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新生・赤撃とパワーレベリング・2

 ネアンストール二日目の朝、俺は爽快な気分で目が覚めた。


「んー、回復魔法って凄いな。こんなにスッキリと目が覚めるなんて」


 昨日、“猛き土竜”のノルンさんから回復魔法を受けたらずっと調子が良かった。それでついつい夜更かしして魔法石を弄っていたが、短い睡眠時間でも問題なく身体がリフレッシュしている。


 そういえばもう一人の筋肉男の名前聞いてなかった。まあ次に会った時にでも聞けばいいや。


 昨日は一年ぶりだからと挨拶に寄っただけらしいし、いずれ他のメンバーにも会うだろう。なんでも同じ区画内に拠点の家を持ってるらしい。


「俺たちは明日から魔物退治に行くって言ってたな。さて、今日は何するか」


 ここに辿り着くまでに杖が完成するとは思ってなかったからやりたいことなんて考えてなかった。鍛冶工房の見学に行くか、本屋に行くか、道具屋でインスピレーション探すか。


 リビングにはすでに“赤撃”のメンバーが揃っていて、各々朝食をとっていた。


「おはよ」


「おはよう、ティアーネ」


 俺に気付いたティアーネが声をかけてくれて、他のメンバーも気付いてそれぞれ挨拶を交わす。


 テーブルには黒パンと豆のスープが並んでいる。これがこの世界のオーソドックスな朝食だという。


 日本で生きてきた俺にとっては黒パンは硬くて苦いし、スープは味が薄くて深みがない。日本と比較するからそうなのか、そもそももとから不味いものなのかは分からないけど、これで我慢し続けるのはちょっと辛い。


「日本食が恋しい……現代っ子の俺に異世界飯はハードだ」


「モッチー君のいた世界ではもっと美味しい食事を食べていたのかい? もしかして貴族だったのかな」


「いや、平民っていうか、身分制度なんてなかったですよ。偉い一族がいて、あとは全員同じ身分って感じです。その偉い一族も政治には関わらず象徴的役割を担っているだけなので、実質的に皆平等とされています」


「へぇ……それで国が機能するのか。僕には想像できないよ。平民でも美味しい食事にありつけるというのは実に羨ましい限りだね」


 少々戯けたようなリアクションで溜め息をついているが、あれは絶対本心だ。他のメンバーも口々に同意する。


 やはりこの世界の食事環境は良くないようだ。それもそうだ、戦時中なんだから。日本も大変だったらしいからな。


 何か良い食材でも手に入れられたらいいんだけど、今から農業改革してたら気が遠くなりそうだし、目先で何かないものか。


「せめて魔物の肉が美味かったら変わるんだろうけど、道中で食べたやつ微妙だったからなぁ」


 スーパーの安物肉ですらもうちょっとマシだぞ。赤身が多いし、臭みもえぐみもある。きっと料理研究家でも匙を投げるに違いない。


「それは仕方ないね。同じことを考えていろんな料理人が研究したけど、良い成果は得られてないよ。ただ食べられなくはないから食糧事情には貢献しているね」


「なるほど、俺たちは魔物の間引きだけじゃなく食糧の確保も期待されてるんですね」


 いくら憎っくき魔王軍とは言え、生き物である以上は食べなきゃ生きていけない。とくれば目の前の食糧に手を出さない選択肢などないのだろう。


 そうすると素材の流用を考えれば倒した魔物はまるまる持って帰るべきか。しかしそれだと馬車はすぐ満載になって帰還しなくちゃならないわけで。


 やっぱりアイテムボックスってチートなんだな。空間魔法が存在しないのが悔やまれる。荷物を大量に運べる方法なり、せめて物資輸送を委託とかできれば継戦できるんだけどな。


「モッチー君も面白いところに目をつけるね。普通は馬車がいっぱいになればそこで狩猟は終わりだよ」


「それだと低レベルの敵なんかだとすぐ終わりませんか? みんなの力なら大型の魔物だって仕留めれるだろうし、馬車に乗りきらないサイズだと困るじゃないですか」


「モッチー、強欲?」


「いや、強欲て」


 もったいないだろう。ティアーネにツッコミを返しながら思案する。


 ここは魔法の存在する世界なのだから、それを使って解決できそうなものだけど。……ああ、そうか。魔力を戦闘以外に使うのは極力控えた方が良いって言ってたか。


 特に戦闘要員は可能な限り余裕を持たせるのが普通。荷運びに費やす労力は避けたいのが当然だ。


 じゃあ魔道具はどうだろうか。


 みんなに負担をかけないためには俺がなんとかする必要がある。そして俺は魔道具を扱うことができる。魔力も余ってる。……いけるんじゃないか?


「ちょっと買い物して試作してみるかな」


「案内する」


「助かるよ、ティアーネ。ありがとう」


「ほう?」


「へえ?」


「ふーん?」


「なんですか、みんなして」


 また何か勘違いしたらしい年長組を残し、俺とティアーネは街へ繰り出した。







 次の日、新生・“赤撃”はネアンストールの地で初の魔物退治へ赴いた。


 東門を抜け、一キロほど南に進んだ位置にある防壁の門から外へと抜ける。魔物の領域へと。


「分かってるな、モッチー。お前の仕事は生き残ることだ。這い蹲ってでも泥水啜ってでも必ず生きろ。ここからは諦めたヤツから死んでいく。未来のためにお前は死ぬことを許されない」


「……はい!」


「よし、忘れんなよ? 俺たちはお前に賭けるってんで連れて来たんだからな」


 ラインさん。


「そうだね。僕たちが守るから大丈夫だよ」


 ツーヴァさん。


「怪我しても私が治してあげる」


 レイアーネさん。


「頑張ろ」


 ティアーネ。


 これから始まる本当の冒険者生活と期待不安を胸に俺は大きく頷き、改めて気合と覚悟を入れる。


 眼前には平野。そして五百メートルほど離れた場所から南に向かって森が広がっていた。


 そして森の境界線では沢山の人々が何やら作業をしているのが見て取れる。あれは木樵の人達だ。冒険者たちが魔物を倒して魔王軍を削っているように、彼らは森を削ることで魔物の生息域を削っている。


 もちろんその木材は街や他の街、国に売却され利用される。これも合理的に推し進められている反抗作戦の一部と言えた。


 そして中央部に向けて一直線に切り拓かれた道がありる。馬車が二台すれ違えるほどの広さのこれは、冒険者たちの侵攻ルートでもある。と同時に魔物素材の運搬ルートの機能も持っている。


 その道を進むと五十メートルおきに左右に馬車一台分の停留スペースがあった。これは停留と同時にUターンにも使われる。


 俺たちは所々で他の冒険者たちの馬車を横目に奥へと抜けていく。どれくらい進んだだろうか、馬車が止めてある向かい側を陣取り、停止させた。


「よし、ここから森に入ろう。モッチー、俺たち冒険者はなるべく向かいに馬車がある場所に止める。何故だか分かるか?」


「えっと、反対側を向こうのパーティーで警戒してもらえるから、でしたっけ」


「その通りだ。少なくとも向こうが狩りをしている間はな。一つのパーティーで右も左も全部警戒するのは負担が大きい。特に視界の悪い森の中ではな。これも長年培われてきた知恵だ」


「あれ、でも確か探知の魔道具がありますよね。それでなんとかならないんですか?」


「魔道具の有効範囲を考えてみろ。森に分け入って馬車を守れるか?」


「えっと、円形に百メートルまで……ってそうか、森の中に入ったら反対側は索敵範囲外になるのか。どうしても手が回らなくなるんだな」


 俺は馬車の後尾に吊り下げていたあるものを取り外す。背負子の形をしているが、背に当たる部分は三枚の板が重ねられている。


 そこに皆の荷物、主に水筒や解体用のナイフを積み込んだ。


 ツーヴァさんが先行し、その後ろをレイアーネさんとティアーネの姉妹、そして俺にラインさんと隊列を組む。


 これは前方を行くツーヴァさんの索敵能力が優れているのと、危険察知に長けているラインさんが後方を警戒することで全体のバランスを取っているようだ。


 魔法使い二人は特に役目があるわけではないらしい。まあ魔力を浪費させるのも勿体ないし、前までは少し多めに荷物を運んでいたらしいのだが、今回俺が入ったことで姉妹はことさら手持ち無沙汰になった様子だった。


 彼女たちは俺が渡したプロトタイプの杖を手にしている。


 幸か不幸か一昨日のうちに安全性は確認されているし、それなら実地で性能を見てしまおうと目論んでいた。


 その機会はしばらくしてから訪れる。予想外の出会いとなって。

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