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パーティーの形・7

 舐めていた。


 ”猛き土竜“に所属している剣士、セレスティーナは歯を食いしばりながら駆けていた。


 カタナを実戦で使いたいなどと言い出してしまったことが今の苦境を招いている。


 確かに、カタナは正しい太刀筋さえ出せれば桁違いの切断力を発揮する。そして練習で幾度かその太刀筋を出すこともできた。


 だから後は実戦で感覚を掴んでいけばいい……なんて考えてしまったんだ。


 しかし現状はどうか。


 軽鎧の『聖光領域』には振り回され、太刀筋は乱れ、そして今目の前にいる強大な魔物には歯牙にもかけられていない。


 身体強化は聖光領域によって追いすがる程度には発揮できている。


 だが振るうカタナは重心がブレ、ほとんど腕の力だけで振っている状態。これではただ少し鋭いだけの剣と大差が無い。


 当たり前のことではあるが、相手は動くのだ。練習のようにじっくりと腰を据えて振るう余裕があるわけがない。


 苦し紛れに上段から振るったカタナは魔物の尾のしなりに流されるように滑り落ちた。


「……っ、」


 刃を食い込ませることすらできないで一体自分にどんな価値があるというのか。


 ティアーネの放つ猛吹雪『上級魔法ブリザード・ブラスト』が魔物へと迫る。


 魔物は黒い翼を盾にして渦を巻く吹雪を防ぎつつ、そのまま空気を破裂させるかのような雄叫びと共にティアーネへと跳び上がった。


 その瞬間、魔物が苦悶の叫びを上げて振り返る。


 ツーヴァの突き出した剣が後ろ脚の付け根に刺さっていた。


 そのままツーヴァは魔物を蹴る勢いで剣を抜き、後方へ下がる。それと入れ替わるようにして人の胴ほどの太さをした光線が魔物に直撃した。


 あれはミーナの上級魔法、光子穿撃(ディバイン・ブラスト)


 魔物がブリザード・ブラストとディバイン・ブラストに挟まれて大きく体勢を崩す。


 今なら、私も……!


 カタナを鞘に戻して駆け抜け、エンチャントを起動させる。


 そして抜き放ったカタナを上段から下段に、無防備な片翼の付け根へと。


「はああっっ!!」


 捉えた!


 しかし刃が食い込んだ瞬間に強烈な抵抗感に阻まれて、刀身の中程で勢いが死んでしまう。


 どうして……! 今のは切断できていたはず。でもせめて!


 カタナに魔力を注ぎ込んでエンチャントを起動する。内容は『耐久強化』、そして『エンチャント・ボルテクス』。


 内部から電撃を流してしまえばレジスト能力を無視できる!


「駄目だ、セレスティーナ! 離れろ!」


「っ!」


 ツーヴァの声に反射的に飛び退いたが、それより早く黒翼が頭上から叩きつけられた。


「ああっ! づ、……うぅ……!!」


 地面へと叩き付けられて押し潰された私の身体が悲鳴を上げる。


 幸いにも歪曲した翼のおかげで隙間に挟まれる形となったので急所や装備はなんとか無事だった。


 だが左腕は肘から先がやられた。


 右手でなんとかカタナを動かして翼の関節部分に突き出す。


 それを嫌ってか圧力を弱めたことでなんとか脱出することに成功し、二歩、三歩と大きく跳躍して距離を取った。


「はあっ、はあっ、……はあっ、はあっ…………!」


 左腕からは激しい痛みが襲いかかってくる。それでも顔を顰めながら呼吸を整え、魔物の動きに注意を払う。今追撃されたら終わりだ。


 うっ……!?


 左腕に目をやり、思わず息を呑む。


 肘から先が逆方向に折れ、前腕の尺骨が肉を突き破って飛び出していた。肉は潰れ青紫へと変色している。


 駄目だ、このままだと回復魔法が効かない!


 今のまま回復魔法を使うと骨が固定されて左腕が使い物にならなくなる。最低でも骨の位置を元に戻さないと……!


「僕とティアーネが時間を稼ぐ! ミーナ、セレスティーナの治療を!」


 魔物を押さえつけていたディバイン・ブラストの魔法が止まる。


 魔物の咆哮が再び轟いた。


 魔物の身体から魔力が爆発的に溢れ出し、ティアーネのブリザード・ブラストをレジストして掻き消す。


 すかさずツーヴァが飛び出した。死角から眼球目掛けての刺突!


「っと! ……危ない、けどこっちもそろそろお前のスピードに慣れてきたところさ!」


 迎撃に動いた気配を察知したツーヴァが右前腕に捉えられる前に離脱して距離を取る。


 すかさず距離を詰め直すと剣を振るい、強靭な右前腕に傷を付けることに成功した。


 ツーヴァさん……もう戦いに慣れ始めている。凄い……


 セレスティーナはグッと唇を噛み締めると、意を決して左腕を掴んだ。


「ううっ!! ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!????」


 腕を引き伸ばして折り曲げ、強引に骨を中に戻して元の位置まで移動させる。


 夥しい血が吹き出し、灼熱のような痛みが脳を焦がす。それでも意思の力で無理矢理抑えつけて強引に矯正した。


「ふひっ、無茶をするやつなの。ナイス根性なの」


「はあっ、はあっ、……ミーナ、回復魔法を、お願い……」


 彼女は駆け寄ってきたミーナに顔を向ける余裕も無く荒い息を吐いていたが、すぐさま回復魔法がかけられて潮が引くように痛みが無くなっていく。


 やがて左腕が元通りになり、呼吸も安定してくると、ミーナが体力回復薬を手渡してきた。


「ふひっ、せめてもの気休めなの。どうせタダだから遠慮するななの」


「ありがとう、ミーナ。……私、悔しい」


「ふひっ。焦ったって良いことないなの。モッチーにも何か言われてたはずじゃないなの?」


「モッチーさんに……」


 ミーナの言葉にハッとした。


 そうだ、あれは……



『このカタナを使うには重心をあまり動かさないのが大事だったはずです。大振りしたり走り回ったりとかじゃなくて、摺り足とか半身になったりで最小限の動きで立ち回るんだったかな?』


『魔物の攻撃を間合いを計って紙一重で避けるなんて難しいですよね。あ、でも本職の剣士ならできるのかな?』


『とにかく心を乱さないことも大事だったかな。明鏡止水って言うのかな、雑念とか捨ててただ斬ることのみに集中するっていうか。まあ聞き齧りの知識なんですけどね』



 私はカタナを上手く振るうことだけに意識が行っていた。太刀筋を乱さないこと、手首の使い方、指の力の入れ具合……


 そのどれもが確かにカタナを振るうためには必要な意識だ。だがそれは自分自身の、内向きの意識。


 合わせて必要になるのが相手への意識。外向きの意識だ。


 いかに相手の動きを読み、躱し、体勢を維持し、十全にカタナを振るう隙を生み出すか。


 あの魔物の動きをよく見て、落ち着いて隙を窺う。そのためにもまずは相手をしっかり意識しなくちゃ!


「ミーナ、私やってみます」


「ふひっ、期待してるなの。ツーヴァも妙に逸ってて危なっかしいなの。引き際の判断には気をつけろなの」


「分かりました。なるべくツーヴァさんを援護できるよう立ち回ってみます」


 魔物を見据え、カタナを鞘に収めて駆け出す。


 まずは間合いの把握を! カタナを振るうのはその次!

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