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レグナム奪還戦・16

「閣下! 竜の死亡を確認しました。我々の勝利です!」


 伝令からの報告に将校らが満足そうに笑みを浮かべた。


「終わったか」


 ゲイルノートは深く息を吐き、瞑目する。


 余裕を持って倒したかに見えていたが、実際は魔力の消耗が限界に近づいていた。


 魔導士隊の一部をノーフミルに派遣したことも響いているが、何よりケルベロスの群れに消耗させられたことが大きい。もしあと三十分でも粘られていたら魔力が枯渇し、打つ手が無くなっていただろう。


 今回は多くの幸運に恵まれた。


 冒険者らの奮闘。特務隊設立の判断。魔力回復促進の鎧。メリオン・フェイクァン並びにゴーリンキ・マチョンの派遣。


 もちろん竜の鱗を砕いた“アームストロング流決戦装甲”による超火力は今回のMVPだろう。あそこで魔力吸収器官を潰したからこそ、魔法メインの我が軍で竜の討伐を果たせたのだ。


 そして“アームストロング流決戦装甲”が生み出されたのもモッチーをノーフミルに派遣したからだった。


 あらゆる選択が今回の結果に繋がった。


「特務隊を中心に魔物の掃討を完了させよ。防壁に兵を配置し、レグナムの制圧を完了させる」


「はっ!」


 伝令が走り、余力のある部隊を中心に掃討に入る。


 すでにほとんどの区画が制圧済み。竜の脅威が取り除かれたことでスムーズに進行する。


 掃討完了の報告が上がったのはそれから程なくしてのことだった。


 そこから事後処理で忙しくなり、簡易的な拠点設置、死傷者への対応、討伐した魔物の処理などをこなす間にレグナムで二度の野営をすることになる。


 ネアンストールから補給が入り、レグナムに一部部隊を駐留させて撤退の指示が飛んだのはそれからさらに日を跨いでのことだった。


 大量の素材、魔法石、そしてこれみよがしに強調された竜の首。それらはネアンストールの民衆に絶大なるインパクトを与え、鳴り止まぬ喝采に支配される。


 英雄と讃えられたゲイルノートやレインは片手を挙げて民衆に応えていたが、内心では被った損害に頭を抱えていた。


 兵の約二割を損失。とてもではないが諸手を挙げて喜べるような状況では無い。


 それでも指揮官として、華々しい勝利を演出するために表情を殺し英雄として振る舞う。


 これから軍を再編し、王都へ使者を送り、レグナムを整備し進軍拠点としなければならない。人の出入りも活発になり、仕事が増えることは間違いない。


 それに今回の奪還戦で得た素材を金に変え、戦死者の遺族へ見舞金を工面する必要もある。悠長に勝利の余韻を楽しむ時間など無い。


 戦勝パレードの列は多少の大回りをしながら駐屯地へと入っていく。


 中ではネアンストールにて待機していた軍人らが列を成し、出迎えていた。


 その中を進み、最後列を過ぎた所で馬を止め、振り返る。


 帰還と戦勝の宣言をし、兵らを鼓舞する。高らかに腕を突き上げ戦意を高揚させた。


 その中であるべき姿が見えないことに内心で首を傾げる。


 レナリィの姿が無い。


 レインや一部将校らと共に執務室に引き上げる中、一人の兵に問いかける。


「レナリィの姿が見えないようだが」


「はっ。実は技術顧問殿が来ており、その……またとんでもない物を持ち込まれまして……」


 ゲイルノートらの歩みがビタッと止まった。


「何?」


「へえ。なら今は少年と楽しくおしゃべりに夢中かい」


 レインの目がギラリと光る。


 同行していたメリオン、ゴーリンキの二人が興味深そうに視線を向けた。


「何を持ち込んだのだ?」


「はっ。それが……魔法銀に代わる新たな魔法金属を……」


「……なんだと!?」


「その性能は魔法銀の倍にもなるとのことで、技術部総出で検証に回っております」


「っ……!? またやってくれたな、モッチー」


 ゲイルノートの目が大きく見開いた。


 竜の討伐で一息吐いたと思ったらこれだ。休まる暇などありはしない。


「あー、筆頭殿。すまないが俺は抜けさせてもらうよ。様子を見に行ってくる」


「おい、レイン」


「分かっているさ。それでも好奇心には勝てそうに無い。……メリオン・フェイクァン、ゴーリンキ・マチョン子爵。二人には申し訳ないがこれはウチの機密なんでね。遠慮してくれるかい」


 レインに続こうと身体の向きを変えた二人が動きを止める。


「……致し方ありません」


「バーッハッハ! あわよくばと思いましたがな」


 釘をしっかりと刺し、レインは足取りも軽やかに去っていく。


 ゲイルノートはこの時ばかりは次席の立場を羨ましく思った。









 数日後、ネアンストール冒険者ギルドにて大きな騒ぎが巻き起こる。


 Sランク、SSランク、SSSランクと高ランクへの昇格者が大量に出たのだ。


 “赤撃”からライン、ツーヴァ、ティアーネ。“猛き土竜”からミーナ、スルツカの五人がSSSランクへ。


 “赤撃”のレイアーネ、“猛き土竜”のウルズ、“草原の餓狼”からシュライグ、マーモット、クリムがSSランクに。


 そして“草原の餓狼”の残りのメンバーが揃ってSランクに昇格した。


 本来であれば“草原の餓狼”は全員がSSランクにならなければいけないところだが、戦闘の内容が加味され、主力となった二人と特別功績のあったクリムの三名のみの昇格となっている。


 しかし“草原の餓狼”内では不満の声は上がらなかった。装備さえ充実すれば昇格が見えているからだ。次の機会こそ全員で昇格をと資金集めへと動き始めていた。


 そして“草原の餓狼”はケルベロスを二体討伐したことを大きく評価され、全員がSランクの購入ライセンスを手に入れることになった。


「本当に良いのですか?」


 受付嬢のケフィナが心配そうに問いかける。


 それに“先導者”ノルンは穏やかな表情で頷いた。


「良いんじゃよ。わしはただ杖を持って立っておっただけじゃ。とてもケルベロスの討伐に貢献したとは言えぬ。SSランクへの昇格は不相応でしかないんじゃよ」


「でも、Sランクの称号は……」


「それも良いんじゃ。わしは本来であればあの場に立てるはずでは無かったんじゃ。弟子たちが成長して、あの場に立つ資格を掴んだ。わしはそのオマケでついて行っただけなのじゃ。だからの、わしは平凡な冒険者として、平凡な冒険者のままで引退したいんじゃよ」


「“先導者”のあなたが平凡だなんて……」


「ほっほっほ。お膳立てされてもAランクモンスターに歯が立たなかった凡夫じゃよ」


 結局ノルンは高性能な杖を用いてもなおAランクモンスターを一人で倒すことが出来なかった。魔法の制御能力が低く、杖を十全に扱うことはついぞ叶うことはなかったのだ。


「ではBランク冒険者として、引退をするのですね。最後に確認しますが、後悔はありませんか?」


「うむ。新しい時代をこの目で見れた。それで十分よ」


 この日、長年に渡って後進の冒険者を育ててきた“先導者”ノルンが冒険者を引退した。


 多くの人から惜しまれ、ギルド職員への勧誘もあったがそれを断り、魔法石技師への道へと進む。


 この出来事は一つの時代の終わりと共に、新しい時代の始まりをネアンストールの人々に印象付けることとなった。

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