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二人の厄介児・5

「何かあったようですね」


 ふと、セレスティーナさんが声を上げた。


 ネアンストールまでまだ二時間程度の距離で先行するスルツカさんからハンドサインがあったのだ。


 その内容は『判断求む』。魔物や盗賊の襲撃ではなく、安全の判断に迷う状況。


「前方で戦闘中だ。箱馬車が一、護衛が三。魔物が八以上」


「魔物の種類はなんでしょう?」


「Cランク。グレイブレードモンキー」


「! それはいけません、加勢に向かいましょう。スルツカさんは先行してコンタクトを取って下さい」


「了解した」


 言うが否や早駆けで馬車をみるみる引き離していく。


 俺はそれを見送った後、疑問を口にする。


「グレイブレードモンキーってどんなのですか?」


「牙や爪が剣のように鋭くなっている猿ですね。また後頭部から腰にかけて生える鬣は硬質で一本一本が針のように鋭く危険です。身体強化によって高い速度を発揮するので特に後衛職には危険な魔物です」


「へえ。魔法を使ってきたりは?」


「特に無いですね。その代わりに必ず群れになって襲ってくる性質があります。連携力も高いので突出してしまうと袋叩きになりますよ」


「うわぁ、なんか危険信号ビンビンなんですけど。ティアーネ、護衛お願い!」


「ん。任せて」


 最強戦力の最強美少女に助けを求め、自分は絶対ティアーネのそばを離れないよう心に決めた。男の面子より安全第一だ。


 それに変に動き回って足を引っ張るわけにはいかないからな。


「ふひっ。男らしさ皆無なの。けど潔さだけは評価してやってもいいなの」


「それは褒められてるのか貶されてるのかどっちなんだよ。……ま、なんとでも言うといいさ。俺は命が惜しいからな」


「ふひっ。変態、むっつりスケベ。足手まといの貧弱おつむなの」


「待てコラ。罵倒しろなんて言ってねえよ都合良すぎかお前の頭は」


 緊張感の無いミーナと言い合いしながら俺たちの馬車は戦闘区域に差し掛かった。






 現場ではスルツカさんが馬上から剣を振るい、二匹のグレイブレードモンキーを相手取っている。しかし見る限りでも十体以上はいるように見える。


 すぐさまセレスティーナさんが飛び出してスルツカさんの援護に向かう。そしてミーナとティアーネが先制の魔法の構築に入った。


 いつものようなゾクリとする魔力の高まりは無く、すぐさま魔法が展開されて二つの魔法が発動する。


『アイシクル・スピア』。二メートルにも及ぶ氷の槍が八本射出される。


『シャドウ・エッジ』。一メートルほどの漆黒の刃が都合二十、連続して放たれる。


 双方とも狙いは護衛と思しき者たちを囲んでいるグレイブレードモンキーたちだ。


 命中したのはその内の数本で、三体を討ち倒すのに成功する。またそれによって馬車を狙っていたグレイブレードモンキーたちの視線が俺たちに向けられた。


「ふひっ。こうやってターゲットを取れば馬車が狙われにくくなるなの」


 思ったより余裕ぶっているミーナからの解説が入る。相変わらずの不敵な笑みで数の不利など微塵も恐れていないようだ。


「なるほどな。……けどこれこっちが集中攻撃されるんじゃね?」


「ふひっ。この程度の雑魚にやられるミーナじゃないなの」


「頼もしいね、全く。で、俺は?」


 問いかけにミーナはこっちを振り向くとニンマリと悪い笑みを浮かべ口の端を釣り上げてきた。


「ふひっ。死ぬ気で生きろなの」


「うぎゃああぁぁ! そんなこったろうと思ったわこんちくしょうがぁ!」


 俺は慌てて槌を構えて抗戦の構えを取る。……ティアーネの後ろで。


「ふひっ。後衛を盾にするななの。ティアーネの肉壁になるのがモッチーの仕事なの」


「ん、大丈夫。モッチーはやらせない」


「うおお、天使だ。ティアーネ、頼むぞ! ……そしてミーナ、この悪魔め!」


「ふひっ。くすくす、なの」


 ギャーギャー喚いている間にもグレイブレードモンキーたちはじわじわと包囲網を構成していく。その数はいつの間にか二十を超える数に膨れ上がっていた。


「ってちょっと待てちょっと待て、なんかめちゃくちゃ増えてるんだけどなんだこれ!? この辺ってそんなにモンスターが出ないって話だったんじゃないのかよ!」


 前方も後方も敵、敵、敵。しかもCランク。命の危機を覚えるには十分だ。


 恐れ慄いていると真横を黒髪がふわりと通り抜ける。


「きっとたまたま群れで移動してきたのでしょう。それよりモッチーさん、グレイブレードモンキーの弱点は火と氷、雷系統です。皆さんにエンチャントをお願いします」


「セレスティーナさん!」


 スルツカさんの援護を行っていた彼女はこちらに合流して後方の担当に回ってくれる。そしてスルツカさんも少し後退して前方を担当する位置についた。


 そして自然とミーナとティアーネが左右に陣取り、モッチーを中心に守る隊列が出来上がる。


 俺は四方を守られたことで少し冷静さを取り戻し、スルツカさんと馬車の護衛の三人にエンチャント・ボルテクスを付与した。


 そして自身の槌にはエンチャント・ファイアを付与して威嚇する。


「さ、さあ来るなら来い。いや、来るな! 燃やすぞ!」


「ふひっ。落ち着いて静かにしてろなの。ミーナたちには格下なの」


「お、落ち着けったって……」


「ふひっ。やれやれなの。いつもとメンバーが違うくらいでビビるななの」


 言うが否やミーナが放ったシャドウ・エッジが近くにいたグレイブレードモンキーを切り裂く。


 またティアーネの放つ中級魔法エターナルフリーズが瞬時に凍結させ絶命させる。


 セレスティーナさんの剣に触れた途端に痺れて動きを止めたところで急所を貫かれ。


 持ち味のスピードを上回って振るわれるスルツカさんの剣が一撃で頭を貫く。


 四人の高ランク冒険者たちは鎧袖一触で殲滅を開始した。


 やっぱ強え……


 普段から彼女らの戦いぶりは見ていたが、前衛の二人は特別優れた武装をしているわけではなく、装備が充実しているラインさんやツーヴァさんに比べると安心感という点で段違いに劣ってしまうのは間違いない。


 また魔法使い二人は典型的な後衛タイプで接近されるとどうなるか分からない。


 そうした理由から不安を覚えていたモッチーだが、目の前で行われている安定感のある戦いぶりに相手がCランクモンスターの群れであるにもかかわらず落ち着きを取り戻し始めていた。


 スルツカさんもセレスティーナさんも伊達にBランクまで到達してないってことだな……。くそ、こんな頼もしい人たちが守ってくれてるのに何ビビってたんだよ俺は。


 槌の柄を握りしめ、グレイブレードモンキーを睨みつける。


 ビビってる場合じゃねぇ!


「ここで引いたら男が廃るってやつだよな!」


「ふひっ。無理してないで大人しくしとけなの。モッチーにはまだ早いなの」


「応! ……っておいぃ!?」


 奮起したところにいきなり水を差されて思わずズッコケそうになった。


 だが冷静に考えればミーナの方に理があるのは容易に理解できる。何も自分が前に出て戦わなければならない状況じゃないのだ。


 俺たちがコントをしている間にも一匹、また一匹と着々と狩り進めていく。


 もう少しすれば殲滅も完了するだろう。そう感じ始めた時、馬車の方から大声が響き渡った。

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