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鍛治師スキルはチートの香り・5

「えー、それでは狩りの成功と今後の飛躍を願って……乾杯!」


「「「「「「乾杯!」」」」」」


 俺の音頭で宴会が始まった。


 今回の立役者ということで俺とティアーネは上座に並んで座っている。聞けばBランクの魔物を半数以上殲滅したそうだ。


 しかも群れの規模はAランク相当で、本来なら逃げるはずだったという。すごいな、ティアーネ。


 俺たちはジュースをちびちび飲みながら運ばれてくる料理を摘む。


「俺も付いて行ってれば良かったかな。ティアーネの活躍、見たかった」


「ん。……みんな活躍」


 嗜めるような言い方だけど、すごく恥ずかしがってるみたいだ。照れてるところも可愛いなぁ。


 それに自分の作った杖が役に立ったのは誇らしいものだ。ティアーネに喜んでもらえるのならなおのこと。


 今後は杖の開発は中断することにしている。ノルンさんの交渉が成立したらしく、鍛冶場で実験……もとい修行できるようになるからだ。


 杖の開発は鍛治ギルドに任せ、その成果を回してもらえることになっている。随分と待遇の良いことだと思ったが、俺が今後開発するであろう技術の価値を考えれば些細な投資なのだと言う。


「モッチー殿、呑んでおるか?」


 酒が入って上機嫌なノルンさんが隣に移動してきた。普段の落ち着いた雰囲気が薄れ、好々爺の空気を纏っている。もしかしてこっちが素なのだろうか。


「いえ、自分たちはジュースですよ。それよりもノルンさん、新型杖の使い勝手はどうでしたか」


「ほほ、あれは儂に合わせて調整してあるもの。合わぬわけがあるまいて。高級な杖を用いても同じ効果を得られはせん。……あれはこの老いた身には過ぎたものかもしれんのう」


「いやいや、ノルンさんもまだまだ現役じゃないですか。悲観的になるのは早いですよ」


「そうでもないのじゃ。儂は“先導者”などと呼ばれておる。なぜか分かるかな?」


「え、それは……確か多くの弟子を取って冒険者に育ててきたから、でしたっけ」


 少し前に聞いたことだ。なんでもラインさんやレイアーネさんも“猛き土竜”の一員としてノルンさんの教えを受けていたという話だし、他にも幾人も優秀な冒険者を輩出してきたのだという。


「そうじゃ。儂はな、自らの限界というものを若い時に悟った。じゃからの、次代を育てることで貢献しようと考えたのじゃ」


「そうだったんですか」


「儂もそろそろ体力が保たなくなってきておる。じゃが後進を育てねばいつ平和になるか分からん、ゆえにまだまだ引退はしないつもりじゃった」


「……考えが変わった?」


「うむ。モッチー殿の技術を……可能性を目の当たりにしての、儂が今後どうあるべきかを考えておった。世界は加速度的に変化していくじゃろう。それを支えるにはどうすれば良いかを」


 それが魔法石技師としての道なのだという。体力が衰えても技術力一つでこなせる上、人間側の戦力増強に直結する。


 それに俺の手伝いができると言ってくれた。なんていい人なんだ……。


「もちろん引退はまだ先じゃ。セレスティーナもミーナもまだ巣立っておらん。スルツカはどこへやっても問題なかろうが、ウルズなどは引き取り手もおらんからの」


 そう言って溜め息を一つ。ウルズは扱いにくくすぐに揉め事を起こすため、他のパーティーに誘われてもすぐに戻ってくるのだという。駄目じゃん。


「ほほ、ちと湿っぽい話をしてしまったかの。そのついでと言ってはなんじゃが今後の打ち合わせをしても良いじゃろうか」


「はい、お願いします」


 俺は明後日に鍛治ギルドのお偉いさんと世話になる鍛冶場の主と顔合わせをすることになった。その席にはノルンさんと護衛のスルツカさんが同行し、交渉内容の最終確認をするのだという。


 交渉はちんぷんかんぷんなのでノルンさんに一任する予定だ。


 そして以後は鍛冶場で修行をしつつ、ゴリアンヌ師匠の下での修行と新たな技術の開発をこなすことになる。


 打ち合わせを終えると左手の袖を引っ張られた。


「モッチー、もう狩りに行かない?」


 振り向くと落ち込んだ表情を見せるティアーネがいる。俺が修行尽くしで共に行動する機会が無くなるのが寂しいのだそうだ。


 確かにまだパワーレベリングも途中だし、俺だってティアーネと……みんなとの狩りはまだ続けていたい。


 けど今できること、期待してもらえてること、俺がやりたいこと。それらを天秤にかけて考えた時にパワーレベリングが後ろにきてしまう。そもそもがスキルの熟練度上げが目的なのだ。必要だと思った時に行えば良い。


「狩りはやめないよ。ただしばらく休業して本来やるべきことをやるんだ。まだまだ作りたいもの、作らなきゃならないものも多いんだから」


「……ん」


「そんな寂しそうな顔しないで。離れ離れになるわけでもないんだからさ。……そうだな、一ヶ月に一回は必ず一緒に狩りに行くから」


「本当?」


「ああ、約束する」


「ん、約束」


 ほころぶように笑顔を浮かべるティアーネと握り拳をコツンと打ち合わせる。


「ほほっ、まるで恋人同士じゃの。お似合いじゃぞ」


 グイっと酒を煽ったノルンさんはそう言って席を立った。他の飲酒組の方へ混ざりに行ったようだ。


 俺とティアーネは彼を見送ったあとどちらからともなく顔を見合わせて、真っ赤になるのだった。








 続く日も“赤撃”と“猛き土竜”の合同狩猟を行なった。俺も当然参加している。


 噂というのは波紋のように早く広く伝播するようで、東門へ向かっていた俺たちは冒険者たちの注目の的だ。


 誇らしげにしている男性陣や相変わらず無表情なスルツカさんたちとは裏腹に、“赤撃”の馬車はノルンさんを交えてなんとも言えない空気になっている。


 主にノルンさんとレイアーネさんの視線がなんとも名状しがたいものがある。困惑を浮かべ、驚くよりも呆れを多分に含んだ視線だ。


「のう、モッチー殿。儂は主の才能を認めておる。認めてはおるが……自重という言葉を覚えた方が良いぞ」


「そうねぇ、少しばかり……いえ、一息に段階を吹っ飛ばし過ぎだと思うわ」


 彼らが指摘しているのはもちろん、俺が新たに作った最新型の杖。重量級ながらそれに見合うだけの性能を発揮する予定の代物だ。


「やっぱりやり過ぎですかね……。既存の()()以上の性能ってのは」


「ん。びっくり」


「ただティアーネ用に作ったんですけど、重量とか性能とか全然調整してないんですよ。多分もう少し性能を抑えて重量バランスも考え直しになると思うんですよね」


「おまかせ」


「ああ、任せろ」


 拳をコツン。もうお決まりだ。


 今後は剣や防具をメインに作ることになるけど、ティアーネの杖だけは絶対に俺が作ると決めている。いや、杖だけじゃなくて防具も俺の手で作り上げるんだ。他の誰にも譲る気はない。


 だから忙しかろうがなんだろうが調整に手を抜くことはしない。


 今回の狩りで試運転してそれぞれの性能をどの程度まで抑えるかを決める。それに合わせて魔法石の量と刻印可能にする部分の体積を割り出して最終的なデザインとバランスを決定する。あとは重量との戦いだ。


「昨日魔法石が大量入荷したし、なんなら用途別に二、三本作っとこうか?」


「過剰」


「それもそっか。なら普段使い用と予備で二本だな」


「ん」


「待って。ねえちょっと待って」


 途端にレイアーネさんからストップがかかった。しかもなんかちょっと怖い。


「モッチー君の作ったその杖、間違いなく世界最高の代物よ?

 いくらお金積んでも手に入らない国宝級のシロモノをそんな簡単に何本もポンポンと……」


「いや、これ作り方が分かれば誰でも作れますよ。たぶん今後は普通に手に入ると思います」


 特別な技術なんて精密操作スキルくらいのものだ。原理はすぐ理解できるし、模倣も容易。すぐに杖のスタンダードに取って代わるだろう。


「いや、モッチー殿。事はそう簡単ではないのじゃ」


「へ?」


「内部への刻印じゃがな、あれはおいそれと身につくものではない。儂もやってみたが一つ刻むのに丸一日かかったわい」


「俺も最初はそうですよ。結構練習しました」


「違うんじゃよ。モッチー殿は自分ができているから疑問には思わないじゃろうが、以前に見せてもらったものはまさに神業じゃった。自分でやってみて初めて分かる……あの速さでなど儂にはとてもできん」


「……ゆっくりやればできるんですよね?」


「うむ。じゃがいくら人手を増やしても量産するのに時間がかかる。そして出来上がったものは国が優先して召し上げていく。儂ら冒険者には回ってこんのじゃよ」


 つまり冒険者側の事情は変わらない、と。


「まあ“赤撃”の装備は俺が作りますし、他の人たちと比べても意味が無いんじゃないですかね。まあ役得ってことでいいじゃないですか」


 あれ、なんかノルンさんもレイアーネさんも難しい顔をしてる。


「のうレイアーネや」


「はい、師匠」


「儂ら、“赤撃”に入ってもいいかのう?」


「お気持ちはよく分かります」


 え、なに俺が悪いの?

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