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仕事中のはず

ブルドンがキラキラしている。

チラ、と見れば、ケーテルはブルドンの様子に驚きつつ、顔は赤いままだった。


「えぇと」

アリアは額に片手をあてて、考え込むようにして言った。

「とりあえず、ブルドンお兄様」

「うん」


ブルドンに期待されたように見つめられている。

何から言うべきか。


ケーテルがブルドンに好意を持っていた。

ブルドンがケーテルに恋をした。ようだ。


えーと。

「今私たち、偽装結婚の話を進めていましたわよね」

「そうだね」


「とりあえず、計画は白紙に戻しましょう。それで、とりあえず、私、席を外しましょう」

「・・・」

「アリアお嬢様!」

真顔になったブルドンに対し、ケーテルが慌てた。


「えー・・・とりあえず、2人で話してみると良いと思うの」

なんだか自分がお見合いお婆さんになったみたい。とアリアは思いつつ、ブルドンに提案してみた。


「ありがとう、アリア様」

「お待ちください、それは」

ケーテルがオロオロしている。純粋に焦ってどうして良いのかと困っている。


大丈夫。アリアも実は困惑している。ちょっと離れた方が良いのでは。そう思っただけで、それが正しい行動かも分からない。


えー・・・。

「少し、3階で、のんびりしているから。私に構わずにで良いのよ、ケーテル。しばらくしたら戻るから安心して。・・・あ、もしも、ブルドンお兄様と一緒にいるのが耐えられないなら、来てくれて良いからね」

「お茶をお持ちいたします・・・!」


「大丈夫よありがとう。でも気にしないで」

「いえ、お運びいたしますから・・・!」

ケーテルがオロオロしている。なんだか半泣きだ。

あれ? ブルドンお兄様と残されたくないの? そうなの? どうなの?


「アリア様、応援をありがとう・・・!」


「ケーテル、嫌じゃ無ければブルドンお兄様とお茶を。・・・無理なら断って私の元に」

「いえ、嫌とか、そういうのではなく・・・!」


嫌でないなら良いか・・・。もう本当にどうして良いのか分からないけど、とりあえず私は邪魔なので少し撤退します・・・。


***


アリアは3階、町が良く見える窓のある部屋に避難した。

ブルドンお兄様は本人を口説けばいい。

でも、ケーテルは、身分など悩みそう。


アリアはケーテルが大切なので、ブルドンを好きなら応援したい。

とはいえ、偽装結婚の話を他の女性と進めていたところに、急に口説かれるのも微妙じゃないかな。


しかし、こうなると、ブルドンとの偽装結婚は考え直した方が良い気がする。

いや、どうだろう。


うーん。


普通なら身分差が激しいので、両思いでも2人の結婚は難しい。

こういう場合、貴族が使う手段は、お飾りの妻を迎えて、本命は愛人に。


そう考えれば、ブルドンとアリアとの偽装結婚は丁度良いかも。

ただ、前世の知識を思い出しているから微妙な気分。

好きな相手が別の人と偽装結婚。自分は教会的に妻と認められない、って嫌だと思う。

アリアも、お飾りとはいえ邪魔者になりたくない。


「うーん」

アリアは窓を開けて、町の様子を眺めながら思った。


とりあえず、アリアの方の『このままでは暗殺の可能性が高い問題』の対策案として、ブルドンを恋愛相手に選ぶのは無しの方向で。

じゃあ誰?


アリアは、エドヴァルド様を思い浮かべた。

ブルドンの長所を言った際、『エドヴァルド様も同じ』と、ことごとく言われたから。


ブルドンに相談できたのは、ブルドンも前世を思い出したから。

だけど、エドヴァルド様に打ち明けても同じだったろうか。


確かに寄り添おうと考えてくれそう。一生懸命、理解しようと努力してくれそう。


もう、エドヴァルド様に、暗殺が怖い、なんて相談しちゃえば・・・?


そうだ。ブルドンではなく、入学前にエドヴァルド様と結婚してしまったらどうなる?

結婚済なら話は違ってくる?


その場合、すぐ結婚式は無理だから、頑張って1年後か2年後・・・。


「・・・」

アリアは、自分の心が全く躍っていない事に気が付いた。

知らずため息をついていた。


自分はエドヴァルド様を恋愛対象としていない。その意味ではブルドンも。

偽装結婚に前向きになったのは、所詮、嘘だから。本当に結婚、と言われたら躊躇ためらっただろう。


暗殺は嫌。

だからってエドヴァルド様と、時期を無理に早めてもらってまで、頑張って結婚?


「まだ、余裕があるから考えよう・・・」


ブルドンとケーテルの、急に花が咲きだしたあの空気が羨ましい、とアリアは思った。


16歳で無事に庶民となって暮らす事が目標だった。全てそこから始まるはずと思っていた。恋も含めて。

なぜなら、その時点でまだ16歳。全然遅くない。そう思っていたし、多分そうなりたかったのだ。


「とりあえず、一人でもできる不祥事を頑張ってみようかしら・・・。思いつくところから・・・」


***


夕暮れ近くになり、アリアは階下に降りた。

上機嫌のブルドンと、照れて焦っているケーテルに、そろそろ帰りましょう、と告げてお別れになった。


帰宅後、ケーテルに、話し合いはどうだった、と聞いてみる。


『将来結婚する前提でお付き合いしてください』と申し込まれたとケーテルは言った。


だけど、ケーテルは赤い顔をしながら泣きそうになった。

「私は相応しくありませんわ。その、私が、余計な事を言ってしまったばかりに・・・申し訳、ありません・・・」


「悩んでいるのは、身分差?」

「はい。それに、とても私自身が相応しくありません」


身分のことはブルドンも自分も考えるし力になる、とアリアは話したが、ケーテルはそれでも態度を変えない。自分は相応しくない、と繰り返す。


アリアは、疑問になった事を尋ねた。

「ケーテルは、ブルドンお兄様の事が、本当はそこまで好きではなかったりするの? その、ちょっと褒めたらブルドンお兄様が過剰反応して困っている、という状況だったり・・・」


ケーテルが困惑して口をつぐんだ。

アリアは丁寧に言った。

「もしブルドンお兄様の気持ちが重くて負担なら、私がばっさり『ケーテルはお嫁にあげません』って言うこともできるのよ」

その意味での身分差に屈しなくて良い。


ケーテルは少し俯いた後で、アリアを見た。

「・・・ブルドン様のような方は、理想だと、その、思っておりましたの。とても穏やかでお優しい方ですから」


おぉ。

アリアの脳裏に、ブルドンの笑顔がパァっと浮かぶ。

良かったですわね、ブルドンお兄様。


ケーテルの話を聞いてみると、やはり内心は嬉しいようだ。


ただ、ケーテルは身分で悩むよね、とアリアも思う。


***


その日から、ブルドンからの連絡が急増した。


翌日。

事前で手紙で知らせた上、ブルドンが屋敷にやってきた。

アリアとお茶、と見せかけてケーテルに会いに来たのだ。


その翌日。

町にお出かけのお誘い。

アリアは予定があったので、ケーテルを使いに出すという形でケーテルを送り出した。

一応、正直に嬉しいかケーテルに確認した上だ。とはいえ、仕事中なのにそんな、と言うので、帰りにアリアに菓子を買うという指令を持たせて納得させた。


ちなみに侍女はケーテル以外もいるので、その意味ではアリアは困らない。


しかし自分はなぜここまでお膳立てしてあげているの。とアリアは思ったが、親しく信頼する2人だからこそ、協力したいと思ってしまう不思議。


さらに翌日。

アリアに会えなかったいう理由で、再び町にお誘い。

丁度『3日ごと』にあたる日なので、アリアも町に出てあの家で会った。勿論ケーテルも連れて。


その翌日、翌々日はさすがにブルドンにも予定があったらしく、手紙だけ来た。

ただ、アリアへの手紙に、侍女にもどうぞ、と、贈り物がついていた。

1つ目は、きれいな花のしおりが2つ。

翌日分は花束だった。可愛い豪華な花束はアリアに。オシャレで小ぶりな花束はケーテルに。なお、リボンの色が、アリアのリボンは金と青の2色。ケーテルのは、情熱の赤。


ブルドンお兄様、頑張っている・・・。


なお、エドヴァルド様と共通項目が多い、とブルドン自身が言っていたが、確かに贈り物の選択がエドヴァルド様と似ている気がする。


さて、その翌日。

『3日ごと』にあたる日で、町で会った。


ちなみにこの間で、婚約者のエドヴァルド様からの手紙は1通。お茶の約束も1度。

連続で断る方が気まずいので、今回は予定通りお会いし、平和に談笑した。


圧倒的に、エドヴァルド様よりブルドンと会っている。

なのに周囲からの苦言は一切ない。


***


今日は『3日ごと』の日だ。今日もアリアは町にいる。


ブルドンとケーテルは2人でお茶をしている。

別にアリアも参加して良いのだが、なんだかお邪魔だなぁ、と思ってしまうので、つい気を利かせて退出してしまうのだ。

なお、アリアに相談されることもある。アリアも2人が上手く行けば良いと思っている。


一方で、アリアは3階の部屋から窓の外を眺めて、頷いた。

よし、町に抜け出そう。


この家の中に閉じこもって過ごすのにアリアは飽きた。外に出たい。

なお、ケーテルに言うと付いてくるから、ケーテルにも内緒。


町は平和だ。女性も一人で歩いている。

アリアも一人でも問題ない。


***


気づかれず脱出したアリアは、ニコニコ上機嫌になった。

外は天気もいい。嬉しいな。


紅茶の葉を追加購入した。頻繁にアリアの庶民用の家に来る状態だから、欲しかったのだ。


久しぶりの解放感に包まれて、アリアは町を見回てまわる。


少しオヤツを食べようかな。


なお、一応部屋には置手紙を残してきた。

『一人で町を散歩してみたかったので行ってきます! 夕方には戻るから大丈夫! むしろ一人の時間を邪魔しないでね』

と書いたので、気づいたとしても、特にブルドンが気持ちを尊重し、そっとしておいてくれるはず。


・・・あら?


アリアはふと視線を止めた。


少し周囲から浮いた人がいる、と思って見つめてみたら、見知った顔だ。


***


「ダンテ。ここで何をしているの?」

アリアがそっと近づき声をかけると、ブルドンの元・付き人、ダンテの肩が跳ね上がった。露店で買い食い中に見える。


「え!」

慌てたダンテはアリアの姿を認めた途端、周囲に目を走らせる。


「今は一人よ?」


「・・・は!?」

本当に驚いたらしいダンテが目を丸くする。

口に突っ込んでいた肉を慌てて飲み込み、

「あなたの侍女と、ブルドン様は」

と聞いてきた。


ん?


「一人よ」

「嘘です」

「本当よ」

「侍女とブルドン様は?」

「どうしてダンテは、私がブルドンお兄様と一緒だと知っているの?」


ダンテが口を閉じた。


アリアはさらに尋ねた。

「ダンテは何をしていたの?」

「・・・さぼっていたのですよ。あまりにも仕事がつまらないので。どうか秘密に」

「誰に?」

「・・・あなたの侍女と、ブルドン様ですよ」


「お仕事って買い出し? 買い物はしていないのね」

「こちらよりアリア様、お一人で出歩くなんて。侍女は何をしているんだ」

「秘密に抜けてきたの」

「侍女を撒いて?」

「そういう気分の時もあるのよ・・・あ、そうだわ、この前は本当にありがとう。ずっと探していてくれて、申し訳なかったとずっと思っていたの」


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