表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/146

精霊銀・6

「それじゃあ魔物肉のえぐみを消す方法を教えるさね。実は簡単なんだよ、ホーリー系の魔法で浄化するだけさ」


「え。そんな簡単なことなんですか?」


「そうさね。ただホーリー系の魔法を使える人間は少ないからね。大概は教会に所属してる」


「ああ、そうですね。確か依頼すると高額になるって聞きました。……あれ、てことは肉の浄化も相当ぼったくられるんじゃ」


「ははは、実はそんなこと無いのさ。どこの町でも生臭はいるもんさ。小遣い欲しさに裏でやってるやつも多い。それにあまり高額だと客が付かないからね、適度な値段に落ち着くのさ。なんなら尻の一つでも触らせりゃあ端金でやってくれるさ」


「え、ええ……? いくらなんでも腐ってません? 大丈夫なんですか、教会」


「ははは、野郎共はどこでもそんなもんさ。まあ女の方は手強いね、足元見て吊り上げてくる。そこは交渉次第さ」


 ああ、だから交渉術が上手くなったのかな。一体どれくらい尻を触らせてきたんだか。


 まあセシリーさん美人だし、鼻の下伸ばしてホイホイ引っかかる人多いんだろうなぁ。


 にしてもホーリー系って死霊系の特効だけじゃなくて濁った魔力ってのも浄化するのか。使える人が少ないのは特別な魔法だったりするのかな。


 浄化した肉ってどのくらいマシになるのか興味があるな……。


「あ、師匠! せっかくなんで試しに浄化してみましょうよ。みんなも試食してみません?」


「あら、いいわね。私も一口頂いちゃおうかしら」


「俺も構わねえぞ。マシな味だったらある程度自分らで消費してもいいな」


「そうだね。食費も浮くよ」


 皆が賛成したところでセシリーさんから待ったがかかった。


「ちょっと。ホーリー系の魔法が使えるの? ズルくない? あっちのヒーラーとか?」


「いや、違うな。このモッチーが使えるんだ。エンチャント・ホーリーライトだけどな」


「ええ!? あなたそんな特技()()あるの!?」


「はあ。一応、エンチャントなら大体は使えますよ。今のところ使えない属性とかもないですし」


「うそ……やっぱりSランクパーティーにいるだけあってとんでもないのね、あなたも」


 反応に困るなあ。まあ確かに全属性エンチャントがあったからパーティーに入れてもらえたところはあるけども。


 実際の戦闘力はほとんど皆無だからほんとにハリボテみたいなもんなんだよな。最近だと装備でエンチャント付与してしまうから俺の価値も暴落してるし。マジでホーリーライトくらいしか取り柄無くなってきたわ。


 とりあえず、師匠の鉈にエンチャント・ホーリーライトを付与して解体していく。


 皮を剥ぎ、背中のロース部分とモモ肉を落としたところで試食タイムに移る。


 七輪もどきを持って表に出て、みんなで肉を焼くことになった。


 ツーヴァさんが気を利かせて買ってきてくれた香辛料を振り、塩で味付けして網の上へ。


 果たして食べた感想は及第点ギリギリの味だった。


 筋張っていて赤身が多いが、それでもマシな部位を使っただけあって脂も少しは乗っていて歯触りもなんとかイケる。日本で安物よりさらに安く並んでいたらなんとか売れるだろう程度には良くなっていた。


「あら、全然違うのね。いままで知らなかったのが勿体無いくらいよ」


「ああ、少なくとも救済肉って感じじゃねえな。我慢して食うってレベルじゃあ無くなった」


「これくらいの固さも意外と悪くないかも。あたし結構気に入っちゃったわ。これからはモッチーちゃんを雇おうかしら」


「そりゃいい。ウチで肉を引き取る時は首根っこ掴んで連れてくるわ」


「お願いね、ラインちゃん。その時は私もおこぼれに預かっちゃう」


 おーおーおー、なんか不穏な会話がされてるぞ。まさか俺のエンチャントの一番活躍する場所が解体とかそれマ?


 エンチャントするだけだから楽で良いけどさ。なんか虚しい……









 エミリアさんたちはキングファングの肉を山盛り担いで帰っていった。


 もともと持っていた巨大な荷物も倒した魔物の肉だったらしい。ゴツィーナ男爵にもお腹いっぱい食べてもらえると嬉しそうだったのが印象的だ。


 あと去り際にユリアさんからボソッと「これからもお嬢様と仲良くしてあげてください」とお願いされたけど、何かあるのだろうか。まあ考えても仕方ないことだけど。


 この日の夕食はキングファングの肉を使ったステーキが出てきた。安くて腹一杯食べれる手頃な食材として魔物肉が一気に地位を確立したらしい。


 個人的には日本の餌からこだわった安物でもやたら質が良い肉に舌が慣れてしまっているので、正直なところ腹を満たす以上の意味が無かったりする。


 ただ男性陣は割と豪快に喰らって笑っているので野暮なことは言うまい。


 ……と、そうだ。重要な話をし忘れていた。


「そういえばなんですけど、レグナムに拠点を移す予定とかってありませんか?」


 俺の問いに“赤撃”の初期メンバーが怪訝な顔をする。


「そりゃあここからレグナムまでの移動は正直時間の無駄な気はするけどよ。あっちが整備されるのはまだ先の話じゃねえのか?」


 ラインさんの問いも尤もである。


 なにせレグナム奪還からまだ日が経っていないのだ。駐屯部隊もようやく落ち着き始めたばかりだし、周辺の安全確認もまだそこまで範囲を広げられていない状況。当然、町中の再開発など全く手をつけられていない。


「実はですね、軍の方で再開発の区画割りは大体が検討し終わってるらしいです。戦いの時にあちこち更地にしましたから、地縄張りっていうんですかね、大まかな配置決めをし始めてまして」


「ほう」


「で、前進拠点として早めに整備を終わらせたいから関連施設を軍で先に作ってしまうらしいです。宿舎とか、食堂とか、それに鍛冶場なんかも」


「あ〜、ってえと何か、モッチーがそっちの鍛冶場に拠点を移すことになるってことか?」


「ゆくゆくはそうなるかもしれませんけど、そういう話はまだ。ただ、俺よりも冒険者の方をどうにかしたいらしくて」


「どうにか?」


 ラインさんが怪訝そうな顔になる。


 閃いたのはツーヴァさんだ。


「もしかして冒険者の拠点を早めにネアンストールからレグナムに移させたいのかな。この先、シェルキナやネオラント砦を攻略する前に周辺調査を冒険者を使ってやらせたい。それにはなるべく近い場所に拠点を構えた方が進捗も良くなる。そんなことを考えてもおかしくない」


「はい、その通りです。なので冒険者用の家屋とか解体屋、そして冒険者ギルドのレグナム支部を作るそうで。市民の移住は後でも構わないと」


「なるほど。それなら必要最低限の設備だけでレグナムが稼働できるというわけだ。合理的というか実利主義というべきか。……それで僕らもレグナムに移って欲しいと?」


「はい。食料品なんかはネアンストールから商隊が出ますし、水道なんかのライフラインは急ピッチで復旧が進んでいるらしいので、一月後くらいから移れるそうですよ」


「なるほどね。……ただ二つ返事でフットワーク軽く移れるわけではないんだけど、その辺りは分かってるよね?」


「へ? ……ああ、金のことですか?」


 ツーヴァさんが頷いた。ラインさんもスキンヘッドの頭を撫でる。


 どうも思ったほど貯蓄は多くないそうだ。


 ネアンストールに戻ってまだ一年と少しだし、普段から食事のグレードを上げていたり竜のせいで馬や馬車の買い替えなども必要だった。


 あと最大の要因として一番価値の高い魔法石を現金化していないのが大きい。


 装備や魔法薬の形で返ってきているとはいえ俺の責任でもあるのでそこは何も言えなかった。


「あー、ちなみに向こうで土地を取得するとしてどのくらいの広さが要ります?」


「ちょっとモッチー君。まさかとは思うけどあなたが代わりにお金を出すなんて言わないわよね? それはダメよ。分かってる?」


「えと、はい。分かってますよ。共用部分は平等に、ですよね」


 元々他人である以上、待遇や負担に偏りがあると人間関係にヒビが入りかねないわけで、基本的には平等を目指す。


 報酬配分で俺に魔法石を回してもらっていたのはあくまで期待というか投資の意味合いが大きかった。今では実利も兼ねているのでパーティー内では問題になっていない。


 ただ今回はちょっと特殊だ。


「実はですね、レグナム奪還戦における論功行賞的なのがありまして、騎士団派と魔法使い派で勲功を巡ってバチバチやり合ったらしいです。で、どっちが功一等なのかを言い合った結果、何故か俺が功一等になったらしくて……」


「なるほどね。モッチー君ならどちらからも文句は言いづらい。実際、功績の面から見ても選ばれてもおかしくはない。表向きは優劣なしとしておいて、裏では「モッチー君を差し置いて功一等などあり得ない」として抑えるというところかな」


「え、よく分かりますね」


「一番穏便に済ませる方法だからね。実際には魔法使い派が上だろうけど、次席騎士と騎士第四席の働きは戦局を左右するほどだった。だから表立って自分たちが上だと言ってしまうと角が立つ。筆頭騎士からも気に入られてるモッチー君なら緩衝材として最適だ」


「いやあ、ツーヴァさん凄いですね。ほんとそんな感じでした。……で、功績を上げた以上、報酬を出さなきゃならないってことで、レグナムで土地をもらえることになりました」


「……へえ。都合の良い褒美だね」


 確かに。


 もともと魔王軍に奪われていたレグナムは誰の所有物でもない。何故なら領主は奪われた際に死んでいるからだ。つまりレグナムの全てがネアンストール防衛軍の所有物である。


 誰のものでもない土地を与えたところで懐は痛まない。それにモッチーが移り住めば“赤撃”も同行するのは目に見えている。まさに濡れ手に粟、というわけだ。


「ちなみにどのくらいの広さの土地がもらえるの?」


「それがですね、「どのくらい欲しい?」って聞かれまして。もしかしたら頼めば割とがっつりな広さが貰えるかもしれません」


「ちょっとそれは……大盤振る舞いよね」


「いや、そうとも言い切れないよ、レイアーネ。実際のところモッチー君の功績に見合う報酬というのがどのくらいになるか軍でも測りかねているんだろう。それならモッチー君から言ってもらった方が、例え少なくても本人の希望だから、で収まるからね」


「それじゃあ欲張って多く要求したらどうなるの?」


「その時は上手く言いくるめて適当な広さを充てがうだけだろうさ。……ただどうだろうね、上手くいけば一等地の一区画をまるまるもらうこともできるんじゃないかな。それも交渉次第にはなりそうだけど」


 一区画ってどのくらいだろう。大物政治家の屋敷くらい? 信号一つ分くらいかな?


 日本での広さで想像するととんでもない地価になりそうだ。しかも一等地となるとさらに付加価値がつくはず。


 まあそんなにもらっても使い道が無いから持て余すだけだろうけど。


 とりあえず“赤撃”が全員住めるくらいの広さは欲しいかな。あとロックラック工房の支店とかあってもいいし、ゴリアンヌ師匠にも声をかけてみよう。やっぱり使い慣れた店がある方が良い。


 それを話すと肯定とも否定とも言い難い微妙な返事が来た。やりたければそれでも良い、って感じだ。


 俺個人としては一人だけネアンストールに残るのも、毎日レグナムからネアンストールに通うのも面倒なのでできれば環境そのものをまるまるレグナムに移したいところ。


 親方や師匠に相談してみるか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ