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冒険者を始めよう・2

「でやあああっ!」


「ぬんっ」


 ケントの振るう剣がラインさんの構えた大盾を上段から打ち据える。


 人間が振るったものとは思えない重い打撃音が響く。


「まだまだ!」


「甘いな」


 レベル50の身体能力にあかせて縦横斜めと連撃を繰り出すが、ラインさんはそのことごとくを的確に弾き返していく。しかも右手の大剣は動かしすらしてない。


「ケントやべぇな。速すぎて目で追うのがやっとだわ。それにラインさんもガッチガチに鎧を着込んでるのにきっちり反応してるし」


「ラインは身体強化スキルを使えるからね。筋力を上げる剛力スキルのおかげで大剣と大盾を片手で軽々と動かせるんだ。防御力を上げる金剛スキルもあるから、あれでかなり優秀な重戦士なんだよ」


 俺の横で見学しているツーヴァさんが説明を入れてくれる。ツーヴァさんは軽装の戦士で、細身の身体は引き締まっており、金髪の髪をなびかせるイケメンの兄さんだ。


 今は昼食後に時間を割いて剣術の訓練をしてもらっているのだが、もっぱらケントへの指導オンリーになっている。


 というのも昨日の昼ツーヴァさんに稽古をつけてもらったんだが、俺は壊滅的に剣を扱うことが出来なかったからだ。


 なにせ剣を真っ直ぐ打ち込むことができない。刃筋を立てることができない、というやつだ。


 気付かない間に峰で打ち込んでいたり、手からすっぽ抜けたり。あまりにも酷すぎて秒で匙を投げられてしまったのだ。


「モッチー君もレベルが上がればあれくらいの動きができるかもしれないよ」


「いや、無理でしょあんなの。そもそも俺は純粋な戦闘職じゃないですし」


「鍛冶師だっけ。その職も未知なら今後の成長も未知だし、まだまだ諦めるのは早すぎるさ。それにしてもケント君はすごいね、昨日まで素人だったとはとても思えない」


 ケントは次第にコツを掴んできたのか、動きのキレがどんどんと上がっている。そして次第にラインさんも大剣を使わざるを得なくなってきていた。


 赤撃はみなレベル40台。レベルだけなら上回っているとはいえ、歴戦の重戦士を正面から圧しているのは驚嘆に値すると言えよう。


 これでまともな剣術を納めていないというのだから、勇者の力というのは末恐ろしい。


 それに比べて俺は魔法も剣も使えないとは……


 冒険者を目指すとは言っても戦う術が無いのでは話にならない。できるだけ早く自分にできることを理解しなければ、最悪路頭に迷いかねない。


 俺が焦燥にかられている間にも時間は過ぎていく。レイアーネさんが出発を告げに来ると訓練は終了になり、皆馬車に乗る準備を始める。


 俺やケントは準備することもないので乗り込むだけなのだが、ティアーネがとことこ寄ってきて木桶を渡してきた。


「モッチー、お仕事」


 そういう自身は木の筒、つまるところ水筒を二つ持っている。俺が木桶の宝石、水石というらしい、に魔力を注いで水を生み出すと、水筒に詰めて蓋を閉じる。


 今度はラインさんとツーヴァさんも水筒を持ってきて補給した。


 ラインさんは高身長で筋肉質の身体をしており、それに合わせたフルプレートも重厚で威圧感のあるものになっている。俺なんかだと動くのもままならないだろう重さがありそうだ。


「おう、モッチー。桶を借りるぞ」


 兜を外すとスキンヘッドの頭がお目見えする。デコから右頬まで一筋の傷痕が残っており、程よく日焼けした肌と相まって強者の風格が漂っていた。


 こう見えて30才というのだから恐ろしい。


 ラインさんは屈み込むと桶をひっくり返して頭に水をかぶる。


「ふいぃ、気持ちいい。ケントもやるか?」


「いえ、自分は大丈夫です」


「そうか。お前たちも水の補給はしっかりしておけよ。王都と公都を結ぶ街道は馬車の往来も多く、魔物が出現することもほとんどない。とはいえ冒険者を目指すなら万が一に備えて準備を怠ってはいかんからな」


 男臭い笑いを上げながらツーヴァさんと連れ立って馬へと跨る。彼らは常から哨戒を行っており、パーティー内では固定ポジションであるらしかった。


 俺は改めて桶に水を出すとケントと水筒の補給をして馬車に戻る。


 ここからは馬車で魔法の講義だ。


 相変わらずケントはレイアーネさんとマンツーマンのレッスンを受けていて、ずっと顔が緩みっぱなしになっている。あいつもリア充とはいえ大人の女性はまだ経験ないからな。俺は年齢関係なく経験ないけどかっこ怒り。


 でもいいんだ。


「じゃあモッチー、いろんな魔法を試してみる」


「了解!」


 なにせ俺はティアーネの綺麗なオッドアイを見ていられるんだから。




「おおっ……おおおおお!」


 俺の手には冷気を纏った短剣があった。


「使えた……魔法、使えた!」


「エンチャント・アイス、成功」


 ティアーネは頷くと小さな手でサムズアップをしてくれる。


 テンション上がって握りこぶしを向けるとティアーネも軽く打ち合わせてくれた。


「エンチャントが使えると便利。他の属性も試す」


「おう!」


 結果としてエンチャント・ファイア、エンチャント・ウォーター、エンチャント・ウインド、エンチャント・ロック、エンチャント・ライト、エンチャント・ダークといった基本属性は全て使えることが判明した。


 他にもエンチャント魔法は数多くあるのだが、ティアーネは知らないらしいので王都に行ってから調べる必要があるな。


 このエンチャントという魔法はかなり有用な魔法で、例えばアンデット系と戦う際などに味方の武器にホーリーライトを付与することで、特効を得られるようになる。他にもほとんどの魔物に弱点属性は存在するらしいので、全員が弱点特効を得られるのは計り知れないメリットとなる。


「モッチーは全属性だからひっぱりだこ」


「マジか。じゃあ路頭に迷う心配はいらないってことだな」


 やべえ、あったよ。俺にも秘められし才能ってやつが。


 てかエンチャントが使えるってことはレベル上げもかなり楽になるよな。エンチャントして後は見てるだけでいいんだし。


「モッチー、他の魔法も試す」


「ああ、そうだな。他にも使える魔法があるかもしれないし」


 テンションの上がった俺はその後もいろいろな魔法を試してみたのだが、王都に辿り着くまでついぞ使える魔法を見つけることはできなかった。

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