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突き進む者たち・5

 “赤撃”と“猛き土竜”の混合パーティーはネアンストールを遠く離れた深い森林地帯にて獲物と遭遇していた。


 Bランクモンスターであるアースジェネラルモンキー。かつてティアーネの活躍により百体以上の群れを討伐した巨躯のゴリラだ。


 今回は十五体の小規模な群れであり、比較的攻撃力の低いメンバーだけで相手をすることにしている。


 双剣使いのツーヴァ、“狼藉者”ウルズ、斥候のスルツカ、魔法剣の使い手セレスティーナ、そして土魔法使いノルンの五人である。


 重戦士であるラインや最強美少女魔法使いのティアーネ、ミーナの三人は単独で容易に殲滅できてしまうため待機であり、レイアーネは支援特化なので今回は攻撃に参加していない。


「さすがに近接武器で相手をすると面倒だ。すぐにエンチャントが切れてしまうね」


 そう言って双剣を鞘に戻したツーヴァがアースジェネラルモンキー三体の猛攻を避けながら鞘に魔力を流してエンチャントを再起動する。


 再び右手で抜き放った剣で正面のアースジェネラルモンキーを真一文字に斬り裂き、振り向きざまもう一本の剣を抜きざま別の獲物に一撃を加えた。


 だがその一撃は途中で抵抗に負けて止まり、すかさず右の剣で首を切り落とす。


 本来であれば分厚い土石の鎧、そして硬い表皮に阻まれ振り抜くことすらできないはず。『聖光領域』による膂力上昇を持ってしても容易にはいかない。


 だが右の鞘に付与されたエンチャント・シャープネスの刻印によってなんとか切断することができていた。


「っとぉ」


 左の剣を引き抜こうとした刹那、ツーヴァは剣を手放して倒れ込むアースジェネラルモンキーの腹を蹴って後方に跳躍する。


 身体があった場所を三体目のアースジェネラルモンキーの巨体が通り過ぎた。無防備な背が顕となる。


 ツーヴァは右の剣を両手で構え直し、踏み込む体勢を取った。


「試し斬りしてくれと言わんばかりだ、……ね!」


 一閃。


 水平に振るわれた刀身はアースジェネラルモンキーの胴に打ち込まれ、抵抗を物ともせず振り抜かれる。


 ズパッ。


 重い音を引きながらアースジェネラルモンキーの胴体が上下に分断される。


 血飛沫を吹き、即死した肉体が地へと崩れ落ちた。


「なるほど、確かに瞬間的な火力は申し分ないみたいだ。けど魔力消費を考えると継続的にダメージを与える戦い方には向いていない。……やはり回避を重視して一撃で仕留めるスタイルになってしまうか」


 ひとりごち、突き刺したままの剣を抜き取る。その目はすでに次の獲物へと向かっている。


「そうなってくると双剣スタイルの僕にとっては両鞘のエンチャントは過多だと言える。逆に剣一本の一般的な剣士であれば一点集中ができて十二分な火力が発揮できるだろう。鞘に戻すという動作もよほどの乱戦でもなければ負担にならないし、一度エンチャントを発生させてしまえばしばらくの間は身体強化に魔力を回せる。……実用性については全く疑いようがないね」


 だが意識の半分はまだ武具の考察に割かれているあたり、生真面目と言うべきか不真面目と言うべきか困るところではある。


 そして他のメンバーたちも個々に善戦を続けていた。


 今回のメインの一人でもあるスルツカは素早い動きで囲まれぬよう立ち回り、大振りの攻撃の隙を突いて急所を一撃で仕留めている。身のこなしから攻撃精度まで非凡な能力を見せつけていた。


 セレスティーナはノルンとタッグを組み、魔法によって土石鎧を剥ぎ取り剣でトドメを刺すマニュアル通りの戦いで着実に数を積み上げている。


 しかしながら“狼藉者”のウルズだけはひたすら一体のアースジェネラルモンキーとステゴロで殴り合っていた。


「……なんつうか、ホントに何やってんのあの人」


 それを見てモッチーは思わずツッコミを入れる。


 素手で戦う問題児という評判だったが、まさか策も何も無く真正面からぶつかり合うなんて想像の範囲外だ。


 せめてナックルガードくらいつけろよ、と言いたくなる。その上防具は魔物の毛皮を使った防御力の無さそうな軽鎧なのだから始末に負えない。


 それにモッチーだけではなく、他のメンバーも同様の感想を持っているようだ。いつも張り合っているラインさんがやれやれと首を振る。


「ま、あいつは命知らずの馬鹿野郎だからな。だが実力はあるんだ。素手であれだけやれるヤツはそうそういねえな」


「ってことは武器を持ったら覚醒してもっと強くなるとか?」


「……いや。武器の扱いは素人だし、魔法も身体強化くらいしかまともに使えねえ」


「………………」


 駄目じゃん。伸び代もないじゃん。


 そうやってウルズが殴り合いを続ける合間に他のメンバーはどんどんと数を削いでいっている。


 特に『聖光領域』のブーストがあるツーヴァの殲滅スピードは圧倒的だった。複数体を同時に相手取り、真正面から斬り伏せていくのである。すでに一人で半数近くを仕留めていた。


「やっぱりツーヴァさんが一番早いですね。それだけ『聖光領域』の有無が大きいってことか」


「あの鞘もデカい。右の剣には『シャープネス』がかかってるだろう。おかげで土石の装甲を斬り裂けるから攻撃が通りやすいんだ。……こうして見るとモッチーが言ってた“まともにぶった斬れる武器”ってのが必要なんだって改めてよく分かる」


 ラインさんの大剣はさらに高い切断能力を持っているから実感も大きいだろうし、さらにこうして外から観察することで改めて認識したってことか。


 確かに急所のみならず腕や足、胴、場所を問わずに攻撃できるため、手数が非常に多くなっている。また一撃一撃が確実に力を削いでいくので討伐までの時間が非常に短縮されるのだ。


「ふむ。だとするとまず第一に考えなければならないのは攻撃力か。攻撃こそ最大の防御って言うくらいだし。『聖光領域』は絶対に外せないからそこは確定として、『シャープネス』の比率は上げとくべきかな。鞘にエンチャントするなら剣はなんでもいいんだから『ウォーター』は控えめ、むしろ無しにしていいかもしれないな。最悪、剣が折れても交換すりゃいいんだし」


「ほう、なかなか実戦的な考察だな。俺もその意見に賛成だ。予備の剣にしても余裕のあるパーティーメンバーに携帯してもらうって手があるし、なんたって相手を倒せなきゃ継戦だけできてもジリ貧になってやられるだけだ」


「そうなっちゃうとせっかく強化しても意味がないってなりますよね」


 と言うことはまずは攻撃力をどうにかすることが最優先事項か。まあ予想通りっちゃ予想通りだけど。


 やがてアースジェネラルモンキーの群れは駆逐され、ウルズが最後の一体との死闘にようやく終止符を打って戦いが終わる。


 結局、十五体のうち八体をツーヴァが。スルツカが三体、セレスティーナとノルンのタッグが三体の結果となった。


 今回は待機組が解体を行うことになり、戦闘組が一息つけに来る。


 ちなみに今回は俺は解体免除だ。……たぶん毎回のようにちょこちょこ力加減間違えて失敗してるからだろう。筋力ステータスめ、ある意味いい仕事してるじゃないか……って怒られるな、今のナシナシ。


 早速とばかりにスルツカさんがやってきて感想を求めてくる。


「どうだった」


 短かっ!


「どうと言われても……。素人目にも戦闘技能が高いのはよく分かりました。身のこなしとか正確な一撃とか、アタッカーでも十分やっていけそうですよね」


「それでどんな装備が向いている?」


「うーん。スピードアタッカーなら鈍器系よりも刃物系、一撃で確実に急所を仕留めるためにロングソード系。速度を殺さないために軽鎧。……それだと今の装備になっちゃうんですよね」


 スルツカさんの装備はスタンダードなロングソードだ。恐らく順当に考えた結果としてそこに一度落ち着いているんだろう。


 だが、今の装備に不満を感じている。……なぜ?


「そういえばスルツカさんは剣技も体術も魔法もこなせるって聞きましたよね」


「ああ。特に不得手はない」


「じゃあ本当は魔法使いになりたい、とか?」


「そういった願望は特に無い」


 ふむ。確かどのポジションでもできるし、どのポジションでも構わないとかだっけか。


 じゃあなんで不満になるんだろう。与えられたポジションをこなせる装備だと駄目なんだろうか。


 ……いや、もしかして逆に与えられたポジションしかこなせないから不満、だとか? 自分の採れる選択肢が多すぎるが故の悩み、だったり?


 まさか。


「もしかしてスルツカさん、状況に合わせて近距離戦闘から遠距離戦闘、それに魔法戦までこなせるようになりたい、なんてことじゃないですか?」


「……む。確かに身に覚えがある。剣を振るう時、杖があればと考えたことが多々あった」


 うわお、やっぱりそうなんじゃないか。才能故の悩みか、くそう。


 となると解決策としては本当になんでもできる装備を提案するってことになるのか。けど剣から盾から杖までなんでも持たせるってのは流石に却下だろう。


 てことはなんでもできる装備一式を新しく作ればいい、のか。……そうだな、そういう装備ってのもあってもいいよな。


 前に案が上がっていた杖の性質を持った剣。あれを完成させればいいのか。今はまだ取っ掛かりが掴めないけど。


 それに盾ってのも一つ考えなければならないかもしれない。スルツカさんはスピードタイプだし、盾は邪魔になるだろう。現に今も持って無いし。


「ちなみに盾とかって必要ですか?」


「分からない。戦闘においては無い方が動き易い。だが状況次第では使用するだろう」


「なるほど」


 つまり負担にならない盾があった方が良い、と。いやどんな盾だよそれ。盾の時点で重量あるわ。それなら防御魔法使えっての。


 ……いやいやちょっと待て、防御魔法?


 防御魔法を使えば盾の代わりになるってんなら、防御魔法の発動体があれば盾の代わりになるってことだよな。そうか、ロボットアニメのビームシールドみたいなイメージでいいんだ。ガントレットみたいな部分に仕込めば手も空くし、多少の重量は身体強化でどうとでもなるはず。


 それなら。


「スルツカさん、一つ不満を解消できるかもしれない装備一式を思い付きました。けどまだ実現には時間がかかりそうなんで、完成したら試してみてください」


 名付けるなら、フル装備冒険者作成計画。


 腕が鳴るぜ!

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