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冒険者を始めよう

 俺たちは馬車に揺られながら王都への旅を続けていた。


 護衛兼指導役として同行しているのはシルヴェストギルドでBランクを張っているパーティー“赤撃”のメンバー4人。


 男二人女二人で構成されていて前衛職のライン、ツーヴァはそれぞれ馬に騎乗して馬車を挟むように走っている。


 そして残りの女二人は俺たちの前で向き合って座っていた。


 俺の正面は青髪で眠たそうに目を細めている小柄な女性、ティアーネ。ケントの正面には同じく青髪でティアーネをそのまま成長させたような妙齢の女性、レイアーネ。彼女たちは姉妹らしい。


 姉であるレイアーネさんはなんというか色っぽくて、切れ長の目とか厚い唇とか、出るとこは出てるし引っ込むところは引っ込んでるし、男を引きつける魅力を放っていた。ハッキリ言ってとんでもない美人である。


 真正面で向き合うケントは顔を赤くしてタジタジになっているし、俺も正直ちらちら視線を奪われていた。


「モッチーも姉さんがいいの?」


 感情の読めない目でティアーネが問いかけてくる。口調も平坦で怒っているのかどうかも分からない。


 だが正直俺はそのティアーネの目に意識を奪われていた。


 髪と同じ青の左目。そして緑を帯びた右目。オッドアイの瞳が否応なく俺の秘めていた想いを引き出している。


 ああ、俺の厨二の血が滾るぜ。どれだけオッドアイに憧れたか。カラコン入れるの失敗して涙が止まらなくなってから諦めていたが、まさかリアルオッドアイを拝めるなんて。


 とと、いけない。質問に答えないと。


「いや。綺麗な人だとは思うけどね」


「ふーん?」


 ティアーネがコテンと首を傾げる。どうやら俺は彼女にとって珍しいタイプの人間らしい。


 それよりも、と俺は手に持った水晶を覗き込む。


 この水晶は自分の魔法適性を知るためのアイテムだ。中に魔法陣が組み込まれていて、流した魔力の質に応じて色が変化する仕組みになっている。


「この水晶って魔力を流したら色が変わるんですよね?」


「そう。六大属性に対応して色が変わる。火属性なら赤、水属性なら青、地属性は茶、風属性は緑、光属性は白、闇属性は黒になる。複数の属性の場合はそれぞれの色が混ざって出る」


 六大属性から外れた特殊な属性も存在するらしいのだが、それらについては反応しないようだ。それに発現する人もほぼいないらしい。


 そして俺がなんとかかんとか魔力を流してみると虹色の輝きが万華鏡のように揺らめいていた。


「見る限り全ての属性の色が入っていますが」


「たぶん全属性。異例。モッチーは優秀な魔法使いになれる」


「じゃあ……“ファイアーボール”」


 俺は脇に置いていた杖を手に取って初級魔法を唱える。一瞬だけ魔力が減る感覚がして杖がわずかに輝く。……が。


「なんで魔法が出ないんです?」


「自分の持っていない属性は唱えても発動できない。私も適性は水と風だから他の属性は使えない」


「でも俺は全属性持ってるんですよね」


「不思議」


 なぜか俺はどの属性を試してみても初級魔法を発動することができなかった。これも異例らしい。


 なんでも杖の補助があれば初級魔法くらいなら幼い子供でも発動出来るというのだ。俺のように発動すらできない人間はいないという。


「くっそー、魔法使ってみたいんだけどな。鍛冶師だから槌だけ振るってろってか?

 ケントはとっくに光魔法使えるってのになんで俺だけ〜!」


 ケントは勇者らしく光属性に適性を持っていた。しかもすでに中級の魔法までなら苦もなく使えるようになっている。レベルの恩恵なのかは分からないが羨ましい限りだ。


「鍛冶師?」


「え?」


「モッチーの戦闘職は鍛冶師?」


「うん、まあ」


「異例。びっくり」


 ティアーネが本当に驚いているのかわからない無表情で告げる。いや、よく見るとさっきよりオッドアイがよく見える。わずかに目を見開いていた。本当に驚いているのだろう。


 どうやら戦闘職に鍛冶師というのは聞いたこともないらしい。ギルドでは何も言われなかったが……いや、そういえばケントの件で大騒ぎになったから確認されなかったっけ。


 じゃああれか、鍛冶師っぽいことしかできないとかそういう感じか。魔法は鍛冶師のイメージと違うから無理みたいな。てかそれだと戦闘系の技能にめちゃくちゃ制限付きかねないんだが。


「面白い。初めて見た」


「なんだか馬鹿にされてるような憐れまれてるような……」


 ティアーネの台詞が心にグサリと突き刺さる。たぶん悪気はないんだろうけど、今の俺は何を言われてもショックを受けるかもしれない。


 魔法が使えない。それだけで夢の一つが失われてしまったのだから。


「はあ……魔法使えないんじゃ魔力があっても意味ないじゃん。適性とか飾りだし」


「そんなことない。魔力操作スキルがあれば魔法武器や魔道具を使える」


 そう言ってティアーネは二つのアイテムを取り出す。


 白くて丸い球体と取手に宝石っぽいのが埋め込まれた木桶だ。


「これって確か明かりを灯すライトと水を作る魔道具だっけ?」


「そう。必需品」


 野営や旅には欠かせないもので、特に水は重量が嵩むためこのような魔道具が無ければ容易に旅などできないのだそう。


「魔力操作スキルってのは?」


「体内の魔力を自由に動かすスキル。魔法武器や魔道具に魔力を流すこともできるようになる」


 通常であれば体外に魔力を放出するには魔法という形を取らなければならない。このスキルは魔法に変化する前の魔力そのものを流すことができるようになるスキルだ。


 また体内の魔力を動かすことによって身体の各部位を強化する派生スキルも存在する。そのため魔力操作スキルは誰もが習得する基礎スキルとなっている。


「ふーん。それってどうやって習得するの?

 スキルポイントを割り振るとか?」


「すきるぽいんと?

 よく分からないけど、努力するだけ」


「ああ、さいですか。そのスキルを取ったかどうかはどうやったら分かる?」


「魔道具を使えれば習得してる。鑑定板でも確認できる」


「あれ、街で見た時はスキルの項目なんてなかったけど」


「あれは低級。中級以上なら大丈夫」


 鑑定板にも低級から上級まであり、それぞれ確認できる項目に差があるらしい。それと上級であれば偽装スキルまで無効化して鑑定するようだ。


 やっぱりあるのか、偽装。


 上級で統一しないのは原料のコストがそれぞれ馬鹿にならないので使い分けているそう。なんでも下手な富豪程度では手が出ないほど高価なのだとか。


 俺は白球を手に取ってみる。


 魔力を流すというのがどんなものかは分からないが、さっきもできていたから大丈夫だろう。


 俺は自然と頭の中に魔力の流し方が浮かんでいたが、その時はそれを不思議には思わなかった。


 白球が淡く輝き出し、やがて煌々と眩くなる。


「出来た?」


「ん。できてる」


 魔力操作スキルは通常は幼い頃に半年くらいかけて習得するらしい。ちなみにティアーネは一回でできるようになったそうだ。どこか誇らしそうに教えてくれた。


 俺たちがほっこりしていると、隣で魔法の講義をしていたケントとレイアーネさんが混ざってきた。


「モト、やるじゃないか。普通なら身につけるのに時間がかかるんだろ?」


「才能ね。勇者のケント君は例外にしても、一度で成功させたのは妹のティアしか見たことないわ」


 二人からの賞賛に気恥ずかしくなりながら、聞き流せない内容に気づく。


「もしかしてケントも魔力操作スキルあるのか?」


「ああ。勇者補正じゃないかな」


 ぐぬぬ、またしても。


「モッチー君はまだレベル1。魔力操作が上手いならこれから大化けする可能性は充分にあるわ。レベル20まで上げれば自分なりのスタイルが出来てくるんじゃないかしら」


「なるほど。じゃあモト、パワーレベリングするか?

 俺も戦闘に慣れなきゃならんし、まずはレベル30くらいの敵で試すつもりだ」


「パワーレベリングか。経験値制なら出来るだろうけど、そこんところどうなんだろう」


 レベルなんてものが存在するんだから経験値もあるだろうけど、パーティー組んでるだけでいいのか、それとも与えたダメージに依存するのか。それによってパワーレベリングの難易度も変わってくるだろう。


 その疑問についてはレイアーネさんが答えてくれた。


「経験値は日々の努力で得られるわ。その努力の内容は戦闘に限らず勉強や仕事などでも可能よ。ただやはり戦闘、とりわけ魔物を倒すことが最も多くの経験を得られるの。だから多くの魔物を倒すことが素早くレベルを上げる方法よ」


「予想通りだな。それで、パーティーで魔物と戦ったときに得られる経験値ってのはどういう法則ですか?」


「基本的にはダメージを与えないと経験値は入らないわ。一撃でもいいから、強い魔物に一度だけダメージを与えて、後は他のパーティーに倒してもらうことでほとんど戦闘せずにレベルを上げる方法もあるの。ただこれは戦い方が身に付かないから適度なところでやめた方がいいわ」


「なるほど、パワーレベリングは可能と。基本的には、ってことは例外的なものもあるんですか?」


「ええ。例えば支援魔法でパーティーメンバーを強化し、倒してもらうとちょっと少ないけど経験値が入るみたいなの。それに罠にかけるのも同様ね。後は戦闘中に回復魔法を使ってパーティーを回復するのも有効みたいね。ただ、戦闘外で回復魔法を使うのは日々の努力の範囲内での経験として扱われるみたい」


 回復魔法をして回るだけで俺ツエー的なことにはならないようだ。ただよくあるラノベ物と親和性が高いみたいだから、俺たちの知識も使えるかもしれない。


 ただ楽してレベルを上げようと思えば支援魔法を使うか、パーティーに瀕死にしてもらって一撃入れるくらいしかなさそうだ。魔法さえ使えればまず支援魔法の練習するんだけどな。


「モッチー君は魔法は使えるようになったの?」


「いや、それが発動の寸前で止まるというか。とりあえず……ファイアーボール」


 杖を構えて唱えるが、やはり杖が光った後に霧散するように消えてしまう。


「珍しいわね。初級魔法なら魔力の吸い出しから魔法の構築まで脳が演算してくれるから、唱えた時点で後は勝手に発動してくれるはずなの。だから術者であるモッチー君が何かをしない限り、魔法が途絶えることはないわ」


「俺が?」


 何かをした覚えもなければそもそも魔法の知識もないし。皆目見当もつかない。


「姉さん。モッチー、鍛冶師」


「鍛冶師?」


 レイアーネは少し思案すると自信無さそうな顔を浮かべる。


「そういえば戦闘職によって使えたり使えなかったりする魔法があるって聞いたことがあるわ。初級魔法が使えない、なんて聞いたこともないけど。もしかしたらモッチー君は特定の魔法しか使えないのかもしれないわね」


「おおっ」


 使える魔法があるかもしれない。それは俺の心を高揚させるのに十分な響きだった。


「じゃあモトは使える魔法を探すのが先決だな」


「そうね。モッチー君、頑張ってね」


「手伝う。モッチー、がんば」


 三者三様の台詞を胸に俺は改めて魔法への希望を手にするのだった。

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