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突き進む者たち・3

「それは鞘です」


「鞘ぁ!?」


 ガジウィルさんの素っ頓狂な叫びが木霊する。


 うーむ、そんなに変なことを言っただろうか。そんなに驚くことでもないだろうに。


「な、なんで鞘なんだ。あんなもん武器にも防具にもなりはしないただの刀身の収容具だぞ」


「ええ。だからこそ開発する必要があると思いまして」


「〜〜!? 分からん、説明しろぉ!」


 なんかここまで動揺されると逆に楽しくなってくるな。いつも冷静な分、ギャップが面白い。


「鞘って剣士は必ず持つじゃないですか。てことは戦闘中は無駄な所持品となるわけです」


「まあな。だからそもそも鞘を使わないヤツや戦闘中は投げ捨てるヤツもいるわけだ」


「あ、そうなんですか。とりあえずその辺は置いておくとして、必ず携帯するのなら何らかの機能を持たせても良いと思うんですよね」


「…………なるほど、見えたぞ。鞘に刻印を入れようってんだな」


「その通りです。せっかく『蓄魔力型魔法石』から魔力を蓄える刻印を手に入れたんだから活用しない手はないってもんですよ」


 鞘を魔力タンクの代わりにすることで何かに利用しようという発想だ。


 利用先についても一応候補を考えている。それがエンチャントだ。


 刀身にエンチャントをかける刻印を施すことで剣を強化してしまえばいい。これなら剣の材質や形状、重さを問わずに強化できるし、戦闘中も鞘に戻すことでエンチャントを再度起動することができる。


 とはいえ鞘の体積を考えれば魔法石一つに満たない性能になるだろうが、確実に効果を発揮するはず。


「だが『蓄魔力』ってくらいだ。一度使えばどこかで補給しないとならないはずだが、そこはどうするんだ」


「エンチャントの種類については自前で補給して発動するのもアリなんですが。ホーリーライトとか特効系は」


「ああ、それは確かにな。だが小僧はそれでは納得しないのだろう?」


「はい。できれば自動で魔力を補給する仕組みが作れれば、と思うんですよね。そういう魔法陣とかあったらいいんですけど」


 大気中から魔力を取り込む魔法陣は本には載っていなかったので、ひとまずこの方法は保留せざるを得ない。どこかから知識を仕入れるか、もし無ければ誰か研究者に委託しなければならないだろう。


「さすがの小僧も魔法陣までは開発できんか」


「そりゃそうですよ。そもそも俺はエンチャントしか使えないですし、魔法使いとしては落第レベルだと思いますよ」


「はっ、世界に一人しかいない全属性(オールマイティ)が何言ってるんだかな。しかしこうなるとその内魔法に長けたメンバーを呼ばなきゃならなくなるな」


「当てとかあります?」


「あると思うか?」


「ですよねぇ」


 一応、候補としてウチのパーティーメンバーも上がるのだが、実戦と研究は違うのでおそらく畑違いだろう。それに本業の狩りがあるし。


 とりあえず当てが無い以上は今ある知識だけで形を作る他ないわけで、こちらもひとまず雛形を作ってみることにする。


 刻印は蓄魔力を軸に魔力安定化とエンチャント・シャープネスを接続し、僅かに空いた領域に威力向上を入れておく。


「思ったよりも面積を食いましたね。あまりカスタマイズする幅を持たせられなさそうです」


「こっちも積層にしてみてもいいが……」


「はい、とりあえずは検証を済ませてからですね。ひとまずこれはサンプルとして保管しておきましょう。積層配置が正常に機能するかどうかもチェックしておきたいですし」


「そうだな。しかし結局のところ現状では自力で魔力を補給するしかないんだからこの程度の体積で『蓄魔力』の刻印なんぞ必要あるのか?」


 前もって魔力をプールしておける利点はあるが、『蓄魔力』の刻印面積が大きく他の刻印を入れる余裕が無い。


 重鎧のように魔力貯蓄量が多ければ十分なリターンとなるのだが、現状では刻印面積に対して効果的とは言い難いのだ。


「まあ鞘が自力で魔力補給する前提で考えてますからね。自然回復込みなら十分リターンを得られると思ったんですけど、やっぱり刻印の入手待ちですか」


「ま、こればっかりは仕方ねえだろう。だが鞘を強化する……この発想まで保留にするのは勿体ねえ。ひとまず単純なエンチャント発生装置として完成させてみようじゃねえか」


「そうですね。とりあえずは」


 保留するからといって妥協するつもりはない。むしろ試作品だからこそ無茶を詰め込んで実験台にするべきだ。


 俺の頭はすでに次の実験へと向いている。


 それはエンチャントの重ね掛け。ダブルエンチャントだ。


 元々エンチャントの重ね掛け自体は条件次第で可能だとされている。エンチャントの性質が相反せず、魔力が同質であれば良いのだ。


 例えば火と水を同時にエンチャントすれば相反する性質同士がぶつかって消滅してしまうし、ウインドと鋭利化(シャープネス)であれば共存できる。


 そして最も厄介なのは魔力そのものだ。


 同一人物が発したエンチャント同士であれば問題なく調和するが、複数の人物が重ね合わせた場合には魔力の波長が合わなければ無条件で消滅してしまう。またこの波長というのがシビアで、僅かな違いでも失敗してしまう。波長が合う人間など滅多に存在しない。


 だが今回は一人で同時に複数のエンチャントを行う。波長の問題は関係が無いし、エンチャントの選択さえ間違えなければ何も問題はない。


「で、(ファイア)鋭利化(シャープネス)か。なんでその選択なんだ?」


「なんで? って、そりゃあ格好いいからですけど。炎の剣って良くないですか?」


「いやまあ、言わんとすることは分かる。俺もガキの頃は炎と雷に憧れたもんだ。まあ現実的じゃないって知ってショックだったけどな」


「まあ普通の鉄で作るならそうですよね。けど今なら新合金があるので何も問題はないですよ」


「確かにな。……ってそうじゃねえ、組み合わせの話だ。火なら切り裂けなくてもダメージを与えられる。耐久強化と合わせる方が現実的だろう」


「そりゃあ火力上げるなら耐久強化を併用しないといくら新合金でも剣が保たなくなりますからね。けどやっぱり試作品で実戦に出すわけじゃないんだから、男のロマンで行っても問題なくないですか?」


「……お前は凄いのか馬鹿なのか分からんな。だがあくまで試作品ってぇならそれでもいいか。だが完成品では遊ぶなよ。俺たちは命を預かってんだからな」


「もちろんです」


 呆れたように肩を竦めるガジウィルさんに頷いてみせる。前にもラインさんに怒られたからそこらはしっかり弁えているつもりだ。


 その後、刻印部分を俺が、そして枠及び外装をガジウィルさんが作成する。さすが一流の防具職人上がりだけあって流れるような手捌きで完成させていた。


 しかも。


「これ、わざわざ六角形にした宝石を嵌める意味あるんですか?」


「ヘキサゴン・カットだ。嫁の好きな形でな、俺のトレードマークにしている」


「え、嫁いたんですか」


「…………いないと思ってたことに驚くわ。ま、試作品なんだから遊びを入れても構わんだろう?」


 そう言って悪戯っぽい笑みを見せるあたり、やはりガジウィルさんはこの研究会を楽しんでいるようだ。


 一旦、今日のところは検証待ちで解散することにし、ガジウィルさんはもう少し剣を打つために残り、俺は試作軽鎧を手に帰宅する。


 その道中、どうしても足りない魔法の知識、魔法の開発に頭を悩ませるのだった。

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