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飛躍する者、させる者・4

 さて。ここまでは既存の物に既存の魔法陣を魔法剣に使う魔力回路を利用して組み合わせただけに過ぎない。


「今回、一番重要なのはあの大剣です。材質、構造、性能。そのどれを取っても可能性の塊だと思います」


「ほう、それは興味深いな。見た目には凝った装飾の大剣にしか見えないが…………なるほど。あれは模様などではなく魔法陣を刻んでいるのか。注意して見ないと気付かんな」


 それなりに離れてはいるが、ゲイルノートさんやレインさんの視力はしっかり判別できるようだ。この辺もステータスが高いからなのだろうか。


 そして意外なことに大剣に最も興味を示したのはレインさんの方だった。


「それで少年、あれの性能ってのはどういう意味だ? 見たところ柄頭どころかどこにも魔法石を組み込んでないみたいだが、あれは魔法剣では無いのか?」


「多分あれは魔法剣に分類されると思いますよ。まあ定義は分かりませんけど、魔法陣はあるし魔力を込めて初めて本来の性能を発揮できますから。……ただ魔力を込めないとただの張りぼてで普通の大剣に比べて使い物にならないんですけどね」


「なんだそりゃ。常に魔力を込めとかなきゃならんのか。実用性があるか怪しいな」


「もちろんそれを補うだけの力はありますよ。それこそ使い手次第では補って余りある、とまで言えるかもしれません」


「言ったねぇ。ならその性能のほど、見せてもらおうか」


 俺は頷きを返し、騎士の一人を選んでもらいラインさんの持つ盾を構えてもらう。


 使い方はさっき見ていたからすぐに防御結界の発動までこなしてくれた。


 非常に驚いた顔をしていたが、後で聞いた話によると使い勝手の良さと防御結界の性能に驚愕していたらしい。ちなみにその騎士は盾の正式採用を強く願い出ていたのは言うまでもない。


「ラインさん、お願いします!」


「おうよ、任せとけ!」


 大上段に構えたラインさんが防御結界に向かって大剣を振り下ろす。


 優秀かつ練度の高い騎士が展開する防御結界は先ほどラインさんが張ったものより見るからに優れたものだった。


 揺らぎなく力強く張られた結界と大剣が接触する。


「ぐう……んなくそぉ!!」


 せめぎ合いの一瞬で僅かに結界にヒビが入った。そこから身体強化の腕力を頼りに強引に押し込む。


 刀身が半分ほど結界を抜いたあたりでラインさんの動きが止まった。


 これ以上は無理と大剣を引き抜き、距離を取る。


 その光景を見てゲイルノートさんやレインさんだけでなく周りで見ていた騎士や魔法使い、技術部の面子たちも目を見開き驚愕していた。


「ラインさん、大剣はどうですか!?」


「大丈夫だ、刃こぼれ一つ無い!」


 実験時にツーヴァさんに張ってもらった防御結界で試した時はなんとか切り裂いていたのだが、やはり軍の騎士ともなるととんでもない防御結界を構築するようだ。


 実際、強固な結界を見た時は簡単に弾かれるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていたものだったが。


「少年。なぜ刃こぼれ一つ無い? あの防御結界は剣なんぞで傷つけられるような柔なモノでは無かったはずた。当然、魔法剣でも折れていたはずだ」


 そう。普通の魔法剣なら例え構造強化、耐久強化の魔法陣を組み込んでいてもあれほど強く打ち合えば折れてしまう。


 魔力を込めれば込めるほど強化できる……この認識は実際は正しくない。


 魔法剣に組み込む魔法陣の大きさ、魔法石の質、元の素材となる鉄の強度。これらの要素と共に魔力回路と魔法石の魔力許容量が重要になってくるのだ。


 例え魔法剣であろうとその点においては杖と同じ。


 魔力許容量の低い魔法剣では効果の高い強化は見込めない。


 だからこそ魔法剣は僅かな耐久強化よりも少しでも威力を発揮する属性付与が優先されてきたのである。


「単純な話です。あの大剣は上級魔法に相当する耐久強化を実現してるんですよ」


「はぁ!? なんだそりゃ、反則だろう!」


「反則って……いいじゃないですか、戦力増強になれば」


「そうだがな、事はそれだけに収まりゃしないんだよ、少年」


「どういうことですか?」


「簡単な話だ。あれだけの衝撃でも欠けねえ剣がありゃあAランクモンスターをぶった斬れる。真正面からな。……これまで剣士がどう戦ってきたか知ってるか?」


 そういえば武器の摩耗を嫌って防御の弱いところとか弱点部分だけを器用に攻撃するんだっけか。


「ええ、まあ。急所を狙った一撃離脱ですよね」


「そうだ。だがあの大剣なら手足をぶった切ってトドメまで刺さる。要はこれまでの剣士の立ち回りが全部ひっくり返るんだよ」


「ああ、なるほど。大変ですね」


 何気無しに答えたのだが、それがレインさんを沸騰させてしまったようだ。


「簡単に言うんじゃねぇえ! これまでの突き主体の訓練を全部組み直さなくちゃならねぇんだ。それに魔法剣をメインにするなら魔力の配分に温存のための隊列、魔法薬の備蓄量、発注、何から何までやり直しだ!」


 俺の頭をガシッと掴んで強引にワシワシと撫でくり回した後、大きく息を吐いて呼吸を整えた。


「全く、こういうのは嬉しい悲鳴って言うもんかね。どんな種を使ったのかは知らんが、確かにコイツは一番重要な代物だわ」


「は、はは……」


 うーん、やべえ。この後に魔法銀のことが控えてるんだけど、なんか切り出しにくい雰囲気。


 俺の内心を知ってか知らずかゲイルノートさんが核心部分に言及してくる。


「モッチー。刀身に刻まれた魔法陣の機能は理解した。だが肝心の魔法石が付いていないようだが、材質とやらにその秘密があるのか?」


 きた。流石に大剣の中に魔法石を埋め込んでるとは思わないだろうし、実際そんな事はしていない。


 ここからは俺にとっても大事な部分だ。


「はい。まず説明の前にこれから話す内容、かなりヤバいんで内密にお願いしたいんですけどいいですか?」


「ほう。決して外部には漏らさないと約束しよう。言ってみるといい」


「ではまず、あの大剣の材質についてなんですけど、全て魔法銀で作られています」


「魔法銀だと? あれ全てがか?」


「はい。魔法銀であれば魔法石を外付けする必要もありませんから」


「なるほど、魔法銀にそのような使い方があったとは。……いや待て、なぜそんなことが分かる? 魔法銀は魔力の伝達に優れたただの合金では無かったのか? どうして魔法石が必要無くなる?」


「それにあれだけの量となればかなりの大金がかかっているはずだ。いくら軍でも剣一本にそこまでの予算は出せねぇ」


 さて。ここからが正念場だ。


「そうですね。それを説明するためにはまず魔法銀がどのようにして作られているのかを説明する必要があります」


「!?」


「……おいおい、少年まさか」


「はい。お察しの通りです。俺は魔法銀の製法を知っていますし、あの大剣に使われているのも俺が作ったヤツです」


「何故だ! 何故それをお前が知っている!? エルネア王国の国家機密だぞ!」


「あ、あのゲイルノートさん、声大きいですって!」


 それにいつもなら君って呼ぶのに興奮でお前と呼んでいる。もしかしてそっちが素だったのだろうか。


 いや、それよりも周囲の人たちが何事かと注意を向けてきているのが不味い。


「そうだったな。すまない。だが説明はしてもらう。お前はエルネアで国家機密を盗んでいたのか?」


「いやいや、そんなわけないじゃないですか。自力で見つけたんですよ」


「自力だと? 王立魔法研究所が一体どれだけの歳月をかけて研究していると思っている。正直に話せ」


「だから自力なんですって。魔法銀に触れた時に気付いたんですよ。もしかしたらって」


「もしかしたらで気付くはず…………いや、まあいい。順を追って話せ。隠し事はするなよ」


 俺は頷いて事の次第を説明する。


 触った時に魔法石の感触がしたこと。銀と鉄を使うのはすでに判明していたらしいこと。試しに混ぜてみたらそれっぽくなったこと。配合率を変えたら辿り着いたこと。


 そして。


「固有スキル、鍛治師、か。聞いた事は無いな」


「俺もだ、筆頭殿。だが少年の異常な技術力の説明くらいにはなる」


「確かにな。そうでもなければこの年齢でここまでの才覚を発揮できんだろう。なにより発想力が異常だ」


 ……うーん、日本での知識も鍛治師スキルの恩恵みたくなってるけどまあいいか。別に困るもんじゃないし。


 とりあえず話を進めて乗り切ろう。


「それで製法を見つけたものの俺の手に負えないのでゲイルノートさんに丸投げしようという話になりまして」


「……確かにモッチーでは処理し切れん問題だな。軍の方で全て引き受けるがそれで構わんな?」


「はい、もちろんです。レシピはちゃんとメモしてきてるので渡しときますね」


「ああ。……モッチー、分かってるとは思うがボロを出すなよ。自分で使う分を作るのは構わんが、決して外部に出すな。問われたら軍部からの提供だと答えろ」


「はい、分かりました。親方や仲間たちにもそう伝えておきます」


 軍部で発見したことにするから、民間で生産してるのはおかしいという話になる。個人で使う分には俺が軍属なので実験だと主張してしまえばそれで押し通すことができる。


 もちろん関連付ける人はいるだろうが言ったもの勝ちだそうで、国内には軍の技術部の功績だと大々的に触れ回るそうだ。


「では肩の荷が下りたところで説明しますね。魔法銀には魔法石が混ぜてあります。魔法的な融合ではなく物理的な混合なので、もしかしたら魔法石の性質がそのまま残ってるんじゃないかと思ったんです」


「だがこのレシピを見る限りスライムの粘液に溶かしているようだが」


「粘液に溶かしても性質が引き継がれるのは杖で実証済みですよ。それでもし予想通り魔法銀が魔法石の性質を持つなら、無理に魔法石をくっ付けなくても魔法剣が作れるんじゃないかと思って作ったのがあの大剣なんです」


 剣自体が魔法石と同質ならば刻印だけでも機能するのではないか。それこそが重要な実験だったのだ。


 結果は見ての通り。つまり魔法石の部分をより形に自由が利く魔法銀に置き換えることができるのだ。


 と言っても効率は半分以下になる。不純物が多く含まれているから当然なのだが。


 予想なのだが、元の魔法石と同等の性能を発揮するには三倍の体積が必要だろう。調合比率で見ると少し少ないが、これは製作の際に粘液が蒸発し魔法石の成分が金属と同化することで魔法石の割合が上昇するからだろう。


 ちなみに鉄や銀と同化するのか原子間の隙間に入り込むのかまでは検証していない。というより検証しようが無いのだが。


「なるほどな。魔法石を使わずに魔法の武具を製作できるということか。確かに可能性の塊だ」


「はい。ただもちろん魔法石を組み込む方が効率は良いので、トレードオフの関係にはなるでしょうけど」


 あの大剣にしても魔法石をくっ付けた方が性能が良くなるのは間違いない。ただ取り回しが悪くなるので使用感は悪くなるだろう。


 そしてもう一つ。実は重要な事実があった。


「それから偶然分かったことなんですけど、鉄を耐久強化するよりも魔法銀を耐久強化する方が一定以上で性能が逆転するみたいなんですよ。もしかしたら金属によって違いがあるかもしれません」


「ほう、それは興味深い。研究所の方にも持ち込んで調べさせよう。結果が出たら報告させる」


「マジですか、ありがとうございます!」


「いや。礼を言うのであればこちらの方だ。今回モッチーの齎した技術の数々は我々の戦力を飛躍的に高める代物だ。その上さらに可能性まで広がっているなどと望外の結果と言える。そして我々の最大の問題を解決する一打となった」


「へ? 問題?」


 ゲイルノートさんによると、血気に逸り領土奪還作戦を強行しようとしている一派がいるらしく、世論が追随していてもはや止められない状態なのだという。


 だがまだ重量杖レベルの杖が四十本程度揃ったくらいで決行するのは不安があり、少なくとも十分な準備と騎士団の強化が必要だったようだ。


 そのため時間稼ぎをしていたらしく、なんと俺が新しい物を作るのを期待していたんだとか。酒場で話したことを覚えていて、ずっと働き掛けていたらしい。


 知らないところで軍にまで影響を与えていたとは。恐ろしいというかなんというか。てか俺に期待しすぎだから。プレッシャーかけないで、ほんと。


「これらを騎士団の連中に持ち込めば間違いなく量産に入る。そうなれば反攻作戦は順延、理想通りの展開だ。そして戦力の憂いは消え、騎士団には貸しを作れる。まさに万々歳じゃないか」


「はん、筆頭殿も人が悪いねぇ。焚きつけも落とし所も全部用意してやるとは」


「何を言う。元は全てモッチーから始まっている。希望を持たせ、力を与えているのはモッチーだぞ。俺は少しばかり流れを作ったに過ぎん」


「流れねぇ。さすが力ある貴族は羨ましい。……それなら俺にも一つ噛ませてもらってもいいかね、筆頭殿?」


 何かを思い付いたのか、レインさんが悪い顔を浮かべて話を持ちかける。


 なんでも王都への運搬役を買って出たいらしい。


 荷運びなんかの何が楽しいのかと思ったが、本人たちの間で疎通は出来ているらしく決定が成されていた。


 そしてレインさんは悪い顔のまま俺の方を振り向く。


「そうと決まれば少年、一つ俺のために魔法剣を打ってくれ」


「へ?」


 その提案はさすがの俺でも目が点だった。

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