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レグナム奪還戦・12

 剣の煌めきが幾重にも重なる。


 それはメリオン・フェイクァンの振るったあまりにも速すぎる幾筋もの剣戟だった。


 二頭のケルベロスが悉く急所を斬られて絶命する。


「凄い……!」


 その動きをギリギリのところで目で追えたセレスティーナは衝撃で二の句が継がなかった。


 動きの速さではない。


 相手の攻撃を躱すだけでなく、そのまま攻撃に繋げる体術。的確に急所を突く技量。


 身体能力以上に技術の面でも遥かに上を行っているのだと自覚させられる。


 しかしそれでもセレスティーナは運が良いと思った。


 あんなレベルの高い動きを間近で見られるなんて。あれほど良いお手本も無い!


 自分にできるのか?


「行きます!」


 その自問は僅か。セレスティーナは実戦の中で身に付けようと駆け出した。


「セレスティーナ! 突出するな!」


 慌ててラインが静止したが、すでに声は届かない。


 そしてケルベロスに接敵する。


 兵らを蹂躙していたケルベロスが次々とセレスティーナに反応し、襲いかかった。


 顎による噛みつきを上体を逸らし、足を外に踏み出すことで回避する。


 いや、違う。踏み出した足はカタナを振るうための軸。回避ではなく、攻撃のための動き。


 ケルベロスの首が一つ落ちた!


 瞬く間に煌めきが走る。


 セレスティーナは迫る二体目のケルベロスに対応するため距離を空け、カタナを振るう。


 後ろで二つ目の首が落ち、前で振り下ろした前脚が半ばから分断された。


 三体目のケルベロスが迫る。


 冷静に動きを見切り、攻撃を回避。その動きのまま一体目の最後の首を落としてトドメを刺した。


 追撃する三体目を幾度かの攻防で返り討ちにし、前脚を失い動きのままならない二体目を仕留める。


 そのまま次のケルベロスへ迫り、瞬く間に四体目、五体目と屠っていった。


「……おいおい、冗談、だろ?」


 連続で五頭のケルベロスを仕留める様を見せつけられ、ラインは自分の目を疑う。


「やるね、セレスティーナ。僕も負けていられない」


「おい、ツーヴァ」


「ははは、無理はしないさ。今の僕にあれを真似することはできない。確実に一頭を仕留めてあのメリオン・フェイクァンに竜の借りを返すだけさ」


 そう言ってツーヴァは標的目掛けて駆け出した。


「ふひっ。どうするなの、ライン。まさかのんびり見物に来ただけなの?」


「ん。戦う」


「いつまで悩んでるのよライン。らしく無いわよ」


「ほっほっほ。そう急かすでないよ、レイアーネ。やる時はやる男じゃからの」


 “赤撃”と“猛き土竜”は完全なガス欠を起こしたウルズ以外が前線に戻ってきた。


 本心では特務隊を待ってから安全に戦いたい。しかし大恩あるメリオン・フェイクァンの前では足を動かさざるを得ない。


 ラインは頬を二度、三度と叩いて喝を入れた。


「スルツカ。お前、単独で一体行けるか?」


「……役目ならば」


「勝てるかどうか聞いてんだ。どっちだ」


「おそらく勝てるだろう」


「よし。なら一体頼む。俺も一体倒す。パーティーリーダーがランク低いってのは格好付かねえからな」


 決断にメンバーが頷いた。


「ふひっ。ミーナたちはどうするなの?」


「決まってる。軍人を守れ。ケルベロスの足を止めてあの恩人の援護だ」


 ラインは大剣と盾を捨て、魔法剣一本に持ち替える。


「ノルン爺、後の指揮は任せる。いっちょ駄犬を躾けてくるわ」


「任された」


 ライン、そしてスルツカがそれぞれケルベロスに向かう。


 魔法使い四人は杖の連結のため固まり、隊列を保っている部隊の後方へと移動した。


 前方ではメリオンの脅威を察した白いケルベロスが取り巻きの二頭と共に戦闘に入っている。その動きは凄まじく、メリオンが防戦に追い込まれるほどに苛烈なものだった。


 兵らに襲いかかっているのは八頭。そのうち半分をライン、ツーヴァ、セレスティーナ、スルツカの四人が受け持つ。


 いや、セレスティーナのカタナがケルベロスの命を刈り取った。


 残るは七頭。そしてメリオンと対する三頭。


 急速に圧力の下がった戦線に、現場の指揮官は態勢の立て直しの指示を飛ばした。









 戦場の兵らにとって、彼らの姿はまるで救世主のように映っていた。


 数々の新技術によって個々人の力が引き上げられ、突出した実力を持つ者が台頭していく。


 そんな認識はいつからか誰もが持つ共通の認識となり、誰もが自身がその恩恵に預かることを夢想する。


 前線の兵らが手にした装備は一年前までの物と比べて天と地ほどの差があった。そして今まで同列だったはずの仲間内でも明確な実力格差が生まれた。


 他より劣ることは確かに悔しい。それでも確かに自身の力が引き上げられ、今の自分は信じられないほど強くなれたと自負できる。


 だが、Sランクモンスターの脅威はそんな自負など簡単に打ち砕いてしまうほど強大なものだった。


 そんな中で、そのSランクモンスターをたった一人で倒してしまう者たちが目の前にいる。


 自分たちの感じた恐怖など物ともせず、圧倒的な力で圧倒的な力を打ち負かしてしまう者たちが。


 極限の状況に置かれた兵らは脅威を取り除いていく者たちの姿に歓喜し、それぞれの心に火を焚べた。


「踏み止まれ!」


「時間を稼げ!」


 その鼓舞は一兵卒から上がり始める。


 戦場を伝播したそれは爆発的な士気の上昇を齎した。


 ケルベロスを取り囲んだ兵らが一斉に『防御結界』を起動する。


 そこに中級、上級の魔法が殺到した。


 ケルベロスのレジスト能力を抜ける威力では無い。だがその連携は足を止めることを完全に達成していた。


 ケルベロスの足元が輝く。


光子聖域(ディバイン・ロード)


 超高密度の光線が地面から噴き上がり、ケルベロスのレジストをぶち抜いて肉体を蒸発させた。


 それは“猛き土竜”ミーナの放った上級魔法だ。


 範囲を絞られた広域殲滅魔法は『防御結界』の内側領域を纏めて消し炭に変える。


 その成功体験が指揮官の指示を円滑なものにする。


 同様の方法で足を止め、“氷雪の魔女”の放つ広域殲滅魔法がケルベロスを粉砕した。


 他方では孤を描いた斬撃が首を落とし、傷だらけの体を内部からの爆炎で焼かれる。大剣の一撃は頭部を粉砕し、的確な刺突は脳天へ風の刃をぶちまけた。


 そして最後に光の柱が三つ首の狼を消滅させる。


 残るはメリオンの戦う三頭のみ。


 “首狩り姫”が駆け、一頭を不意打ちからの連撃で討伐した。


「すみません! 限界です、下がります!」


 魔力の限界に達した“首狩り姫”が声をかける。


 返事は残像を生むほどの凄絶な動きだった。


 最後の黒いケルベロスが絶命し、倒れる。


「よくやった。後はこちらの仕事だ」


 メリオンは白いケルベロスを前に不敵な笑みを浮かべた。

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