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ネアンストール攻防戦・3

 冒険者ギルドにも勅令が出されている。


 来るべき魔王軍の侵攻に対して冒険者から防衛人員を募るとのお達し。そして今、警報を合図にDランク以上の個人、パーティーが続々と集結していく。


 その中には当然、Bランクパーティーである“赤撃”も含まれていた。


「まずい……こいつはまずいぞ」


「そうだね。今からパーティーメンバーを申請し直すこともできないし、()を連れていかなくちゃならない」


 ライン、ツーヴァ。そして同行するレイアーネとティアーネも共に不安をありありと浮かべている。


 なぜなら今ここにいない、最後のパーティーメンバーを同行させなければならないからだ。


 魔王軍の進軍の前兆が見られてからDランク以上のパーティーに対してメンバー変更の申請がストップしていた。これは逃亡の防止や管理にかかる手間の削減と言った理由から来ている。


 そのためこれまで戦場に出さないようメンバー変更を幾度も申し出たのだが取り合ってもらえなかった。


「……モッチー」


 ティアーネはぽつりと呟き、仲間たちを見回す。


 だがここにいる誰もが彼女の望む答えを返してはくれない。彼らにはルールをどうこうするなどできないのだから。


 今、モッチーは泊まり込みで新型杖を作り続けていると聞いている。冒険者活動から一旦距離を置いた彼は鍛治師見習いとして歩みだしたばかりなのだ。


「こんなことならあらかじめパーティーメンバーから外しておくんだったな」


「それは仕方がないわ。こんな事態を想定しておく方が難しいもの」


「それはそうだが……なんとかならんものか」


 レイアーネに諭され、禿頭を撫でる。


 冒険者として命を賭け草にしている彼らはいざと言う時に身体を張る覚悟はできている。だから今回のような勅令が下っても拒否する、逃げるといった考えを捨てることができた。


 そんな彼らでも命を捨ててでも守りたいもの、守らなければならないと思えるものがある。


 それは今ここにいる仲間はもちろん、それ以上に未来への希望を見せてくれた可能性だ。彼らがタナボタで得た新たな仲間は今や莫大な価値を生み出す存在。決して失うわけにはいかない。


 彼らは決意と覚悟を固める。


 その中で青髮の少女の手には一際異彩を放つ杖が握られていた。






 “赤撃”の知古である“猛き土竜”もまた勅命の下にギルドへと集っている。


 その中でノルンは“赤撃”の事態を知り、焦りを浮かべていた。


「ぬう……これはまずいの」


「なんだあノルン爺、まさかびびったってんじゃないだろうな」


「事はそう単純なものではないわい。少し、伝手を頼る必要がありそうじゃの」


 ノルンは馬鹿弟子に呆れつつ、頭の中で己の持つ人脈で問題に対処できそうな人物を探す。しかしそこまでの強権を行使できる人物など冒険者である彼にあるはずもない。


「今回の侵攻はかつてないほど大規模という話ですし、これまで以上に気を引き締めなければいけませんね」


「ふひ。どうせやることはもう決まってるなの。“赤撃”も参加するなの」


「決まっているとはどういうことですか、ミーナ」


「ふひ。ノルン爺に聞けなの」


 ミーナはしたり顔でノルンに水を向ける。彼女は懸念する内容をしっかり理解しているようだ。対してセレスティーナはピンとこないらしく不思議そうな表情でノルンとミーナを見遣る。


 黒づくめのスルツカは相変わらず無言で佇み、各々出撃までの時間を過ごしている。


 やがて五百名を超える冒険者が集まり、出撃の号令が出る直前。


 この場に来て欲しくない人物が姿を現した。






「モッチー」


 最初に気付いたのはティアーネだった。


 俺は手を振って合流し、持ってきた荷物を降ろす。背負い鞄、手提げ袋ともにパンパンに膨れていた。


 少々呆れた表情を見せながらラインさんが鞄を覗き込む。


「モッチー、こんなに何を持ってきたんだ?」


「ポーションですよ。体力回復と魔力回復の。あとは閃光弾と音響弾を入れてます」


「おいおい、ポーションだけで百本以上あるじゃないか。いつの間にこんなに量産してたんだ」


「そりゃあ杖の端材で魔法石のカケラが出るたびですよ。勿体無い精神で」


「……今回はいくらあっても困らないからいいが、ちゃんと休息は取れよ? レイアーネ、モッチーに回復魔法をかけてやってくれ」


「はいはい。……ハイヒール」


 レイアーネさんの杖から放たれる光の粒子が俺の身体を包み込み、徹夜続きの作業で溜まった疲労を洗い流していく。


 ハイヒールは前にノルンさんが使ったエリアハイヒールの単体版といった魔法だ。中級魔法で、その回復力は骨折程度なら治癒するのだとか。


 俺は爽快になった思考でメンバーを見回す。


 ラインさんとツーヴァさんは破損した装備を一新し、特にツーヴァさんはキングファングの強靭な毛皮を使った防具を身につけている。ゴリアンヌ師匠の作品だ。


 レイアーネさんは前と同じ装備で新型杖が馴染んでいる様子。魔法の発動がスムーズだったし、慣らし運転は終わったのだろう。


 そしてティアーネは俺が徹夜して作った最新の杖を装備している。


 キングファングから得られた魔法石をメインに使い、アースジェネラルモンキーの魔法石をパーツにして組み上げた新式。


 おかげでロックラックさんの工房に篭る前から徹夜状態だったわけなのだが、さすがは強靭スキルというべきか単に若さからなのか徹夜が連続しても耐えられている。


「ティアーネ、新しい杖の慣らし運転は終わった?」


「ん、バッチリ」


 この新式杖はランクの高い魔法石を使用することで全体の重さを軽減し、ティアーネでもなんとか取り回せる程度に抑えている。


 その性能は一般的な杖の八倍程度に()()てあり、高い威力と範囲拡張、魔力許容量を実現した高性能な代物に仕上げた。


 ティアーネなら制御の補助が無くても上級魔法を扱えるので、この三つに性能の方向性を絞っている。


 そして見た目についてもこだわった。


 軸となる杖の先にキングファングの魔法石を取り付け、杖の内部を魔法石で埋めるところまではこれまでと同じ。


 しかし魔法石を削ったパーツを組み合わせることで杖全体の表面をコーティングし、さらに魔法石を包み込むように厚めのパーツで三重に円を描かせている。それらの円は軸の先端から少し下の部分で重なるようになっていて、百二十度ずつ角度を変えた。


 最後に全体に銀糸を配置しデザイン性を持たせつつ魔力伝導の補助をさせ、グリップや接合部に金属や布で固定している。


 大型化したのは仕方ないが、魔法少女っぽさを加えた自信作。


 なお徹夜のテンションがデザインに大きく影響しているのは秘密だ。


「見た目にこだわった分、ちょっと性能が低めだけどティアーネなら十分に扱えると思うよ」


「ん」


 刻印を入れる部分が重量杖に比べて少ないので、魔法石の嵩増しによる性能上昇に頼っている。ただキングファングの魔法石には極限まで魔法陣を刻んでいるので、偶然にもかなり幻想的な見た目になった。


 ちなみに新式杖が性能低めという部分には周囲から大いに否定が入ったが。事実なんだけどなぁ。


 “赤撃”が出撃を待つ間に“猛き土竜”も俺たちに気付いて挨拶にきた。


「のう、モッチー殿。その杖はまた新しいものかの?」


 やはりというかノルンさんの食い付きが早い。まあかなり目立つ杖だから他のメンバーのみならず周囲の冒険者たちからも注目されているが。


「ええ。前の杖の反省を生かして重量を抑えてます」


「なかなか見事な見栄えじゃの」


「ありがとうございます。ティアーネに持たせる杖なので頑張ってみました」


 ティアーネに限らずとも女性にダサい杖を持たせるのは嫌だし、何より外見は重要だ。そこを疎かにするつもりは無い。


 そして杖の性能を聞いたノルンさんが苦笑いを浮かべていたがそれは置いといて。


 女性陣は新式杖を見てデザインについてあれやこれやと話していた。どうやら性能のカスタマイズだけでは無く見た目のカスタマイズについても興味を持ち始めているようだ。


 この様子だと近いうちにみんなの杖を新調することになるかもしれないな。


「おっと、来たみたいだね」


 ツーヴァさんの声に振り向けばギルド会館の二階から偉丈夫が降りてくるところだった。


「あれがこのネアンストール冒険者ギルドの長、スレイニン・シェイルクラフト。元Aランクの剣士だよ」


「へえ、得物はバスタードソードですかね。大きさも身長と同程度ありそうだ」


「そうだね。突きに特化した両手剣……的確に急所を貫く技術は常人離れしていたそうだよ」


 詳しいな。さすが万能お兄さんだ。


 そのギルド長の号令で冒険者たちは行軍を開始する。

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