嘘なんてうそ。
四月一日。
桜が満開に咲き誇る最高の一年の始まりの日。
「呼んでごめんね」
「あ、うん」
同級生の坂出潔。しっかりした系の男子で勉強ができるおとなしめの性格。しっかりしているから、学級委員とか似合いそう。
今日はいつにもまして学生服がキレイに見える。
「あのね・・・・私、潔君のことが・・・・」
宇野晴子はつい、ウジウジして下を向いたが、この一言だけはしっかり目を見て言わなければならない、と思ったので勇気をだして顔をあげた。
「好きなんだ」
「・・・・・」
潔はまるで時が止まったかのように動かない。
そして、しばらく沈黙の時が流れた。
晴子がこの時、どれだけ胸を痛めたか、潔は知ったもんじゃない。
「・・・・・・な」
「な?」
「・・・・な、な~んて・・アハハビックリしたでしょ?」
晴子はこうやってごまかすことしかできなかった。晴子は笑っているつもりでも乾いた笑いになっている。
(きっと失恋してしまった・・・・関係が変わってしまうのが怖い・・・)
潔はそんな心情も知らず、ホットして失笑しながら、動きを再開させた。
「そうだよな・・・今日エイプリルフールだもんな・・・」
(そ、そうなの??)
晴子は潔のことを思いすぎて今日が何の日か分かっていなかった。
エイプリルフール・・・それは嘘をついてもよい日。
(なぜこんな日に・・・)
「う、うん、そうだよ・・・ウソだよ」
潔は「良かった」とまるで今日長いドラマの収録が終わったばかりの俳優ばりに笑顔を見せた。
しかしその時、晴子の胸にはざわめきしかなかった・・・・。
♡・♥・♡・♡・♥
〈晴子〉
「晴子~!!同じクラスになれたね!良かった~」
「はらはらしたね」
「う、うん」
二つしばりの大き目な目が印象的なムードメーカー、門松純子ちゃんと長いストレートな黒髪の温厚な南愛子ちゃん。私たちは小さな頃から友達だった。それは今でも。
仲良しなので、一時三人のことを「三大っ子」と呼ばれたこともあった。
三人とも「子」が付いているから。
久しぶりに会ったというのになぜかしっかり喜べない。
「どうしたの?晴子、私たち二年連続同じクラスになったんだよ?嬉しくないの?」
「そうだよ、三人崩れずだよ?」
「うん・・・・」
やっぱり、潔君のことが気になってしまう。
視線は潔君ばかり見てしまう。どうしてだろう?
「晴子・・・やっぱり好きなんだ」
「え?」
察しのいい純子ちゃんは私の顔を見て、いたずらした時のような微笑みをした。
「わたし、応援するよ」
なんにも言ってないけど・・・。
そして、誰のことなのか。
「え?何のこと???」
恋愛に疎く、鈍い愛子ちゃんは一人で混乱。
その間に純子ちゃんは私に耳打ちした。
「潔でしょ?好きな人」
「ええええええっ?」
愛子ちゃんみたいに私も混乱。
「なんでそうなるの?」
「思いはきちんと伝えないとだめだよ?後々後悔するからね」
それを聞いて、ドキッとしてしまった。
まるで私の心を見透かしたように。
あの告白を「嘘」と言ってよかったのか。
あれを「嘘」と言うのなら、私の潔君への思いも「嘘」ということになる。
そうじゃない。
この思いは本当。関係を悪化させたくないからそれだけの理由で私のこの思いを「嘘」って言ってはいけない。
「晴子ちゃんの好きな人って誰なんだろうな~」
愛子ちゃんの呑気な声に心の中で「潔君」と答える私だった。
〈潔〉
本日エイプリルフール。
今日嘘が飛び交う中、まさかの嘘告白をされた。
告白をしたのは宇野晴子。おとなしく、それなのに陰での努力を惜しまない。
しかも、気遣いができる女の子らしい、女子。さらさらの黒髪をみつあみにして、丸眼鏡の奥の瞳はまっすぐと物を見ている。
「よっ、潔、久しぶり~」
「おう・・」
相変わらず元気いっぱいの宮澤勝成である。こいつはいつまで経っても多分子供なんだろう。
今日は新年度始まりだというのに友達とじゃれあっている。
今日も俺、巻き込まれてしまったけど・・・。
・・・・今日はなぜかなんだか落ち着かない。
なぜか視線が晴子ばかりに注いでしまう。無意識で。
・・なぜ、俺はこんなに視線を注がなければいけないんだ?晴子のことはなんとも思ってなかったのに・・。
そして、たまたまその晴子とパチッと合ってしまった。
晴子はそれに気づき、プイッとどっか向いてしまった。
なんでなんだろう・・このドキドキ・・・テスト前でも、歌のテスト前でも、体育の授業前でもないのになんで俺はこんなに鼓動が早くなってるんだ?
それに普段はまったくかかない手汗まで・・・どうしたんだ?俺・・・
「お~い!潔、大丈夫かあ~?・・・うわあ、手、あったかあ」
勝成が勝手に俺の手を握った。
「俺、冷え性なんだよなあ・・・うらやまし~」
いや、これは手汗だから。
俺だって冷え性だし。
その鼓動と手汗はずっと続いていた。
♡・♥・♡・♥・♡
晴子はその後、また潔を屋上に呼んだ。
「また、ゴメンね・・・・・なんか私迷惑ばっかかけてんな・・」
「い、いいや、大丈夫・・」
「・・・・・・」
なぜかここでまた沈黙の時が流れた。
(ここはしっかり言わないと・・・思いが嘘になってしまう・・)
晴子はうつむいて決心を固めた。
(なんでこの顔かわいいって思ってしまうんだろう)
「あのね、潔君」
「う、うん」
二人の間には少しばかり差があった。
晴子は決心を固め、覚悟しているが、潔はなんだか少し緊張気味。
「あれはうそなの」
「へ?」
(どれのこと?)
もう、もはやいろいろ「ウソ」ばかりで潔は混乱している。
「潔君のことが好きってウソ・・・・あれはウソなの・・・本当に私は潔君のことが好き。それはウソなんかじゃないの」
晴子は言い切るともう言うことがないのでかわりに深呼吸をした。
しかし潔はそれを聞いて高速でまばたきをすることしかできない。
「・・・・・・」
また二人の間には沈黙が流れた。
(やっぱり・・私の片思いの恋はもう終わったんだ・・・・失恋、・・しちゃったんだ・・)
(なんでこんなにのどから声が出ないんだろう・・・胸が苦しい・・)
「・・・ごめんなさい・・・無理だよね」
この時、潔はこの晴子の一言でなぜかハッとしてしまった。
(これは・・このザワメキは「好き」なのか?・・・・)
しかし晴子はそのまま去ろうとする。
「待って・・・待って!!」
「何?」
晴子は振り向いた。
「お、俺も・・・・俺も好きだ・・・」
「へ?」
晴子は潔の言葉があまりにも小さすぎて聞き返した。
「だっ、だから・・俺も好きだっ」
しかしこの言葉は潔にとって結構もったようだ。
「潔君っ~」
晴子は涙を浮かべながら思わず、走って抱きついてしまった。
(は?ええええええええ?ええええええ?)
潔は心臓が口から飛び出す寸前。
「晴子っ」
「え?あっ、ごめんなさいっ!」
晴子は慌てて潔から離れた。
(わ、私はなんてことを・・・・)
顔を赤く染めた二人の春は始まったばかりである___。