王都、そして謁見
端的に言うと荘厳。いわゆる豪華絢爛。
儀礼服を纏った騎士が整列し、玉座から扇状に壮年の男性たちが煌びやかな服を着て並んでいる。
そんな華美な謁見の間はいまや歓喜に沸いていた。
「おお、我らこの世界に生きる民が待ち望んだ救世主様じゃ。予言は真のものであったのだな」
玉座にいる冠を被った白髭の長い老人が立ち上がり、その髭を撫でこする。
「私はこのエルネア王国国王ベルハルト・アイネン・シン・エルネアである。勇者様よ、そしてその友人よ。そなたたちの来訪を心より歓迎するぞ」
「はっ!」
「はっ!」
俺たちは片足立ちで頭を下げる。先程案内のメイドさんに教えてもらった作法だ。
礼儀については気にしないと言われたのだが、俺たちは日本人らしい右に倣えの精神で最低限は学んでおくことにしたのだ。
「今の世界の状況は非常に切迫している。魔王が現れてからというものいくつもの国々が滅ぼされ、人類の生活圏はどんどんと狭まっておる。我々も幾度となく援軍を送っているが、食い止めるので精一杯だ」
そうして戦いを続けるうちに戦力はすり減り、やがて国が飲み込まれていく。
「特に魔将軍と呼ばれる七体の魔物が非常に強力でな。それぞれ特異な能力を持ち、数多の軍勢を率いておる。魔王を倒すためにはまずこの七魔将を倒さねばならん」
そのためにはまず力をつけてもらわねばならない、とこれからのケントの強化計画について語り始めていた。
要約すると国庫の装備を与えられ、近衛騎士団の中から選抜されたメンバー20名と共に修行の旅に出るらしい。
これについてはケントが返答をしてしまったため確定となっていた。たぶん雰囲気に圧されて了承してしまったな。
そして俺については最低限の支援はする、と金銭の提供を受けることになった。それ自体には文句はないが、俺も一緒に鍛えてもらう選択肢は始めから存在してないらしい。まあその余裕がないのかもしれないけど。
その後も簡易などと言いながら俺たちから見て厳かな式典が開かれ、歓迎の宴が催されることになった。
その最中、ケントが貴族や騎士たちに囲まれてチヤホヤされるのとは対称的に、俺は壁際でその様子を眺めながらこれからのことを考えるのだった。
俺とケントは幼馴染だ。
家が近所で物心つく頃には一緒にいた記憶がある。遊ぶのもバカやるのも一緒で、ヒーローもののアニメを見てからはお互いオタクの道を歩み始めていた。
ケントは見た目も良くてスポーツもでき、性格も直情的というか困ってる人は放っておけないタイプで、よく女子から告られて付き合うこともあった。まあオタバレして振られてたけど。
俺はそこまでコアなオタクではなかったが、国民的RPGや、単騎で軍勢を薙ぎ払うタイプのゲームなどが好きだった。
ケントも俺とソフトの貸し借りをしていたくらいで似たジャンルが好きだったが俺は知っている。あいつはギャルゲーが好きだ。バレないようにしていたが、ハーレム系の18禁ゲームを巧妙に隠していたからな。
俺は高校生になると、ケントに提案して学校に内緒でバイトを始めた。そうして貯めたお金でオタクの祭典へと繰り出そうと計画したのだ。
この選択が俺たちの人生を終わらせることになる。
意気揚々と繰り出した東京の街で通り魔に遭遇し、刺し殺されることになったのだから。
「気付いたら異世界、か」
俺は柔らかなベッドに大の字になって天井を見上げていた。
ここは城内の客室でそれなりの貴族が泊まるランクらしい。それこそ一生で一度経験するか否かというレベルだ。
今頃はケントもあてがわれた部屋でスイートを満喫しているに違いない。もしかしたらこれからの冒険譚に想いを馳せているのかもしれないが。
王都までの旅の間も異世界に来た感慨に耽っていたりはしたのだが、こうして改めて考えてみればすごいことになってるな。
死んだと思ったら異世界にいて、街に辿り着いたらケントが勇者で、魔法が使えるようになって、そして王様に会って。
ケントは本当に大丈夫なんだろうか。勇者補正で強いとはいえ、魔王相手に勝てるんだろうか。勝てなかったらまた死ぬんだろ。今度は転生できないかもしれないんだぞ。
逃げ出したところでいずれ魔物たちがやってくる。それは何年後だ。何十年後だ。それとももっと早く世界は滅亡するんだろうか。
俺は生活するために冒険者になる。それだけで本当にいいんだろうか。
「俺も戦わないといけないのかな。戦う力もないのに」
正直に言ってせっかく拾った命を捨てたくない。死にたくなんてない。けれどケントが戦うってのに俺だけ逃げててもいいんだろうか。
「いや、違うか。俺には戦う力はないかもしれないけど、出来ることはきっとあるはずだ。勇者だけが全てじゃない。タンクがいてヒーラーがいてマジックキャスターがいて。色んな人が支えて始めて勇者は魔王に勝てるんだ」
俺の中で確信めいた何かがある。どうしてそう考えるのかわからないし、もしかしたらこれこそが俺がこの世界に転生した理由なのかもしれない。
俺の鍛冶師の力は支援の力。きっと魔物と戦う力を生み出す力だ。
だから俺は。
「作ってやる。魔王を倒す最強の武器とみんなを守れる最強の防具を」