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大いなる使命

 ああ、やっぱり。


 俺もケントもまず思ったのがそれだった。


 異世界転生。勇者。ここから連想されることと言えば魔王討伐だろう。テンプレってヤツだ。


「今、世界は魔王によって滅びようとしております。しかしここに勇者様が降臨なされた。是非とも魔王を打ち倒し、世界に平和を取り戻していただきたい」


 壮年の男はまくし立ててから俺たちが立ったままだったことに気付いたようだ。


「おっと私としたことが。ささっ、どうぞまずはお座りください。ああ君、ご苦労だったね。下がっていいよ」


 向かいのソファーに俺たちを座らせた後、案内してくれた受付嬢を退出させる。そうして部屋は男三人が残った。


 正直言ってテンプレ展開に俺は落ち着いていた。なぜって俺は勇者じゃないし、いわば第三者。客観的に見れるからだろう。


 ケントの様子を覗いてみると、どうやら困惑しているようだ。当然っちゃ当然だけど。仕方ない、ここは俺が矢面に立ってやるか。


「落ち着いてください。いきなりあれこれ言われても困ります。まずは順を追って説明してもらえませんか」


「おおっ、そうじゃな。これは大変失礼した。まずは自己紹介をさせていただきたい。私はギルドマスターをしているギリエル・シューリッツと言う。お会いできて光栄だ……ああ、と……どちらが勇者様なのですかな?」


「勇者はこちらのケントです。俺は……えっと、その、友人のモッチー……と言います」


 やべぇ、自分で名乗るの半端なく恥ずかしい。名前変えたい。マジで。切実に。


 てかケントお前笑いやがったな今。俺にはバレバレだぞ。


「貴方が勇者様でしたか。いやはや、お若い好青年とは。このギリエル、驚きましたぞ。モッチー君もせっかくだ、話を聞いていくといい」


 この爺さん、明らかに俺とケントで態度変えやがった。いやまぁ勇者と平民だからな。差があって当然だけど。


 俺たちはこのギルドマスターからこの世界についていろいろと話を聞くことになった。


 なんでも昔は世界中に国を作っていった人間はそれはもう繁栄していたらしい。その数の暴力で魔物を駆逐するのもそう遠くない未来だとまで言われていたとか。てかやっぱり魔物いるんだな。


 けど、突如として現れた魔王がそれを覆した。


 強大な力を持つ魔王は七体の強力な魔将軍と呼ばれる魔物を従えて国々に襲いかかり、いくつもの国家を滅ぼしていったそうだ。


 次第に生活圏を奪われていき、今では元の5分の1ほどしか国も土地も残っていないらしい。そしてこのままでは遠くないうちに人類は滅びるだろう、とのことだ。


 そして残された希望はかつて太古の昔に記された予言。彼方の世界より現れし勇者が闇を打ち払うだろう、というものだった。


「我々は勇者様が現れるのをずっと待ちわびていたのです。どうかお願いです、この世界に住むすべての民たちのためにそのお力をお貸しください」


 ギリエルはケントの手をぎゅっと握って懇願していた。真剣な、真摯な言葉がケントの心を揺らしているのが分かる。


 ああ、ケントはあれで結構熱血漢で人情味のあるヤツなんだ。助けられるかもしれないやつを簡単に見捨てられるようなヤツじゃないってのは俺が一番良く知ってる。


 それに。


 話が本当ならどのみち戦わなきゃ生きていくことはできないだろう。知らないフリをして生きていくか、抗って戦うか。その選択になる。


 そしてケントは勇者の称号とレベル50のステータスを持っている。答えはもう決まっていた。


 ケントは頷くと、真剣な目で答える。


「分かりました。どのみち生きるためには戦わなければならないでしょうし、やれるだけのことはやりますよ」


「おおっ、そう言っていただけるとは!

 このギリエル、万感胸に迫る思いにございます。ややっ、忘れるところでした。是非とも王都に赴き、陛下にお姿を見せて差し上げていただきたい。陛下以下、一同待ちわびておりますれば」


「王都……ここからは遠いのですか?」


「馬車で三日とかかりません。我がギルドで手配いたしましょう。準備が出来ましたらお伝えいたします」


「それは助かります。是非お願いします」


 二人の間で話が進んでいく。やばい、俺置いてけぼりだ。


 すかさず話に割り込む。


「その王都までの道は安全なんでしょうか。俺たちはまだこの世界に来たばかりで戦う術を持ちません。護衛、もしくは武器防具を手に入れたいのですが」


「ふむ。モッチー君の言うことも確かだ。ならば護衛と共に戦闘指導もするように手配しよう。ケント様、よろしいでしょうか?」


「はい、願っても無いことです」


 なんというか対応が違いすぎて笑えてくるな。まぁないがしろにされてるわけじゃないからイラつきはしないけど。


 向こうからしたら最後の希望が現れたんだから気持ちが前のめりになるのも分からなくはないからね。


 とはいえ気付けば俺も同行が決定してるし、少なくとも王都までは生活が保障されたようなものだ。その間になんとか生きていく方法を考えないとな。


 ケントとギルドマスターががっちり握手したあとは早かった。


 ギルドマスターの命令で高ランク冒険者が呼び出され、馬車と食料等が集められ、革鎧と鉄の剣が渡される。


 聞けば量産品でそこまで性能は無いらしいのだが、ケントに関しては王都で良装備を準備してもらえるだろうということだった。……俺は?


 その後、話し合いから数時間も経たぬうちに俺たちは公都シルヴェストの門を出発していた。

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