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ブルドンには付き人がいるはず

さすがに、婚約解消の話を屋敷でするわけにはいかない。

いろいろ考えると、庶民用のあの家で相談するのが良い気がする。


アリアは考え迷った末、ブルドンに手紙を出した。

『大切な話があるので町で会いたい』『場所は私の管理する秘密の家です』

それから『ダンテには先日、町で世話になった』ということも。


なお、ダンテはあの家の入り口の部屋で待機してもらえばいいか、と自分の中で折り合いをつけた。


ブルドンの返事は3日後に来た。いつもは当日や翌日に来るのに。忙しい?

そして会える日に、さらに5日後が指定してあった。

今までになく期間が開いている。どうしたのだろう。心配になる。


一方、ブルドンとの日を待つ間に、エドヴァルド様とお会いする日もやってきた。


初めて、体調不良を理由に断った。今、気まずくてとても会えない。


するとその日のうちに、アリアの部屋は見舞いの花でいっぱいになった。勿論、送り主はエドヴァルド様だ。


罪悪感に押しつぶされそう・・・。

後ろめたい事のあるアリアは、『エドヴァルド様が仮病に気づいて、プレッシャーかけてきておられませんように・・・』などと少し怯えた。


その翌日にはエドヴァルド様から手紙がきた。

『具合はどうですか』とこちらの体調を気遣っている。

そして、

『会いたかったけれど会えなかったのはとても残念でした。一方できみが辛い思いをしていると思うと胸が潰れそうな思いです。早く回復して、いつものようなきみの笑顔が見れるよう心から祈っています』という事と、

『ジェイクに聞いたけれど、きみは町にお忍びに遊びに行くそうですね。僕も行ってみたいです。きみと一緒に歩けたらどれほど楽しく幸せな時間になるでしょう。回復された後のお願いになりますが、どうか僕とも町に行ってもらえませんか』という内容が、非常に丁寧に美しく書き記されてあった。


アリアはショックを受けた。

兄からエドヴァルド様に、アリアの情報が筒抜けだからだ。

今更だ!


アリアが婚約解消したら兄の立場が不味いのでは。多分エドヴァルド様は兄に何とかしてくれと泣きつくはず。

という事も脳裏を駆け抜けたが、それよりも。


今後どうしよう。今からアリアは病弱設定になるべきか。両親と兄も欺き、エドヴァルド様との約束を全て断る。


あっ、その設定だとお忍びもできない!


いろいろとアリアはおののき、勉強なんて手に付かない日々を過ごし、やっとブルドンとの約束の日を迎えた。


***


待ち合わせは噴水の広場。

のんびりケーテルと一緒にお忍びの恰好で待っていたら、現れたのはブルドンだけだった。


あら? ダンテは?


「ごきげんよう、ブルドンお兄様。あの、お一人なのですか?」

「うん」

ブルドンは少し苦笑した気がする。

「今日は私一人だ。何か欲しいものがあれば私が買って来てあげるよ」


「まぁ。ブルドンお兄様にそんなことさせませんわ!」

冗談だと分かったので、アリアはクスクスと笑いながら答えた。

「構わないよ」

とブルドンも面白そうに笑む。


ブルドンの好みも確認の上、今日はシフォンケーキをオヤツに決め、ケーテルに購入を指示する。

紙袋を持って戻ってきたケーテルと共に、アリアは、ブルドンを自分の庶民の家に案内した。


***


「ここが、アリア様のドールハウスだったんだね」

「ご存知でしたの?」


「ジェイク様が昔、言っておられた」

「まぁ。兄は、私の事を皆さんに言いふらしていませんか?」

アリアの憤慨ふんがいに、ブルドンは苦笑した。


「言いふらしているわけではないよ。ただ、ジェイク様もアリア様が可愛いし、私も聞いて楽しいし、例えばエドヴァルド様はむしろアリア様の話をお望みだから」


今までは構わなかったけれど、これからはちょっと困る。


「ブルドンお兄様、早速相談なのですが」

「うん」


アリアは身を乗り出した。


なお、目の前のテーブルには、シフォンケーキと紅茶がある。向かいにブルドンが座っている。

ケーテルは、アリアの勧めで、一旦下がってもらった。

今日はブルドンがいるのでさすがに一緒のテーブルでお茶はマナー的に不味い。だから、他の場所でケーテルはお茶を楽しむように指示をした。


と思っている間に、ケーテルが戻ってきた。

すぐ食べ、仕えるために戻ってきたのだろう。真面目で優秀だ。


「あの。まず先にお伝えしておきます。ケーテルですけれど、私、ブルドンお兄様から聞いた未来のお話も全てケーテルには打ち明けて相談しています。心から信頼しています」

「・・・そうか。優秀な侍女だね」

とブルドンはそんな風に言った。アリアは表現に少し違和感を持った。


・・・確認してみる? やっぱり気になる。


「・・・ブルドンお兄様、実は。ご相談にあたり、ダンテを今日は連れておられない事は、私として有難い事だったのです。この家は私の隠れ家なのですから。ただ、それをお伝えしておりませんでしたのに、どうして、今日はお一人で来られましたの? その、お伺いしても?」

「うーん・・・」


ブルドンは腕を組み、急に難しい顔になった。


「まぁ、言っておこうか。実はダンテは、もう少し、下積みから経験させるべきだと判断した。だから、私の付き人から外したんだ」

「・・・まぁ」


「・・・色々、彼の態度には気になっていたんだ。私との相性の問題なのかもしれない。確かに優秀だけど、下積みから育てる必要があると判断したんだ」


アリアは妙に納得した。

ダンテは確かにブルドンがいる時、色々と違和感を持つ態度だった。ブルドンこそが主人なのに。


「アリア様たちを町で助けたそうだけど・・・。うん、確かに彼は悪い人間では無いはずだ。ただ・・・」

ブルドンは言い淀んでため息をついてから、告白した。

「私の事を馬鹿にしていると思える。基本的に」

「・・・えぇ」

アリアはブルドンのために頷いた。理解したと。


「言いづらい込み入ったことを聞いてしまい、申し訳ございませんでした」

謝るアリアに、ブルドンは苦笑した。

「理解してくれたみたいで、少しホッとした。・・・実は、このところ、この事で忙しくしていたんだ。あの、アリア様。少しだけ、私の愚痴を聞いてもらっても良いだろうか」

「えぇ。どうぞお話しくださいませ」


「ありがとう。実はね」

ブルドンが少し目線を下げ宙を見て、真剣な顔だ。アリアは聞く。

「・・・はい」


「『倒れるまで』は、気になっていなかった。だけど、『倒れた後』から、私は色々と不満を持った」


つまり、前世を思い出したから。


「『私』は、あまりにも周囲に馬鹿にされている。勿論その感情は隠されているけれど、にじみ出ているんだ。父や母は勿論、屋敷の使用人たちも、学園の友人たちさえもだ。皆が私について、『アリア様の腰巾着で甘い汁を吸う、家柄しか取り柄のない、自分より馬鹿』と、思っている」

「私はそんなことは思っておりませんわ・・・」

「その事も分かっているよ。私の知るきみは、私を『優しい気の合う従兄弟』と慕っている」

「えぇ」


ブルドンは息を吐いた。

「理由について考え、強いて思いつくならば、私と同じ年齢の者には家格の高い、かつ優秀な者が多いという事だ。エドヴァルド様を筆頭に。確かに彼らは優秀だ」

「・・・」


「ダンテも、私を馬鹿にしている者の一人だ。前の私の付き人は、私が幼いころから私を可愛がり、愛情を持って接してくれていた。だから差を余計に感じるのかもしれないけれど、ダンテは傍にいると不快になってしまう。優秀だし、倒れた時もよくやってくれた。それは理解するよ。だけど無理だ。・・・聞いて欲しい、ただの愚痴だって分かっている」

「えぇ」


「実は私は今も怒っている。理由は、執事の態度だ。ダンテを他の仕事に回し下積みから、と話した時、執事の一人が私に言った。『では付き人は誰に?』と。私は『しばらく一人で良い』と言ってやった。すでに態度に腹が立っていた。その執事が、『お一人ですか? 失礼ながらブルドン様、誰かは必要でございましょう?』と言った。言葉は丁寧で正論かもしれない、だけど、私を馬鹿にした態度だった。明らかに嘲笑していた。私がその態度は何だ、と怒ると、向こうは憤慨ふんがいした。『この私にそのようなお言葉、一体どのような非があるというのでしょうか!?』って。口先だけが完璧だ。だけど態度で見下している。被害妄想ではない」

「・・・えぇ」


怒りに顔を赤く染めたブルドンは、ふと肩の力を落とし、紅茶に口をつけた。


「申し訳ない。少し気が済んだ」

「どういたしまして・・・。こういっては何ですが・・・少し分かるところがあります」


「アリア様にもこんな経験が?」

意外そうにブルドンが目を丸くする。


「いえ、あの。・・・ブルドンお兄様という存在が、妙な特例に思っておりまして・・・。それで、お話も、何だか納得できる心持ち・・・と言いましょうか」

「やっぱり」

ブルドンが息を深く吐いた。


「アリア様のお陰で少し落ち着いたよ。屋敷にも友人にも、私のこの苛立ちは理解してもらえそうにない」

「そうなのですか・・・困りましたわね」


アリアはふと、傍に控えるケーテルに視線を向けた。

ケーテルはアリアがこのタイミングで見たことに驚いたようだ。


試しにケーテルに、ブルドンの印象を聞いてみる?

ケーテルは悪く言うはずは無い。

とはいえ、万が一という事もある。ブルドンに追加ダメージを与えたら取り返しがつかない。


「相談事があるというのに私の愚痴からで申し訳ない。でもありがとう。それで、本題に入ろう、アリア様」

「はい」


アリアは一瞬考え、単刀直入を心がけようと思った。ブルドンの愚痴で時間が過ぎたからだ。


「私、不祥事を起こして、可能な限り早く、エドヴァルド様との婚約を解消したく思いますの」

「・・・。あー」

と、妙にブルドンは納得するように頷いた。


「ブルドンお兄様とケーテルに、どういった不祥事が良いかを相談したいのです」

「・・・そうか。アリア様が、思い付いた案はある? 例えば、でも良いのだけど」


「実は・・・。愚痴をお聞きした上で言うのも何なのですが・・・私、ブルドンお兄様とだけ、会い放題で違和感を持ちましたの。つい、私がブルドンお兄様と恋に落ちて、駆け落ちしたらどうするのかしら、なんて。捕まると思いますが、エドヴァルド様との婚約は無くなりますわ」

「なるほど。・・・不祥事か」


ブルドンが思案する様子に、アリアもケーキを食べる。

美味しい。幸せ。


ブルドンがケーキを食べ終わり、紅茶を飲み、ソーサに戻し、真顔でアリアを真っ直ぐに見た。

「アリア様。偽装結婚しよう。教会で署名だけで良いはずだから」


思わず瞬いたアリアに、ブルドンは真剣だった。

「アリア様はエドヴァルド様との早急な婚約の解消を。私は、私を見下す周囲の価値観をくつがえすから」


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