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アームストロング流剣術・2

 グラスト・アームストロング筆頭騎士が遂に動いた。


 この男、身長は二メートル三十センチを誇り、ゴーリンキ子爵を超える人類とは思えないほどの筋肉に身を纏った怪物である。


「ふむ。これほどの装備を作り出すとは。大義であるぞ、鍛治師モッチー」


「はっ。ありがたき幸せ」


 グラストの装備は子飼いの鍛治師のデザインだ。


 しかし中身は全てモッチーの設計であり、その性能は一言で言えば“チート”である。


 まず、ゴーリンキ子爵との話し合いでアームストロング流剣術に最適化する構成を組み上げた。


 その上で行軍に適した形を模索する。だがこれはモッチーの知識からすぐに最適解を導き出した。


「では改めて筆頭騎士閣下の装備について説明させていただきます」


 グラストの装備は主に三つに分けられる。


 一つは今、地面に突き立てている身長より大きい二メートル五十センチの超肉厚の大剣。


 この大剣は片刃であり、これは一撃で仕留めるのだから刃は片方あれば十分との割り切りから決められ、またそれによってより大きな刻印面積を確保。『エンチャント・シャープネス』と『耐久強化』を極限まで高める構成によって切断力以上に超越的な打撃力を与えることに成功した。


 そしてグラストの着ている装備。これは重鎧に相当し、全身を全て魔法銀で構成してある。施されているのは『耐久強化』と『聖光領域』。グラストの体格と筋力に合わせて巨大化しているため、ラインの持つ重鎧を遥かに超える性能を誇っている。


 ただしこの重鎧では巨大な大剣を十全には扱えない。これはあくまで行軍用の()()()だ。


「一応補足しておきますが、今の鎧でも私の知る限り世界最高の性能を持っているはずです。一般的な剣を持って戦うだけでも並み居る敵を薙ぎ倒していけるでしょう」


 重量があるため燃費は悪いが、それでも短時間の戦闘では無類の強さを誇るだろう。


 ただしあくまでこれは行軍に耐え得る重量に抑えた部分だ。


「そしてこの装備の真髄はここからになります。その大剣を十全に扱うために追加装甲を鎧に装着し、性能を数倍に底上げします」


 ノーフミル防衛軍の技術部の人たちが追加装甲を運び、グラストに装着する。


 追加装甲は巨大なワンピース風の形状で、スカート部分が傘のように広がっている。これは動きを阻害しないためであり、前にはスリットがあって踏み出す足と接触しないよう考慮されている。


 両肩と腰で計六箇所を固定することで安定性を確保し、またその固定部分で魔力回路を接続して一体化させる。追加装甲は大部分を魔法銀の格子と魔法石のプレートで構築しているため、接続することで性能が跳ね上がる。


 グラストが眉根を寄せた。


 当然だ、これは大きさに比例してとんでもない重量がある。重鎧と合わせれば立っているだけでも辛いだろう。


「これはアームストロング流剣術を最大限に発揮するための決戦装備として開発しました。コンセプトはシンプルに『最強の一撃を放つ』、ただそれだけです。一対一や駆け引き等は全く考慮しておらず、味方を使って攻撃の機会を作る前提になっています」


 後のことなど考えない。なぜなら一撃で倒せば終わりなのだから。


 そのようなあまりにもシンプル過ぎる発想で生まれたもののため、アームストロング流剣術以外ではまともに運用できないだろう。


「それでは長々と説明を致しましたが、試運転と参りましょう。今回の決戦装備、名称“アームストロング流決戦装甲”を完成の域へ高めるため、過剰な身体強化がどれほど身体への負担となるか等を確認し、適宜修正しながら調整致します」


「うむ、良かろう。的を出せ!」


 軍人たちが直径一メートルはあろうかという丸太を次々と運んできた。


 それを六本、三段にして重ねる。


 そして前面に『防御結界』発動用の盾を固定し、それを銀糸で繋いで遠隔起動させた。


 これまでの装備なら『防御結界』を切るだけでも一苦労だった。その上で頑丈な丸太が積み重なっている。過剰にも思えるだろう。


 だが。


 グラスト・アームストロングの放った一撃は。




『防御結界』をぶち抜き、丸太を粉砕し、地面に深々と穴を開けた。




「うっわ、やっばコレ」


 俺はあまりの結果に苦笑いを溢すしか無かった。


 なにせこれは()()()()()()のだ。あくまで試運転、最適な振り方を極めた訳ではなく、また身体への反動を考慮してある程度の余力を残している。


 それでも齎された結果は圧倒的な破壊力だった。


「次ぃ!!」


 続けて今度は丸太の段が五段まで増える。


 しかしグラストの一撃はそれすらも容易くぶち抜いた。


「ぐふふふふ……ぐわーっははははは!!!! 良いぞ! 良い! これぞアームストロング流の真髄よ!!」


 グラストの哄笑に周囲の騎士たちから追随の声が上がった。様々なヨイショの声にさらにグラストの高笑いが大きくなる。


 どうやら気に入ってもらえたようだ。


 ゴーリンキ子爵と相談していたとはいえ、勝手にアームストロング流の()()を決めてしまったから不遜だなんだと怒られるかもと思っていたのだ。


「ネアンストールの少年鍛治師よ。気に入ったぞ。名を名乗れ!」


「はっ。モッチーと申します」


「うむ。モッチー、その名を覚えたぞ。誠に大義である。ぐわははははは!!」


 頭を下げ、チラリと周囲を見ると騎士たちが熱い視線で見ていることに気付いた。


 …………これ、あれかな。注文が殺到する流れか?


 おい、ゴーリンキのオッサン。舌舐めずりするんじゃない、普通に怖いわ!


 ってメリオンさんもなんか猛禽みたいな目で見ないで! あなたがぶっちゃけ一番怖いっす!!


 あ、でもメリオンさんには竜のお礼もしなきゃ。……良し、ネアンストールに帰る前に装備一式作るか。あとで打ち合わせをしなきゃ。


 メリオンさんは視線が合うとニンマリと口角を上げた。


 ……はい、めちゃくちゃ怖いですあなた。









 その後、騎士らに殺到される前に設計図をノーフミルの技術部に渡し、自前で生産可能だと念押しした。


 実際、魔法石の内部刻印以外は難しい技術を要求されない。あえて言うならば魔法銀の鍛造くらいか。


 それによって決戦装甲以外はノーフミルの技術部で生産することになり、モッチーへ殺到する事態は回避した。また大々的な技術者育成をグラストが承認したことで決戦装甲も自前で生産・調整することになりモッチーの負担は最低限で抑えられることになった。


 その後メリオンと打ち合わせし、改めて装備一式を作る。今回は重量や関節周り、魔法陣の比重など事細かに調整し、身体強化とエンチャントへの魔力配分を可能な限り最適化する構成を模索した。


 常時発揮する身体強化を抑える立ち回りが突き詰められてきたことでエンチャントへ配分する魔力が増えたことや、鎧の重量を増やして身体強化へ回す魔力を増やす負担も低減されていることから、鎧、剣共に全体的に重量と出力を上げて総合的な性能を上昇させることになる。


 またメリオンはこれまで使っていた剣よりも一回り大きい剣で運用することに変え、それに伴ってようやく数打ち品から卒業することになったようだ。ただ剣の規格を統一する苦労が増えたことは不満そうだったが。


 そしてモッチーであるが、


「ぐわはははは! さあ呑めモッチー! 今夜は浴びるほど呑んでいけ!!」


「あ、ありがとうございます、筆頭閣下」


「酒も料理もどんどん運んで来い! 宴よ! 無礼講よ! どんどん騒げ!!」


 なんと騎士筆頭に肩を組まれ、酒宴に強制参加させられていた。


 決戦装甲をすっかり気に入ったグラストはモッチーに気を許すようになる。そして報酬として酒樽や高級肉などを贈られ、ついでとばかりに一つの書状を渡された。中身は見ていないが、将来役に立つ物らしい。帰りにでも確認しよう。


 ちなみにネアンストール防衛軍から来た交渉役は上手く交渉を終わらせたらしい。どうも気を良くしているところに畳み掛けたようだ。


 それによってノーフミルでの役割を終え、明くる日には帰還の運びとなった。


 こうして俺は一週間の滞在で騎士団派と大きなコネクションを作ることになったのである。

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