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レグナムの地竜・3

 ネアンストール防衛軍におけるイベント。


 それはモッチーとレイン・ミィルゼムの間でヒートアップした武具生産計画について、様々な部門から人を集い大々的に話し合おうと計画されたものだった。


 レインが王都より帰還し、その際の交渉において騎士団派よりこのための人員を派遣させる。いささかイレギュラーなアクシデントはあったが、次席騎士がこの会合に参加しているので目論みは達成したと言えるだろう。


 また技術部の方からはたびたび革新的技術を齎してきた少年について興味の声が上がり、この会合への参加権をめぐって熾烈な争いが繰り広げられたのだとか。


 更に騎士や魔導士部隊からも少数参加しており、これは実験装備を支給されている者の中から選ばれている。


 そうして会議室にメンバーが揃った中、徐にゲイルノート・アスフォルテが口を開いた。


「ではこれより会合を始める。まずは皆に紹介しよう。これまで数々の技術を我等に齎し、ネアンストールを滅亡より救った若き鍛治師・モッチーだ」


「ど、どうもモッチーです」


 幾人もの好奇の視線が突き刺さり、モッチーは居心地悪げに挨拶する。その内容が余りにも短過ぎるのはひとえにこのような場に慣れていないからだろう。


 とはいえ高校生の時分で場数を踏んでいる者などそれこそ希少なのだが。


「まずこの集まりの主旨を説明しよう。ひいてはこのモッチーとレイン・ミィルゼムの論議に端を発している。これからどのような武具を開発し、どのように運用していくのかについて。多角的な意見を持ち寄りアイディアを蓄積しようというものだ」


 今現在、開発しているもの。


 すでに開発したもの。


 試験運用において気付いたこと。


 理想的運用論及びそれを達成するために必要な要素。


 量産コスト。


 輜重の変化及び現実的可能ライン。


 こういったことを中心に思い付くままに意見を出し、それを叩き台として案に昇華していく。


「ではまずこのモッチーがこれまで開発してきた技術を振り返り、そして今開発中のものについて述べてもらおう」


「了解です。まずはスライムの粘液を利用した魔法石の連結について……」


 この会合は技術的観点をモッチーが中心に、運用をレイン及び実験的に運用している試験部隊の面々が中心となって進んでいくのだった。









「少し待て、若き鍛治師」


 思いの外白熱した会合を終え、帰路に着こうとしていたモッチーを呼び止める声が届く。


 その声には聞き覚えがある。というより印象が強すぎて忘れ難いに近いかもしれない。


 振り返った先に予想通りの人物がいた。


「えっと、騎士次席のメリオンさん、でしたっけ」


「ああ。お前の柔軟な発想、そしてそれを実現する技術。見事だ」


「ありがとうございます。……それで何の用ですか?」


 猛禽のような鋭い眼光が真っ直ぐに俺を射抜いている。その表情からはいかなる感情も読み取れない。


 それにしても高身長だけど黒髪黒目で平面っぽい顔立ち。うん、めちゃくちゃ日本人顔だ。なんか懐かしさすら感じる。


 ……そういえばケントは今頃何してっかな。無茶とかしてないといいんだけど。


「本題としては二つある。まずは俺に装備を作ってくれ」


「はあ、それは構いませんけど。どんな物がご所望ですか?」


「軽量で『聖光領域』の発動に特化した鎧。そしてエンチャント発動媒体となる鞘を五つ」


「鞘ですか。ちなみにどのエンチャントを採用するんですか?」


「全て『耐久強化』と『切断力強化(シャープネス)』で統一してくれ。剣は全て規格を統一しているから一本をサンプルとして持っていくといい」


 そう言って腰に差した剣を鞘ごと投げ渡してくる。


 受け取った俺はその剣にふと違和感を覚えてしまった。


「あれ、この剣……数打ちの量産品ですか?」


「ほう、抜きもせずに良く分かるものだな。その通りだ。俺は戦闘スタイル上、何本も剣を使い捨てるのでな。同一の剣を揃えるためには質を求めるのは無理だったというわけだ」


 ああ、そういえばグレイグさんと戦ってる時も投げつけたり弾き飛ばされるのを前提で動いていた。……まあレインさんの解説によると、だけど。


 そうなると持ち替えるごとに感覚が違うと困るわけだ。数打ちでも重さや長さ、感覚を同一したかったのだろう。


 てか数打ちの剣で最新装備のグレイグさんと渡り合っていたのか。やっぱり化け物ですわ、この人。


「なるほど。じゃあ軽鎧と鞘を五つ、ということですね。後で採寸だけさせて下さい」


「分かった。ではもう一つの話といこうか」


「はい」


 そこで一旦、間を置いたメリオンさんがやや神妙そうな表情を浮かべて話を切り出した。


「単刀直入に言おう、ノーフミルに来ないか?」


「……はい?」


「お前の才能は素晴らしい。我等騎士団派の下でその才能を振るってみる気はないか?」


 騎士団派の下で。これってつまり魔法使い派からの鞍替えってことか。すなわちヘッドハンティングってやつでは!?


 って待て待て、そもそも鞍替え以前に俺って魔法使い陣営なのか? そういうの考えたことないけどゲイルノートさんたちに世話になってるからそういう扱いになってるのかもしれない。


 とはいえいきなりこういうこと言われても困るなぁ。今の状態に不満があるわけじゃないし。


「え、いやそんなこと急に言われても。ウチのパーティーはここを拠点に活動してますし、世話になってる人も多いですから」


「そうか。気が変わったらいつでも来ると良い」


「はあ……」


 なんだか拍子抜けするくらいあっさりと引いてしまった。日本の宗教勧誘みたくやたらめったらしつこくされないのはありがたいね。


 メリオンさんは断られたにしては特に気にしてる様子は見られないし、食い下がってこないところを見ると実はあんまり重要じゃなかったのかも。


「じゃあどこか場所借りて採寸しましょう。あと受け渡しについてもどうするかを聞いておきたいですね」


 それからモッチーはメリオンの採寸を行い、装備の生産へとシフトする。


 この時は一人の客でしか無かったメリオンだが、やがて長く付き合う相手になることをまだ知ろうはずがなかった。






 このイベントより五日の後、かつての隣町レグナムでは一つの事件が起きようとしていた。


 パーティー“赤撃”はいつものように“猛き土竜”と連れ立ってレグナム周辺の調査へ。


 モッチーは完成したメリオンの装備と試作したガントレット等の装備を軍に納品に向かっており、町の喧騒も軍の緊張もここ最近と変わらないいつもの日常。


 しかしレグナムの近郊にて調査を行なっていたAランクパーティー“豪炎の牙”がついに町に踏み込もうとしたその時、


 眠っていた怪物が鎌首をもたげたのだ。

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