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精霊銀・4

「私はエミリア。Bランク冒険者」


 馬車を止め、三人の冒険者に声をかけるとまずは自己紹介となった。


 背中の荷物が大き過ぎて気付かなかったが、どうやら同年代くらいの女の子だったようだ。


 腰まで伸びた桃色の髪を後頭部で纏めたポニーテールで、腰上のあたりでリボンでひとまとめにしている。表情はあまり感情を読み取れない無で、顔の作りが整っているだけに人形みたいな印象を受ける。


 それに見た目は細身で、華奢とまでは言わないがあまり筋肉質には見えない。だが戦斧や荷物を持ったままでも平然としているあたり相当の筋力があるのだろう。


「私は同じくBランクのセシリー。剣士よ」


「ユリア。見ての通り魔法使い。よろしく」


 セシリーとユリアと名乗った二人は“白百合”という二人パーティーのベテラン冒険者らしい。ラインさんくらいの年齢のお姉さんたちだ。


 こちらもラインさんが順番に紹介し、最後に俺の名前が呼ばれる。


「で、こいつがモッチー。主に裏方だな」


「どうも」


 軽く会釈すると、セシリーさんとユリアさんからじろじろと観察するような視線が向けられた。


「ユリア、例の……」


「うん、分かってる」


 小声でコソコソと話し、作った笑みを浮かべる二人。


 正直、最近は自分が有名人なんだなって自覚が出てきた。


 Sランクパーティーの新入りとか薬師とか色々あるけど、道を歩いているだけで“草原の餓狼”をはじめ高ランクの冒険者たちからよく声をかけられるからだろう。何者だあいつ、って噂から広まっているらしい。


 エミリアさんの方は特に表情は変わらない。気にしてないんだろうな。


「それで何の用事? わざわざこんなところでナンパってわけじゃないんでしょう?」


 ラインさんに問いかけたのは剣士のセシリーさんだ。茶髪でショートのボーイッシュな感じで、背も高い。


 ちなみに魔法使いのユリアさんは髪色や輪郭がセシリーさんに良く似ていて、背が平均身長くらいなのと穏やかで柔らかい印象だ。もしかしたら姉妹かも。


「おう、お誘いしたいのはやまやまだがな。こっちのモッチーがよ、“深淵の戦斧(アビス・ハルバード)”の戦斧を見てみたいって言うもんでな。ちょっと声をかけさせてもらった」


 ん? なんか今、ストレートな二つ名が聞こえたが。


「へえ、お嬢の」


「どうします、お嬢様」


 セシリーさんとユリアさんがエミリアさんに問いかける。


 お嬢様ってことは……貴族? それとも良いところの人?


 エミリアさんが俺を見る。


「………………」


「………………」


 なぜか見つめ合ったまま沈黙が降りた。なんだろう、何を考えてるんだろう。警戒してるとか?


 先に口を開いたのはエミリアさんだ。


「いいよ」


「って良いんかい! 今の間は何!?」


 思わずツッコミを入れると、ちょっと目を見開いてクスリと笑みを溢した。


「何でもない。これが見たいの?」


「あ〜、待った待った! 見せるのは良いがタダとはいかないよ!」


「セシリー」


「お嬢。ここはあたしに任せなって」


「そう。わかった」


 すんなりとオーケーが貰えそうだったが、セシリーさんが間に割り込んでくる。


 なにやら不敵な表情を浮かべており、突き付けてきたのは交換条件だった。


「とりあえずはあたしらをネアンストールまで同乗させてもらうよ。それくらいはいいよね?」


 ラインさんに視線を送る。


「おう、それくらいは構わねえよ」


「気前が良いじゃないか。ならありがたく乗せてもらう。……さて、じゃあここから交渉といこうか」


「……ん? あ、おい、今のは何だったんだ!?」


「何って、単なるお願いさ。交換条件とは一言も言って無いだろう?」


「まあ、そうだが……。はは、参ったね、こりゃ」


 いやあ、ラインさん。交渉なら流石にそんな無理筋を飲んじゃダメだろう。まあ大した内容でも無いけどさ。


 てか鼻の下伸ばしてません? レイアーネさんがジト目で見てますよ?


「で、だ。見たいのはモッチー、あんただろ? お嬢の戦斧に目を付けるたあお目が高いがね、この町じゃあ戦斧なんて持ってるのはお嬢くらいさ。つまり、見たけりゃお嬢に頼むしか無いってわけ」


「はあ。そうなんですか。通りで見かけなかったわけか」


「そういうわけなのさ。他を当たるってわけにもいかないねえ。それを踏まえてあんたならどれだけ出せる?」


「どれだけ? えっと、見るだけなのに?」


「そりゃあそうさ。冒険者が命を預ける武器を見せろってんだ。普通、赤の他人には触らせることだってさせやしない。そのくらい分かるだろう? それに、時は金ってね。これを逃せば次はいつになるか分からないよ」


 うわあ、この人結構やり手だ。


 まあ別に高い金出してまで見たいわけじゃないんだけどね。ただの好奇心だし。


 ……いや嘘、実は結構見たい。てかどのくらいの重量なのかも気になるし、なんならエミリアさんの背負ってる荷物も気になる。


 実際、総重量どのくらいなんだろう。下手したら五百キロ近くあるんじゃ無かろうか。


 けどこういう時の相場って知らないな。武器見せて、なんてシチュエーション日本じゃ絶対に無いし、モデルガンとかならワンチャンってとこだけど金取る人なんていないしな。


 ん〜、博物館とかの入場料とかを参考にしたらいいかな。大体千円から三千円くらい? あれ、そういやそっちの相場も知らねえや。


 ならこっちで交換材料になりそうなもの……


「あー、じゃあ魔法薬とかどうです? 体力回復薬と魔力回復薬をそれぞれ一つずつ」


「魔法薬!! ちょっとあんた奮発するねえ。それじゃあこっちが貰いすぎだよ。流石に申し訳なくなるさ」


「え、そうなんですか?」


「そうさな。こういう時は飯を奢るくらいでちょうど良いのさ」


「なるほど。それくらいなら」


「まあこっちはお嬢を勝手に他所の男と一緒にさせちゃあ雇い主にどやされるんで、代わりにどうだい、そのキングファングの肉を一食分頂くってのは」


「へ? キングファングの肉?」


 セシリーさんが何やら良い笑顔を浮かべて提案したのはえぐみがあって筋張った魔物の肉だった。


 元が猪なだけあって他の魔物肉より幾分マシだけど、やっぱり魔物特有の不味さがあって価格も安い。一食分だと五百円とかその程度の価値しか無さそうだけど。


 ただパーティーの所有物だから俺が勝手に受けるわけにはいかない。


 ラインさんに視線を送ると何やら悪い笑みで頷いた。


「おう、ならモッチーが個人的に買い取るってのはどうだ。それなら誰も文句は無え」


「は、はあ。それじゃあそうしますか。じゃあ」


「交渉成立だね!」


「え、……は、はい。そうです、ね?」


 食い気味で宣言してきたセシリーさんが満面の笑みを浮かべていた。


 どこかしてやったりな感じがあるが、何かそんなにボッタクリな取り引きだったのだろうか。


 そう言えばラインさんも何やら悪い顔してたけど。


 そう思って他のメンバーに視線を向けるとレイアーネさんが苦笑いをしていて、ミーナはこれはもう楽しそうな笑顔だった。


 いや、さっぱり分からん。なんで? そもそも対価は要らなかったとか? そういうこと?


 兎にも角にもエミリアさん一行を馬車に乗せ、ネアンストールへの帰路についたのだった。

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