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飛躍する者、させる者・7

 ネアンストールの冒険者たちは獲物を求めて狩場を奥へ奥へと移している。


 その中でも最も危険かつ未知の領域である最深部を探索する者をトップランカーと呼称し、称賛していたが、ここ最近ではそのトップランカーに変化が現れていた。


 最深到達距離だけで言えば以前よりトップランカーだったAランクパーティー“豪炎の牙”が頂点に立ち続けている。だが、それはあくまで偵察を重点的に行っているからであり、魔物との戦闘を極力避けたマッピング及び調査を行なっているからである。


 今までであれば間違いなく“豪炎の牙”が最有力候補に挙がるだろう。そして大多数の支持を以ってトップランカーと称賛したはずだ。


 だが今現在、ギルドそして冒険者たちの間で評価基準が変化し始めていた。


 併設された酒場のテーブルではそこかしこで話題になっている。


「聞いたか。“豪炎の牙”の噂。ついに隣町だったレグナムの跡地まで到達したらしい。さすがトップランカーだよな」


 ひょろりとした長身の優男が言えば、向かいのずんぐりむっくりの達磨男が否定の言葉を返す。


「確かに凄いがな。だがトップランカーって言うにはちょっと早いんじゃないか?」


「それはどういう意味だ?」


「冒険者ってのは魔物を狩ってなんぼだろう。いや、確かに“豪炎の牙”はAランクモンスターと渡り合える実力者揃いだが、実力って意味じゃ間違いなく他のパーティーに軍配が上がる」


「おいおい、他のAランクパーティーだってそこまで差は無いだろう。前に揉めた時にそう結論が出たんじゃなかったか?」


「ああ、そうだな。Aランクパーティーの間ではな」


 彼らの言う通り、一年ほど前に酔っ払いたちがどのパーティーが一番強いのかで揉めて大騒ぎになり、Aランクパーティー全員を巻き込んで実力を競うことになったのだ。


 結果としてそれぞれのパーティーがAランクモンスターを仕留めてきたのだが、内容を加味しても結局のところそれぞれに差は無いと結論が付けられた。


 だから優男の言葉は正しく、含みを持たせた達磨男の言葉もまた正しかった。


 しかし彼らの認識には差がある。


 それは先の戦争に参加していたかどうか、その一点だった。


 Cランク冒険者である達磨男はパーティーと共にギルドマスター率いる部隊で戦っていたのだ。そして終盤まで継戦しており、そこで目を疑うような光景を目の当たりにしている。


「お前は『氷雪の魔女』って知ってるか?」


 達磨男の口にした単語に優男は少し眉を上げ、肩を竦める。


「知ってるよ。なんでもAランクモンスターを瞬殺する魔法使いの噂だろう。だがそんな与太話、誰が信じてるんだか」


「……与太話、か。確かに俺も事実を知らなきゃ絶対に信じなかった。だがあの話は事実だ」


「事実だって? ははっ、冗談はよせよ。どこの世界にそんな魔法使いがいるってんだ。軍の英雄様だってそんなのは無理だろう?」


「そういえばお前は先週この町に戻って来たばかりだったか。だから噂でしか聞いたことなかったんだな。……ちなみに軍の英雄様たちもAランクモンスターを瞬殺できる。それどころか戦争では幾度も広域殲滅魔法を放って幾千もの魔物を葬ったとのことだ」


「はあ? おいおい、なんだよ広域殲滅魔法って。国家の切り札で一度限りしか使えないんじゃなかったか?」


 優男の知識は噂で伝わるたびに歪曲されている。本来は無理矢理性能を伸ばした杖を使い捨てにすることでしか使えない、という物だ。だがこの場でこの真実がどうであっても関係はないだろう。


「過去はそうだったかもしれんがな。今はそうじゃない。あの戦争から化け物みたいな実力者が台頭しているんだ」


「本当なのか? …………何があったんだ?」


「そうだな。俺はあの戦争に参加していた。ギルドマスターにくっついてれば生き残れるだろうと思っていたんだが、消耗が激しくなってきたところでキングファングが現れ、もはやここまでというところだったんだ」


「キングファング……Aランクの死神じゃないか。よく無事だったな」


「ああ。そこにな、現れたんだよ。『氷雪の魔女』が」


「……はあ? 本物か?」


「そうだ。彼女は恐ろしいほど強力な上級魔法で一撃でキングファングを始末してのけた。それだけじゃない。俺たちが戦っていた魔物の群れも広域殲滅魔法で一網打尽だ。おかげで俺は命拾いをしたんだ」


「マジかよ。マジで存在するのか、『氷雪の魔女』」


「ああ。そして最後に魔物の大群に斬り込んでどデカい魔法でAランクモンスターを根こそぎにしたらしい」


 優男が絶句する中、ギルドの入り口が開く音がする。


 入ってきたのはプレートアーマーに身を包んだ禿頭の大男、魔物の皮を用いた毛皮鎧を身に付けた金髪の好男子、ハッとするほどの美貌を讃えた青髪の美女魔法使い、そしてフードを目深に被り常識外れな煌びやかな杖を持った小柄な魔法使いの四人パーティー。


 ざわっ、と冒険者たちの注目が集まる。


 彼らの存在感もなかなかのものだが、それ以上に彼らが話題のまさに中心にいるからだ。


 達磨男は放心していた優男に注意を促す。


「見ろよ。あれが今、間違いなくこの町で最強の冒険者パーティー“赤撃”だ」


「何だって? じゃああの美人が例の『氷雪の魔女』なのか?」


「いや。『魔女』はフードのチビっ子の方だ」


「は? はぁ?? はあぁぁ? マジか!?」


「マジだ。ちなみに滅多にいないが、もう一人パーティーメンバーがいる。間違っても絡もうなんて考えるなよ。命がいくつあっても足りないからな」


「あ、ああ。気をつけるよ……」


 半信半疑ながらも、稚気にはやって絡んだあげく痛い目に遭ってはたまらないので目に焼き付けておく優男。


 そうしてじっくり観察したからか、フードの『魔女』の他にもおかしな点に気付く。


「な、なあ。あの大男の背負ってる大剣、馬鹿でかくないか? 普通、身の丈を超える剣を扱えないよな?」


「ああ、そういえば。あの大きさだと重量も相当だろう。いくら身体強化したってまともに振れるとは思えないな」


 禿頭の大男は刃渡りだけでも巨躯に劣らない大剣を背負っている。鞘から窺える刀身は肉厚で幅広。しかも気のせいか片刃に見える。いや、片刃で間違いない。


 そして巨大な剣とクロスするように常識的な大剣も背負っていた。


「まさか二刀流なんてことないよな」


「いや、ありえないだろ。ほら見ろ、左手に盾を持ってるだろう。……なんか形がおかしいが。典型的な前衛の重戦士だ」


「典型的な重戦士があんな馬鹿でかい大剣を使うのか?」


「………………知らん。あれについては俺の管轄外だ」


 そしてこんな風に噂をしているのは彼らだけではなく、ほとんどの冒険者たちが話題に上げていた。


 同時にある疑問について討論を交わすことになる。


 彼らは一体どのような手段であれほどの性能の武器を手に入れたのか、と。


 特異な大剣はまだ理解できるが、上級魔法を、それもキングファングすら瞬殺する魔法を放てる杖をどうやって手に入れたのかと。


 どうにかしてその秘密を知り、自分たちも入手したい。


 そのような目論見がそこかしこで散見していた。


 ちなみに実は禿頭の持つ装備一式こそが最も重要かつ秘匿されるべき機密の塊であることはここにいる冒険者たちの中に見抜ける者はいなかったが。






 果たして噂の渦中にいる“赤撃”の面々は居心地の悪さを感じていた。


 注目されるのは分かるし、様々な視線を浴びることも理解している。


 だがギルドの中でさえも馬車に装備を置いておくことができず、常に身につけておかねばならないのだ。杖一つで済む姉妹と軽装備のツーヴァは特に負担が無いが、重戦士であるラインは馬鹿みたいに重たい装備を着たままなのは非常に堪えるものがある。


 彼らは受け付けで討伐証明部位を提出する。


 補足ではあるが、仕留めた素材は基本的に解体屋へと引き渡され、そこで買取を行うのが決まりだ。ギルドへは討伐証明部位のみを提出するのが一般的だった。そして実績のみを記録するのだ。


 もちろんこれは魔王軍から削った魔物についてであり、一般的な依頼の形で仕留めた素材をそのままギルドに持ち込むこともある。


 ともあれ“赤撃”はすでに隣町のレグナムの跡地の近くまで到達しており、しかも積極的に魔物を討伐している唯一のパーティーとも言えた。


「まぁ。また随分と仕留めてきたんですね。……ちょっと、これAランクモンスターのパラゼクトスパイダーの部位じゃありませんか!? しかも四つも……これ本当に?」


 まだ若い受付嬢は目を疑うような成果に端整な顔に驚愕を浮かべる。


 普通ならAランクモンスターは周到に準備をして初めて単体を相手にするものなのだ。それを四匹も仕留めるなど普通ならありえないことだ。


 そこに隣のカウンターの受付嬢が助け舟を出す。


「落ち着きなさい、ケフィナ。最近の“赤撃”の方々はAランクモンスターを何度も討伐に成功しているのよ」


「えぇ、本当なんですか先輩? ……ああ、そういえば最近よくAランクモンスターの討伐報告を耳にします!」


「それがこちらの“赤撃”の方々なの。あと、“猛き土竜”ね」


「はあぁ……そうなんですか」


 ティアーネの持つ杖、そして“猛き土竜”のミーナが持つ杖。それらがAランクモンスターすら歯牙にかけない攻撃力を実現させていた。そもそも共に高い魔法の才能を持つ二人だ。すでにAランクですら敵ではないレベルに達している。


 だが、今回のパラゼクトスパイダーを倒したのはティアーネではない。


 戦争での借りを返すのだとラインが単独で戦い、四匹ものパラゼクトスパイダーを打ち倒したのだ。


 それによってラインは確固たる自信を手にした。それと同時にこれだけの力を与えてくれたモッチーに大きな感謝を抱いている。


 今、ラインの装備は最新の超高性能武具で構成されている。


 聖光領域によって上級魔法に匹敵する身体強化を実現させながら、畜魔力式魔法石から得られた知識によって()()()()()()()()()()、鎧そのものに魔力を蓄える性質を与えて継戦能力を高めた魔法鎧。


 Aランクモンスターの攻撃すら防ぐ防御結界を仕込み、同時に耐久強化の魔法陣を採用することで盾そのものの機能も大きく改善した魔法盾。


 そして身体強化で振るえる限界ギリギリまで体積を増やし、より強い耐久強化と切断性能、そして増えた体積分だけ威力向上の魔法陣を刻んで消費魔力低減と最大威力向上を実現させた大型魔法剣。


 これらの装備一式はかつての試作装備群よりも数割の性能アップを果たしている。


 ただし欠点として総合的な魔力消費アップによって稼働限界は変わらず、また重量が増えた分だけスタミナの消費が激しい。


 その分、攻撃性能を見れば圧倒的という言葉すら生温いほどの驚異的な威力を発揮するのだ。


 ちなみに防御力についてもモッチーのこだわりによって魔力を込めれば普通の装備よりも高い性能が発揮できるように耐久強化が調整されていた。


 そして現在では立ち回りによって大型魔法剣を両手で持つ攻撃的スタイルと、大剣と魔法盾を構える防御的スタイルの二つを敵と連携に合わせて使い分けている。


 もはや重戦士としてはワンランクもツーランクも飛び抜けた存在へと昇華していた。


 そしてラインの実力が向上することによってティアーネの負担が減り、パーティー全体の自力と対応力が大幅にアップする結果となる。


「ともあれおめでとうございます。今回の実績でAランクへの昇格条件を満たしました。近々ランクアップ試験について通達があると思います。頑張ってください」


「おう、ありがとうよ」


 手続きを終えた後、“赤撃”は帰路に着く。その途中で露店へ立ち寄ると、普段は手を出さない高価な香辛料や調味料の類を買い求めるのだ。


 日常的に消費するそれらの質を求めれば生活費が跳ね上がってしまう。だが、彼らの間ではとある事情によって容認されている。


 というのも異世界生まれのモッチーが常日頃からこちらの世界の食事に全く満足できていないからだ。


 元々の食文化の違いもそうだが、味という点についても大きな差があったためにずっと不満を抱え込んでいた。その解決策の一つが香辛料や調味料にあることに気付き、多少高額でも使用することにしたのである。


 これはもちろん飛び抜けた性能の武具を作り出してくれるモッチーへの感謝の気持ちから行われていることであり、また高ランクモンスターを討伐できるようになったことで報酬も跳ね上がって生活に大きな余裕ができていることも理由の一つだった。


 とはいえ普段の食事が美味しくなるのはパーティーみんなが利益を享受しているのだが。


 そうして拠点に帰り、武具の手入れをし、豪華になった食事を摂り、一日の疲れを取るのだが、そこに立役者であるモッチーの姿はない。


 彼は夜遅くになってから帰ってくると手早く身体を洗い、一人で食事を済ませると倒れるように寝てしまうのである。


 その日もまた食事の後、テーブルに突っ伏すように眠ってしまい、やれやれとばかりにラインが担いで部屋まで運んでいく。


 そんな姿をティアーネは心配そうに見遣り、テトテトと急いでベッドの用意をして、寝顔を眺めるのだが、笑ったまま寝てるのを見て安心して部屋を出るのだ。


「今は一体何に手を出してるのかしらね」


「ん。きっとすごいこと」


 寝室で姉妹二人、モッチーの話題が増えたのもいつものことだ。


 次の休みになればまた一緒に狩りにいく。それを妹が楽しみにしているのを知っている。いつも休みの前になるとソワソワして饒舌になるのも知っている。


 今はまだいつも通りだから、きっと次の休みはもう少し先ね。


 パーティーの躍進もそうだが、レイアーネは妹が明るくなってよく笑うようになったことを一番感謝しているのかもしれない。

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