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レグナム奪還戦・13

「報告! ケルベロスの群れの討伐を完了! 次席騎士閣下が白い個体の討伐を成功致しました!」


 伝令の報告に本陣では安堵の空気が漂った。


「なんとか切り抜けた、か」


 ゲイルノートは長く息を吐く。


 メリオンを派遣するのは苦肉の策ではあった。ケルベロスを確実に討伐し得る能力と特務隊よりも距離が近く速やかに援軍に向かえる状態だった。


 彼を消耗させることは非常にリスキーだ。万が一があればそれこそ大事だ。しかし選択の余地が無い。これ以上の軍の損耗は許容出来なかった。


 状況への対処は成功したが……南部隊の被害状況は半壊に近い。そして南5部隊が壊滅し、虎の子の魔導士部隊から殉職者を二名出す結果となってしまった。


「特務隊の半数を南に割き、掃討戦を完了させる。レインに指示を出せ」


「はっ!」


 冒険者の実力が不足していたとは思わない。むしろ期待以上に獅子奮迅の働きを見せてくれた。三十頭を超えるケルベロスを討伐したことは称賛に値する。


 魔力回復のために冒険者を後方に下げた判断も正しかった。軍の損害は偏に事前準備を十全に行えなかったことが全てだ。


「……ここまで来た以上、もはや失敗は許されんな」


「バッハッハ! 勝てば解決! 分かりやすいですな!」


 流石にもうこれ以上はSランクモンスターは打ち止めだろう。残りのセクションから考えてもいないと判断して良さそうだ。


 竜の包囲を見据えて部隊配置を整える必要がある。


 冒険者は下げるべきだが……


「おい、例のSSランクの魔法使い二人の消耗度合いは?」


「はっ! 魔法薬の消費は限界に達しました」


 ……本来なら労い、後方に下げるべきだ。しかし軍の損耗度合いを考慮すればたとえ広域殲滅魔法一発でも撃てるのなら使いたいのが実情だ。


 ここで軍の体裁を気にして協力をさせなければ後悔する事態が訪れるやもしれん。ならばやってから後悔する方が幾分マシだ。


「よし。予定通り招集する。本陣に合流させろ」


「はっ! ……本陣に、でありますか?」


「行け」


「はっ!」


 伝令を飛ばし、細かい部隊配置の指示を出す。


 概ねその編成が終わった頃、“赤撃”並びに“猛き土竜”が本陣へと合流したと報告があった。


 すぐさま呼び出すと意外にもメリオン・フェイクァンが先導している。


「魔法使い筆頭閣下。冒険者をお連れしました」


「うむ。手を煩わせたようだな。まずはゆっくり休んでくれ」


「はっ。ありがとうございます」


 メリオンは自身に用意された床几に向かい、魔力回復促進の鎧を身に纏った。そして冒険者らを迎えるように腰掛ける。


「ふむ。緊張しているようだな。楽にして良い」


 声をかけると困惑した表情でお互い顔を見合わせた。


 落ち着いた表情の者も三人ほどいる。そのうち二人は見覚えがあった。


「幾人かは顔を合わせたことがあるな。まずは名乗ろう。ネアンストール防衛軍総指揮官ゲイルノート・アスフォルテだ。……ふっ、モッチーの仲間だ。当然知っているだろう?」


 冗談めかして問い掛けると、前髪で片目を隠した少女がニマリとした笑みを浮かべる。


「ふひっ。御目にかかれて光栄ですなの。筆頭閣下におかれましてはケルベロスの討伐、お見事なものだったと伺いましたなの」


 周りの冒険者たちがギョッとした目で紫髪の少女を見た。


「ハハハ。なに、我らも面目があるのでな。お前たちの働きも良く聞いている。三十を超えるケルベロスを討伐したそうだな。一介の冒険者の身で良くやるものだ」


「ふひっ。()()に恵まれましたなの」


「良いことだ。()()()()同じ。お互い幸運に恵まれたな」


「ふひっ。左様ですなの」


 話せる者がいると違うな。マンティコアの聴取の際もこの娘と向こうで平静を保っている剣士は受け答えがしっかりしていた。……なるほど、出自だな。


 こちらの思惑を察しているのなら話は早い。


「正直に言えばお前たちがこれほどの成果を挙げるなどとは思っていなかった。Sランクの一体か二体を討伐できれば御の字だとな。だが実際は赫赫たる戦果を挙げている。軍が深く感謝していることをまずは理解してもらいたい」


 素直に喜ぶ者と警戒する者、そして表情の動かない者と様々だ。


「冒険者にとっては言葉や名誉よりも実利の方が分かりやすかろう。そこで特別報酬を出そうと思う。何か希望はあるか?」


 誰からも返事が来ない。ほとんどの者が困惑しており、紫髪の少女はパーティーメンバーを静かに見ていた。


 だが誰も何も言わないのは不味いと考えたのだろう。双剣士の男が前に出る。


「では恐れながら魔法石を所望します。僕らが討伐した数に応じたケルベロスの魔法石を」


 ほう、そう来たか。


 ゲイルノートは「ふむ」と相槌を打つ。


 愚問と知りながらも問いを発する。


「Sランクの魔法石を何に使うつもりだ?」


「決まっておりません。ですが、僕らの仲間には誰よりも有意義に使ってくれる者がおります」


 まあ装備の強化だな。確かに彼らなら金を積むより材料を直接入手する方が効率が良い。Sランクの魔法石は喉から手が出るほど欲しいか。


 だが軍とてそれは同じ。装備の充実は急務。そのためには高ランクの魔法石はいくらあっても足りないのだ。


 ……しかし厄介だな。彼らのそばにはモッチーがいる。彼らはともかくとしてもモッチーに臍を曲げられるのは面白くない。騎士団派からも食指が伸びている以上、ここでしっかりと紐帯を強めておくのも一計か。


「よし、分かった。だが全てというわけにはいかん。討伐数五に対して一。しめて六つを報酬に加えよう」


「ありがとうございます!」


 彼らの能力が上がるのならば特級の傭兵を容易に雇えるのと同義だ。モッチーを抱えておけば自然と付いてこよう。


 それに高ランクモンスターを狩る者が増えればそれだけ平時から魔王軍を削ることができる。Sランク以上のモンスターを事前に狩ってくれれば軍の安全にも繋がるのだ。


 ……そういう意味ではもう少し購入ライセンスを緩めても良いな。埋もれた才能が掘り起こされればそれが戦力の増加に直結する。


 要検討か。


「とはいえこの後に控える竜を始末しなければ報酬どころでは無くなろう。お前たちにはもう一踏ん張りしてもらうことになる。良いな?」


「はっ!」


 双剣士が代表して返事をする。


 パーティーリーダーでは無かったはずだが。しかし不満そうな顔をしている者は見当たらない。問題無かろうな。


「それとお前たちの持つ連結杖だが、これを遊ばせる余裕は無いのでな。竜との戦いの間は魔導士隊の選りすぐりと共有してもらう。そう心得ておけ」


「はっ!」


「よし。ならばここからはこのモルティア・クスハンと行動を共にしろ。以後はモルティアの指示に従うように」


「はっ!」


 冒険者を下がらせ、モルティアと共に配置につかせる。


 後は竜の姿を捉え、包囲するのみ。それまではじっくりと歩を進めることになる。


「メリオン・フェイクァン」


「はっ」


「白いケルベロスはどうだった?」


「……恐らくは群れの女王だったのでは無いかと。他と比べるとしなやかで速さに秀でておりましたが、大元は同じ。ただケルベロスを統率し連携を取るのが厄介ではありました」


「しかし倒した」


「冒険者が良くやってくれました。白いケルベロスと一対一に持ち込めたのも彼らが取り巻きを排除したからこそ」


「なるほど。連携されたままだと苦しいか」


「はっ」


 メリオンで苦戦するのならば他の者では相手になるまい。派遣したのは正解だったな。


 ……ツキが向いてきたと考えねばな。


「閣下!」


 伝令が息を切らせて立っていた。


「竜が発見されました!」


「……来たか」


 ゲイルノートは深く息を吐き、静かに立ち上がった。

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