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二人の厄介児・7

「ちょっと、止まりなさい!!」


 箱馬車から顔を出し、貴族然の女性がこちらに向けて大声を張り上げる。


 すわ問題か、と俺たちは慌てて振り向くが、護衛の人たちや御者の表情に浮かぶのは疲労や諦観の色であり、俺たちは馬車を止めつつも困惑の色を隠せないでいた。


「あなた! そこの男! こっちに来なさい!!」


 ギロリと睨み付けているのはこっちにいる男のようだ。……男って…………俺?


 他に性別が男の人間はいない。まさかずっと先を単身で偵察してるスルツカさんでもないだろう。


 俺は嫌な予感を覚えつつ、自分の顔を指差した。


「そう! あなたよ! 早く来なさい!!」


 うげっ、なんか知らんけど標的にされてる!


 助けを求めてティアーネを見ると彼女も不安そうに俺を見ているし、セレスティーナさんに視線を移すと申し訳なさそうに目を伏せられてしまった。


 逃げられない。


 そう確信した俺は内心ビクビクしながら馬車を降り、憐みの顔で見送る護衛たちの横を通って箱馬車に向かう。


「あの、何か用ですか? 俺、何かしました?」


 恐る恐る聞いてみるが、金髪巻き毛さんは俺をジッと舐め回すように観察していて何も喋らない。それどころかますます苛立ちを募らせているように見えた。


 ふと、箱馬車内に振り向く。


「ちょっとミーナ! あなた私に嘘を吐いたんじゃないでしょうね!? どこからどう見てもどこにでもいる凡夫じゃない!!」


「ふひっ、そんな近くで叫ぶななの。耳が痛くなるなの。それにミーナは嘘は言わないなの」


「はあ!? じゃあ! こんな! 凡人が! あなたの杖を作ったって言うの!?」


「ふひっ、その通りなの。あの『重量杖』だってモッチーが作ったなの」


 何やら騒がしいが、どうやらミーナの持つ白黒の翼をモチーフにした杖が原因のようだ。確かにさっきの貴族さんが使っていた杖と同等以上の性能だし、入手経路を聞かれた結果だろう。


 ああ、なるほど。こういうトラブルに巻き込まれる可能性もあるのか。


 ただ作るだけでは終わらないようだ。周りの人間からすれば製作者を詮索するのは自然なことだろう。


 そういえば前に会合をした時もすごくジロジロ見られたっけか。それに駐屯地に行った時って結構周りの人が見てくるけど、あれって製作者が気になってたからかもな。そう考えると俺って結構有名人だったり……なんてな、そんなわけないか。


「〜〜〜っ!! まあいいわ! あなた、乗りなさい!」


 金髪巻き毛さんは返事をする間もなく馬車に引っ込んでしまったため、俺は開けっ放しのドアから恐る恐る足を踏み入れた。


 中は三人がけの座席が向かい合う形になっており、空間的なゆとりがしっかりと確保されている。物の価値など分からないがきっとどれをとっても高価な代物なのだろう、まるで新品のように光沢を放っていた。


 俺はニマニマしているミーナにムッとしつつも並んで座っている二人の対面に腰を下ろす。


 するとすぐに扉が閉められ、箱馬車が発進した。


「ふひっ、柄にもなく緊張してるなの。実家と思って楽にすればいいなの」


「いや、楽にって言われてもよ……」


 ゲイルノートさんやレインさんの時とは違うのだ。あの二人は最初から歓迎してくれていたし、貴族としてはかなり丁寧に対応してくれた。だからこそ緊張感はだいぶ薄れたし、すぐに慣れることができた。


 けど目の前の女性は違う。


 何やら癇癪もちっぽい言動だし、何をするか分からない怖さがある。そんな貴族と相対するのに緊張せずにいるなんて無理ゲーだろう。


 そんな彼女は俺をずっと睨んでいる。そして徐に口を開いた。


「名乗りなさい!」


「は、はい! 冒険者で鍛治師見習いのモッチーです」


「そ。私はキャンベル侯爵家四女、レナリィ・キャンベルよ。覚えておきなさい」


「はい!」


 侯爵家……確か上から順に公爵、侯爵、伯爵、辺境伯、子爵、男爵、準男爵、士爵の並びだったはずだから二番目の階級だ。……あれ? もしかしてゲイルノートさんより上??


 内心で慄いているとレナリィさんは傍に無造作に置いていた魔法石を掴んで放り投げてきた。


 咄嗟にキャッチする。おそらくこれはさっきのグレイブレードモンキーから剥ぎ取った魔法石だろう。


「証明しなさい」


「へ?」


「証明! しなさい!」


「証明!? 何を!?」


「あなたがミーナの杖を作ったことをこの場で証明しなさい!」


 思わずタメ口を返してしまったが、レナリィさんは気付かなかったのか気にしなかったのか重ねて命令してくる。


 魔法石で証明……ということは内部刻印をしろと言うことだろう。杖制作で一番難しいのもそこだし。


 とはいえ揺れる馬車でミーナの杖レベルの刻印を入れるのはちょっと無理があるのだが。


「あの、せめて馬車を止めてもらえませんか? さすがに揺られながらだと失敗するかもしれないので」


「何? 本当は出来ないからって言い訳でもしてるの!?」


「え、いや、精密作業だから落ち着いた場所でやりたいというか……」


「ほら! やっぱり嘘なんでしょう!」


「ええぇぇ……そんな無茶苦茶な」


 なんていうかすごく勢いがあるってか話を聞かないというか。とにかく面倒そうな臭いがぷんぷんしてくる。


 ……やべえ、この空間はやべえ。


 ただでさえ目の前の貴族さんが厄介そうなのに隣にはその友人の厄介者、ミーナがいる。一人でも大変なのに、二人がかりになられると俺ではどうしようもない!


 チラリ、とミーナを見るが相変わらずニヤニヤしながら成り行きを楽しんでいる。


 どうにかこの空間から抜け出さなければ。


「それじゃあ刻印するんで終わったら戻っていいですか?」


「それは私が決めることよ! いいからさっさとやりなさいよ!!」


 くそう、ガミガミ言ってきやがって。こうなったらとっとと刻印してさっさとオサラバしてやる。


 俺は二人の事を頭から追い出し、馬車の揺れも無視して魔法石だけを睨み付けた。


 刻むのは魔力安定化、威力向上、魔力許容量増加。それを体積の許す限り極限まで刻み込んでいく。


 時間にしてどのくらい経っただろうか。


 異様に集中できたおかげでいつもより早く、ミスなくこなすことができた。正直、会心の出来である。


「よし、終わりと。これでいいです……か……?」


 顔を上げるとレナリィさんが口を開けたまま固まっていた。


 これはどういう反応なんだろうか。読めない。


 俺も何を言えばいいのか分からず固まっていると、レナリィさんの口がゆっくりと引き結ばれていく。


 ギロリと俺を睨み付けたその目には一瞬だけ涙が浮かんだように見えた。




 そして俺の頬を握り拳が直撃した。

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