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突き進む者たち・6

「結局、キングファングは見つからなかったな」


 禿頭を撫でながらラインさんが呟く。まあ簡単に見つかるとは思って無かったから気落ちは無い。


 俺たちはネアンストールに帰還後、アースジェネラルモンキーとその後遭遇して討伐したCランク・マッドゴーレムの討伐証明部位を持ってギルドへと来ていた。


 マッドゴーレムは魔法石を核として泥の身体を構成している不定形生物であり、物理攻撃に対して非常に高い耐性のある魔物だ。


 ……まあウチの魔法使いメンバーにとったらただの的でしか無いんだけどね。


 モッチーはマッドゴーレム討伐時の光景を思い出して苦笑する。


 マッドゴーレムと遭遇しても一切危機意識など発せず、ミーナが雑談しながら適当に放った影刃であっという間に五体を打ち倒したのだ。


 なんでも一定以上の実力がある魔法使いがいれば取るに足らない相手らしく、ミーナ曰く相手にするのも億劫なのだとか。なんせ金になるのは魔法石だけで普通に戦うと割れてしまうので加減も面倒。なので冒険者にとっては旨味もなく面倒で、ある意味遭遇したくない魔物の上位らしかった。


「結局、マッドゴーレムの核は割れちゃってますから金になりませんし、二パーティーでアースジェネラルモンキー十五体だけだと渋い成果ですね」


「まあな。せめてAランクモンスターの一体や二体くらいいれば良い肩慣らしになったんだけどな」


 確かに単身でAランクモンスターを下せる人間が三人もいれば今回の相手は雑魚と言っても過言ではないだろう。というか下手すればAランクモンスターが群れになって襲ってきても勝てるだろう。


 とはいえそういった認識を抱いていない人間もいるわけで。


 バタン、と机を叩く音が響く。


「肩慣らしでAランクモンスターと戦う冒険者が一体どこの世界にいるって言うんですかあ〜〜っ!!」


 顔を赤くして立ち上がったのは、以前パラゼクトスパイダーを持ち込んだ折に対応してくれた新人受付嬢ケフィナだ。


 モッチーはその場に居合わせ無かったから初顔合わせになるのだが、ラインさんや他のメンバーたちは知った顔だった。


「おいおい、目の前にいるだろう。いい加減に慣れるといいぞ」


「慣れないから、非常識、なんですぅ!!」


「はっはっは。相変わらずだな嬢ちゃん」


 受付スペースは二つ併設されているのだが、ラインはケフィナがいる側にわざと並んでからかうのを密かな楽しみにしている。大人気はないが、こうも愉快な反応を毎度返してくれると気に入ろうというもの。


 そんな裏事情を理解している他の先輩受付嬢は笑みを堪えて見守っている。もはやネアンストールギルドの恒例行事だ。


 ふとラインさんが水を向けてくる。


「で、どうするモッチー。一応依頼かけとくか?」


「うーん、正直期待できないとは思いますよ。俺たちや“猛き土竜”くらいじゃないと倒せないと思いますし」


「ま、そうだな。発見さえできりゃあ話は早いんだが」


「ですよねえ」


 何やら不穏当な会話にケフィナが恐る恐るといった声音で尋ねてくる。


「あのぉ、お二人とも。非常に、ひっじょ〜っに嫌な予感がしなくもないというかビンビンくるんですけど、何を倒すって話しているんですか?」


「何って、あれだ。死神」


「死神……? ええっと、私が知ってる死神ってのはAランクで遭遇したら生きて帰れないと言われているあの……」


「おう、その死神。キングファングだな」


「やっぱりぃ〜!! あんなのに自分から挑もうだなんて非常識すぎますぅ!」


「挑むってなんだ。サクッと狩っておしまいだぞ?」


「普通は、狩るどころか、逃げることすら、できないんですぅ!」


「その普通じゃないのが目の前にいるってこったな」


 ああ、ラインさんが非常に楽しんでらっしゃる。けど最近の躍進ぶりを見てるとこの自信のほども頷けるってもんだよな。キングファングだってティアーネがいれば瞬殺なんだし。いや、もしかしたら今ならティアーネ無しでも倒せるんじゃないか?


 ラインさん単独で戦った場合……あの防御を超えられるかどうかだけど、あの大剣なら首をぶった斬るのも不可能ではないだろう。『聖光領域』があれば身体能力の面でも遅れは取らないはずだ。


 ツーヴァさんが単独の場合……まず攻撃に当たることはないし、素早さでも上回れるから余裕で立ち回れるはず。あとはどうやってダメージを与えるかだけど、それこそ急所を的確に貫けばワンショットキルできる可能性が高い。


 レイアーネさんの場合……は、無理だな。てかヒーラーが一対一になった時点でパーティー崩壊してんじゃん。


 総じて考えると。


 うん、キングファングくらいなら楽勝だな。


 あ、俺? たぶん瞬殺。もちろん殺られる方で。


「んじゃモッチー、キングファングの件は俺たちに任せな。ノルン爺たちも協力してくれるらしいし、時間の問題だろうよ」


「ええ、お願いします」


「なに、ツーヴァの装備がかかってるんだ。むしろこっちが願いたいくらいだぞ」


「はは。一応、今の試作品でも十分運用はできますけどね。まあ紙装甲なので防御力は期待できませんけど」


 こればっかりは軽鎧の宿命だろう。いくらキングファングの毛皮で表面を覆ったところで重鎧ほどの防御力は期待できるはずもない。


 だがそれこそ当たらなければどうとでもなるというもの。ツーヴァさんの技量ならよほどの相手でもない限り対処できるだろう。


 とはいえそのよほどの相手ってのに遭遇する前に更に進化した装備を作っておかなきゃならないんだけど。とりあえずはキングファングの素材待ちだな。


 それまでの間は杖の性質を持った剣。あれをどうやって形にするか考えることが先決か。そして防御魔法を発動できる軽量な媒体。……要はスルツカさんの装備一色の開発だな。


 他にも作りたい装備は色々あるけど、あれもこれも焦って手を出すよりは一つ一つ集中していくべきだろう。





 そういえばAランクモンスターの魔法石が溜まってきたし、ティアーネの杖をがっつりアップグレードしておくかな。せめて総合値で重量杖を上回るくらいに。

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