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二人の厄介児・9

「ほう、これがドリルというものか」


「はい。こうやって螺旋になってるのを回転させて穴を開けるんですよ」


 ドリルとは何だ。その質問に答えるために資材を借りて簡易のドリルをサクサクっと作成した俺はデモンストレーションを行った。


「なるほど。このような構造の物は建築材などで見たことがあるが、それを魔法に応用することは盲点だったかもしれんな」


「できますか?」


「うむ。魔力の流れを螺旋にするのは圧縮とは違う。おそらくは容易に術式を構築できるだろう。どうだ、レナリィ?」


 ドリルを食い入るように観察していたレナリィさんに話を振ると、何やらブツブツと呟いてから頷く。


「はい、伯父様。既存の術式に螺旋を追加するのは容易ですわ。これならばすぐにでも取り掛かれます」


「ほう。魔法一つにどのくらいだ?」


「早いもので半刻。遅くとも半日で仕上げてみせます」


 これが早いのか遅いのか俺には分からないが、ゲイルノートさんは満足そうに頷くと矢継ぎ早に指示を飛ばす。


「よし、ではレナリィにはこれからすぐ試験的に術式の改造を行なってもらう。魔導士隊にも試験運用に参加するよう指示を出しておくから完了したそばから第一演習場に運べ。それから研究室は専用の部屋を用意してある。案内に従ってくれ」


 テーブルの上に置かれていた呼び鈴を鳴らすとすぐに軍服の若い男性が現れ、すぐにレナリィさんをエスコートしていく。


 俺が呆気に取られている間に執務室はゲイルノートさんと二人だけになった。


「モッチー。お前の発想力には毎度驚かされる。今回の件も良い結果が出たならばこれからの魔法の在り方が大きく変わる契機になり得るだろう。その時、竜に対する有効打の一つとなることは想像に難く無い」


「えっと、どうも。なんとなくの思い付きだったんですけど」


「思い付く。それ自体が価値のある才能だ。既存の技術をなぞって己を高めることも優れた力だが、存在しなかったものを生み出すこともまた優れた力の一つ。お前にはそれがある」


 うーん、この誉め殺し。耐えていても口角が上がってきてしまう。


 ここは話題を変えないと。


「そういえばゲイルノートさんにちょっとお願いがあったんですけど」


「……ほう? 言ってみると良い」


 一瞬、怪訝そうな顔になったがすぐに表情を戻す。


「えっとですね、俺は今、工房の人と研究開発してるんですけど、どうしても実戦での感触とか評価とか欲しくなるんですよね。けど俺たちはそういうのはできないんで、今まではウチのパーティーメンバーにお願いしてたんですけど、それもちょっと限界で。でもそれを他の冒険者に頼むわけにもいかないじゃないですか」


「ふむ」


「なので軍の方から人を貸してもらえないかなって思うんですよ」


 前にガジウィルさんと話していた内容だ。鍛治一筋のガジウィルさんと魔法も武器も碌に使えない俺ではどうしても使い勝手が分からない。


 そうなると実践できずに宙ぶらりんになっている試作品が積まれてしまうのである。


「軍の方ではすでにモッチーから齎された装備軍を試験運用する部隊を用意しているが。そのデータや要望はモッチーに渡しているだろう?」


「そうなんですけど、そうじゃないと言うか。軍に納品してる分はいろいろ試して貰えて助かってるんですけど、まだ軍に上げる前の装備は手付かずのままなんですよね」


 そう告げるとゲイルノートさんは虚を突かれたような顔をして考え込み、たっぷり十秒ほど溜めてから口を開く。


「まさかと思うがすでに開発済みの装備群があるのか?」


「はい。まあちょっとしたアイディア品とか含めるとそれなりの数はありますよ」


「なぜ軍に上げん!?」


「え。一応、実用性とか確認できたやつは上げてますよ。けど、流石に使えるかどうか分からないのは上げづらいじゃないですか」


「それでも報告くらいは入れろ。使えるかどうかは試してみれば分かる…………いや、そうか。だから人を貸せと。そういうことだな?」


 言葉の途中で俺の意図に気付いて納得する。


「はい。モルモット部隊……というか技術試験を専門に行うような部隊を作って貰えると助かります」


「なるほどな。そこに技術者も含めれば検証と報告が纏めて行える上、試験運用を一から行うことなくある程度の検証結果を踏まえた上で開始できる。時間と労力の節約を行えるということか」


 今は実践部隊に装備の検証と実戦配備への調整等を行わせているが、そこから装備の検証を別部隊に移管することで実践部隊の負担を軽減し、実戦配備を円滑に進めることができる。


 更に、モルモットとなる部隊には精鋭を配置する必要がないため一般軍人を採用し易く人材の有効活用も期待できるのだ。


「よし。ならばすぐにでも部隊を用意しよう。名称はそのモルモット……とやらを使うか。モルモット部隊はモッチーの下に付けておくから自由に使え」


「下に? えっと、つまり部下みたいなものですか?」


「そうだな。そう解釈しても問題ない。厳密には部隊長は別の者を配置する故、モッチー直属というわけではないが、自由に指示を出せるよう取り計らう」


「おおっ、助かります。ありがとうございます」


 これで課題だった実験要員は確保できた。ガジウィルさんも喜ぶだろう。


 後は魔法に詳しい人材だけど……


「それと、レナリィさんのことなんですけど」


「うむ、何かあるのか?」


「はい。色々と研究して欲しい魔法とか魔法陣とかあるんですけど、レナリィさんにお願いしてもいいんですかね?」


 最大の懸念事項だった魔法の専門家。開発する上で欠かせない人材はどうしても欲しかった。


 レナリィさんが俺の補佐と言うことになるのなら、これまでのことはどうあれ手伝って貰えると助かるのは確実だ。


「……研究、か」


「ええ。って何か不味いですか?」


 ゲイルノートさんは何やら思案するように頬杖をついていたが、徐に話し出す。


「俺はモッチーには魔法の知識が必要だと考えていた。実際、知識を貯めなければならないこともあると言っていたからな。それゆえ王立魔法研究所より人材を派遣させ、お前のサポートを任せるつもりだった」


「はい」


「だがそれはあくまで不足する知識の補充が目的であり、それ以上でもそれ以下でもなかった。……研究といったな」


「言いました」


「お前は装備だけでなく魔法まで開発するつもりか?」


「えっと。やっぱり装備を開発していく上で色々な魔法が必要になってきて」


 魔力自動回復だとか既存魔法を魔法陣に落とし込むだとか、パッと思い付くだけでもそれなりの数にはなる。


 もちろん専門家としての観点も参考になるだろうし、魔法の道具を作る以上は必要になる人材のはずだ。


 ゲイルノートさんが頭を抱えた。


 本来、魔法を一から開発するのは多大な労力と費用が必要になるのだ。既存の魔法に手を加えるのとは訳が違う。一人の研究者が人生をかけてたった一つの魔法を生み出す、それほどまでに難産なのである。


 それをレナリィ・キャンベル一人に押し付けるというのか。


 無理だ。こなせるはずがない。


 とはいえ研究者というのは貴重であり、おいそれと補充できるようなものでもない。


「とりあえず案を纏めて提出してくれ。全て期待に沿うのは不可能だが、なるべく検討する」


「はい。……なんかすいません」


「いや。真に必要となるのであればいずれはせねばならぬこと。準備は早い段階から始める方が良い」


 申し訳なくなりつつ、モッチーは軍の駐屯地を後にするのだった。

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