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ネアンストール攻防戦・8

「では我々の戦力を確認しようか」


 ここに集まっているのはギルド長スレイニン・シェイルクラフトを始め十二のパーティー。総計は五十八名。


 パーティー内訳はAランクが二、Bランクが九、Cランクが一。


 そしてその内戦闘続行不可のパーティーがBランクに五、Cランクに一。つまり戦えるのは六パーティーのみということになる。


「だがそれでも前衛陣は武器が使い物にならない者が多い。後衛も魔力に不安がある。継戦は困難だと判断せざるを得んな」


「確かにの。武器の補充はままならんし、魔法薬などと贅沢品はすでに使うて残っておらん。少なくとも魔力が回復するまで待たねばならんの」


「ふむ。回復の目処が無いとなれば無理はできんな。もはや小規模の戦いしかできんだろう」


「そうじゃな。ところで“赤撃”はまだ戦えるのかの? 主らが動けるかどうかで条件が大きく変わるのじゃが」


 水を向けられ、ラインさんが禿頭を撫でながら俺に振り向く。


「モッチー、魔法薬はあとどれくらい残ってる?」


「魔法薬ですか? ……ええっと、ちょっと待って下さい……………。十……二十……」


 しまった、空き瓶を回収して一緒に入れちまったから数えづらい。けど回収しとかないと勿体ないしなぁ、瓶って割高だし。


「えと、体力回復薬が三十八本と魔力回復薬が二十七本ですね」


 ざわ、と場がどよめく。


「なぜそれほどの魔法薬がある!? 高価な上、軍の徴収で数が出回らないのだぞ!」


 スレイニンが勢いよく立ち上がり、鋭い目で睨みつけてきた。


 他の冒険者たちも一様に驚いた表情を浮かべている。そういえば原価の割に売値がやけに高かったか。


「自分で作ったんですよ。錬成スキル持ってるんで」


「ぬ、うぅ……」


 俺の答えがよっぽど衝撃だったのか、ギルド長が押し黙った。それに代わるようにしてノルンさんが口を開く。


「のう、モッチー殿。事ここに至って説明することでもないのじゃが、錬成スキルというのは若者が容易に手に入れられるものではないぞい。長い研鑽と知識の探求が必要なのじゃ」


「へ?」


「そもそも錬成に含まれる調合は薬学分野でもあるからの。その性質や効能、加工方法など必要となる知識は膨大な量じゃ。それゆえ十年、二十年と修行してようやく手に入るようなスキルでの。錬成スキルを持つ者はすべからく医者でもあることが多い」


 そして医者と両立して調合を行うため、数を量産することが困難なのだという。


「簡単に言ってしまえばモッチー殿の年齢で錬成スキルを持っておるのは異常ということじゃな」


「はぁ、そうなんですか」


 てことは転生ボーナスみたいな感じなのかな。薬学知識なんて無いし、前世でもふんわりとしか細菌だ〜とか免疫が〜とか理解してないし。


「しかしモッチー殿がそれだけの魔法薬を用意しているのであれば採れる戦略の幅は広がるのう。ちなみに魔法薬は提供してもらっても構わんのじゃろう?」


「まあ、全部は使わないんでいいですよ。ですよね、ラインさん」


「他ならぬ師匠の頼みだしな」


 俺たちはすでに魔法薬をある程度使用していたので、中毒の危険を考え残すのは少量にすることにした。体力回復薬、魔力回復薬ともに五本ずつ残し、他は全て提供する。


 もちろん一番魔法薬を服用しているのは魔法を乱発しまくっているティアーネだ。杖の消費魔力低減効果があるとはいえ、一人で五百匹以上を倒してるからな。


 ノルンさんに魔法薬を渡し、額を抑えているギルド長が今後の作戦の検討に入った。どうやら提供した魔法薬の量は現状を大幅に変え得るほどの量だったらしい。


 兎にも角にも後衛の魔法使いたちが魔力を回復しなければままならないことから、しばらく休息を取る方針は変わらない。


 また、戦闘続行不可になった六パーティーはネアンストールへの撤退が指示された。その中には他のパーティーの退路を確保しておく、という役目も含まれている。万が一の時には退避するパーティーを先導するのだ。


 そして一部の斥候たちが国防軍の戦況を確認するため高台へと偵察に向かっており、もうしばらくすれば帰還するらしい。


 その報告次第で今後の方針を決めるようだ。


 ギルド長やノルンさん、ラインさんとAランクパーティーのリーダー二人が作戦を詰めるらしく、他のメンバーはみな一度解散する。


 俺たちも腰を落ち着ける場所を探しているのだが、周囲からの視線が多くどうも落ち着かない。明らかに何かを囁き合っていた。


「やっぱりティアーネが注目されてるね。キングファングを一撃で倒したのがよっぽど衝撃だったみたいだ」


「ツーヴァさん聞こえてるんですか?」


「まあね。それからモッチー君のことも噂されてるよ。薬師だと思われてるね」


「え」


 なんだそれ。一応、冒険者なんだけど。


 どうやら格安で魔法薬を譲ってもらえるかも、なんて下心があるらしい。残念ながら配って回るほど量産してる暇は無いんだよなぁ。


 どこを選んでも注目されてしまうので知古のある“猛き土竜”のスペースにお邪魔することにした。申し訳ないけど程の良いバリケードに利用するつもりだ。


「ふひっ、避難してきやがったの」


「察しが良くて助かるよミーナ。すまないけどお邪魔するね」


「おうツーヴァ、うちのノルン爺とラインは?」


「作戦会議中だよ、ウルズ」


 半円に座り直した彼らの向かいに俺たちも座る。


 ウルズさんの隣にツーヴァさんが座り、反対側に座った俺はちょうどティアーネとミーナに挟まれる位置になった。


 戦い続けでヘトヘトだった“赤撃”は気が抜けたように弛緩する。一番頑張ってたティアーネも半目になって、いつもより眠たそうだ。


「大丈夫か、ティアーネ。無理はしてない?」


「ん。ちょっと寝てていい?」


「ああ、しっかり休んでて。……って、ティアーネ!?」


 ぽすん、とティアーネの頭が太ももに乗っかる。なんと胡座をかいた俺の足を枕にしたのだ。


 ちょ、何このシチュエーション、リア充!? これがリア充伝統の膝枕なる物なのでは!?


 やべえ俺もリア充に片足突っ込む時が来たよこれから俺の時代が始まるのか確か人生で何回かモテ期があるらしいし俺のモテ期始まったかこれは!?


 内心パニックを起こす俺の脇腹にごす、と衝撃が走る。


「ふひっ、見せつけるななの。不愉快なの」


「いて、ちょ、脇腹を突っつくなよミーナ」


「そうですよ、ミーナ。みっともないです」


「ふひっ、ぐーで殴ったのに全然効いてないなの。生意気なの」


 目が座ったミーナのグーパンだったが、そういえば俺の身体は強靭だ。ちょっと突っつかれたくらいの感覚でしかない。


 セレスティーナさんも注意してくれるがミーナはどこ吹く風だ。ほんと太々しいやつ。


 そういえば気になってることがあったんだった。


「それでセレスティーナさんたちはどうしてギルド長たちと一緒に戦ってたんですか? 冒険者は徒党を組まないって聞いたんですが」


「それは……ノルン様の指示でしたから」


「ふひっ、ポイント稼ぎなの。“赤撃”のせいなの」


「俺たちの?」


「ふひっ、スルツカをモッチーの護衛に使ったのはルール違反なの。ギルド長に良いとこ見せて誤魔化さないとダメなの」


「なるほど、それでノルン様もミーナも積極的に前線で動いていたのですね」


 どうやらこの戦いが無事に終わって帰還した時、スルツカさんが戦闘に参加していないことを誤魔化さないといけなかったらしい。それなら単独行動していれば良いのでは、と思ったが、他のパーティーの目を考えると必ずしも隠し通せるものではない。だからあえてギルド長と行動を共にすることで点数を稼ぎ、スルツカさんの行動を不問にしてもらう必要があったのだとか。


「ふひっ、最初からモッチーをちゃんとパーティーメンバーから外していれば問題なかったなの。そこの大人たちの責任なの」


 ミーナの視線にツーヴァさんとレイアーネさんが気まずそうに目線を逸らした。


 “赤撃”が俺を逃すために手を抜いていても見られたらバレてしまう。かといって本気で戦って万が一俺に何かあってもマズイ。だからスルツカさんが潜んで俺の護衛をしてくれていたのがすごく助かっていたようだ。


 そして大元の原因はこういった事態で俺が戦場に駆り出されないようあらかじめ手を打っていなかった大人たちにある、と。


「俺のために色々してくれてたのか……」


「ふひっ、そういうことなの。恩に着るなの」


「ああ、ありがとう。ちゃんとお礼はするよ」


「ふひっ、言質は得たなの。帰ったら杖を作れなの。ティアーネのよりもっと可愛いやつなの」


「ちょっとミーナ、図々しいですよ。すでに私たちは十分なほど頂いているじゃないですか」


「いや、大丈夫ですよセレスティーナさん。杖くらいならいくらでも作ります」


「モッチーさん……ありがとうございます」


 セレスティーナさんは遠慮してくれているけど、むしろ向こうから指定してくれる方が楽だ。それに杖なら半日もかからないし、ティアーネの杖を作ってさらにインスピレーションが湧いてたところだ。


 俺はミーナの要望を快諾し、他のメンバーにもその時に作るだろう魔法薬を提供することにした。入手が難しい上に高価となれば喜んでくれるだろう。


 約束を交わし、それぞれが思い思いに休息を取り、おおよそ三十分が経過した頃。


「みんな、聞いてくれ! 国防軍は……圧倒的に優勢だ!」


 偵察班が帰還したのだった。

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