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ネアンストール攻防戦・6

「モッチー、もっと下がれ! こいつらの射程に入るな!」


「は、はい!」


 俺はラインさんの指示に従って大きく後退する。


 遭遇した魔物は体長二メートルにもなる巨大な蜘蛛。それが二十匹近く。


 ラインは撃ち出される糸を盾で防ぐことを放棄し、ひたすら回避に専念している。同時にツーヴァさんも回避盾に専念していた。


 糸に絡め取られたらそれで終わり。その危険性からBランクに指定されているグランドスパイダーだ。


 だが今回は隣で初対面のパーティーが半分を受け持ってくれている。そのため“赤撃”が窮地に陥る事態は避けられていた。


「エターナルフリーズ」


 ティアーネの中級魔法が三匹のグランドスパイダーを纏めて冷凍する。


 そのティアーネに向けて四匹のグランドスパイダーから一斉に糸が吐き出される。


「妹はやらせないわ。ウォーターウォール!」


 レイアーネさんの魔法がティアーネの周りに水の壁を作り出し、迫る糸を搦め捕った。


 すかさずティアーネは中級魔法を放つ。


「エターナルフリーズ」


 敵視を向けていた二匹を氷漬けにし、立て続けにもう一度同じ魔法を放つ。


 極寒の冷気が異なる側にいた二匹を氷漬けに変え、あっという間に敵視を向けた四匹を始末する。


 そして間髪入れずに同じ魔法を放ち、ラインとツーヴァが受け持っていた三匹を纏めて氷漬けにした。


「ん。援護」


 ティアーネはもう半分を受け持ってくれているパーティーへと目を向け、再び魔法の構築に入る。


 今度は溜めが長い。青色のオーラが杖を包むかのように魔力が高まっていく。


「アイシクルブリザード」


 グランドスパイダーたちを猛吹雪が襲う。


 それは瞬く間に氷の彫像へと姿を変え、撃ち漏らした一匹も動きが鈍ったところを向こうの前衛に串刺しにされていた。


「すっげぇなティアーネ。ほぼ全部一人で倒したじゃんか」


 俺はあっという間に十九匹ものグランドスパイダーを倒してみせたティアーネの手腕に舌を巻いた。いくら連発のきく中級魔法とはいえ、いくら杖の性能があるとはいえ、ここまでの独壇場を演じてみせる実力は計り知れない。


 もうティアーネ一人でいいんじゃね?


 そんな風に考えてしまう程度には素人目にも圧倒的だ。


 俺はティアーネのそばに寄っていつものように拳をコツンと合わせる。


「やるじゃないかティアーネ。楽勝だな」


「ん。モッチーのおかげ」


「ティアーネがすごいんだよ。俺はちょっと手を貸しただけさ」


「モッチーもすごい」


 くうぅ〜、持ち上げてくれちゃって。良い子だな〜ティアーネはやっぱり。


「それじゃ俺たちの力ってことで」


「ん」


 今回は狩りじゃない。俺たちは解体を行わず、すぐさま場所を変えることに決まった。


 このままここで戦い続ければ大量の魔物が押し寄せて捌き切れなくなる。その前に一旦潜伏して防御の薄い場所から削るヒットアンドアウェイ戦法を使うのだ。


「そうだラインさん、ティアーネの広域殲滅魔法は使わないんですか?」


 俺は移動の途中で気になっていたことを尋ねた。ティアーネの魔法があれば何十匹も纏めて倒せるのだ。それを繰り返した方が効率が良さそうなものだが。


「今はまだ使う時じゃない。あれは切り札として取っておく」


「ティアーネの魔力だって無限じゃないからね。何十発も打てるわけじゃないさ」


 ラインさんの言葉をツーヴァさんが引き継ぐ。


「それはそうですけど。でもツーヴァさん、魔力回復薬なら潤沢にありますよ」


「魔力回復薬も無限に飲めるものじゃないんだ。短い間に何度も服用すると中毒状態に陥ってしまう。そうなったら体内魔力のコントロールが効かなくなって魔法の制御ができなくなってしまう。それに身体にも不調が現れて意識が覚束なくなるんだよ」


「なるほど、ゲームとは違うってことか。なら体力回復薬も?」


「そうだね。もとよりスタミナや血液なんかは回復しないから中毒状態になる前に動けなくなるものだけど」


 なるほど、無限ポーションで無限バトルとはいかないのか。ならありったけ魔法薬を持ってきた意味がなかったな。まあ筋力がやたら高いおかげで負担にはならないけど。


「それにな、モッチー。この戦いは長丁場だ。初めっから飛ばしても後で息切れしちまう。切り札を使うタイミングはしっかり見極めないとな」


「なるほど、勉強になります」


「ま、一番の理由としては脅威に感じた魔物たちに一斉に襲われたらたまったものじゃないってことだがな」


 そりゃそうか。“赤撃”だけで何千もの魔物と戦えるわけないし。


 ここまで俺たちが倒したのは百匹くらいか? これをあと何十回繰り返したら終わるんだろうな。


 スタミナだってどこかで回復させなきゃならないし、武器が損耗すれば継戦が危うくなってしまう。今は俺のエンチャントが刀身を保護してるから大丈夫だけど、それだって絶対じゃない。前のキングファングみたいなのに遭遇すれば簡単に折れてしまうだろう。


 それにパーティー同士で固まって戦わないのも気になる。パーティー単位で動くよりも複数パーティーで組んだ方が多くの敵と戦えて安全だろうにも関わらずだ。


 その答えはツーヴァさんから返ってきた。


「そもそも冒険者ってのはいざとなったら逃げるものだよ。軍人とは違ってね。もし戦っている最中に協力していたはずのパーティーが自分たちを見捨てて逃げてしまったら? もし最初からいざという時の盾にするために協力していたとしたら? ……信用なんて出来ないよね」


「だったら始めから協力しない方が良い?」


「そういうこと。モッチー君はいざとなったら僕らを盾にしてでも生き延びてね。冒険者は換えが効くけど、モッチー君は換えが効かないんだから」


「ちょ、ツーヴァさん!」


 慌ててみんなを見回したけど、返ってきたのは肯定の頷きだけだ。


 本気……で言ってるんだろうか。言ってるんだろうな。


「分かりました。でも逃げる時はみんな一緒ですよ」


 やれやれ、みたいな反応をされたがこれは譲れない。それにそういう話をするのは死亡フラグがビンビンに立つから勘弁して欲しいところだ。


 俺たちは次の突入ポイントを決めて配置につく。


「……とは言っても全く協力してないわけじゃないけどね」


 ツーヴァさんのつぶやきがかすかに耳に届いた。






 そこからは戦闘と潜伏を繰り返し、すでに倒した魔物は五百を超えている。


 魔法薬の消費は十を超えているが、そもそも百本以上を用意していたので余裕はあった。だが体力の消耗だけは如何ともしがたく、特に前衛の二人に疲労の色が濃い。


 レイアーネさんの回復魔法で疲労も軽減できるものの、どのタイミングでどの程度の魔力を使えばいいのかの判断が難しく、経験のない持久戦に四苦八苦していた。


 それも全ては終わりが見えないところに原因がある。国防軍が守り通せるのか、それとも陥落するのか。そしてそれはどのぐらいの時間を費やすものなのか。予想すら立たない。


 次第に言葉少なになっていく俺たちだったが、そこで見覚えのある人たちに遭遇することになった。


 先行するツーヴァさんがわずかに覗く人影からその人物を看破する。


「あれは……ギルド長だね。それとノルンさん……“猛き土竜”のメンバーもいる」


 人影の数は多い。その他にもいくつかのパーティーが集まっているようだ。


 戦っている魔物は人影の数倍……一目で劣勢が見て取れた。


「どうするライン」


「そりゃあもちろん援護するさ。知り合いを見捨てちゃ寝覚めも悪いしな」


「そうだね。じゃあ行こう」


 俺たちは速やかに移動を開始する。


 そして俺たちは因縁の相手と再び相見えることになるのだった。

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