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不祥事だったはず

エドヴァルド様と久しぶりにお会いした。

勿論、不定期ながらお会いしているが、お忙しくなったようで、手紙や贈り物の方が増えている。

今日も見事な花束と共に現れたエドヴァルド様は、アリアを見て嬉しそうにホッとした笑顔を見せた。


「会いたかった。最近は学園の授業が多く入っていて、きみとなかなか予定が合わずで寂しかったよ」

「まぁ」


開口一番の言葉にアリアはわずかに苦笑したが、そのまま微笑みに変える。

「申し訳ございません、何度もお誘いいただきましたのに、私がよく町に出ており、不在になってしまいました」

「うん、そうだね」

今度はエドヴァルド様の方が苦笑を見せた。


ソファに座って、お茶など出されるのを少し見やる。

すぐ傍に人がいなくなってから、エドヴァルド様が会話を再開した。


「ジェイクにも聞いているけれど、他からも町にアリア様がよく現れるという噂を耳にしているよ」

「まぁ。噂になっていますの」

アリアは驚いたが、自然な事である。そして、不祥事を狙って遊び惚けているのだ。良い流れのはず。


「僕も一緒に行きたいのだけれど」

少し力を落としてエドヴァルド様が残念がる。前にも手紙で知らせてくれたが、結局1度も実現していないのは、アリアが予定が合わないと何度も返事をしているうちに、エドヴァルド様も多忙になったためだ。


「私、その、申し訳ございません、楽しくて、遊び呆けてしまっておりますの・・・」

アリアは自白のように申し出ておく。

すると、アリアの少し様子を伺うような態度を見たエドヴァルド様が面白そうに楽しそうに微笑んだ。


あれ? 好意的?


わずかに違和感を覚えたアリアは確認することにした。

「その、噂というのは、どのような? 遊び惚けていて淑女らしくない、というような・・・?」

「まさか」

エドヴァルド様が笑い声をあげた。

「母上が、本気で少し悔しがっておられたほど、アリア様の人気が上がっているよ。自分の耳には入らないものなのかな」

「え」


驚いたアリアに、エドヴァルド様は気づいたように訂正した。

「あぁ、大丈夫。母上だって張り合っても仕方ないとご存知だから、不安にならないで。本当は母上もアリア様と町にお忍びに行きたくなったようだけれど、ご多忙だから。それに、僕がまだきみと一緒に行けていないのに、先に行こうなんて酷いから、母上はお待ちくださいと頼んでいる」


ん? どういう事?


アリアの表情から心境を察したらしいエドヴァルド様が、楽しそうに教えてくれた。

「きみが頻繁に町に行くお陰で、町全体が活気づいている。高品質の良品を小口ながら購入していくから、職人や商人の励みになると聞いたよ。それに、きみが選ぶもので貴族の人気が分かるって評判だよ。母上にも『アリア様が町でお忍びで買われた柄がこちらです』と紹介するそうだ。母上も違う年代から見た好みを知りたいから、参考に聞くようにしている、とおっしゃっていた」


「まさか、そんな畏れ多いこと」

アリアは少し血の気が引いた。

予定と違う。なんだこのアリアを褒め称える空気は。


「謙遜しないで。きみは学園に通う前だというのに立派に皆を活気づけている。視察を嫌がる者も多いというのに、率先して町に降りて、庶民向けの安価な店で食べ物すら購入して食するなんて。勇気も必要で、なかなかできるものじゃない。王都ではアリア様の訪問を楽しみにしていると聞いたよ。きみは可愛らしくて気前も良くて気さくで品も備えていて素晴らしいって」

「ほめ過ぎ、ですわ・・・! 私、そんなつもりではありませんでしたわ!」

アリアは動揺して力を込めて否定した。


「ではどういうつもりだったのかな」

楽しそうにクスクスとエドヴァルド様が笑っている。

「私、ただ、その、遊びたくて、その一心で、お店も美味しいものが沢山ありますし、ただの、勉強もさぼってどうしようもない浪費家ですのよ!」

アリアが必死で自分を貶める様子に、エドヴァルド様が耐えかねたように体を折り曲げて笑い出した。それでも気品が漂う。さすがだ。


しばらく笑うので、アリアも困って見つめてしまう。


少しして笑いやんだエドヴァルド様は涙まで拭った。

なんだか笑い過ぎじゃない?


「じゃあそういう事にしておいてあげようかな。でも、きみが頻繁に町に行くお陰で雰囲気がとても良くなったと聞く。きみのためにと皆が町を飾り、清掃をすると。僕たちは学園に通い出すと町で自由に過ごす時間が持ちづらくなるからね、僕たちがもうできないことをしてくれている、きみの行動は王家としてとても喜ばしいと、父上も褒めておられるよ。さすが王家の一員となる者だ、って」


えっ、嘘、なぜそんな高評価をいただいているの。


えっ、だから皆、高頻度で遊びに行くアリアを止めないの!?


驚きのあまり言葉を失っているアリアに、エドヴァルド様が労わるような態度を見せた。

「今のうちに、今の時間をたくさん過ごして。僕が叶わなかった分も」

「エドヴァルド様が叶わなかった分も、ですか・・・?」


「そうだよ」

エドヴァルド様が理解できていないアリアに頷いた。

「学園は僕たち世代の社交場だ。通い出すと暮らしも変わる。でもそう知らなかった上に、僕には『町の暮らしを楽しむ』という発想がなかった。必要だと思っていなかった。だけど父上がおっしゃったんだ。確かに王族は庶民1人1人の声を知る必要はない、だが中には1人、直接知っている者も必要だと。アリア様がその役割を担ってくれる、とね。父上も、王としてきみに期待しておられるよ」


ひぃいいい・・・

アリアは慄いた。


ここは、『光栄です』と答えるべきだ。

そう分かるのに、自分の不祥事計画があまりにも逆効果の結果を見せていて、うろたえてしまう。


エドヴァルド様は、アリアがまた恐縮していると解釈したらしく、クスクスと愛でるように笑う。


ど、どうしよう。でも・・・。

「こ、れからも、その、町に、遊びに行きます・・・・」

町遊びを止めるつもりはない。楽しいし、ブルドンたちに会う事はアリアの未来に関わってくる。


「そうだね。たまには、僕にもお土産を欲しい。ねだっても良いだろうか」

「え、あ、はい。申し訳ございません、承知しました」


「楽しみにしているからね。ジェイクがきみの土産を見せびらかしてくるんだよ。羨ましい上に、ジェイクも私が悔しがるのを見て楽しそうだ。彼を恨みそうになる。普段は良い人間だけど、きみの事になると、分かって意地悪して来るんだ。きみは、婚約者の僕よりも、兄のジェイクの方が好ましいのかな・・・」

エドヴァルド様が拗ねている。それをストレートに伝えてくる。


アリアは頭を下げる他無い。

「大変、申し訳ございません・・・」

「・・・楽しみにしているから」

「はい・・・」

アリアの態度に、エドヴァルド様が寂しそうに表情を曇らせた。

理由は分かる。エドヴァルド様の方が好きだと返事をしなかった。そして、土産を、指示を受けた使用人のような態度で承諾している。


だけど、仕方ない。自発的には買う気分になれないことを、アリアは今、偽れなかった。


「ちなみに、欲しいものはございますか・・・?」

「うーん。そうだね・・・きみに任せても良いかな?」


やっぱりエドヴァルド様が拗ねていた。申し訳ないとアリアは思った。

なんだか少し気まずい思いを残して、この日のお茶の時間は過ぎていった。


***


今日は、エドヴァルド様の土産を選ばなくてはならない。


なお、エドヴァルド様とのお茶会時も部屋で控えていたケーテルに相談したところ、学園に通っておられるので、ブルドンに学園で使うもののアドバイスを受けてはどうかという返事だった。確かに。


そうしてアリアの庶民の家で待ち合わせ。

ちなみに、すでにアリアのこの家の合鍵は、ブルドン、ケーテル、ダンテにもそれぞれ渡してある。そうしないと不便だからだ。


今日はアリアたちの方が先についた。そう確認した直後にブルドンが到着した。

途端にケーテルの雰囲気がパァッと幸せに染まるので、恋って凄いなぁ、とアリアは傍で様子を見るたびに思ってしまう。


「こんにちは。アリア様」

「こんにちは、ブルドンお兄様」


「ただいま、ケーテル!」

「おかえりなさいませ、ブルドン様!」


ブルドンとケーテルが再会を喜んで抱き合う。毎回幸せそうだ。


ちなみに、新居は建築中だ。新居ができたらブルドンとケーテルは一緒に住む予定。

アリアの付き人はどうしよう。

色々アリアも考えていかなくてはならないが、色々考えるたびに少し先延ばしにしてしまう。


あら?


アリアは玄関のドアが閉まったままなのを見て、ブルドンに尋ねた。

「ブルドンお兄様、今日はダンテは連れておられませんの?」

「あぁ、うん」

ケーテルと離れて、ブルドンが少し困ったように頷いた。


「実は、出る前にアクシデントがあって額を強打して、本人は問題ないと言ったんだけど、念のため休ませて、屋敷に置いてきた」

「まぁ。額を強打? 本当に大丈夫ですの?」


「うーん。本人は大丈夫だと言っていた。休ませたのは念のための方が強いよ」

ブルドンの返事に、ケーテルも意外そうに尋ねた。

「額を強打するようなことになったのですか? ダンテさんが?」

信じられない様子だ。


「うん。実は私も責任を感じているんだ。作業中のところに、声をかけたせいだよ。収納棚の扉が開いていて、ダンテが私の声掛けに動揺したのか、慌てて」

「まぁ」


ブルドンとケーテルの会話に、本当に大丈夫かなとアリアは心配になった。


「・・・少し心配に思ったから、クギを刺しておこうと思ったんだけどね。タイミングが悪かった。以前私が言われて腹が立ったのをそのまま返そうとしたのも意地悪だった」

ブルドンが少し反省している。


「クギ、ですか」

とケーテルが確認すると、ブルドンはチラ、とアリアを見た。

「うん。でもまぁ、全て言う前にダンテが額を強打したのだけどね」

ブルドンの一時の視線を辿り、ケーテルもアリアを見てから、ブルドンに視線を戻した。

「・・・そうでしたの」


うん?

アリアの事で何か言おうとしたの?


ブルドンがアリアに詫びてきた。

「そんなわけで、今日はダンテを連れてきていないから、アリア様がいつものように町に出られないよね。申し訳ない。今日は、町に出る場合は私かケーテルも行くよ。ただ、今日は3人で、今後の話をじっくりしようかとも考えている。どうかな」


なるほど。それは重要だ。ただ・・・。


「分かりましたわ。お願いいたします。ただ、エドヴァルド様にお土産を頼まれてしまいましたの」

「ブルドン様に、品選びについてアドバイスをいただきたいと考えておりましたの」

アリアの困った様子に、ケーテルも口を添える。


「分かった。じゃあそれも含めて話をして、皆で一度は買い物に行こう」

「えぇ」

ブルドンが話をまとめてくれたので、アリアもそれで良いと頷いた。

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