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レグナム奪還戦・8

 “草原の餓狼”に所属する斥候・クリムは己を襲う衝撃に足が止まりそうになりながらも必死に身体を動かしていた。


 Sランクモンスター・ケルベロスは体長三メートルを超え、強靭な肉体を持ち俊敏性も高い。


 そして三つの頭からは闇属性の魔法をそれぞれ放ってくる。


 全力で逃げねば避けきれない速さ、当たれば終わりの魔法、そして何よりもAランクモンスターなどとは比較にならないその威圧感。


 そのどれもが()()()()()()()()()()()


「一つ!」


 首が一つ落ちる。


 絶叫したケルベロスがガクリと体勢を崩した。


 右後脚が半ばから斬り落とされ、転がっている。


「二つ!」


 続けて左の首がストンと落下した。


 残った真ん中の首が口元に闇魔法を収束させる。


「三つ!」


 だがそれが効果を発揮する前に、頭がズリ落ちた。


 力を失った胴体が崩れ落ちる。


 チャキン、と鞘にしまう音が聞こえ、クリムはようやく放心のあまり口を開けっぱなしだったことに気付く。


「おい……これが人間に出来ることかよ……?」


 口をついたのは現実から逃避する言葉だった。


 ケルベロスはSランクモンスターだったはずだ。二十年前、記録上最後に討伐された歴としたSランクの魔物。


 俺たちはほとんど何もしていない! 逃げ回っていただけだ!


 この少女は、SSSランクの“首狩り姫”はほぼ単独であっという間にケルベロスを討伐してしまった!


「皆さん、私は軍の援護に回ります! 皆さんは“赤撃”の援護へ!」


「あ……ああ!」


 正直、“首狩り姫”がSSSランクに、単身でSランクモンスターと同等の強さを持つと認められたのは納得できなかった。


 マンティコアを倒したのも偶然が重なっただけ。……そう思いたかった。


 なのに。


 こいつは正真正銘の化け物だ!


 だが、戦慄はその先も続いた。


「ば、……馬鹿な!」


 “赤撃”の援護に向かったクリムたちだが、そこにあったのは瀕死になりトドメを刺される寸前のケルベロスの姿だった。


 双剣士ツーヴァの剣が最後の首に突き刺さっている。


 そこから豪炎が吹き出し、ケルベロスの首を焼き切った。


「な、……なんだよこいつらは……?!」


 Sランクモンスターだぞ!? 逃げ回るだけでも精一杯の相手だぞ!?


 なんでそんな簡単に討伐できるんだ!


「おう、お前ら無事だったか」


 パーティーリーダーのラインが話しかけてきた。


 ラインは肩越しに後方に目線を送り、表情を緩める。


「向こうも終わったみたいだな。ははっ、意外となんとかなるもんだ」


「なっ……!? 簡単に言う!」


「ケルベロスは確かに強いが、マンティコアに比べると数段落ちる。Sランクの中でも下位の魔物だろうな」


 ふざけんな、これで下位だと!?


 シュライグたちでも渡り合うのがやっとだぞ!


 それを言うとラインは怪訝な顔をした。


「シュライグなら問題ねえよ。他の面子は……そうだな、装備をフルで揃えていれば十分勝てたはずだ。お前らの装備でも慣れればなんとかなるはずだぞ」


「俺らの装備でも……? それ、本当か?」


「ああ。お前らの装備は支援に特化してるはずだ。動きを止めることに特化している、そうだな?」


「あ、ああ……」


「ならそこに集中しろ。トドメを刺すのが仕事じゃ無いだろ。味方の攻撃の機会を作ることに専念すれば結果は付いてくるはずだぜ」


 斥候の仲間たちが顔を見合わせている。


 本当に俺たちでもなんとかなるのか……?


「今のメンバーならフル装備のシュライグを徹底的に支援するのがいいんじゃねえか。ま、俺が口を出すことでもねえがな」


 そう言うとラインは軍と合流していた“首狩り姫”を回収しに行った。


 俺たちはしばらくの間無言だったが、意を決して口を開く。


「やらないか? 全員揃ったら、俺らだけでSランクモンスターを狩る……!」


 皆が頷いた。









「閣下! 各方面でSランクモンスター・ケルベロスの出現報告が相次いでおります! 総数は既に三十を突破!」


 本陣では矢継ぎ早にケルベロスの出現報告が届いていた。


 堰を切ったような怒涛の数に顔が引き攣りそうになりつつ、ゲイルノートは表向きは努めて平静を装う。


 想定を遥かに超える数だ。


 群れを作る狼種。まさかレグナムに大規模なケルベロスの群れが巣くっていようとは!


「北2、北5、南2、南4で被害大! 戦線が後退中!」


「中央本陣前、ケルベロスを五体確認! 戦闘に入りました!」


 まずい、戦線が崩壊する。くそ、ふざけた数を出してきおって!


 頭を抱えたくなる衝動を抑えつつ起死回生の一手を思考する。


 そこにさらなる知らせが齎された。


「閣下!」


「なんだ今度は!?」


 思わず睨みつけてしまった伝令の顔には喜色が浮かんでおり、その違和感にゲイルノートの思考が止まった。


「南5にてケルベロス三体の討伐を完了! 損害無し! 指示求むとのこと!」


「っ!」


 南5。冒険者のいる隊か!


 損害無しでケルベロスを倒せるのなら……!


「急ぎ北上し、ケルベロスの群れを薙ぎ払わせろ! 南1から南4は遅滞戦闘に徹し、南5からの増援を待て!」


「はっ!」


 南はこれで抑えるしかない。


「本陣前はメリオン・フェイクァンを動かせ! ヤツの支援に徹しろ!」


「はっ!」


「レインはどうしている!? まだケルベロスを始末できんのか!」


「確認を取ります! 少々お待ちを!」


 伝令が走る。


 いや、すぐに足を止めた。そして向かってきていた伝令と共に戻ってきた。


「閣下! 次席閣下率いる特務隊、ケルベロス四体の討伐を完了! 隊を二手に分け、北エリア全域の支援に向かうとのことです!」


「よし! 北全域に遅滞戦闘の指示を出せ! 特務隊の支援に回れとな!」


「はっ!」


「本陣前は俺が広域殲滅魔法で薙ぎ払う! メリオンに巻き込まれぬよう伝えろ!」


「はっ!」


 ゲイルノートは杖を手に取り、本陣を飛び出した。


 この後は竜との戦闘が控えているのだ。核となるメリオンの消耗は抑えなければならない。


 それは自身も同様だ。そのためにも……


「モルティア。援護に回れ。手早く片付けて体勢を立て直すぞ」


「はっ!」


 前線を蹂躙しているケルベロスを視界に捉え、魔力を練り上げる。


 見えているのは四体


 残り一体は……既にメリオンの前で骸になっていた。


 メリオン一人で十分だったか……?


 いや。


 遠方から迫るケルベロスの群れが見えた。


 五……七……八か! 十二体はまずい!


 メリオンの剣技はSランクのケルベロスでさえ圧倒しているが、それでも同時に抑え込むことは不可能。


 次々と襲いかかる群れに前線の兵が次々と蹴散らされていく。


「ふざけおって……!」


 ゲイルノートの広域殲滅魔法が戦場に轟いた。


 目を焦がすほどの光がケルベロスの群れを飲み込んでいくーー。

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