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鍛治師スキルはチートの香り・2

 ここ一週間、俺は赤撃に同行せず杖の作製と師匠の下での修行に専念していた。


 杖を削り、魔法石に刻印を施し、毛皮に針を通す。


 自分でも不思議なくらい上達するし、時間を忘れて没頭することもしばしばだ。


 そしてついに念願の新型杖が完成する。


 軸の部分に穴を開けて芯を通し、魔法石を砕いて溶かした後にFランクモンスター・スライムの体液を混ぜて作った粘液を詰める。そして先端は粘液を流し込んだ穴を中心に魔力安定化の刻印が刻み込まれており、それを中心に穴が空いた薄い板を被せて保護している。


 そして穴に嵌め込む形で内部刻印が入った魔法石を取り付ける。傍目には乗っかっているように見えるだろう。


 そして杖の刻印の下部には両側から穴が通してあり、魔力を通しやすい銀糸が貫いている。銀糸は魔法石をぐるりと回り、綺麗な円形に一周している。そして銀糸を保護するために杖と同素材で丸く覆いを付けていた。見た目を考えて覆いは二つを直角にクロスさせていて、魔法石がしっかり固定されている。


 全体の形としては現代アニメで見かける魔法のステッキに似ているが、素材が木であることと長さが成人男性並みで相応の重量を持つことからそこそこの格好は付いたのではなかろうか。


「は、はは……出来たよ。新型の杖が」


 デザインや重量などはこれからいくらでも改良していけるだろう。ひとまずの完成に俺は胸を撫で下ろした。


 なにせ狩りにも同行せずひたすら励んできたのだ。これで成果が上がらなかったら非常に気まずい思いをするだろう。


 魔法石に刻んだのはノルンさん向けの内容だ。彼は制御能力に優れていて威力を控えた魔法を連発して戦うタイプだそうで、消費魔力低減のための威力向上と範囲拡張に重点を置いた強化を指定されている。


 俺は杖の芯に詰めた粘液による擬似的な魔法石の拡張による恩恵を考慮し、刻印自体は範囲拡張をベースに威力拡張を加え、念のため魔力許容量増加にも振っている。これは威力上昇の幅が大きいだろうと推測したからだ。


 ノルンさんは動き回る戦い方をしないので大型化したが、今後は相手に合わせて調整する必要があるだろう。


 その日の晩、俺は猛き土竜の拠点へと足を運び、ノルンさんに新型杖の試運転をお願いしに行った。


 出迎えてくれたのはスルツカさんで、短く「入れ」と促される。


 俺の姿を見て猛き土竜のメンバーが居間に集合していく。


 真っ先に現れたセレスティーナさんが頰を上気させて詰め寄ってきた。俺の手を取ってブンブンと振り回される。


「モッチーさん、ありがとうございます。お陰で魔法剣の使い勝手が良くなりました!」


「え、ええ。お役に立てたようで」


「はい、本当にありがとうございます!」


 興奮してジッと見つめてくる彼女を珍しそうにしながら他のメンバーも続々と集まってきた。それを見てセレスティーナさんは慌てて手を放す。羞恥で視線が泳いでいる。


 正直俺は平静を装うので精一杯だ。いや、仕方ないだろう。深呼吸だ、深呼吸。


 ミーナにノルンさん、そして初日に会った赤髪の筋肉ダルマ。どうやら猛き土竜のメンバー全員が迎えてくれたようだ。


「モッチー殿、さっそくなのだがその杖は新作かね?」


 待ちきれず、といった風にノルンさんが尋ねてくる。他のメンバーも興味深々だ。


 俺は勿体ぶることはせず、テーブルに杖を置く。


「はい、試作品ですけど。おそらく従来の杖の倍以上の性能は発揮出来ると思いますので試運転をお願いします」


「何!? 倍以上じゃと!?」


「ふひっ、ヤバすぎなの」


「驚きで言葉も出ませんね」


 俺の言葉にノルンさんを始めとしてミーナやセレスティーナさんも驚愕の声を上げる。


 そりゃそうだろう、作った俺でも驚いてるんだからな。二割増しから一気に飛躍しすぎだし。


「おい、それってすげぇのか?」


「ぬうぅ、主は不勉強が過ぎるというものじゃ。本当にそれだけの性能を発揮するとなれば最高級品となんら遜色のない代物ということになる。もし素材さえ用意できれば一体いかほどの物が作れるのか想像すらできん」


「ほう、つまりこの杖は高く売れるのか?」


 頓珍漢な反応にノルンさんが頭を抱える。理解して欲しいのはそこではないだろうに、脳みそまで筋肉なのかと疑ってしまう。


「ふひっ、どうしようもないの。ウルズは考える力がない獣なの」


「なにぃ、喧嘩売ってんのかミーナ!」


「いたいけな少女に凄むのは情け無いの。ぷぷ、なの」


「ぬおおおおおぉぉっ!」


 顔を真っ赤にした筋肉ダルマ、どうやらウルズという名前らしい、をスルツカさんが羽交い締めにして抑えた。どうもいつものことらしい。


 まぁミーナの言い方だと短気なヤツは怒りかねないわな。素でやってんのかワザとやってんのか判断がつかないけどさ。


 とりあえず放っといたら収拾がつかなくなりそうなので話を進めよう。まだ新型杖を何本も作らなきゃならないからな。


「ノルンさん、とりあえず性能実験をお願い出来ませんか? 一応、一番魔法に精通してると思ってノルンさん用に調整しましたし」


「これほどの品をまず儂のために作ってもらえるとは有り難いことじゃ。どれ、では早速試してみようかの」


「あ、威力上昇がどのくらいになってるのか分からないので控えめでお願いしますね」


「分かっておるよ。では……エリアハイヒール」


 いつぞやで披露した範囲回復魔法が放たれる。


 杖から放たれた光は全員に降り注ぎ、瞬く間に効果を及ぼしていく。俺は連日の疲労が一気に消え去り、頭がスッキリとする。前回より効果の発揮が早い気がする。いや、明らかに早い。


「これは……今までよりはるかに強い魔法ですね」


「ふひっ、上級並みなの。発動スピードも上がってるの」


「おお、腕を上げたな」


 ミーナも、セレスティーナさんも明らかに効果の上昇を認識している。やはり俺の感覚は間違っていないようだ。一人認識のおかしい人がいるけども。


「ノルンさん、どうですか」


「うむ……発動に違和感は無いし魔力の流れもスムーズ過ぎるくらいじゃな。それに儂の要求した性能バランスをしっかりと表現してくれておる。いや、期待以上じゃ」


「良かった、ちゃんと機能してるみたいですね」


「……正直に言えばこれほどの杖を手にする機会はもはや無いと思っていたわい。既存の倍以上、なるほど確かにそれだけの性能はあろう。それどころか使い手に合わせて自由に性能を変えることができる……その意義は非常に大きい」


 高級品とされる杖は軸の素材を魔力の通りの良いものに、魔法石も高位の魔物から獲れたものや純度の高いものを使用するに留まり、一般の杖の性能をそのまま倍加したものだ。


 元の素材の性質ゆえに各性能において高い能力を発揮するが、使い手に合わせてカスタマイズすることはできない。使い手が杖に合わせる必要がある。


 レベルの高い魔法使いであれば得手不得手の差が大きい場合が多い。例えば制御や範囲拡張がオーバースペックなのに威力や魔力許容量などにおいては杖が追いつかない、などという場合もあり得る。特に上級魔法を連発できるような魔法使いに見られる状態だ。


 つまるところ発揮できる能力が頭打ちになっているのだ。


 だがこの新型杖はどうか。


 同じ素材を使った杖に比べて倍以上の性能を発揮し、また一つの性能に特化させれば三倍以上の能力すら発揮するだろう。


 もし高級素材をふんだんに用いて杖を作ったならば。


 これまで杖の性能に自らの能力を抑えられていた一握りの天才たちが、その力を十全に振るうことができるに違いない。


「はっきり言ってこの杖はこれまでの常識を塗り替える。それどころか人類全てを救う発明となるじゃろう」


「そんな大げさな……」


「大げさではないぞ。この技術が広まれば我々魔法使いの力が底上げされるじゃろう。そうなれば軍の力を底上げすることになり、やがて魔王軍を押し返すことも出来よう」


 このネアンストールの町は人類と魔王軍との戦争の最前線。そして何年もの間どちらも一歩も譲らない戦いを続けている。拮抗している中で人類側の戦力が増せば、天秤は一気に傾くに違いない。


「ふひっ、反撃の狼煙なの。モッチーは歴史に名を残すの」


「そうですね。間違いないと思いますよ」


 奥では相変わらず壁に寄りかかって立っているスルツカさんが頷いていた。話はちゃんと聞いてるのね。


 とはいえなんだろうこのヨイショ合戦。むず痒いんだけど。


 実際この杖自体は特別な技能が無くても作れるし、精密操作スキルさえあれば誰でも作製可能なんだけどなぁ。


「ふむ、この新型杖を踏まえれば鍛治ギルドとの交渉はかなり有利に進むじゃろうて。場合によってはクルストファン王国から召し抱えられるやもしれんの」


「へぇ……ってそれはちょっと勘弁して欲しいんですけど。俺は自由に研究して作りたいし」


「良いのか? 安定した地位と名誉を得られるじゃろうに。モッチー殿がそう言うのであれば意に沿うよう努力しよう」


 俺は赤撃のみんなの装備を作り続けるつもりだからな。それに今の生活を手放すのは惜しいし。


 俺はノルンさんと固く握手を交わす。


 こうして俺は本格的に鍛治ギルドと関わっていくことになるのだった。

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