二人の厄介児・4
指定された川沿いの場所には十匹のフォレストウルフが群れを成していた。
「よし、じゃあスルツカさんとセレスティーナさんは打ち合わせ通りにフォローをお願いします」
「了解した」
「はい、お任せください」
戦闘準備を整える二人に声をかけ、モッチーは槌を構える。
今回は複数相手だから二人に手伝ってもらうことになった。攻撃はせず、俺に狙いが集中しないようフォローしてくれる段取りとなっていて、倒すのは俺の役目だ。
そして残りの魔法使い二人は別の役目がある。
「ミーナは回復役ね。……すぐ回復してくれよ? すぐだからな? 頼むぞ?」
「ふひっ。心配するななの。仕事は手を抜かないなの」
「本当かよ。ってかさっきは回復しないで笑ってたくせに」
「ふひっ。戦闘が終わったら急ぐ必要はないなの。急ぐのは戦闘中だけなの」
「なるほど、確かにそう言われればそうだな……ってなるかい! 痛いんだから急ぎじゃい!」
「ふひっ。注文の多いやつなの。仕方ないなの」
どこまで本気なのかわからないミーナに念を押しつつ、ジッとこっちを見て話しかけられるのを待っているティアーネに声をかける。
「ティアーネはフォレストウルフが逃げ出さないように誘導してくれ。倒さなくていいからな?」
「ん。任せて」
いつものようにティアーネと握り拳をコツンと合わせ、俺はミッションを開始した。
フォレストウルフたちは水を飲みに来ていたみたいで俺たちは速やかに包囲を成功させる。当然すぐに気付かれるが、背に川がある以上奴らの逃げ道は限定されていて逃げ出す個体はいない。
「よし、エンチャント・ウインド!」
すぐさま槌に風を纏わりつかせて攻撃態勢を整えると、俺は一番近くにいるフォレストウルフに先制攻撃を仕掛けた。
腰だめに構え、横薙ぎの一撃を振り抜く。
ヴォン、と重く強い風が吹き抜ける。
槌はフォレストウルフの眼前を通過したが、エンチャントされた風の力が体を吹き飛ばした。
後方にいた個体にぶつかり、二体を巻き込みながら川に転落する。
「おおっ、いいじゃん!」
たぶんダメージは無いけど、これならさっきみたいに腕を噛まれることも無さそうだ。なにせ攻撃がそのまま防御にもなるんだから。
エンチャント一つで一気にやり易くなったな。
「しゃあっ、まだまだ行くぜ! 片っ端から叩き潰してやるぞ!」
そこからの戦闘は非常にスムーズに進んだ。
接近されそうになったら風で飛ばして、一撃でも当てれば倒せてしまう。複数体に囲まれないようスルツカさんたちが立ち回ってくれてるし、ティアーネが目を光らせてるから逃げられる心配もない。つまり俺は実に自由に戦えるわけだ。
なかなか当てられないものの当たれば勝ちというのは楽なもので、俺は少々時間をかけつつもやがてフォレストウルフの群れを殲滅することに成功した。
「よし、大勝利! これにて依頼、完!」
最後の一匹を倒し、槌を頭上に掲げて宣言する。
俺は一度もダメージを受けなかったし、初依頼にしてはなかなか上手くこなせたのではなかろうか。
「ふひっ。『完!』じゃないなの。好き勝手してごり押ししただけで内容は落第レベルなの。もっと頭を使えなの」
「うぐっ」
「ふひっ。めちゃくちゃに飛ばすからスルツカとセレスティーナが誘導に苦労したなの。ティアーネも氷の壁を作るのが大変だったなの」
「ゔえぇ」
「ふひっ。立ち回りが下手くそで何度も攻撃を受けそうになってたからミーナもサボれなかったなの」
「ぐぐぐ……っておい、サボろうとしてたのかよさっきの台詞はなんだったんだおい」
ツッコミを入れつつ、確かにその通りだと反省する。
連携とか考える余裕なんて無かったし、攻撃を喰らわないようにすることしか考えてなかった。
うーん、やっぱちゃんとした戦闘の練習ってのをしないと駄目だな。足を引っ張らないようにならないと。
とはいえそっちに力入れてる場合じゃないんだよな。
考えていると袖をくいくいと引っ張られる。そっちを見るとティアーネがくりくりの目で見上げてきている。
「モッチー、解体しよ?」
「おう。ティアーネ、ありがとうな。俺、もっとちゃんと戦えるように頑張るわ」
「ん」
ふわっとした笑みを浮かべたティアーネが俺の手を握って引っ張っていく。
俺たちが雑談してる間もスルツカさんとセレスティーナさんがフォレストウルフの死体を集めてくれていて、計十体が綺麗に並べられていた。
とはいえほとんどが頭が吹き飛んでてスプラッタな光景になっているのだが。
「さて、モッチーさん。今度は失敗しないよう慎重に行きましょうね」
「はい、了解です」
今回はセレスティーナさん監修の元でティアーネに手伝ってもらいながらの作業だ。
毛皮を剥がして内臓を処理し、肉を解体して積み上げる。
衛生面も川にいくらでも水があるので安心だ。まあ無くてもティアーネの魔法があるのだが。
そうして前の一体と合わせて十一体分の素材を剥ぎ取り、不要な内蔵や血などを埋めて解体を終えると俺たちは帰路に着く。
馬車は狼肉の生臭さが充満していて、俺たちは前側に固まって乗り込む。
スルツカさんは一人で馬に騎乗して先行偵察に向かう。……のだが、今回は珍しく出発前に話しかけてきた。
「モッチー。預かった試作品を返却する」
そう言って左腕に装着していたガントレットを外し、俺に差し出す。
このガントレットは以前にガジウィルさんと試作した『シールド』の魔法の発動媒体であり、今回試しにと持ってきていたのだ。
……本来はモッチー自身が使う予定だったのだが、スルツカさんが戦闘に参加するということで渡りに船と試運転をお願いしたのである。
「使い勝手はどうでした?」
「悪くない。強度はそれほど高くないが選択肢の一つとしては十分に機能する」
「なるほど」
どうやらなかなか気に入ってくれたみたいだ。そうするとスルツカさんのフルアーマー冒険者装備作成計画に組み込んで良さそうだ。
軽鎧とガントレットは後は仕上げるだけだから、残りは剣と杖か。例の魔導剣、そろそろ何か進展があればいいんだけどな。
杖の性質を持った魔法剣は未だ開発が難航していて、今は気分転換にと別の実験に手を出している。とはいえ普段から思考は重ねているのだが、何らかのとっかかりすら得られないでいた。
それもこれも魔法や魔法陣についての知識が不足しているからであり、今持っている蔵書でも役に立ちそうな情報は得られなかった。
「良かったらそのまましばらく使いますか? それで気付いたこととか改善点なんかがあれば教えてもらえると助かります」
「……ならこのまま使わせてもらう。礼を言う」
「いえ、こちらこそ実験に協力してもらえるのは助かります」
スルツカさんはそのまま偵察に向かい、会話が膨らむことは無かった。相変わらず会話が少ない人だ。
俺たちはネアンストールに帰還するため街道に戻り、東に向けてゆったりとした歩みで進む。
すでに終わったつもりでミーナを中心にワイワイガヤガヤと姦しくしていた俺たちだが、その途上で大きな出会いがあろうとはこの時は想像だにしていなかった。




