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二人の厄介児・3

 斥候のスルツカさんがハグレのフォレストウルフを発見し、俺たちは取り囲むように散る。


 とはいえ全員で狩ろうというわけではなく、逃走防止のためだ。


「さて、これが俺の本当のデビュー戦なわけだ。華々しく勝利で飾らせてもらうからな」


 これまで狩猟に同行してエンチャント要員にはなっていたけど、実際に自分で戦うのはこれが初めて。立ち回りなんかは何度も眺めてきたからシミュレーションできるし、後は実際に身体を動かせるかどうかだ。


 フォレストウルフは体長一メートルほどの狼で、若干緑がかった体毛をしている他は特に目立った特徴は見受けられない。爪や牙も普通の狼と同程度だし、本当に身体強化くらいしか差異がない様子。


「油断大敵」


「分かってるって、ティアーネ。それにいざという時は助けてくれるんだろ?」


「ん。任せて」


 自分より小さい女の子に守られるのは男として情けないけど、ティアーネは一線級の魔法使いだし、それに頼りにされるのが嬉しいみたいで今も口元を綻ばせている。


 まあ守られてばかりじゃなくて自分も少しは強くならないとな。


 槌を右手に握りしめ、フォレストウルフに対峙する。


 最初は大きな一撃で一気に攻めるか、それとも細かい連撃で牽制するか……


 犬歯を剥き出しにしながら威嚇してくるフォレストウルフを注意深く観察しながら攻撃のタイミングを図る。


 先に動いたのはフォレストウルフだ。


 一気に距離を詰め、頭に喰らい付こうと飛びかかってきた。


「どわっ!?」


 俺は慌てて横に飛んでその一撃を回避し、すぐに体勢を立て直して構え直す。


「……とと、いきなり来るとびっくりするな。けど次は俺のターンだからな!」


 さらに追撃を掛けようとしているフォレストウルフに今度はこちらから仕掛けた。頭を狙って右から槌を振り抜く構えを取る。


 だがここで俺は一つの失敗を犯していた。


 当然フォレストウルフとて動くのだ。俺が狙いを定めていた場所にはすでに頭部は無い。


 間合いの内側に潜り込んでいたフォレストウルフがなぎ払おうとしている右腕に牙を突き立てる。


「うおっ!? で、あいっでええぇぇ!!」


 バクリと噛み付いたままその牙をさらに深く抉り込ませようとしている。


 ここで慌てて無理に腕を引こうとしなかったのは正解だった。俺はパニクッた頭でも漫画の知識で無理に抜こうとすると千切られることを思い出したのだ。


 たた、対処法はなんだっけ!? ……そうだ、逆に押し込めばいい……って押し込むってどうやるんだよ!? ええい、ままよ! なんとかなれぇ!!


 槌を手放し、フォレストウルフに噛み付かれたままの右腕を地面へと叩き付ける。


 当然、先に地面にぶつかるのはフォレストウルフの体だ。


 悲鳴を上げ、牙が腕から抜けた。


「今だ! 倍返しだこの野郎!」


 モッチーの筋力が異常に高かったおかげでフォレストウルフはダメージが大きくふらついている。


 左手で槌を拾い上げ、そのまま大上段から頭に向かって叩き付けた。


 強烈な打撃音が響き、赤い飛沫が飛散する。


 手に返ってきた感触は硬い物を破砕する手応えと地を叩く反動だ。


 最も打撃力を持つ武器である槌はモッチーの持つ異常な筋力によってフォレストウルフの頭部を破砕させるに至っていた。


 周囲には血と肉片、脳や眼球などが散乱する。


「うえっ、スプラッタ……。うー、痛て……ミーナ、回復魔法ー!」


「ふひっ。早速やられてるなの。ぷぷ、なの」


「う、うるさいな。ちゃんと勝ったからいいだろ!? それより早く治してくれよ痛いんだって」


「ふひっ。仕方ないなの。『ハイヒール』なの」


 治癒魔法によって右腕の痛みはみるみる引いていき、やがて傷口も綺麗に塞がった。


 手をグーパー動かしてみるが違和感はない。きっちり完治しているようだ。


「ありがとうミーナ。ばっちり治ったぜ」


「ふひっ。朝飯前なの。もっと死にそうな怪我しても大丈夫なの」


「おう、そうならないよう頑張るわ」


 誰も好き好んで怪我などするわけがなく、モッチーも例によって怪我などしたくないわけで。もっと慎重になろうと心に決めた。


 とりあえずセレスティーナさん監修の中でフォレストウルフの解体を行い、当然のごとく失敗しつつ、先ほどの戦闘について振り返る。


「んー、やっぱり動く相手に当てるのって難しいんだな」


「そうですね。特にモッチーさんの武器は槌ですから細かな動きは不向きです。相手を近づけないよう立ち回りながら隙を作っていくのが良いと思いますよ」


「なるほど、確実に一撃を当てられるように詰めていけってことか。……あれ、実は上級者向けですか?」


「一対一で戦うのならそうなりますね。でも仲間と上手く連携が取れれば破壊力を最大に活かした戦いができますし、技量が低くても活躍できる場はありますよ」


「連携かぁ……」


 個人的には某ハンティングゲームみたいに巨大モンスター相手にタイマンで渡り合ったり、某無双ゲームみたいに大群を薙ぎ払ったりしたいんだけどな。ああいうのってゲームだからこそか。


 いや、待てよ。この世界には魔法があるんだから魔法的な何かで再現できたりしないかな。例えば中に爆発系の刻印入れてインパクトの瞬間に起動、爆破ダメージを与えるとか。


 けどどうして今まで誰もやってないんだろうか。そういう刻印が無い? いや、『聖光領域』とか『防御結界』とかでも誰もやってなかったし、技術的な問題?


 そういや割と簡単に組み込めたにしてはみんな驚いてたよな。もしかして鍛治師スキル先生のチートとかだったりするのか。それとも単純にそこまでこの世界の魔法が発達してないとか。


 ……いやいや、考えたって仕方ない。とりあえず案は保留して今は戦闘の反省を……、って!


「しまったぁ!」


「!? どうしました?」


「あ、いや、エンチャントかけるの忘れてたんですよ。せっかくエンチャントだけは使えるのに……」


 いきなり大声を出してセレスティーナさんをびっくりさせてしまったが、彼女は少し考えると頷いてアドバイスをくれる。


「モッチーさんは全種類のエンチャントが使えるんでしたね。それならばエンチャント・ボルテクスやエンチャント・ウインドなどはお勧めですよ」


「エンチャント・ボルテクスってセレスティーナさんの魔法剣と同じですよね。確かに掠っただけでも効果があるから強さが分かりやすいですね。けどエンチャント・ウインドですか?」


「ええ。攻撃範囲が広がりますし、魔力を強く込めれば避けられても風の力で無理矢理に相手を吹き飛ばして距離を稼ぐことができます。モッチーさんはまだ小技に慣れてませんし、向いていると思いますよ」


「なるほど、弱点を突くだけが能じゃないってことですか。……ってことは刻印魔法も使う人間によってバリエーションを持たせる方がいいわけか。属性だけじゃなくて性質そのものも扱う人間によって最適解が変わってくる、と。とはいえこの辺は俺には分からないことだから誰かにヒントってか要望とか貰って専用カスタマイズしていくのがベターか」


 よくよく考えればゲームでも戦う相手や戦闘スタイルによって性能の違う武器を使い分けたりするし、なんなら武器に空きスロットが付いてて自由に強化できるようにもなってた。それってつまり製作陣の意図よりもプレイヤーの想像力のバリエーションの方が多いってことだし、当たり前っちゃあ当たり前の話なわけだ。


 うーん、俺とガジウィルさんだけで考えるのも限界なんだよなぁ。そろそろ新メンバーも欲しいし、やっぱり現場で試してくれる人がいると助かるんだけど。命懸けの仕事をしてるみんなに頼むのも気が引けるんだよな。


 けど鍛治師ギルドと防衛軍から機密扱いになってるし、冒険者ギルドで依頼出して冒険者に試してもらうってわけにもいかないんだよね。


 ……一度ゲイルノートさんに相談してみるかなぁ。もしかしたら訓練時間に何人か貸してくれるかもしれないし。言うだけはタダってね。


 とりあえず今は目の前の依頼を片付けないとな。


 思考を一旦脇に置き、次なる獲物を探して移動を開始した。


「さて、残りのフォレストウルフもバリバリ狩りますか」


「ん」


「ふひっ。せいぜい負けないように頑張れなの」


「ふふ、初心者の頃を思い出しますね」


 三様の保護者を連れ、一人黙々と職務を遂行しているスルツカさんの後を追う。姦しくしながら。

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