、とブルドンとケーテルの様子を見る。

二人が妙に真剣にアリアの様子を見ていた。


「エドヴァルド様では、無いよね」

「違いますわ・・・」

「念のためだけど、ジェイク様も無いよね」

「兄ですわ。無いですわ」

兄ジェイクは好きだが家族愛だ。

「その意味では、ブルドンお兄様も、家族枠ですわ」

「うん。そうだよね」

ブルドンが確認して来る。


「ちなみアリア様は、町に頻出することと、最近大人っぽくなってきたというので、学園でもよく話題に上がるのだけど」

ブルドンが説明のために話している。

「アリア様は、貴族では、私とジェイク様とエドヴァルド様しか会っていないよね? 他に候補はいないね?」

「えぇ。ご挨拶もまだの方が多いです」

「・・・ふぅん」

ぐいぐい話を詰めてきたくせに、急にブルドンが何かを飲み込んだような返答をする。


「あの」

と声を出したのはケーテルだ。

「将来何をしたい、など、思っておられることはありますか?」

「・・・皆と、今のように暮らしていたいっていう、そんな感じなの」


今、かなり幸せな状況にあると思う。

貴族令嬢だから欲しいものは買える。

家族も優しい。使用人も優しい。町の人たちですらアリアに好意的だ。


「・・・アリア様にお伺いしたいのですが、もし何事もなく無事であれば、エドヴァルド様とのご結婚で宜しいのでしょうか?」

「・・・仕事として私の役割だと思うわ」

アリアのどこか固い答え方に、ケーテルはじっとアリアの様子を見つめた。


そしてケーテルはブルドンを見やった。

「アリア様とエドヴァルド様のご婚約は、円満に解消できないのでしょうか?」

「難しいよ。エドヴァルド様がアリア様に惚れ込んでいるし、王家も迎える気でいる。貴族は皆、王家の格下だからアリア様側からはとても断れない。そもそも、テスカットラ家自体が、アリア様とエドヴァルド様の結婚に賛成だ。ジェイク様は有能だけど、妹が王家に嫁ぐかどうかで出世は変わるよ」


「では、やはり暗殺から逃げる手段を用意しておいて、暗殺の可能性がハッキリした時点で、逃亡するのではいかがでしょうか」

とケーテルが言った。

前にも言ってくれたアドバイスだ。確かに現実的。


3人で真剣に話し合った結果、アリアたちは、『本当にアリアと同じ年に庶民の女の子が入学してくるのかも含めて、16歳になるまで様子を見よう』『エドヴァルド様とは、何事も起こらない場合の事も考えて、嫌われようとするのではなく、適切な距離を保ち続けるよう努めよう』『暗殺されるといよいよハッキリ判断できた時点で、逃亡しよう』という方針で行くことにした。


今からできることは、逃亡先の手配だ。

第二王子の妃になる予定で、国外に興味を持つ事も喜ばれるはずだから、外国にも目を向けたいと言いながら逃亡先を探そう。


さて、アリアの話が一旦落ち着いたら、次はブルドンとケーテルの話題に移った。


4か月後に新居が完成したら、ブルドンとケーテルは新居に住む。


ケーテルがアリアに訴えるように言ってきた。

「私は、アリア様にお仕えしていたいのです。お許しくださいますか?」

「えぇ、嬉しいわ、喜んで!」

とアリアは答えたが、それを聞いたブルドンが遠い目をした。


話を聞いてみれば、アリアの快諾で話が決まったそうである。

もしアリアがケーテルの申し出に困ったりすれば、ケーテルはブルドンの事業の補佐をする予定だったそうだ。

しかしアリアが断るはずがない。ブルドンも分かっていたはずだ。


ブルドンの事業は、新居の大工たちに計算機を貸してみて好評で、多忙になりそうだという事だ。つまり、やっぱり助けが欲しい。


「ダンテではいけませんの? 付き人に戻すほどには、他より信用されているのではありませんか?」

アリアの言葉に、ブルドンも、

「そうなるね、少なくとも当面」

と少し分かっていたように諦めたように頷いた。


「妻が自分の仕事を選ぶことは当然の権利だから」

とも言ったブルドンは、この世界において突出して進んだ考え方を持っている。

ケーテルに手を握り感謝されて、照れつつ笑み合う様子をアリアは見つめた。

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