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冒険者を始めよう・4

 夕方になって宿屋へ“赤撃”のメンバーが戻ってくる。早速とばかりにラインさんたちにパーティーへの参加をお願いしたら拍子抜けするほどあっさりとオーケーをもらえた。


「なんてったってエンチャント・ホーリーライトを使える人間は貴重だからな。死霊系モンスターに特効のある武器ってのは希少なんだ。もちろんホーリーライトを使える魔法使いもな」


 とはラインさんの言。光属性を持つ魔法使いは少ない上、ホーリーライト系を使えるのはその中でもさらに少数であるらしい。ほとんどが教会に所属しており、高額で派遣してもらうのが常だそうだ。


 教会……宗教か。テンプレでいくと悪さしてそうだから警戒対象だな。なるべく距離を置くことにしよう。


「双剣使いとして言わせてもらえば、手数が多い分属性付与による恩恵も大きくなる。魔力を流すことで属性を付与する属性剣もあるけど、身体強化に回す魔力が減るからあまり使いたくない。それに属性ごとに剣を持ち替えるとなれば荷物が多くなるからね」


 熱心に語るのはツーヴァさんだ。彼は身体強化で速度を上げ、敵の攻撃をかわしながら豊富な手数で攻め立てるのを得意としている。それゆえに速度の低下は命取りとも言えた。


 しかし速度に比重を置く分、一撃あたりの威力が低い欠点がある。エンチャントがあればその問題が解消されるため、彼の口調は非常に滑らかだ。


「私は構わないわよ。ティアとも仲が良いみたいだし」


 とはレイアーネさん。彼女は光と水の属性を持つ魔法使いで、治癒魔法を得意としている。しかしホーリーライト系は使えないらしく、本人はそれを気にしていたそうだ。


「たしかにティアが気に入ったってんならなおさら断る理由はないわな」


 ああそうだ、とラインさんは顔に似合わぬ笑みを浮かべる。


 俺は気に入られたのだろうか。確かに面白いとは言われたし、仲良くなれてるとは思うけど。


「そうだがそれだけじゃねえ。ティアは昔から他人に心を許さなくてな。それも理由があるんだが……」


「いいわライン。私から話すから」


 ラインさんの補足をレイアーネさんが引き継ぐ。二人とも少し話しにくそうにしているが、一体なんだろう。


「ティアはね、忌み子なの」


「姉さん」


「ティアーネ。いずれは知られるのよ」


 顔を青くするティアーネは初めてみた。身体が小刻みに震えている。


 なんだ、忌み子ってなんのことなんだ?


 あれだけ感情の起伏がないティアーネがあんなに取り乱すなんてそれほど重い内容なんだろうか。いや、逆か?


 辛いからこそあれほど感情が薄くなったのか。だとしたら相当に重いぞ。


「ティアーネは両目の色が違うでしょう?

 これは魔王を呼ぶ呪われた目だとして恐れられているの。この目のせいでこの子は幼い頃から迫害されてきたわ」


「やめて」


「両親からは虐待されて育児放棄もされた。村のみんなにはいないものとして扱われた。行商人に売り払われそうになったこともあるわ。なんとかやめさせたけど」


「姉さん、やめて」


「幸いこの子は魔法の才能があった。だから私はこの子が成人したその日に村から連れ出したの。でもどこに行ってもこの目は嫌われる。生きていくには冒険者になるしかなかったの」


「やめて!」


 堪え切れなくなったティアーネがついに声を荒げた。涙を浮かべ、肩を震わせている。姉を見上げる目には恐怖の色が見えた。


 なんだよそれ。オッドアイだからってそこまでされなきゃならないのかよ。ティアーネは何も悪くないじゃないか。


 だめだ。せっかく綺麗なオッドアイなのに曇らせてしまうなんて勿体ない。それにオッドアイが呪われてるなんてあるわけがないだろう。本当に呪いならそう決めたふざけた神をぶっ飛ばしてやる。


「それで呪われてるというのは本当なんですか?」


 答え次第では俺の敵は魔王だけじゃなくなるかもしれない。場合によっては神を殺せる装備も開発しなければならない。


 そんな黒い考えを巡らせていたが、レイアーネさんから返ってきた答えはあっけらかんとしていた。


「迷信よ、ただの。私なりに調べてみたけど、魔王が現れてから生まれた妄言だわ。魔王への恐怖や憎しみを転嫁してぶつけてただけ」


「は?」


「でもそんな妄言を信じている人は多い。それだけ魔王への恐怖は大きいの。だからと言って許されるものでもないけど。実際にティアは傷ついているし、他にも虐げられている人たちがいる」


「そんな馬鹿な」


 中世の魔女狩りでもあるまいし……。


 ティアーネを見る。過去を思い出したのか身体を抱きしめて歯をくいしばっていた。


 やめろよ、女の子にそんな思いをさせるのは。そんな悲しい顔をさせるのは。


 っ!


 一瞬、前世のことが頭に浮かんだ。通り魔に襲われていた女性。涙を流し、必死に助けを求めていた姿。


 俺はそれを見て助けなきゃいけないって思った。そして実際に助けようとして通り魔に刺されて死んでしまった。


 あの時のことは忘れられない。


 目の前のティアーネがあの女性と被る。


 俺は自然と彼女を守らなければならない、と思った。彼女のように苦しんでいる人を助けなければならないと。


「ティアーネ」


 彼女が怯えた目で俺を見る。


 俺も今までの人間と同じように自分を嫌うかもしれない。そう考えているのだろうか。


 だとしたら的外れだ。俺にとってオッドアイは憧れ続けた特別なものだ。


 だから俺は精一杯の笑顔を見せてやった。


「俺はティアーネの目、好きだよ。とても綺麗だと思う」


「……え?」


「だからさ、魔王のせいでその目が嫌われるっていうなら魔王を倒して違うって証明してやろう。大丈夫、俺が最強の装備を作る。そして勇者のケントが魔王を倒す。それでもうティアーネは誰憚ることなくなるさ」


 努めて明るく言ってみたが、ティアーネは目を丸くして固まっている。


 やがてぽろぽろと涙が溢れ、小さく口を笑みの形にした。


「やっぱり面白い」


 相変わらず言葉少なだけど、さっきまでの陰鬱な空気が吹っ飛ぶような威力があった。


 レイアーネさんはクスクスと笑っているし、ラインさんとツーヴァさんはやれやれと言った表情だ。


 もしかしてこれは試験みたいなものだったのだろうか?


「ティアが気に入るだけのことはあるわね、あなた。これからよろしくね、モッチー」


「ま、役に立たなきゃそれまでだからな。ちゃんとやれよ?」


「心配ないさ。モッチー君ならきっと歴史に名を残す鍛冶師になれるよ」


 なんだか面映ゆいというか気恥ずかしいというか。でも受け入れてもらえるのは嬉しいもんだな。


「はい、これからよろしくお願いします!」


「ん」


 拳を突き出すとティアーネが拳を合わせてくれる。それに三人も拳を出し、五つの拳が重なった。


 ここに“赤撃”は新たな仲間を加え、後に歴史に名を残す偉大なるパーティーへの一歩を踏み出したのである。

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