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一番良いのをくれ

「ロックラックの親方はいるかい?」


 尋ね人が訪れたのは親方とガジウィルさんと三人で精霊銀の折り返し鍛錬の検証をしている時だった。


「ふん。客か」


「おっ、これはSランクの鍛冶師が三人も勢揃いで。モッチーは久しぶりだな。俺のこと覚えてるか?」


「はい、もちろん覚えてますよ。シュライグさん」


 ロックラック工房を訪れたのはSランクパーティー“草原の餓狼”のリーダー・シュライグさんと斥候のピエールさんだ。


 シュライグさんは気の良い兄ちゃんって感じでまさしく陽キャな感じ。ピエールさんは糸目でいつも胡散臭そうな笑顔をしてるけど、意外に甘いもの好きで収入のほとんどを費やすそうだ。


「ここに来たってことは金の工面ができたのか?」


「ああ。奪還戦での報酬もあったし、その後もAランクを運良く二十体ほど狩れたんでね。一気に懐が潤ったのさ」


 そういえば“草原の餓狼”はレグナム奪還戦に参加してたもんな。あの時は財布がすっからかんになる勢いで装備を揃えていたけど、それでも全員分は無理だった。


 あれからものの数日で資金を貯めてきたのは流石としか言いようがない。


「ふん。魔法薬を質に入れてやしないだろうな」


「当たり前だ。そこまで追い詰められちゃいねえよ。あれは大事に使わせてもらってる。まあ奪還戦で奮発し過ぎてほとんど残ってないんだけどな」


「殊勝だな。それで今回はどれくらい装備を揃えるつもりだ?」


「とりあえず前衛は全員俺と同じフル装備にしたい。次に斥候陣の防具、そして杖の順番だな」


「ほう。杖は後回しか」


「ああ。ケルベロスと戦っていて分かった。まずは前衛が崩れないのが大前提だ。斥候陣の強化も前衛と入れ替わりで戦線を維持する役目を持たせられる。後衛の魔法使いを狙わせないことが最優先だ」


 なるほど、“草原の餓狼”もその結論になったのか。実際、Sランクの魔物相手とかになると魔法使いが近接戦に持ち込まれたらどうしようもないからな。この辺り、ファンタジー感覚でいた俺には衝撃的だった。


 だからこそ後衛の防御手段をどうするかにずっと頭を悩ませているわけで。


「それでどの装備にする? 魔法銀装備で良いのか? 値が張るが更に上の装備も作れるが」


「更に上!? いや、ちょっと待ってくれ、俺の魔法銀装備って最先端装備だって話じゃなかったか!?」


「それはレグナム奪還戦前の話だ。数日も経てば変わる」


「いやいやいやいや!? そんな数日で変わるわけが…………ぁ〜、なるほど、変わるんだな。それほどなのか」


 親方の視線を追って俺を見たシュライグさんが声のトーンを落とし、若干呆れたような声で呟いた。


 うーん、この流れ、もうお約束みたいになってきたな。


 シュライグさんがどのくらいこっちのことを知っているかは分からないけど、少なくとも俺が開発を行っていることは知っているようだ。あと開発スピードが早いってことも聞いているらしい。


「どうする? コイツが新しく開発した精霊銀の装備は魔法銀の完全上位互換だ。まあ値段も桁が一つ上だがな」


「ぐおっ……!? そ、それは手が出ない……いや、一人だけでもそっちの装備にするべきか……だが一人だけだとバランスが」


 親方、桁一つとはまた随分と吹っかけたな。魔法薬の分を上乗せするにしてもぼったくりだと思うんだけど。“草原の餓狼”は完全にカモられてるな。


 後ろを向いてピエールさんとコソコソと相談していたシュライグさんだが、結論は出たようだ。


「今回は魔法銀装備で揃えようと思う」


「そうか。魔法銀装備で本当に大丈夫か?」


「大丈夫だ、問題無い。まずは全員がSランクモンスターと対峙しても対応できるようにするべきだ。特定のメンバーがいないとどうにもならない状態は避けたい」


「分かった。受けよう」


「頼む」


 親方とガジウィルさんで打ち合わせと費用の話し合いをするのだが、俺は口出しをNGにされていたりする。サービス精神が高すぎるそうだ。心当たりがありすぎるから何も言うまい。


 ちなみに斥候陣の防具を全員分揃えるには予算が足りなかったようだ。もちろん杖もお預け。


「それと性能について相談したいんだが、このまま時間は取れるか? できればモッチーにも参加して欲しいんだが」


 あれ、俺もご指名か。まあ構わないけど。


「俺は良いですよ。親方、どうします?」


「客の要望を聞くのは基本だ、モッチー。それで他の面子は表か?」


「ああ。ピエールが呼んでくる。場所はここでいいのか」


「ここで良い。お前らは頭数が多いからな、応接室には入りきらん」


 ピエールさんが表から呼んできた他のメンバーがゾロゾロと入ってきて大勢で思い思いの場所を陣取って話し合いが始まった。


 全体的に軽鎧による機動力重視、武器も消費魔力低減による継戦能力重視の形で話が進む。


 予算ができれば次は残りの斥候陣の防具と杖を作ることで確認を取り、正式に商談が纏まるのだった。









「で、だ。モッチー、お前はあの“深淵の戦斧”を仲間に入れたいのか?」


 ラインさんの言葉にツーヴァさん、レイアーネさん、ティアーネの視線が俺に向いた。


 駄目元で次の俺の探索でエミリアの同行を提案してみたところだ。


「いやあ、戦力になる荷物持ちとしてはどうかなって思いまして。実際、アームストロング流剣術が使えてパワーもありますし、いざという時の切り札になるかもしれません」


「なるほどな。聞く限りは納得できる理由だが、お前の本音はどこだ? まさか惚れた腫れたの話じゃないんだろう」


「ええ、まあ。珍しい武器を使うんで、色々と想像が捗ると言いますか。ウチに入ればライセンスが上がると思うんで、色々と試してもらえるかなと」


「そんなこったろうと思ったわ」


 口では呆れた風だけど、ひとまずは否定する感じでは無さそう。


 実際、レグナム奪還戦での竜との戦いでアームストロング流剣術の威力を見ているから、アームストロング流剣術への一種の信頼のようなものがあるのかもしれない。


 問題はもちろんある。


 エミリアはBランクとはいえ、その上のステージに進める実力があるのかどうかは未知数だ。最新の装備を手にしても使い熟せなければ意味がない。


 それにパーティーの和を壊すような人間だととても受け入れられるものでは無い。特にティアーネやウルズさんなんかと上手くやれるのかという問題もある。


「ま、ひとまず共同探索って形で様子を見るのは構わねえよ。他の面子にも話は通しておく」


「やった。ならスケジュール調整しておきます」


「いや、それには及ばねえ」


「はい?」


 なにゆえ?


「お前は留守番だ。連れていかねえ」


「えっ!? 何故に!?」


 思わずまじまじと見返してしまった。


 けどティアーネ以外は驚いていない。当然といった表情だ。


「あいつらはBランクだろうが。装備も揃えてないのにやべぇ敵に出会した時に戦力になるか? ならねえってことは足手纏いになるってことだ。そこに間違いなく足手纏いになるお前を余分に連れて行けるわけがねえだろうよ」


「ま、そうよね。万が一を考えればね」


「そういうこった。俺らの方で品定めはしておく。諦めろ」


 助けを求めてツーヴァさんに視線を送ると、肩をすくめて無言の返事がきた。


 ティアーネは諦めてしょんぼりしてしまっている。


 味方がいない……。


「はあ。留守番かあ」


「ま、お前の休みと被らねえようにはしてやるよ。ティアが泣きべそかいちまうからな」


「ん。泣かない」


 珍しくティアーネがムッとした顔をして抗議し、ラインさんが呵呵と笑い声をあげた。

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