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鍛治師スキルはチートの香り

「ふむ、では取り引きといこうか」


「取り引き、ですか」


「当然じゃろう。モッチー殿のやろうとしていることは国と鍛治ギルドの協定の抜け道じゃ。販売しないから製品は渡さない、だが技術を学ばせろ、というのはあまりにも都合のいい要求じゃと思わんか」


「そうですね。確かにそれだけだと納得はしてもらえないと思います」


「じゃからの、開発した技術を鍛治ギルドにリターンする。手始めが魔法石の加工技術じゃな。これが最低限の条件となろう」


 鍛治ギルドはいざとなれば国とも交渉しなければならない。場合によってはなんらかのペナルティを課される可能性すらある。そのリスクを勘案するとリターンの提示は絶対条件だ。


 険しい顔をするノルンさんだったが、そこで表情を和らげる。


「なあに、モッチー殿が発見した魔法石の加工技術はそれだけで杖の性能を二割増しにするほどの代物。向こうに提示するメリットとしては十分じゃて」


 なるほど、そこまでの性能だったのか。通りでノルンさんの食い付きが違ったはずだ。


「なるほど。こちらもその程度で鍛治が学べるのなら安いくらいですよ。なのでその条件で受けます」


「よかろう。では儂が代わって鍛治ギルドと交渉してこよう。しばらく時間をもらうぞい」


「ええ、よろしくお願いします」


「ほほっ、それにしても良かったわい。もし秘匿しようものなら不届き者に命を狙われかねんからの。早めに立場を固めるのは重要じゃったし」


「うぇっ」


 金の成る技術だ。いずれ情報は漏れるものだし、その時に強引な手段で奪おうと考える者が出ないとも限らない。


 ノルンさんの説明に、これまで会話に入らず静観していた他のメンバーも頷いていた。


「では儂への報酬の話をしようかの」


「へ?」


「さっきまでのはあくまでギルドとの交渉についてじゃ。儂への報酬ももちろん払ってもらうぞ」


「ああ、なるほど。いくらですか?」


「ふむ、金はいらんのじゃ。その代わりに儂らの杖を作っておくれ」


「儂ら? ああ、ノルンさんとミーナさんの分ってことですか」


「セレスティーナのも頼めるかの。ちと杖とは違うがの」


「分かりました。お受けします」


 魔法石の刻印ならすぐに終わるし、それくらいなら全然構わない。むしろこちらから提案しようかと思ってたくらいだ。


 でも杖とは違うってなんだろう。あ、そうか魔法剣士って言ってたし杖じゃなくて剣を使うか。あれ、でも魔法の発動媒体ってなくても使えるし、必要だとしても手は塞がってるわけだから……まさか。


 俺は大きく目を見開いた。


「もしかしてセレスティーナさんは魔法剣を持ってるんですか!?」


「え、ええ」


 しまった、つい身を乗り出してしまった。セレスティーナさんがちょっと引いてる。


 魔法剣は耐久性に難があり、主流ではない。そのくせ加工が難しく値段もべらぼうに高いのでそうそうにお目にかかれないのだ。しかも国に召し上げられているし。


「見せてもらえませんか? 今まで見かけることがなくて」


「構いませんよ。それよりノルン様、魔法剣はいささか勝手が違うのではないかと思うのですが」


「なに心配はいらぬ。儂は期限など口にしておらんからの。モッチー殿が魔法剣を学んでからでも約束は有効じゃよ」


「なるほど」


 ノルンさんは俺が魔法剣を作れるようになると確信しているのだろう。なんだかすごく高い評価をもらってる気がするよ。


 とはいえ期待されて悪い気はしない。身も引き締まるというものだ。


 各々、杖は拠点に置いているとのことで俺は彼らについてお邪魔することになる。


 そしてそこで出会った技術が俺にさらなる技術力を与えることになるとはこの時はまだ思っていなかった。





 猛き土竜の拠点は同じ区画だけあって目と鼻の先にある。


 通された居間でテーブルに並べられた二本の杖、そして魔法剣を前に俺は衝撃で固まっていた。


 ミーナさんの杖はオーソドックスなものだ。


 魔法石の一部を平面に削り、そこに魔法石の魔力の漏出を防ぐ刻印が施してある。それを杖の先端に取り付けてあった。まさに一般的なものだ。


 そしてノルンさんの杖が特異だった。


 球形の魔法石がそのまま杖にくっついているのだ。不思議に思い覗き込んでみると、杖の接点に刻印らしきものが透けて見えている。


 どうやら杖の方に刻印されており、魔法石を消耗から保護しているようだった。


 そしてセレスティーナさんの魔法剣。


 柄から先は普通の鉄剣だが、柄頭に取り付けられた少し小ぶりな魔法石のおかげで取り回しにくそうな見た目をしている。鍔も少し大きめで、柄の側に魔法陣の刻印があった。しかも柄や鍔の部分が杖と同じ素材でできている。


「どうじゃ、モッチー殿」


「正直、驚いてます。こんな技術があったんですね」


 基本的に魔法石の魔力漏出を防ぐ刻印は直接刻むか密接させないといけない。また平面上に魔法陣がないといけないため、球形の魔法石を削って平面部分を作り出すのが一般的だった。


 もちろん杖の平面部分に刻印を入れ、同様に平面に削った魔法石を接着させる方法もあるのだが、多少魔法陣の効率が落ちるため誤差程度だが魔法陣が大きくなる。どちらも性能的には変わらない。


 ちなみに魔法石を削るのが主流なのは、魔法石技師の生活を守るためだとかなんとか。


「この杖はどうやって魔法陣を魔法石に作用させているんですか?」


「杖の窪みの部分に魔法石を溶かした粘液が詰まっているのじゃよ。そうすれば粘液も魔法石の一部として扱われるというわけじゃ。まぁ手間がかかるのでかなり前に廃れてしまったがの」


「粘液で繋ぐ……それが可能だったら前提からして変わるじゃないか。いや、そもそも粘液そのものが魔法石と同質のものとして扱われる……それなら形状も自由に変えられると考えて問題ないはず。つまり内部を粘液で詰めることで擬似的に魔法石の体積を増やすことだって……」


「モッチー殿?」


「……あ」


 しまった、つい独り言を漏らしてしまっていた。


 だが仕方ない。俺の頭の中で革命が起こっているのだから。


「すみません、杖の強化案を思い付いたら止まらなくて。あ、そういえば外付け刻印に加えて魔法石内部にも刻印を入れたら正常に機能するんですかね。魔法陣が一つの枠内に収まってないんですけど」


 魔法陣はそれが立体的であっても一つの枠内に収めるのが常識だ。でなければ効果が複合せず、お互いが魔力を奪い合って効率的に魔力を使用できないのだから。


 この場合だと杖側の刻印に十分な魔力が配分されなければ魔法石が、粘液内の魔力が消耗してしまう危険性すらある。


「ふむ、そういえばそうじゃな。ならばこの形式の杖では恩恵を得られんのか」


「おそらく。とりあえず実験的に刻印を施すのはいいんですが、上手くいかないと思います。杖側の刻印も纏めて一つの枠内に収められたらそれで済…………」


 あれ?


「ぬ、どうしたモッチー殿」


 急に動きを止めたから怪訝そうな顔だ。


 俺はさっきから外野だったセレスティーナさんの方を見て、次いで魔法剣へ視線を送る。


「あの、私が何か……?」


 そこで今までミーナさんと共に背景と化していたセレスティーナさんがようやく口を開く。


「ふひっ、きっと発情したなの。セレスティーナは罪な女なの」


「え、あの!?」


「いやいや、この流れでそれはないから!」


 そこにミーナさんの開口一番のトンデモ発言が続き、思わずツッコミを入れた。てかどういう思考回路してるんだ。なんかこういう発言しかしてない気がするぞ。


 ……でもちょっと落ち着いたかも。さっきから自分でもびっくりするくらい興奮していたからな。これもミーナさんのおかげ、でいいのか?


 俺は一度大きく息を吐き、平静に努める。


「セレスティーナさんの魔法剣は鍔の部分に魔法陣がありますよね。おそらくなんらかの特殊効果を付与しているんでしょうけど、柄頭の魔法石に魔力安定化のための魔法陣が刻んであって、それら二つの魔法陣が両立されている。なぜでしょう?」


「確かに不思議ですね。しかしそれは秘中の秘、本職の方たちの間で秘匿されていますから……」


「もちろん私も知らないなの。拷問しても無駄なの」


「しないから……はぁ、すまないけどちょっと黙ってて」


 なんだろう、ミーナさんは……いや、呼び捨てでいいや。どうせ同じくらいの歳だし。ミーナはなんでこういちいち茶化すようなことばかり言うんだ。分からん。


 とまあそれはいいとして。


「おそらくこの柄の部分に二つの魔法陣を“繋げる”仕組みが施されてるんだと思います。まあ分解するわけにはいきませんから今はまだやり方は分かりませんが」


「それは良かった。分解したいなどと言われたら困ってしまうところでした」


「はは。ただ魔法石の内部に刻印を入れても構わないことは確定しました。なので今すぐに強化できますよ」


「そ、それは本当ですか!?」


「ええ。柄の仕組みは魔法石全体を魔法陣の一部として処理する仕組みになっています。なので安定化のための刻印に悪影響を及ぼすことはありません」


 魔法陣を一つ枠に入れる。このルールには魔法陣同士を“引っ付ける”方法では成り立たない。それはもちろん垂直に接する場合でも同様だ。


 この場合では垂直に接している柄頭の魔法陣が枠に入っている時点で魔法石全体に及んでいるのは確定だ。そして枠内なら魔法陣を足してもなんら問題はない。


 そして俺が思い付いたのはそれだけではない。


「それからノルンさんの杖も魔法石内部に刻印を入れられますよ。少しばかり杖そのものに手を加える必要がありますが」


「ほ。真か?」


「はい。とはいえすぐにできるわけではありませんが」


「よいよい、そのくらいは瑣末なことじゃ。しかしモッチー殿は真に天才であったのじゃな」


「へ? いや、別にそんなことは」


「謙遜するでないよ。わずかな時間で新しい技術をぽんぽんと生み出しているのじゃ。凡人などという括りには入れられんよ」


 ノルンさんは本当に持ち上げてくれるなぁ。そこまで大したことはしてないつもりなんだけどさ。


 いや、そんなこともないのか。思い付いたばかりの新しい杖だと従来のものに比べて倍以上の性能を発揮できるだろうし。


 でもまだ知らなければならないことだって数多い。作り上げたいものはまだまだ遠いのだから。


「うーん、こうなるとノルンさんとミーナの杖はいっそのこと新調した方が良いかもしれませんね」


「ほう、任せよう」


「ふひっ、もう呼び捨てなの。堕としたつもりなの」


「はいはい、堕とした堕とした。じゃあどういう性能にしたいかを教えて欲しいんですけど」


 俺は紙を出してもらい、そこに威力・範囲拡張・制御向上・魔力許容量増加の四つを箇条書きにする。それらに十個の星マークを好きなように割り振るよう要求する。


「威力は言葉のまま。同威力で発動するなら消費魔力低減にもなります。

 範囲拡張はエリアヒールなどの特定範囲に影響を及ぼす魔法に効果があります。

 制御向上は魔法発動の補助をしてくれる杖の機能を底上げしてくれます。また特化すれば上級魔法まで発動可能になるでしょう。

 魔力許容量増加は杖や魔法石の魔力への耐久値を上げるものです。これがないと大量に魔力を使用する魔法は使えませんね」


 これらを個人に合わせて配分できるのが内部刻印の有用性の一つだ。そして今後は粘液が予想通りの効果を及ぼす場合には威力と魔力許容量が大きく増加した状態から改めて配分することができ、さらに選択の幅が広がるだろう。


 そしてセレスティーナさんは威力に八、魔力許容量増加に二を割り振った。魔法剣だから鍔にある魔法陣に特化するのだろう。


 ノルンさんとミーナは少し悩んでいるようだったので、俺はさっそくとばかりにドローイングの魔法を使って魔法剣に内部刻印を施すことにした。


 その間、配分を終えた二人がいつの間にか手元を覗き込んでいるのには全然気付かなかったが。

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