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口では勝てないはず

アリアはケーテルを連れて、母を始めとして家族を味方にしようと時間を持った。順調に、父と兄も味方になった。


ブルドンが『家を捨てる』と発言した影響で、ケーテルに危害が来ることを警戒したアリアは、家族にいかにケーテルが大事で大好きかを伝え、ケーテルを守る体制を整えた。

皆はアリアに甘いので、アリアの手配は順調に進んだ。


一方、ブルドンだが、彼の発言は本気だった。

『家を捨てる』宣言に、初めは皆『そんなことできない』と馬鹿にしたらしい。しかし、ブルドンが自ら馬車に馬を繋ぎ御者台に乗ったところで、複数人がブルドンを止めた。本気かもしれないとそのあたりで皆がざわついた。

そして、冷静に話し合おうと説得が始まる。


結局、家は捨てても良いと思っているのはブルドンの本心だと分かった両親は怒るよりも蒼白になった。思ってもみなかった事だった。

態度の合わない使用人とはやっていけない、とも発言したので、今度は使用人が蒼白になった。ブルドンの両親が、『気に入らない者を解雇すれば良いじゃないか』と、ブルドンの機嫌を取り出したからだ。


そんな親にブルドンは冷たい目を向け、『養子を迎えれば良い』と言った。

指示に従うしか能がない、反抗する能もない、馬鹿な子、と思っていた両親は衝撃を受けた。


その様子に、ブルドンはまるで今思いついたかのように、考えを言った。


父も母も健在だ、家はしばらく父が主体だ。

一方の自分には、実は新しく取り組みたいと思っている事業がある。実験段階で、上手く行くか分からないが。


「こう考えては貰えませんか。私はケーテルと結婚したい。共に暮らし、彼女に支えてもらいながら事業を始めたい。資金は私が動かせるものを投入します。数年後に結果を見てください。その事業が上手く行っていたなら、私の功績を認めて、彼女の事も全て認めて欲しい。この家を彼女と共に継ぎます」


両親の目は丸くなり声が出せないでいる。その様子を見つめながら、ブルドンは続けた。


「けれど事業が失敗したなら、私はこの家に相応しく無い。家の資金を失う愚か者ですから。私は庶民が相応しいでしょう。この由緒あるアドミリード家には、優秀な養子をとり、家を継がせればいい」


両親は動揺していた。


「どちらにしても、私は彼女と結婚する。妨害するなら、駆け落ちします」


かろうじて父親が、この馬鹿が、と、言ったそうだ。


***


「ケーテル!」

「ブルドン様!」


町、アリアの庶民の家で待つことしばし。

到着したブルドンが、迎えたケーテルに抱き付いた。ケーテルも抱きしめ返す。

ブルドンがケーテルを抱えてグルグル回った。


パチパチパチ、とアリアは拍手を贈る。

ケーテルと抱き合い喜ぶブルドンの後ろ、少し困りつつも笑みを浮かべるダンテが見える。


「ブルドンお兄様、ケーテル、どうぞ中に入ってくださいな。ダンテが入れずにおりますわ」


ちなみに、アリアの庶民の家、ドアを開けたところである。


「うん」

と答えたブルドンはそれでも満面の笑みで再びケーテルを見つめる。表情が溶けそうに緩んでいる。

「結婚してください、ケーテル」

「私で良ければ、喜んで。一生お仕えいたします、ブルドン様」

「妻として私と共に生きてください」

「喜んで。私のような者に、勿体ないお言葉です、心から、喜んで!」

「ケーテル!」

「ブルドン様!」


話がまとまって、やっと2人抱き合っても構わない状態で会えたのが今だ。こうなるのは仕方ない。

見ている方も嬉しくなれる。


「ダンテ」

アリアは小さく、入るように手で示した。

ダンテも肩をすくめて見せながら、喜び合う2人の邪魔にならないように身を小さくして入ってくる。


見守る同志だ。アリアの傍に来たダンテは、アリアに笑んだ。


「身分違いが成就したのは感慨深いですね」

とダンテは言った。

「とはいえ、身分など仮初かりそめだと思いませんか」


ダンテが言うには意外だとアリアは思いながらも、同意を示した。

「そうね」

前世を覚えているからこそ、すぐに頷ける。


***


しばらく喜び溢れていたブルドンとケーテルは、そのままニコニコしながら相談事に突入し、アリアとダンテが見守っている中で、

「今日、教会で結婚の届けをしよう」

と決めてしまった。


あまりにも早いのではとアリアは驚いたが、どんどん話は進んでいく。


「アリア様。見届け人に署名いただきたいのですが、頼んで宜しいでしょうか」

とブルドンがアリアを見る。

身分違いの結婚なので、ケーテルに貴族の署名が必要だ。


「見届け人は喜んでさせていただきますけれど、急すぎませんか? 例えばケーテルにはドレスなど必要ではありませんの?」

「早く届けたい。理由をつけて引き離されると嫌だから」

とブルドンが言う。傍のケーテルも頷く。

「はい。私も今日で構いません」

そして二人で嬉しそうに笑み合う。


「・・・2人がよろしいのであれば、私も構いません」

「では早速」


***


合流したばかりなのに、教会に向かう事になった。

馬車であっという間だ。


教会で用件を言い、結婚を届け出る用紙を貰い、ブルドンとケーテルが署名する。

アリアも見届け人として署名をした。

それをブルドンが神父様に受け取ってもらい、ケーテルと一緒に祝福を貰う。

パチパチパチ、とアリアとダンテで祝福の拍手を贈った。


あっという間だった。


何もここまで急がなくても良いのになぁ、とアリアは正直なところ思ったが、2人がとても嬉しそうなので、これが良いんだよね、と思う。


いつの間にか、ダンテが教会で売っていたという花束を持っていた。

お祝いだと、ダンテがブルドンに贈る。ブルドンもケーテルも、見守っていたアリアも驚いた。


ブルドンが礼を言いながら受け取り、それをケーテルに渡す。ケーテルも嬉しそうだ。


アリアは少しダンテを見直した。こういう動きができるのって素晴らしい。

ただ、アリアにも一声かけてほしかったなー。アリアだって贈りたかった。


***


行きの馬車では恋人だったのに、帰りの馬車ではもう夫婦だ。

ちなみにブルドンは14歳でケーテルは15歳。この世界的にも若い夫婦だ。


アリアの庶民の家に戻る途中、店の多いエリアで馬車を降り、記念の品を買っていく事になった。


ケーテルはブルドンと一緒なので、自動的にアリアはダンテと共にいる。

邪魔したくないので、ケーテルとブルドンとは少し距離を取り、見守る。


「なかなか、思いがけず早い展開でしたね」

とダンテが話しかけてきた。真顔で。

「・・・そうね」

真顔でアリアも頷いた。


「幸せになって何よりだけど、まさか今日届けまでするなんて。驚いたわ」

「俺もです」

「今日は『俺』なのね」

「アリア様はその方が楽でしょう」

「使い分けてくれて良いのよ?」

「分かりました。それなりに使い分けます」


「ねぇ、ブルドンお兄様は、私からケーテルを連れ去ってしまうのかしら」

アリアはあまりに急で不安になり、ダンテに尋ねた。

「そうでしょうね」

とダンテは素っ気ない。


「ケーテルがブルドンお兄様と幸せになってくれることを願っているのよ。だけど、私の侍女を辞めてしまうのは悲しい。寂しいの」

「そのあたり、俺に言われましても」

「そうよね。でも新婚夫婦に言いづらいもの」

「だからって俺に言われても困ることしかできませんが」

「じゃあ、ブルドンお兄様に八つ当たり出来ないし、しても気の毒だから、ダンテが代わりに私の八つ当たりを受け止めてくれる?」

「絶対に嫌です。お断りです」

「即答しすぎだと思うの。冷たいわ」

「あなたの愚痴を聞いている時点で、俺は充分暖かいと思う」


「・・・。少し、ダンテに口で勝てる気がしないわ」

「恐縮です」

「ダンテって、いま幾つなの? 年齢よ」

「16ですよ」

「私と4歳差ね」

「12と16の差は大きいと思いますね」

「・・・ちょっと今、鼻で笑った?」

「俺はそんな失礼なことしませんよ」

「嘘よ、なんだか笑っているもの! 私の方が大人であるところも、あると思うわ」

「あー、はい、そうなのですかね」

面倒くさそうに返答されたので、アリアは一旦口を閉じた。


「申し訳なかったわ、暇だからって絡みすぎてしまいましたわ」

「・・・。そういうところは、意外ですね、アリア様は」

「・・・話は変わるけれど」

「・・・」

「先日は、助けてくださって本当に有難うございました」

「俺が医者を殴った時の話でしょうか」

「えぇ」

「どういたしまして。あれは心配しました」

「ごめんなさい」

「・・・。俺が付き添える時はついていってあげますから」

「・・・」

「あなたの侍女とブルドン様の邪魔をしたくない時は、俺が代わりにつきあって差し上げますよ」


「・・・ありがとう」

そういう事を言われると、見直す気分というか、嬉しくなる。

「どういたしまして」

ダンテが笑う。


そんな会話をしているうちに、ブルドンとケーテルが買う品を決めたようだ。


***


ブルドンがケーテルに買ったのは腕輪だ。既婚者の証にもなる。ブルドンの方は指輪だ。


食べ物も購入し、アリアの庶民の家に戻る。


一階の広い部屋に4人で集まり、好きに椅子やソファに座る。アリアの家具の品ぞろえの都合だ。


動こうとするケーテルを止め、今日はアリアとダンテでお茶などを用意した。なお、ダンテ一人に任せるのが嫌だったのでアリアも動いた。この家はアリアのお気に入りだから。


皆でお茶を飲み、一息つく。

ケーテルの腕輪とブルドンの指輪を見せてもらう。


空気が落ち着いた時、ブルドンが切り出した。

「アリア様、お願いがあります」

「えぇ」

何だろう。


「この家を、何室かでも、私たちに貸して貰えないかな」

「どういうことですの?」

アリアは驚いた。


「実は、私とケーテルは今日結婚したけれど、しばらくは今の生活を続けるつもりでいます。私は屋敷に、ケーテルはアリア様の侍女として働く」

「どうか、変わらず勤める事を、許していただけませんか。アリア様のお役に立ちたいのです」

とケーテルも言った。


まぁ・・・。

アリアは嬉しく感動してケーテルを見た。


「私の家は居心地が悪いから、むしろ庶民のようにケーテルと町で暮らしたい」

とブルドンが言う。

「だから町に家を買おうと思って。ただ、事業も始めるので、希望を盛り込んだ家を新しく建てたい。それまでの間、この家を使わせてもらえると便利だと思ったんだ。アリア様とケーテルに、今まで通り、定期的にここで会う形にできれば」

「まぁ」


少し考えて、アリアは頷いた。

「分かりました。3階は私の専用にしたいので、1階と2階なら、構いませんわ」

「ありがとう! アリア様!」


あれ。ダンテが、なんだか変な顔でアリアを見ている。

言いたいことがあるのかも。


見つめ返したアリアに、ダンテは言った。

「どうか私にも1部屋、貸していただくことはできませんか」

小さく丁寧な言い方なのは、ブルドンがいるからだろう。


アリアはキョトンとした顔を見せた。

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