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冒険者を始めよう・3

「もう行くのか、モト」


「ああ。俺も一緒に鍛えてもらえない以上、早めに行動した方がいいからな」


「鍛冶師になる、か。じゃあとっとと聖剣とか作ってくれや」


「任せとけ。救世主様にはさっさと世界を平和にしてもらわないといけないな」


「簡単に言いやがって。……死ぬなよ、モト」


「そっちこそな。ハーレム作るまで死ぬんじゃねぇぞ」


「なっ!」


 秘密にしていたつもりなのだろう。虚を突かれたケントが狼狽して顔を赤らめる。


 ふふっ、馬鹿面拝んでやったぜ。一人でリア充やってたからだ裏切り者め。


 俺は何やら弁明してるケントに背を向けて、片手を上げて去ってやった。きっとケントのやつやり込められて悔しがってるに違いない。


 ただ。


 腐れ縁の俺たちにはらしい別れ方だったんじゃないかな。






 懐には準備金と称して国王から白金貨というのを1枚渡されている。この国の貨幣基準はどのくらいかわからないが、とりあえず装備一式揃えるくらいは出来るのだろう。


 とはいえ何を買えばいいか分からないし、目利きとかとてもじゃないけど出来ない。


 だから俺はとりあえず“赤撃”のメンバーに会いに行くことにした。


 彼らは明日の朝一でシルヴェストに帰ると言っていたから、まだ王都にいる。滞在している場所も聞いているので問題ない。


 王城から東へ向かい、東門近くにある宿屋を目指す。


 今の時間なら街に繰り出しているだろうけど、一人は必ず荷物番で残ると言っていた。


 宿屋の受付のおばちゃんに尋ねて名前を出すと部屋の場所を教えてもらえた。果たしてそこにいたのは色彩の違う双眸、オッドアイを持つ少女ティアーネだった。


「あれ、ティアーネ?」


「うん」


 相変わらず眠たそうな顔で迎えてくれる。正直なところラインさんかツーヴァさんがいると思ってたから意外だ。


 せっかくの王都で買い物とか行かないのかと尋ねたら小さく首を振って返された。たぶん王都にはそこまで移動に時間がかからないからいつでもいいのだろうと勝手に納得する。


「モッチー、決めた?」


 ティアーネは言葉少なだ。今さら言及することでもないけれど。ちなみに今回の意味はこれからどうするか決めた?という意味だ。


「ああ、決めた。鍛冶師になって最強の装備を作ってケントを助ける」


「……そう」


 一瞬だったがティアーネがビクリと身体を震わせたような気がした。気のせいか?


 とはいえ今から鍛冶場に弟子入りして修行したところですぐに良い装備を作れるようになるわけじゃない。見習いは雑用からって相場が決まってるからな。


 じゃあどうするか。


 実はこれももう目処は付けてある。王城で頭良さそうな人を捕まえて質問責めしてきたのだ。だから最短で鍛冶スキルを上げる方法は考えてある。


「だからさ、まずは冒険者になってレベルを上げることにした」


「?」


 ティアーネが首を傾げる。そりゃそうだ。鍛冶師になる人間が冒険者を目指すのは矛盾しているだろう。


 だが鍛冶師に限らず様々な職業においても冒険者を兼務する人間はそれなりにいるらしい。それはなぜか。


 簡単に言えばレベルアップの恩恵でスキルの練度を上げることができるからだ。


 このゲームっぽいシステムがあるのかどうかについては賭けだったが、文官っぽい人が言うにはそれなりの割合で当たり前のように行っていることらしい。上げたいスキルの練習と並行してレベル上げをすることでスキルが上達しやすくなるらしいのだ。


 とはいえ自力で戦っていれば戦闘系のスキルが多めに上昇してしまう。これだと思うようにスキルを伸ばせない。


 そこで使われる手法がパワーレベリング。


 一撃だけなら戦闘系スキルはほぼ使わないから上昇はわずかしか無く、その分他が上昇する。これを利用して上げたいスキルを選別するのだ。


 しかしその方法はパーティーメンバーに負担をかけることになる。だから仲間内などでは可能かもしれないが、基本的には高額で冒険者を雇う。つまり自ずと金持ちしかこの方法を選べない、という欠点があるのだが。


 また、敵が高レベルになると戦えない人間を守りながら戦う余裕などないので、ある程度のレベルでパワーレベリングは打ち止めとなる欠点もあった。


 とはいえ下地を作るのには最適だ。協力してくれる仲間がいれば、だが。


 “赤撃”のメンバーは受け入れてくれるのか、それが今一番の問題だ。駄目ならなんとかして他のパーティーを探さなければならない。


「ティアーネ、みんなに相談したいことがあるんだ」


「何を?」


 こてん、と首を傾げる。相変わらず何を考えてるのか分からない表情だ。


 俺にはあまり金がない。白金貨がどのくらいの価値かは分からないが、彼らを継続して雇えるほどではないだろう。それにパワーレベリングに付き合ってもらうのはかなりの負担のはず。俺みたいなズブの素人を抱えられるほど余裕はないだろう。


 しかしここで交渉を失敗してしまえば出足から躓くことになる。エンチャントはどこでも必要とされる、それだけが俺の武器だ。それを使ってなんとしてでも交渉を成功させてやる。


「俺をパーティーに入れて欲しい。パワーレベリングでレベルを上げて欲しいんだ」


「いいよ」


「勝手なことを言ってるのは分かってる。雑用でもなんでもするから……え?」


「いいよ。モッチー、面白いから」


「いい、の?」


「うん。私も一緒にお願いする」




 ……え、いいの?

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