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新生・赤撃とパワーレベリング・6

「筋力が異常に上がってる?」


「ああ、今のモッチーの状況を見ればそれしか考えられない」


 ラインさんの、いや仲間全員の分析が一致しているらしい。


 俺は後ろからラインさんに押してもらって、キングファングの巨体を馬車まで引きずってきた。上半身を持ち上げて荷台に引っ掛ける。


 なんとなく出来そうだからやっているが、指摘されてから改めて考えてみれば明らかに異常だ。つい先日まで高校生やってたんだぞ。


 もしかして今回でレベルアップして筋力パラメータにガン振りされたんじゃ……


 いやいや、まさか。それだと予定が狂うどころじゃないんだが。スキルの熟練度を優先的に上げたいのに。


 その後ラインさんの指示で馬車が二頭引きに変更され、ラインさんが御者、ツーヴァさんが後方から騎乗して警戒に当たる。


 俺とティアーネ、レイアーネさんは馬車でキングファングの頭と同乗する形だ。


「まさかいきなりAランクモンスターに遭遇するなんてな。結構あるの?」


「珍しい」


「マジか。レアケース引いちゃったわけか。ついてないな」


 雑魚から始めて安全にレベルを上げていくはずだったのに。まさか初っ端から死にかけるとは思わなかった。


 とはいえAランクモンスターを倒したのはきっとデカイはず。経験値も多いだろうしかなりレベル上がってるはずだ。てか上がれ。死ぬほど上がれ。


「帰ったらギルドで鑑定板を借りないとな。どのくらいレベル上がったか楽しみだ」


「ん。きっと一気に上がってる」


「だよな〜。スキルの方も一気に上がってくれたらなお良しだな」


 特に精密操作スキル、お前だ。お前の熟練度が低いから魔法石の加工に時間がかかって仕方ないんだよ。一個の魔法陣を刻むのにどれだけ時間と気力を奪いやがるんだ。


 もっと早く魔法陣が刻めるようになれば構想段階のヤツもチャレンジできるのに。新型杖とか魔法剣とかさ。


 それに防具の強化だって必要だ。特に俺の防具は早急に改良しなければ命がいくつあっても足りないだろう。


「とにかく上げたいスキルが多過ぎるから迷うな。それにやるべきことも多いし」


「ん。頑張って」


「おう、任せとけ。今にティアーネ専用の最強装備を作ってやるからな」


「期待しとく」


 ああ、ティアーネと話してると癒されるなぁ。それに綺麗なオッドアイで見つめてくれるから幸せすぐる。


「あらあら、二人だけで盛り上がっちゃって。当てられちゃいそう」


「ははっ、ならばレイアーネの相手は俺が努めよう」


「あら、ありがとう。でも気持ちだけ受け取っておくわね」


「お、おう、そうか」


 レイアーネさんに素気無くあしらわれて禿頭が項垂れる。


 んん? んんんん?


 これはまさか……ラインさんはレイアーネさんに惚れてる?


 まあレイアーネさんは美人だからそれもあるか。ラインさんもいい歳だし。ってまだ三十だっけか。この世界の適齢期っていくつなんだっけか。


 でも見た限り険しい道みたいだな。心の中では応援しとこう。頑張れ、ラインさん。


 馬車はやがて森を抜け、ネアンストール防壁が見えてくる。門をくぐれば魔物を警戒する必要もないので一息つけるようになる。


「ライン」


「おお、どうしたティア」


「魔法石」


 ふとティアーネがキングファングの頭を指差す。体内から採れる魔法石をどうするか、ということだろう。


 とは言っても魔法石に関しては決定権が俺にあるわけで、ラインさんは俺に振ってくる。


「どうするモッチー。Aランクの魔法石となれば結構な高額で売れる。今回はまるまる一匹持ってこれたから高値が付くだろうが、魔法石も売れれば俺やツーヴァは装備を新調する費用ができるだろう」


 報酬に関しては等分がルールだ。俺はまだ見習いということで少ない額だが、それはまあ置いといて。


 今回の戦いでラインさんは大剣が折れ、大盾も修繕が必要。ツーヴァさんも軽鎧は補修が必要だし、剣も一本キングファングの頭に突き刺して駄目になっている。


 ティアーネとレイアーネさんに関しては装備の損耗はないが、仲間内で金の貸し借りはしないのが暗黙のルールになっているらしい。


 個人的には前衛の装備は消耗が激しいだろうから補修費用は融通しても良さそうなんだけど。


 そうなるとラインさんは特に魔法石は売却の方向でいきたいのだろう。でなければ俺にわざわざ確認を取る理由がない。


 魔法石に関してはまるまる俺に投資してくれてるようなものだし……


「魔法石は売らないでおきたいですね」


「ぬ、やはりそうか……」


「だから今回は俺が個人的に買い取る、でどうでしょうか。鑑定だけはしてもらって値段をつけてもらいましょう」


「それは助かるが。いいのか?」


「もちろんです。俺はまだまだ資金に余裕がありますし、みんなの装備を整えるのは自分の安全マージンを取ることにもなりますから」


 クルストファン王国でもらった過保護なくらいの金があればこのくらい余裕だ。魔法石が目玉が飛び出るほどの金額じゃなければ、だけど。


 でもラインさんたちの装備についてはちょっと考慮が必要かもしれない。今のレベルの装備だと高ランクの魔物が現れた時に苦戦が必至だ。でもこの街で入手できる装備には限界がある。そうなると……


「やっぱり早めに鍛治を始めた方が良いのかな。今のままだと杖くらいしか作れないし」


「確かにそうだが、鍛治ギルドに所属はしてくれるなよ。成果は全部国に献上だからな」


「ああ、そういえば強制徴用でしたっけ。でも鍛治ギルドに所属しないで鍛治師になれるんですか?」


「ぬ、そこはまあなんとかなるだろうよ」


「いや、そんな適当な」


 鍛治ギルドは冒険者ギルドとは違って依頼を受けたりランクが付いたりするわけではなく、鍛治師の間の組合に近い。とはいえ市場やライセンスの発行も全て取り仕切っているらしく、ここに所属せずに鍛治師として活動できないらしい。


 鍛治師としてじゃなければいいのか。商売をしなければ問題はない、と。確証はないけど。


 それなら技術だけ学んであとは自力で、となるけど鍛冶場をどうするかの問題もあるのか。ううむ、一筋縄ではいかなそうだ。


「ラインさんはどこぞの鍛冶場にコネとかツテとかないですか? あったら紹介して欲しいんですが」


「そんなもんあったらとっくに裏で装備を回してもらってるわ」


「ですよねー」


 自力で見つけるのも大変だろうし誰か繋ぎをしてくれたら助かるんだけどな。


 とはいえ赤撃のメンバーにはいないし、他に知り合いがいるわけでもないからなぁ。あ、一応“猛き土竜”のノルンさんは知り合いか。


 うーん、一度ノルンさんに相談してみるか。あの人ならどこか知ってそうだし。


 馬車は防壁沿いに進み、ネアンストールの東門へとたどり着いた。


 門の内側には商店が建ち並ぶ。門を利用するのはほとんどが冒険者たちなので、彼らに向けた武器防具やポーション等を販売している。そして最も割合が高いのは解体業者だ。


 冒険者たちが日々回収してくる魔物の素材を買い取り、解体して肉屋や鍛冶屋等に卸しているのである。


 そしてキングファングの死骸も当然ここで売却する。


 解体野郎ゴリアンヌ。天井が高く搬入用の大きな出入り口を設けた倉庫。赤撃の馴染みの店だ。


 いや待て、その名前嫌な予感がする。アンヌって女性名だろ。それで解体野郎ってことは。


「おい、ゴリアンヌいるか?」


「はーい、すぐ行くわ〜。……あら、ラインちゃんじゃないのよ〜。ご無沙汰ねぇ、いつ帰って来たのぉ?」


 どわああぁっ、やっぱりかぁ!!


 正直声に出さなかった自分を褒めてやりたい。予想通り、いや予想以上の姿に卒倒寸前だよ。


 ヤツは、いやゴリアンヌ氏は身長二メートルに及び、ムッキムキでビッキビキの巨漢だった。金色の髪は腰まで伸ばされ、肉屋のような服を返り血に染めている。


 彫りの深い男臭い顔なのに、ピンク色の口紅と頰にもかなり薄く同色で塗りあげられていた。よく見たらマスカラや付けまつ毛も目立ち過ぎない短いものが付いていて、肌も艶々と輝いている。正直素人目にも化粧が抜群に上手い。


 そんな大男が店の中から現れたのだ。


 これで手に肉切り包丁を携えていたら間違いなく悲鳴を上げて腰を抜かしていただろう。


「一昨日にな。で、今日から復帰していきなり大捕物だ」


「どれどれ……ってキングファングじゃないの! あなたたちよく倒せたわね!」


 ゴリアンヌ氏が顔の横で両手を握り合わせる。なんだその乙女ポーズ。しかもちょい内股になってんじゃねぇよ。


 あ、やべ。目が合った。そりゃキングファングの前に座ってんだもんなぁ。


「あらん、新入りかしら?」


「え、ええ。モッチーと言います」


「可愛い名前ね。んっふ〜ん、それに姫ちゃんと仲良しなのねぇ?」


 左手を頰に当て、しなを作って覗き込んでくる。いつの間にか俺の後ろにティアーネが隠れていた。


「ティアーネが姫?」


「そうよぉ、だって可愛いもの!」


「ああ、なるほど。確かに可愛い」


 お、このおっさん良く分かってるな。良い酒が飲めそうだ。飲まないけど。


 ゴリアンヌ氏の指示で俺たちは馬車を倉庫内に侵入させる。中は馬車が数台並んでも余裕があるほど幅広く、奥行きも同様にある。どこでもこの規模はあるらしい。


 ちなみに女性陣は血肉の臭いがきついからと入り口待機だ。ちゃっかりツーヴァさんも外にいるけど。


 倉庫の中は右奥に解体中とみられる謎の肉塊が巨大なフックで天井から吊り下げられている。だいぶ切り取られた後だろう、原型が想像できないほどだ。


 壁面沿いに作業道具が整然と並べられており、なんらかの大きなバケツのようなもの、魔道具らしき物体などが綺麗に整頓されている。臭いを除けばここが解体現場であることを忘れてしまいそうだ。


 指定されたのは中央やや左の位置で、大型の魔物の解体スペースに使っているらしい。


「モッチー、下ろしてやってくれ」


「分かりました」


 俺は馬車を降りてキングファングの首元に潜り、頭を持ち上げる。すかさずラインさんが馬を歩ませ車体の位置をずらした。


 それを見ていたゴリアンヌ氏が感嘆の声を上げる。


「モッチーちゃん、力持ちね。身体強化魔法も使ってないのに」


「……え。分かるんですか?」


「もちろん。これでも身体強化は得意なのよ」


 いや、これでもってかバリバリの肉体派に見えるわアンタは。むしろ得意じゃなければビックリするくらいだよ。


「ゴリアンヌはもともとAランクの冒険者だ。腕っ節の強さは折り紙つき。冒険者たちからの信頼も厚い。もちろんギルドからもな」


「あらん、恥ずかしいからそのくらいにしてね?」


「お、おう」


 ゴリアンヌさんがラインさんの顎を撫でてウインクする。誰得だよこれ。


 まあこれもテンプレ通りで元冒険者で実力者、と。なんだろうな、マッチョのオカマは強いって方程式でもあるのか?


「じゃあ魔法石の方は俺たちが貰うんだが、査定だけはしといてくれるか」


「了解よん。そうだ、毛皮でツーヴァちゃんの鎧を作る? 安くしとくわよ」


「おお、できるのか。ならば頼む」


「はぁい」


 二人の間で取り引きが纏まる。金銭のやり取りはまた後日ということに。


「そうだ、ゴリアンヌさん」


 その中で俺は聞き逃せない内容があったのだ。

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